放浪剣士は異世界ダンジョンを踏破する。

化茶ぬき

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第11話 報酬。脱出。

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 見付けた階段を上がっていく。

「ネイル、大丈夫か?」

「にゃははっ、元気いっぱいにゃ」

 俺のほうは眠気最大値だったのが一気にゾーンに入って眠くなくなってしまった。勿体ない。つい五分前に寝ておけば最高の眠りにつけたはずなのに。

「そろそろ着く頃です。ネイル、下ろしてください」

 三十階――さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。

「……なんだ、これ?」

 だだっ広い部屋の中央に、石で作られたような大小異なる様々な箱が積み重なっている。

「私達も最上階に辿り着くのは初めてですが、噂には聞いています」

「最上階にはお宝があって、全部好きに持って帰れるって話にゃ!」

「お宝ね。随分とざっくりしているが……持ち上げた瞬間に罠が発動する、とかじゃねぇだろうな」

「少なくともここは三十階なので、モンスターが出てくる心配は無いと思います」

 今はその言葉を信じるとして――すでに箱を選んでいるネイルは緊張感が足らな過ぎる。

「早くっ! 早く二人もこっちに来て選ぶにゃ!」

「行きましょう。フドーさん」

 小さいのは手乗りサイズから、大きいのはシングルベッドくらいまである大きさの箱が三十個くらいあるわけだが、ヨミの言う通り罠は無さそうだな。

「選ぶっつっても最後には全部開けるんだろ?」

「それでも最初は好きな箱を選んだほうが面白いにゃ!」

「まぁ、そういう遊びを否定するつもりは無ぇけど」

「せっかくなので選びましょうか」

 ヨミも乗り気か。なら、俺も選ぶとしようかな。

 仮にここでの選択が後々に響く、とかなら真面目に選ぶんだが、中を見て選べないのならフィーリングしかない。

 こういう場合は昔話に倣ってみよう。

 箱が出てくる話と言えば――有名どころだと舌切り雀。親切なお爺さんは小さな箱を選んで大判小判やらを手に入れた。反対に大きな箱からは毒蛇やらが出てきたんだっけ? ってことで、選ぶとしたら小さめの箱だ。

「……私は体が小さいので、この一番小さな箱にします」

 先に取られた。まぁ、そこはヨミに譲るとしよう。

 では、それよりも一回り大きな箱だが――箱と言えば浦島太郎の玉手箱。誰も幸せにならない昔話として有名だが、あれは選ぶ余地も無く持たされて蓋を開けたら歳を取るというなんとも言えない結末だ。……その箱も止めておこう。

「ふぬぬ……これにゃ!」

 ネイルは一番大きな箱を選ぶかと思いきや、両腕で抱えられるサイズのものを選んだ。

「それじゃあ俺は――」選ぶ、というか……目に付くのが一つ。「これにしよう」

 細長い箱を持ち上げれば、石とは感じられないほど軽かった。

「にゃら、みんなで一斉に開けるにゃ! せ~のっ」

 蓋になっている石をずらせば、中から布に包まれた細長いものが出てきた。触れただけで中身が何かわかる。

 布を捲れば、古びた刀が出てきた。

「黒の刀身……黒刀ってところか」

 そもそも本物の日本刀自体を持つのが初めてだから比較はできないが、練習用の木刀よりは軽いな。振りやすいし――何よりも、真剣なのに恐怖心が無い。もっと怖いものかと思っていたが、面白いくらいに手に馴染む。とはいえ、これがダンジョンを踏破した報酬だと言うのなら、俺のものになるわけでは無い、と。

「私のほうはローブでした」

「ボクはにゃにゃんとグローブにゃ!」

 不思議なもので、ヨミの持つローブはその小さな体に誂えたようにピッタリなサイズで、ネイルの嵌めるグローブは拳をガードしつつも指先が出るタイプのもので、こちらも誂えたようにピッタリだ。

 ここまで来るとおそらくはそういう力が働いているのだとしか考えられない。

「ちなみに、こういうものはどうするんだ? ギルドとかで引き取ってもらうのか?」

「そうですね、ダンジョンで得た物はギルドや商店で買い取ってもらうのが基本ですが、気に入った武器や装備などがあればそのまま自分の物にしても大丈夫です」

「へぇ……で、二人は?」

「ボクはこのグローブいただきにゃ!」

「私もこのローブは欲しいですが……鑑定してからにします」

「鑑定とかもあるのか。それなら俺もこの刀を鑑定してもらおうかな」

「フドーはその前にギルドで冒険者登録にゃ」

「まぁ、そりゃあそうだが……とりあえず残りの箱も開けてみるか?」

「にゃん!」

 残りの箱を順に開けていき――出てきたのは見たこともない機械? 道具が四個と、武器や装備の類が十一個。その他、鉱石や反物、アクセサリー類が全部で十三個。不釣り合いな箱もいくつかあったが、まぁ、そういうものなんだろう。

「それで? 量的には持っていけると思うが、どこから出るんだ?」

「ボクらも来るのは初めてだからにゃ~……どこかから飛び降りるんだったかにゃ?」

「それ死ぬんじゃねぇか?」

「ダンジョンの力で下に転移させられると思うので大丈夫だとは思いますが……ネイルとフドーさんは出口を探しください。私は箱の中身を纏めておきます」

「了解。じゃあ、左右に分かれて壁を調べるか」

「にゃん」

 ネイルが右で、俺が左方向に外周の壁に沿って進んでいく。

 ダンジョンを踏破したのに、まだ手間が掛かるとは。現実は厄介だな。

 壁に手を付き違和感が無いかと探るが、どこまで行っても普通の岩肌だ。

「……ん?」

 何も考えずに這わせていた掌に違和感を覚えて二、三歩足を戻した。

「……ここだな」

 岩は岩だが、柔らかい感じがする。腕で押してみるよりも下から持ってきた両刃の剣を突き立ててみるか。腕押しで体ごと落ちていっても困るし。

 胸の高さに合わせて――突き刺し。

「――っと。ネイル! ここだ」

 刀身が半分ほど突き刺さったところで確信した。手応えがまったく無い。

「フドー、退くにゃ!」その言葉に身を引けば、真横を抜けていったネイルの拳が壁を砕き穴を開けた。「にゃ――にゃん」

 勢いのまま落ちていきそうだったネイルの足を掴み、室内へと引き戻した。

「はぁ……勢い任せにするなよ」

「た、助かったにゃ」

「まぁ、ヨミの言う通りなら落ちても大丈夫なんだろうが、一応はな」

 冷静に言葉が出てきているが、思いの外に驚いている。咄嗟に手が出たのも良かったけど、それ以上に俺がやらなくて良かったという安堵感が一気に来た。

「ネイル、フドーさん、こちらも纏め終わったので、そろそろ行きましょう」

 ヨミの足元には反物で包まれたものが三つ。一人一個ってことだな。その内の一つに刀が添えられているってことは、それを俺が持つんだろう。

「準備万端にゃ!」

「俺は心の準備がまだなんだが」

「一緒に行きましょう。三人で」

 両刃の剣の代わりに刀と反物の包みを持ち、広がった穴の前に立ったわけだが……差し込む日の光が懐かしい。たった一日か二日振りだが、気持ちよく感じるのは初めてだ。

「それじゃあ――飛ぶにゃ!」

「いや、ちょっ――」

 ネイルとヨミに左右から掴まれて、気持ちが整う前に飛び出してしまった。

 落ちていく――どこまでも地面が遠くに見える。

「にゃっははっ! 気持ちいいにゃ~!」

「おいおいおいっ! 本当に大丈夫なんだろうな!?」

「あ、そういえば伝え忘れていました。フドーさん」

「このタイミングか!? ヤバいことじゃないだろうな!?」

「いえ、大したことでは無いのですが――下に着いたらおそらく言葉が通じなくなると思うので、そのつもりで――」

 その瞬間、重力や空気抵抗とは違う感覚に体が包まれ――気が付いた時には地面に立っていた。これが魔法の力か。体感すると変な感じだな。

「ロウリ!」

 ネイルの声に視線を上げた時、目に映ったのは俺たちを囲む衆人だった。言葉はわからないが、送られる拍手喝采に面食らっていれば、不意にズボンが引っ張られた。

「アウイリ、ロウロ」

 見上げてくるヨミが何を言っているのかはわからないが、何を伝えたいのかはわかる。

「ギルドに向かう、のか?」

「アウロ!」

 ネイルが声を上げると拍手を送る衆人が道を開けていく。

 なるほど。なんとなく理解した。この言葉自体が言語ってわけじゃなくて、認識できない言葉が俺の頭の中で変換されているわけか。これはどうにも……今更ながらに厄介な世界に来てしまったようだ。

 いや、異世界転移って言ったら、もっとこう女子と組んず解れつのハーレムだったり、チートスキルで最強だったり、もしくは逆境を撥ね除けて成長していく感じだったり――そういう主人公補正的なものを期待しているんだが、その片鱗さえ見えない。

 ……ああ、いや、違うのか。この世界には俺と同じように別の世界から転移してきたドリフターがいる。つまり、俺は主人公では無い、と。

 まぁ、そういうタイプじゃない自覚はある。剣道部では副将、成績は中の下。クラスメイトとはそれなりに皆と仲が良くて――両親はいなかったけど、じいちゃんがいた。とはいえ、そのじいちゃんも高校に上がる前に他界したけど――つまり、主人公的な要素が無い。抱える闇も無ければ、大それた正義感も無い。強いて言うなら剣術が使えるってことくらいか。

 弱いなぁ……弱過ぎる。

 そんな弱過ぎる俺はようやくスタートラインだ。まずはギルドに冒険者として登録、言葉を理解できるようになって、そしてこの世界を知る。第二の人生、ってのはさすがに言い過ぎだが、少なくともこの世界で生きて死ぬことは決まっているわけだ。

「ならば、武士道を通すべきか」

 恩義がある。それに応える義務がある。

 武士道と云うは死ぬ事と見付けたり――正しいことをしよう。そして死ねれば、本望だ。
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