【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……

小笠原 ゆか

文字の大きさ
3 / 9

舞踏会 Ⅰ

しおりを挟む
それから二日後――王宮では舞踏会が開かれていた。しかしパートナーであるエヴァンジェリンを迎えに控室に向かったが姿はなく、御得意の我儘かと苛立ちを隠さず入場の扉の前に辿り着く。私は婚約者の到着を扉の前で待つつもりだったが一向に来ず、進行の都合で仕方なく一人で入場したのだった。

「レガリア王国第一王子、クロード・ラファティ殿下の御入場でございます」

他の招待客達は私がエヴァンジェリンを連れていないことを訝しむような顔をしているのが分かったが、舞台に立った以上、平然とする他に選択肢はない。

その後に国王陛下、王妃殿下に続き、私の母が入場し、国王の宣言によって開幕した。
しばらくすると高位貴族から順に王族の元へ挨拶にやって来る。父上や王妃殿下にエヴァンジェリンの所在を確認されたが、何の連絡も無いのだと答えておいた。格式ある会合に断りも入れずに参加しなかったエヴァンジェリンの不調法さを父上達から叱責されれば良いのだ。

そしてアシュフォード家は当主である侯爵だけが挨拶にやって来た。平民の後妻とダルシニアは遠慮して正式な貴族の集まりに参加しないので、エヴァンジェリンがいない以外はいつものことであった。

「アシュフォード侯爵。エヴァンジェリンはどうしたのだ?何の連絡も無いが体調でも悪かったのか?」

どうせ儘ならぬことに憤慨して仮病だろうと高を括っていたのだが、侯爵は全く意味の分からないことを言い出したのだ。



「エヴァンジェリンはアシュフォード家から籍を抜き、放逐いたしました」



騒がしい舞踏会の中で存外、侯爵の声はよく通り、誰もがおしゃべりを止めてこちらを見ていた。父上と王妃殿下も唖然とした顔で侯爵を見るのだが、彼は全く気付いた様子もなく平然としている。

「エヴァンジェリンは第一王子の婚約者である。王家の許しも得ず、勝手に籍を抜き、放逐するとは何事か!!」
「婚約者?既に破棄されているのではございませんか?」
「誰がそのようなことを……」
「エヴァンジェリンが殿下に婚約破棄をしたいと言われたと申しておりましたので」
「王宮に確認もせず、勝手なことを……」

婚約、そして婚姻は一種の契約である。解消に至らずとも、変更があれば何らかの話し合いを持ち、書面で再契約となるのだ。たとえ娘が言ったことだとしても確認もせずに、しかも人の人生を地獄に叩き落とすような決断をした侯爵に場が静まり返った。

ドサッと物音がした方を見れば、老齢の貴婦人が失神したのを夫である紳士が支えている。紳士は怒りで顔を真っ赤にして叫んだ。

「たとえ婚約破棄が事実だったとしても、どうして貴族籍まで取り上げて、家から追い出すような真似をするのだ!!そんなことをして貴族の子女が生きていけると思っているのか!!」

王と侯爵による問答の最中に割って入るなど不敬も甚だしい。けれども止める者は誰もいなかった。紳士こそエヴァンジェリンの母親の父――デイヴィス伯爵であるからだ。若くして亡くなった娘によく似た孫娘を大層可愛がっていると評判で、それを突然家から出したなど言われたら、怒り心頭で周りが見えなくなるのも仕方のないことだろう。

「だから言ったのだ!!エヴァンジェリンを愛せないのなら我が家で引き取ると!!王家と繋がりたいばかりに私達から孫を取り上げたくせに!!」

貴族の子女が従者も付けずに家から出されて生きていけるはずがなかった。当面の資金を持たされたところで人に騙され、金を奪われて、最悪人買いに攫われてしまうことだって考えられる。血の繋がった娘に対して、何と鬼畜なことをしたのかと化け物でも見るかのように侯爵を周囲は見ていた。

「殿下、エヴァンジェリン様に婚約破棄について何らかの話をされましたか?」

侯爵では埒が明かないとばかりに、宰相が私に話を振った。

「わ、私はエヴァンジェリンに現状のままであるなら婚約について再考したいと言っただけだ……」
「王命による婚約に、殿下の一考の余地などあるとお思いですか?」

宰相から向けられた目は、ラルフのものに似ていた。まるで私を軽蔑するかのようなそれだ。

「『現状のまま』とは、エヴァンジェリン様にどのような瑕疵があるというのですか?」

社交界において、エヴァンジェリンは同年代の令嬢達から抜きん出た存在だった。美しさもさることながら学問に秀で、その如才ない振る舞いに己の娘を見てため息を吐いた親が何人いたことだろうと言われている。それほど王子妃として申し分のない令嬢だと大人達は認識していた。

しかし、学院での彼女の評価は少し違う。

「エヴァンジェリンは妹のダルシニアを常に無視していた。挨拶をしても、どんな言葉を掛けても梨の礫だったのだ」

誰が取り成そうとも、エヴァンジェリンは頑なに無視し続けた。

『私、お姉様とお話したことがありません。家では無理でも、せめて身分は平等だとされる学院でならお声をかけることが許されると思っていましたの』

そんな悲哀に満ちた呟きを聞けば、誰もが二人の仲を取り持とうとしたが、エヴァンジェリンはそれさえも蹴ったのだ。次第にエヴァンジェリンの周囲からは人が離れ、数人の取り巻きだけが残される形となった。その取り巻きを使ってダルシニアに嫌がらせを行ったのだと告げれば、デイヴィス伯爵は目頭を押さえて絞り出すように声を上げた。

「何て酷いことを!!」
「そうだろう。エヴァンジェリンは……」
「いいえ!!酷いのは貴方様です、殿下!!」

デイヴィス伯爵も孫娘の所業に自業自得だと納得したのだと思った矢先、私を詰ったのだ。

「実の母親が亡くなって一月もしない内に娼婦を身請けして、その連れ子を父親が養子にしただけの存在を妹のように可愛がれなどと、殿下には人の心が無いのですか!?」
「娼婦!?養女だとッ!?」

平民――いや、一般市民と思われていた後妻が娼婦などと誰も知らなかった。父上や宰相など一部の人間は知っていたかもしれないが、取るに足らないと放置していたのかもしれない。だが私には凄まじい衝撃だった。

「ダルシニアは私の娘だ!」
「娼館で生まれた娘を自分の子供だと信じるとは、何とめでたい頭をしているのか!!もし、その男の娘だとするなら、エヴァンジェリンと同い年の不倫の末の庶子に過ぎません!!」

ダルシニアは自分の娘だとアシュフォード侯爵が叫ぶが、デイヴィス伯爵に正論でもって抗弁されてしまえば、血走った目で伯爵を睨みつける他ないようであった。

「エヴァンジェリンとダルシニアは同い年と言ったが、ダルシニアは学院の二年に所属している。最高学年であるエヴァンジェリンとは二学年も違うだろう」
「甘やかして育てたと聞いておりますから、大方勉強が間に合わなかったのでしょう。養子縁組をした時の書類があるはずです。御確認ください」

そう言ってデイヴィス伯爵は怒りを堪えるように息を吐き出す。宰相が部下へと指示を出していることから確認に向かわせたのだろう。いや、そもそもダルシニアは自分の年齢は言っていない。学院に提出した書類に正しい生年月日が記載されていれば詐称したことにはならないだろう。
しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

新妻よりも幼馴染の居候を優先するって、嘗めてます?

章槻雅希
恋愛
よくある幼馴染の居候令嬢とそれに甘い夫、それに悩む新妻のオムニバス。 何事にも幼馴染を優先する夫にブチ切れた妻は反撃する。 パターンA:そもそも婚約が成り立たなくなる パターンB:幼馴染居候ざまぁ、旦那は改心して一応ハッピーエンド パターンC:旦那ざまぁ、幼馴染居候改心で女性陣ハッピーエンド なお、反撃前の幼馴染エピソードはこれまでに読んだ複数の他作者様方の作品に影響を受けたテンプレ的展開となっています。※パターンBは他作者様の作品にあまりに似ているため修正しました。 数々の幼馴染居候の話を読んで、イラついて書いてしまった。2時間クオリティ。 面白いんですけどね! 面白いから幼馴染や夫にイライラしてしまうわけだし! ざまぁが待ちきれないので書いてしまいました(;^_^A 『小説家になろう』『アルファポリス』『pixiv』に重複投稿。

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

買われた彼を解放しろと言うのなら返品します【完】

綾崎オトイ
恋愛
彼を解放してあげてください!お金で縛り付けるなんて最低です! そう、いきなり目の前の少女に叫ばれたルーナ。 婚約者がこの婚約に不満を感じているのは知っていた。 ルーナにはお金はあるが、婚約者への愛は無い。 その名前だけで黄金と同価値と言われるほどのルーナの家との繋がりを切ってでも愛を選びたいと言うのなら、別に構わなかった。 彼をお金で買ったというのは、まあ事実と言えるだろう。だからルーナは買ってあげた婚約者を返品することにした。 ※勢いだけでざまぁが書きたかっただけの話 ざまぁ要素薄め、恋愛要素も薄め

「今日から妹も一緒に住む」幼馴染と結婚したら彼の妹もついてきた。妹を溺愛して二人の生活はすれ違い離婚へ。

佐藤 美奈
恋愛
「今日から妹のローラも一緒に住むからな」 ミカエルから突然言われてクロエは寝耳に水の話だった。伯爵家令嬢一人娘のクロエは、幼馴染のミカエル男爵家の次男と結婚した。 クロエは二人でいつまでも愛し合って幸福に暮らせると思っていた。だがミカエルの妹ローラの登場で生活が変わっていく。クロエとローラは学園に通っていた時から仲が悪く何かと衝突していた。 住んでいる邸宅はクロエの亡き両親が残してくれたクロエの家で財産。クロエがこの家の主人なのに、入り婿で立場の弱かったミカエルが本性をあらわして、我儘言って好き放題に振舞い始めた。

妹と再婚約?殿下ありがとうございます!

八つ刻
恋愛
第一王子と侯爵令嬢は婚約を白紙撤回することにした。 第一王子が侯爵令嬢の妹と真実の愛を見つけてしまったからだ。 「彼女のことは私に任せろ」 殿下!言質は取りましたからね!妹を宜しくお願いします! 令嬢は妹を王子に丸投げし、自分は家族と平穏な幸せを手に入れる。

王家の賠償金請求

章槻雅希
恋愛
王太子イザイアの婚約者であったエルシーリアは真実の愛に出会ったという王太子に婚約解消を求められる。相手は男爵家庶子のジルダ。 解消とはいえ実質はイザイア有責の破棄に近く、きちんと慰謝料は支払うとのこと。更に王の決めた婚約者ではない女性を選ぶ以上、王太子位を返上し、王籍から抜けて平民になるという。 そこまで覚悟を決めているならエルシーリアに言えることはない。彼女は婚約解消を受け入れる。 しかし、エルシーリアは何とも言えない胸のモヤモヤを抱える。婚約解消がショックなのではない。イザイアのことは手のかかる出来の悪い弟分程度にしか思っていなかったから、失恋したわけでもない。 身勝手な婚約解消に怒る侍女と話をして、エルシーリアはそのモヤモヤの正体に気付く。そしてエルシーリアはそれを父公爵に告げるのだった。 『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...