悪評高き騎士、異国の王女と共に未来を切り開く

小笠原 ゆか

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エセルの物語 Ⅰ

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「アイヴァン・ソーンヒルと申します。エセル嬢、これからよろしくお願いいたします」


エセルがアイヴァンと婚約をしたのは五年前――エセルが13歳、アイヴァンが15歳の時だった。
公爵令嬢として誇り高く育ったエセルにとって、伯爵令息との婚約は不本意なものだった。

「えぇ、よろしく……」

嬉し気な両親の声を聞きながら、エセルの心の中では不満が渦巻いていた。公爵令嬢として、自分にはもっと相応しい相手がいるはずなのに。王家の一粒種のサディアス王子の婚約者も決まっていないのに。

数年が経ち、エセルの不満は消えるどころか増すばかりだった。アイヴァンはいつも礼儀正しく、彼女に対して丁寧に接していたが、それが余計に彼女の苛立ちを募らせた。

ある日、アイヴァンが贈ってくれた美しい花束を受け取ったエセルは、その花をジッと見つめてから溜息を吐いた。

「平凡な花ね。もっと珍しい花が良かったわ」

別の日には、美しい髪飾りが贈られた。けれど、その髪飾りは新進気鋭の工房が作ったもので、手に取ったエセルはすぐに顔をしかめた。

「公爵家の人間が持つ物としては相応しくないわ。もっと格式のあるものが良いのに……」

アイヴァンは困った顔をしたものの、常にエセルの容貌に応えようと努めた。だが、エセルはどんなに努力をしても彼の行動の粗探しを続けたのだった。

そんな中、サディアス王子の妃選びの噂が王国に広がり始めた。

「サディアス王子が私を妃に選んでくれたなら、アイヴァンとの婚約なんてすぐに解消するのに……」

エセルは毎日のように鏡の前で自分を整え、王宮からの連絡を待った。しかし、いくら経っても、妃への打診は無かった。既にアイヴァンという婚約者がいるのだから当然のことである。

そしてエセルはデビュタントの日を迎えた。
この日のために王国で一番格式の高い店でドレスを仕立てていた。純白のシルクに繊細なレースが施されたそのドレスはエセルの美しさを一層引き立てる。ティアラは、かつて降嫁した王女から公爵家に伝わる豪奢なもので、彼女の誇りを象徴していた。

婚約者であるアイヴァンは今夜も礼儀正しくエセルの手を取り、会場へとエスコートした。

「エセル嬢、今夜の貴女は本当に美しいです」

アイヴァンの言葉に、エセルは素っ気なく頷いた。彼に褒められたところで、心は全く響かない。

会場に到着するとエセルは、今夜デビュタントする少年少女たちの列に加わった。

「ケープダズル公爵家、エセル嬢」

彼女の名前がコールされると、その美しさと気品に誰もが息を呑む。
エセルは注目されていることに気づいていたが、誇り高く胸を張りながら堂々と足を進めた。大広間は華やかに飾り立てられ、多くの貴族たちがデビュタントの様子を見守っていた。アイヴァンは既に成人しているため、エスコートすることはなく、会場の隅でその光景を見守っていた。

「成人おめでとう。そなたたちの未来が幸多きものであることを願っている」

国王の祝福の言葉に、静かな感動に包まれる。

そしてデビュタントの儀式は厳かに終了すると、あとは通常の舞踏会のような流れとなった。楽団が軽やかな音楽を奏で始め、参加者たちは次々とダンスフロアへと向かっていった。

エセルはその中に、サディアス王子の姿を見つけた。彼の端正な顔立ちと堂々とした態度に、彼女の心はときめいた。エセルは王子に気づいて欲しくて、しばらく視線を送り続けていた。
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