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エセルの物語 Ⅱ
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「まぁ、エセル様ったら、サディアス殿下を見つめていらっしゃるの?」
突然の声に、エセルは驚いて振り向いた。そこには華やかなドレスをまとったイザベラ・フロックス侯爵令嬢が微笑んで立っていた。
「イザベラ様……」
「貴女も殿下をお慕いしているのかしら?でも、残念ね。貴女は知らないかもしれないけれど、殿下の妃候補は王妃様のお茶会に呼ばれていたのよ」
イザベラは楽しそうに彼女は王妃の茶会に呼ばれた令嬢たちの名前を挙げていく。彼女の声には。明らかな優越感が滲んでいた。
「そうそう。貴女の婚約者さんの妹さんもね」
アイヴァンの妹・フリーダとは数回だけ会ったことがある。特に親しくもなく、大人しく無口な彼女に対する印象は決して良いものではなかった。彼女が選ばれて、自分が選ばれないことがエセルには屈辱でならなかった。
エセルの心は嫉妬が渦巻いていたが、それを表情には出さず、冷静を装って言い返した。
「どうしてそんなことを仰るのです?私には婚約者がいるのですよ」
イザベラは冷ややかに笑いながら応じた。
「でも、殿下の妃になりたかったんでしょう?物欲しそうに見ていたくせに」
エセルは怒りが爆発しそうになった。高貴な自分がそんなはしたない女だと見られていたことが屈辱だった。何か返事をしなければと思うのに、口を開けばイザベラを罵るための品の無い言葉が零れ落ちそうだった。
しかし、その時、
「失礼、イザベラ嬢。少しよろしいですか?」
背後からアイヴァンが現れ、静かに二人の間に割って入ったのだった。
彼の穏やかな表情にイザベラは一瞬たじろいだが、すぐに冷ややかな笑みを浮かべる。
「まぁ、アイヴァン様。貴方もこの話に加わりたいのかしら?」
婚約者が別の男を好きだとか、そんな話に加わりたいなどという男はいないだろう。
「いいえ。私はただ、婚約者の一生に一度の大切な日にダンスを誘いたいだけなのです」
けれど、アイヴァンは優しく微笑みながら言った。彼の理知的な青色の瞳は誠実さを湛えていて、貴公子然とした振る舞いに遠巻きに見ていた人々からも思わず溜息が零れる。
一瞬言葉を飲み込んだイザベラもまた、彼の魅力に心を奪われそうになったが、すぐにその感情を打ち消し、嫌味を返した。
「御立派なことですわね。でも、エセル様のお気持ちまでは計り知れないでしょう?伯爵令息の貴方には、彼女の望みを完全に理解することは難しいでしょうからね」
イザベラはアイヴァンの劣等感をくすぐるような言い回しをするが、彼の顔色が変わるくことはない。落ち着いた様子で応えた。
「それでも彼女が私の大切な婚約者であることは変わりませんよ」
ハッキリと言い切ったアイヴァンはエセルの手を取り、彼女をダンスフロアへと導いた。
「遅くなってすみません、エセル嬢。どうかお許しください」
アイヴァンは低い声で囁いた。こちらの機嫌を窺うように聞こえるのに、今夜は何故かその声には誠実さと優しさが込められているように感じた。
どうしてと動揺しながらも、表情を取り繕ってアイヴァンと共に踊り始めた。今夜のデビュタントで初めてアイヴァンとダンスを踊ることになったわけだが、リードが上手く、踊りやすく感じる。
「エセルと呼んでください。……婚約者なのでしょう?」
アイヴァンは驚きながらも、これまで頑なだったエセルの譲歩に優しく微笑んで応えた。
「ありがとうございます、エセル」
突然の声に、エセルは驚いて振り向いた。そこには華やかなドレスをまとったイザベラ・フロックス侯爵令嬢が微笑んで立っていた。
「イザベラ様……」
「貴女も殿下をお慕いしているのかしら?でも、残念ね。貴女は知らないかもしれないけれど、殿下の妃候補は王妃様のお茶会に呼ばれていたのよ」
イザベラは楽しそうに彼女は王妃の茶会に呼ばれた令嬢たちの名前を挙げていく。彼女の声には。明らかな優越感が滲んでいた。
「そうそう。貴女の婚約者さんの妹さんもね」
アイヴァンの妹・フリーダとは数回だけ会ったことがある。特に親しくもなく、大人しく無口な彼女に対する印象は決して良いものではなかった。彼女が選ばれて、自分が選ばれないことがエセルには屈辱でならなかった。
エセルの心は嫉妬が渦巻いていたが、それを表情には出さず、冷静を装って言い返した。
「どうしてそんなことを仰るのです?私には婚約者がいるのですよ」
イザベラは冷ややかに笑いながら応じた。
「でも、殿下の妃になりたかったんでしょう?物欲しそうに見ていたくせに」
エセルは怒りが爆発しそうになった。高貴な自分がそんなはしたない女だと見られていたことが屈辱だった。何か返事をしなければと思うのに、口を開けばイザベラを罵るための品の無い言葉が零れ落ちそうだった。
しかし、その時、
「失礼、イザベラ嬢。少しよろしいですか?」
背後からアイヴァンが現れ、静かに二人の間に割って入ったのだった。
彼の穏やかな表情にイザベラは一瞬たじろいだが、すぐに冷ややかな笑みを浮かべる。
「まぁ、アイヴァン様。貴方もこの話に加わりたいのかしら?」
婚約者が別の男を好きだとか、そんな話に加わりたいなどという男はいないだろう。
「いいえ。私はただ、婚約者の一生に一度の大切な日にダンスを誘いたいだけなのです」
けれど、アイヴァンは優しく微笑みながら言った。彼の理知的な青色の瞳は誠実さを湛えていて、貴公子然とした振る舞いに遠巻きに見ていた人々からも思わず溜息が零れる。
一瞬言葉を飲み込んだイザベラもまた、彼の魅力に心を奪われそうになったが、すぐにその感情を打ち消し、嫌味を返した。
「御立派なことですわね。でも、エセル様のお気持ちまでは計り知れないでしょう?伯爵令息の貴方には、彼女の望みを完全に理解することは難しいでしょうからね」
イザベラはアイヴァンの劣等感をくすぐるような言い回しをするが、彼の顔色が変わるくことはない。落ち着いた様子で応えた。
「それでも彼女が私の大切な婚約者であることは変わりませんよ」
ハッキリと言い切ったアイヴァンはエセルの手を取り、彼女をダンスフロアへと導いた。
「遅くなってすみません、エセル嬢。どうかお許しください」
アイヴァンは低い声で囁いた。こちらの機嫌を窺うように聞こえるのに、今夜は何故かその声には誠実さと優しさが込められているように感じた。
どうしてと動揺しながらも、表情を取り繕ってアイヴァンと共に踊り始めた。今夜のデビュタントで初めてアイヴァンとダンスを踊ることになったわけだが、リードが上手く、踊りやすく感じる。
「エセルと呼んでください。……婚約者なのでしょう?」
アイヴァンは驚きながらも、これまで頑なだったエセルの譲歩に優しく微笑んで応えた。
「ありがとうございます、エセル」
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