23 / 35
エセルの物語 Ⅲ
しおりを挟む
舞踏会が終わり、アイヴァンに送られて家に戻った後も、エセルの心は高鳴っていた。
「アイヴァン……」
その名前を静かに呟くと、これまで感じたことのない暖かさと幸せが体中に広がった。彼の手が触れた瞬間の柔らかさ、その手の温もりがまだ指先に残っているように感じた。彼の微笑みが浮かぶたびに、胸が締め付けられるような思いがした。
「どうして、こんなに彼のことが気になるのかしら……」
エセルはベッドに横たわりながら、アイヴァンとの時間を何度も思い返した。彼の誠実な瞳、優しい声。その全てが、今では彼女にとってかけがえのないものになっていた。
舞踏会から数ヶ月が過ぎ、エセルの日常は以前と変わらぬ静けさを保っていた。ある日、父であるケープダズル公爵がエセルの部屋にやって来た。
「エセル、少し話がある」
父の声にエセルは振り向き、眉をひそめた。
「何かしら、お父様?」
父は一瞬ためらったが、やがて口を開いた。
「サディアス王子とフリーダ・ソーンヒル嬢の婚約が正式に決まったそうだ」
その言葉を聞いたエセルは一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「そう。まあ、おめでたいことね」
父はエセルの冷静な反応に少し驚いた様子だったが、すぐに頷いた。
「殿下はお前の憧れだったろう?」
エセルは一瞬目を伏せたが、すぐに父を見上げて強い口調で答えた。
「もう良いのです、お父様。私には婚約者がいるのよ」
父はエセルの言葉に少し驚いた様子で、しばらく彼女の顔を見つめていた。そして、ため息をつきながら話し始めた。
「本当のところ、エセル。私はお前を王家に輿入れさせたくなかったのだ」
エセルは驚きの表情を浮かべた。確かに父は、どれだけサディアス王子と結婚したいとエセルが願っても聞き入れてはくれなかった。
「どうして?普通なら、公爵家の娘として王家に輿入れすることは名誉なことじゃないの?」
父は苦い笑みを浮かべ、窓の外を見ながら話し始めた。
「確かに、そうだ。しかし、私はユリア王妃を好きではない。あの方は癒しの力という稀有な力を持つせいか、誰もが自分に傅いて当然だと思っている態度が鼻につくのだ。特に若い令息たちを侍らせている様は好きではなかった」
エセルは父の言葉を静かに聞いていた。彼の目には真剣な光が宿っており、その言葉に嘘偽りはなかった。
「お前をアイヴァンと婚約させたのも、フリーダ嬢が優秀だと聞いたからだ。お前とフリーダ嬢が同じ家庭教師についていたことを覚えているか?」
エセルは頷いた。フリーダは確かに同じ家庭教師についていたが、その時は特に気に留めていなかった。
「どうやら彼女の実力は、同年代の令嬢たちに比べて頭一つ抜きん出ているようだ。そんな娘を王妃崇拝者のギルバート・ソーンヒルをが差し出さないわけがない」
アイヴァンの父親であるソーンヒル伯爵との面識は無いが、父の言葉尻に薄っすらと嫌悪が滲んでいるのは分かった。つまり王室と直接縁づきたくはないが、次代の王妃となる令嬢の兄弟を通じて権力は維持したいというのだろう。
「もちろん、アイヴァン自身の評判も良かったから婚約させたのだ」
父の愛情を感じながらも、政略結婚という現実に、心の奥底で何かが引っかかるような気持ちが消えなかった。
「アイヴァン……」
その名前を静かに呟くと、これまで感じたことのない暖かさと幸せが体中に広がった。彼の手が触れた瞬間の柔らかさ、その手の温もりがまだ指先に残っているように感じた。彼の微笑みが浮かぶたびに、胸が締め付けられるような思いがした。
「どうして、こんなに彼のことが気になるのかしら……」
エセルはベッドに横たわりながら、アイヴァンとの時間を何度も思い返した。彼の誠実な瞳、優しい声。その全てが、今では彼女にとってかけがえのないものになっていた。
舞踏会から数ヶ月が過ぎ、エセルの日常は以前と変わらぬ静けさを保っていた。ある日、父であるケープダズル公爵がエセルの部屋にやって来た。
「エセル、少し話がある」
父の声にエセルは振り向き、眉をひそめた。
「何かしら、お父様?」
父は一瞬ためらったが、やがて口を開いた。
「サディアス王子とフリーダ・ソーンヒル嬢の婚約が正式に決まったそうだ」
その言葉を聞いたエセルは一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「そう。まあ、おめでたいことね」
父はエセルの冷静な反応に少し驚いた様子だったが、すぐに頷いた。
「殿下はお前の憧れだったろう?」
エセルは一瞬目を伏せたが、すぐに父を見上げて強い口調で答えた。
「もう良いのです、お父様。私には婚約者がいるのよ」
父はエセルの言葉に少し驚いた様子で、しばらく彼女の顔を見つめていた。そして、ため息をつきながら話し始めた。
「本当のところ、エセル。私はお前を王家に輿入れさせたくなかったのだ」
エセルは驚きの表情を浮かべた。確かに父は、どれだけサディアス王子と結婚したいとエセルが願っても聞き入れてはくれなかった。
「どうして?普通なら、公爵家の娘として王家に輿入れすることは名誉なことじゃないの?」
父は苦い笑みを浮かべ、窓の外を見ながら話し始めた。
「確かに、そうだ。しかし、私はユリア王妃を好きではない。あの方は癒しの力という稀有な力を持つせいか、誰もが自分に傅いて当然だと思っている態度が鼻につくのだ。特に若い令息たちを侍らせている様は好きではなかった」
エセルは父の言葉を静かに聞いていた。彼の目には真剣な光が宿っており、その言葉に嘘偽りはなかった。
「お前をアイヴァンと婚約させたのも、フリーダ嬢が優秀だと聞いたからだ。お前とフリーダ嬢が同じ家庭教師についていたことを覚えているか?」
エセルは頷いた。フリーダは確かに同じ家庭教師についていたが、その時は特に気に留めていなかった。
「どうやら彼女の実力は、同年代の令嬢たちに比べて頭一つ抜きん出ているようだ。そんな娘を王妃崇拝者のギルバート・ソーンヒルをが差し出さないわけがない」
アイヴァンの父親であるソーンヒル伯爵との面識は無いが、父の言葉尻に薄っすらと嫌悪が滲んでいるのは分かった。つまり王室と直接縁づきたくはないが、次代の王妃となる令嬢の兄弟を通じて権力は維持したいというのだろう。
「もちろん、アイヴァン自身の評判も良かったから婚約させたのだ」
父の愛情を感じながらも、政略結婚という現実に、心の奥底で何かが引っかかるような気持ちが消えなかった。
25
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる