次女の物語

すなたろう

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レギーナとハンレニー

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 「ハンレニーもレギーナも、会議で素晴らしい発言をされましたね。私は話についていくだけで精一杯でした。」
国王執務室の控室での会議後、ハインリヒが官僚仲間のレギーナとハンレニーに言った。
「本当に。私も頭が追いつかず。」
と、官僚ヨハンは苦笑いをした。

 ハンレニーは『あなたたち,今まで男っていうだけで上に立ってたから。特にハインリヒは宮中伯の嫡男で、顔もムダに綺麗なのに、今日は良い所ひとつ見せられなかったわね。ヨハンは平民ながら実力でここまで這い上がってきたけど。』と、柄にもなく意地悪い感想を持った。

 ハンレニーより3歳年下のハインリヒは、父親の推薦でなんの苦労もなく官僚になった。しかも父親の七光にあきたらず、上司に媚び、策を弄してハンレニーより上の立場になったのだ。今、ハンレニーが28歳にして25歳のハインリヒと同じ立場になったことに、ハインリヒは、やりきれなさを感じているだろうが、9年も長くこの職場にいるハンレニーは、ハインリヒに遠慮する気はない。

 レギーナが、
「とんでもないです。男性の美貌で外交を有利に進めるという突拍子もない案でしたので、女性であるハンレニーと私の方がイメージしやすかったのですわ。」
と、男性二人をフォローする。余計なことを、とハンレニーは思うが、そこはレギーナの能力の一つだ。

 レギーナは、22歳の伯爵家の娘だ。嫡男である兄、姉、弟、妹のレギーナ以外の兄弟姉妹は、貴族子女と結婚している。が、レギーナだけは、ハンレニーに憧れて官僚になり、孤軍奮闘していたハンレニーと共に男社会を生き抜いてきた。ハンレニーが誰に対しても正論で戦うのに対し、レギーナは上手く男を持ち上げて矛先を変える戦法だ。ハンレニーは、言われのない攻撃を浴び、レギーナは相手が馬鹿な男であればあるほど思い通りになると軽く見られた。どちらにしても辛いことに変わり無い。

 「レギーナ、今までよく耐えてきたわ、やっと私たち、自分の意見が言えるようになったわね。感慨深いわ。」
と言いながら、ハンレニーはハインリヒとヨハンの方をこっそり伺ってみた。今の、皮肉と取ったかな?でも仕方ない。私たちが意見を求められることが今まで無かったのは事実なんだもの。
「ハンレニー、私はハンレニーに全て教えてもらいました。私の意見など、ハンレニーから教えられたものしかありませんわ。」
 
 レギーナは子供の頃から、姉妹と遊んでいると「レギーナが一番可愛いね」と言われた。それが無性に嫌で、兄弟と遊ぼうとすると今度は身体が華奢でついていけず、一人で本ばかり読んで大きくなった。女性で初めて官僚になったハンレニーの噂を聞いた時、鬱々と過ごしていた毎日に希望が生まれた。それからは勉強し、兄弟姉妹とも友達とも上手く遊んで人脈を作った。時には自分の容姿も利用して、人が望む自分に自分を寄せることも厭わず、6年ぶりの女性官僚第二号になれた瞬間は忘れられない。ハンレニーと初めて会い、握手をしてもらった時のことを思い出すと、今でも涙が溢れそうになる。

 「ご飯を食べ損なった時も、寝不足の時も、ハンレニーに助けられ、下心を隠して擦り寄る男どもを、いつも薙ぎ払ってくれて、ありがとうございます。」
「レギーナ、それはあなたがお礼を言うことでは無いわ、職場が正しくあるために、したまでのことよ。」
「そうね、私に落ち度があったのでは無いわね。私の問題としては、私はまだ22歳なのに貴族の娘であるがために、早く結婚して退職しろと圧力をかけられること。ハンレニーがいなかったら、とっくに心が折れていたわ。」
 「でもレギーナ、結婚のことは考えなくて良いの?嫁ぎ遅れてるって、ご両親も焦っておられるでしょう?」
「いえ、ハンレニーが先に結婚して結婚生活と仕事の両立の見本を見せてくれないことには、私は怖くて結婚なんてできないわ。私は今までハンレニーの後をただついて来ただけなので。」
「レギーナは結婚しても仕事を続けるつもりなのね。それは、私には見本を見せられないけれど、良いご縁があるなら挑戦してみれば?私はあなたに出来る限り協力するから、今度はあなたが第一号になりなさいよ。」

 ハンレニーがふと見ると、ハインリヒもヨハンも、私たちの話に目を輝かせている。二人ともレギーナとの将来を夢見ているのかしら。ハインリヒは、宮中伯長男で25歳。さぞや結婚と後継を急かされていることだろう。ヨハンは平民の次男だから、24歳でもそれほど結婚はうるさく言われていないだろうけど、レギーナを好きになっている可能性は大いにある、というか、こんなに魅力のあるレギーナを好きにならずにいられないのでは?あらあら、これから二人のバトルが始まるの?私は体は大きいし顔も残念ときてるから、誰からも期待されずに28歳の今もお気楽なもの。高みの見物といきますか。

 ハンレニーが、レギーナと二人きりになったところで、
「ハインリヒなら伯爵家嫡男だし、レギーナのご両親も賛成するんじゃない?ヨハンは平民だからご両親は反対するでしょうけど。とにかくハインリヒかヨハンなら、私が、レギーナの仕事と家庭の両立にも協力させるわよ。」
と言ったら、レギーナは、目を見開き、頬を染め、
「先日、ハインリヒから、ずっと一人の人に片想いをしていると聞きました。」
と恥ずかしそうに言った。あらあらあらあら、レギーナはハインリヒに告白されてたのか。そういえば、昔ハインリヒの父親とハインリヒの会話を聞いたことがあった。『好きな人より背が高くなったら思いを告白する、なんて悠長なことを言っておらずに、お前もいい加減、前に進め。』『父上、その件に関しましては、口を出さないでいただきたい。』という会話を聞いてしまって、慌ててその場を離れた。盗み聞きをしてしまったので忘れるよう努めたが、あれは、レギーナのことだったのか。確かにレギーナはハインリヒより少し背が高い。ハインリヒはチビなことを気にしてたのか。可愛いところがあるじゃないか。小さい頃から弱味を見せない男だった。初めてハインリヒを応援する気になった。


 さて、外交団メンバーは、諸国の歴史、文化を学び、実践練習にも励んだ。その後の会議では、外交団のエスドート王国訪問メンバーに、商人を加えることが決まった。
 
 「相手国への好意を前面に出す新外交団に、初めから商人を参加させて、商売でも儲けようと話が進んだけど、加わる商人ね、一般公募して各地の商人から選ぼうとしたら、ローザン男爵も応募されてたよ。」
フレデリクがプライベートの国王夫妻の部屋で、エレオノーラと話していた。
「アグネスらしいわ。私たちに頼むなんて考えずに、一般で応募するなんて。」
「ローザン男爵領は、ここにきて更に景気が良くなってて、領地経営のモデルになっているんだ。他の領地からこぞってローザンで一旗あげようと、ローザンドリームを胸に移住している。ローザンは作る製品作る製品、当たって、猫の手も借りたいほどらしい。既に戦後いち早くエスドート王国でも販路を開拓して、エスドートでもかなり儲けてる。ローザン男爵はおそらく新外交団に選ばれるだろう。」
「そうね、戦後間もない頃、アグネスがアレクサンデルさんとエスドート王国に行って、商談していたわね。そのあとアグネスは大活躍だもの。外交団でも中心人物になりそう。」


 「ローザン領アグネス・プラデュスです。外交団に参加させていただくことになり光栄です。」
外交団の顔合わせで、王宮に参内したアグネス。キラキラ男子外交団のプロデューサーを任されたハンレニーとフランツィスカが、
「ローザン男爵令嬢のアグネスさんが行ってくださるのですね。アグネスさんはエスドート語も話せますし、心強いです。」
「大変恐縮でございます。」
「ねえ、ハンレニーさん。今回は男尊女卑のエスドート王国には、男性陣だけで外交団を結成した方が良いだろうという皆の判断でしたけど、アグネスさんがこんなにキラキラしているなら、やはり私たちも第一回エスドート王国訪問外交団に、参加した方が良いのではありませんこと?」
と、フランツィスカが言い出した。ハンレニーが、
「私も今、同じことを考えていました。キラキラ男子インパクトに加えて、女性の活躍する場が無いエスドート王国で、我が国の女性が活躍しているのを見せつける波状攻撃。エスドート王国の女性たちに、我が国への憧れを持ってもらいましょう。」

 アグネスが、
「あの、外交とは別件なのですが、私、今回、外交団員の絵姿を、向こうで売ることをご提案申し上げます。」
と、言い出した。
「絵姿?」
「今回の我が国の外交団は、おそらく徐々に評判が上がると思います。絶妙のタイミングを見計らい、美しい絵姿を手のひらサイズで印刷した物を、数種類、枚数限定で売り出すのです。」
「?」
「全く相手にされないかもしれませんが、私の予測ではおそらく奪い合いになるでしょう。そこに、別バージョンを小出しにして、少しずつ何度も売り出します。」
「いけるわ、それ。」
「ですね、いけます、かなり。」
フランツィスカとハンレニーの目もキラキラ輝きだした。
「かなりの数を準備しておいて、もし売れなきゃ我が国で売るまでのことです。」
「私は売れると思うわ。」
「加えて外交団員に、我が国オリジナルのクラヴァットやアクセサリーを着けてもらって、絵姿にも描きます。絵姿が売れた頃に、それらも売り出します。」
「さすがですわ、アグネスさん!」
「いえ、まだ皮算用の段階です、お褒めの言葉は、実際に売れてからになさってくださいませ。」
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