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伯爵家にて
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ツェリェ伯ハインリヒ・コンラインも悩んでいる。昨日侯爵家からエレオノーラへの婚約を願う手紙が届いた。今までの結婚希望者の中では、一番高位の貴族で、リーニュ侯ご嫡男ニコラウス・ホラント様の歳は18、エレオノーラより3歳上で申し分ない。悪い噂も無いし、良い縁談だと思う。エレオノーラはまだ15歳。まだ手放す気持ちにはなれないと寂しく思いつつ、妻と相談し、エレオノーラと兄のアルヌルフに、お相手のニコラウス様がエレオノーラの夫としてどう思うかと、手紙を出すことにした。そしてエレオノーラの幼い頃からの思い出にたっぷり浸っていたら、次の日に、公爵様から『エレオノーラを妻として望む』との熱いお手紙が届いた。
「フレデリクさんの熱意が感じられて、エレオノーラは一生幸せになれそうなのだけど、この方、トンデモ公爵だよなぁ。」
と、つぶやきながら妻のマリアを呼んだ。
「あなた、アルヌルフへの手紙が書けましたら、私にも読ませてくださる?」
「まだ書いていないんだ、また別の手紙が届いてね。」
「どなたから?」
「現公爵様からエレオノーラへ結婚の申込みが届いた。」
「なんですって?!」
「そうなんだよ、エルデンブルグ公爵フレデリク・フォン・カロマニッチ様16歳、通称トンデモ公爵様だ。」
「なんということでしょう。このままいけば、エレオノーラはトンデモ公爵夫人に。」
「公爵様の手紙は1日遅れだから『エレオノーラは、もう侯爵家ご嫡男の婚約者です。』と言って断ることはできないかな。」
「かなり難しいですが、エレオノーラの一生がかかっていますから、我が家の存続を賭けてでもやってみましょう。」
「が、トンデモ公爵様のお手紙には、エレオノーラに対する熱意が感じられて、エレオノーラが嫁いでも良いのでは、と思えるんだよ。」
「読ませていただいてよろしいですか?」
「読んでくれ。」
と、ハインリヒは、妻マリアに、フレデリクからの手紙を渡す。
「確かに、心のこもった、誠実な文章ですね。微笑ましいわ。」
「では、トンデモ公爵様にエレオノーラを嫁がせるか。それが一番穏やかにことを進められる。」
「いいえ、文章など誰が考えたか、わかりませんわ。優れた文筆家が公爵家に居るだけかもしれません。」
「そうであっても、この文の意向は公爵様だろう。はっきりとした意志が込められてある。」
「そうね。確かにそうだわ。シンプルで直接的な言葉。これを優れた文筆家が書いたとしたら、たいした技ね。」
「やはり私たちだけで、判断するのは無理だな。エレオノーラは、学院でトンデモ公爵様の噂も聞いているだろうし、アルヌルフにも意見を聞こう。トンデモ公爵様は同級生のはずだ。」
「ねえ、私、エレオノーラに、貧しい暮らしでも困らないように仕込んできたけれど、高位貴族に嫁いだ場合は想定外だわ。どうしましょう。」
「え?高位貴族に嫁げば、侍女が何でもしてくれるから心配ないと、君が言っていたんじゃなかったっけ?」
「私が侯爵家でなに不自由なく育ったから、そう思っただけだわ。だって、あなたと結婚するなら勘当だと親から言われて、実家の侍女を一人として連れて来ることも出来ずここに嫁いで来た時、本当に困ったのよ。持って来たドレスも下着も、自分で着ることも脱ぐことも出来なくて。最初の夜は、困っている私に気づいたお義母様が手伝ってくださって、すぐに侍女を手配してくださった。お義父様もお義母様も、私を望んでいなかったのに、それはもう可愛がってくださって嬉しかった。けれど、とても恥ずかしかったの。だからエレオノーラには、身の回りの事、全てできるようにさせたの。」
「そうだったね。マリアにばかり苦労をさせてごめんね。私のところに来てくれてありがとう。」
伯爵ハインリヒは当時を思い出して、愛妻マリアを抱きしめる。
「ううん、あなただって迷惑だったでしょ?私が勝手に押しかけたんだから。」
「そんなことはないよ、私はマリアが好きだったけど、望むべくもないと諦めていただけだよ。本当に自分のところに来てくれた時は、夢じゃないかと思った。」
と言って、マリアの顔をしみじみ見つめてキスをした。
「ありがとう。」
マリアがハインリヒにキスを返す。と、
「じゃなくて!今はエレオノーラのことよ。公爵家や侯爵家に嫁ぐなら、身の回りのことを自分でしてはいけないの。今のエルでは無理よ。私、いちからエルに教えないといけないことが山のようにあるわ。とにかくエルに会わないと。」
あれこれ考えて、伯爵ハインリヒと妻マリアは、急ぎ王都に行くことに決めた。
「フレデリクさんの熱意が感じられて、エレオノーラは一生幸せになれそうなのだけど、この方、トンデモ公爵だよなぁ。」
と、つぶやきながら妻のマリアを呼んだ。
「あなた、アルヌルフへの手紙が書けましたら、私にも読ませてくださる?」
「まだ書いていないんだ、また別の手紙が届いてね。」
「どなたから?」
「現公爵様からエレオノーラへ結婚の申込みが届いた。」
「なんですって?!」
「そうなんだよ、エルデンブルグ公爵フレデリク・フォン・カロマニッチ様16歳、通称トンデモ公爵様だ。」
「なんということでしょう。このままいけば、エレオノーラはトンデモ公爵夫人に。」
「公爵様の手紙は1日遅れだから『エレオノーラは、もう侯爵家ご嫡男の婚約者です。』と言って断ることはできないかな。」
「かなり難しいですが、エレオノーラの一生がかかっていますから、我が家の存続を賭けてでもやってみましょう。」
「が、トンデモ公爵様のお手紙には、エレオノーラに対する熱意が感じられて、エレオノーラが嫁いでも良いのでは、と思えるんだよ。」
「読ませていただいてよろしいですか?」
「読んでくれ。」
と、ハインリヒは、妻マリアに、フレデリクからの手紙を渡す。
「確かに、心のこもった、誠実な文章ですね。微笑ましいわ。」
「では、トンデモ公爵様にエレオノーラを嫁がせるか。それが一番穏やかにことを進められる。」
「いいえ、文章など誰が考えたか、わかりませんわ。優れた文筆家が公爵家に居るだけかもしれません。」
「そうであっても、この文の意向は公爵様だろう。はっきりとした意志が込められてある。」
「そうね。確かにそうだわ。シンプルで直接的な言葉。これを優れた文筆家が書いたとしたら、たいした技ね。」
「やはり私たちだけで、判断するのは無理だな。エレオノーラは、学院でトンデモ公爵様の噂も聞いているだろうし、アルヌルフにも意見を聞こう。トンデモ公爵様は同級生のはずだ。」
「ねえ、私、エレオノーラに、貧しい暮らしでも困らないように仕込んできたけれど、高位貴族に嫁いだ場合は想定外だわ。どうしましょう。」
「え?高位貴族に嫁げば、侍女が何でもしてくれるから心配ないと、君が言っていたんじゃなかったっけ?」
「私が侯爵家でなに不自由なく育ったから、そう思っただけだわ。だって、あなたと結婚するなら勘当だと親から言われて、実家の侍女を一人として連れて来ることも出来ずここに嫁いで来た時、本当に困ったのよ。持って来たドレスも下着も、自分で着ることも脱ぐことも出来なくて。最初の夜は、困っている私に気づいたお義母様が手伝ってくださって、すぐに侍女を手配してくださった。お義父様もお義母様も、私を望んでいなかったのに、それはもう可愛がってくださって嬉しかった。けれど、とても恥ずかしかったの。だからエレオノーラには、身の回りの事、全てできるようにさせたの。」
「そうだったね。マリアにばかり苦労をさせてごめんね。私のところに来てくれてありがとう。」
伯爵ハインリヒは当時を思い出して、愛妻マリアを抱きしめる。
「ううん、あなただって迷惑だったでしょ?私が勝手に押しかけたんだから。」
「そんなことはないよ、私はマリアが好きだったけど、望むべくもないと諦めていただけだよ。本当に自分のところに来てくれた時は、夢じゃないかと思った。」
と言って、マリアの顔をしみじみ見つめてキスをした。
「ありがとう。」
マリアがハインリヒにキスを返す。と、
「じゃなくて!今はエレオノーラのことよ。公爵家や侯爵家に嫁ぐなら、身の回りのことを自分でしてはいけないの。今のエルでは無理よ。私、いちからエルに教えないといけないことが山のようにあるわ。とにかくエルに会わないと。」
あれこれ考えて、伯爵ハインリヒと妻マリアは、急ぎ王都に行くことに決めた。
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