なんとなく起業に付き合ったら、楽しい毎日だったお話

すなたろう

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原点回帰

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 森企画は、原点に戻った。
「リン、なんか、どんどん楽になってない、この頃?」
「ほんとにね、結局仕事量ほとんど変わってないのに、どういうわけか楽だよね。ねえユウ、今日はちょっと足のばして、オシャレなカフェでランチしない?」
「リン、出世したね!前は『あんなコスパの悪いとこ、外から眺めて、イメージだけいただいてから、安いとこで食べるのが正解』って言ってたのに?」
「今、ちょっと、コスパが悪い事したい気分なの。ユウ、行こうよ。」
「もちろん、リン。私もコスパ、今ポイした。」
キャッキャ言いながら、外に出る準備を始める。
「コウヘイ、あの人たちについて行ったら、やっぱりお邪魔ですよね?」
「ダイキ、ここは丁重にお願いしてみましょう。」
リンとユウは、とびきりの笑顔で振り返り、
「二人とも一緒に行ってくれるの?電話番は?今日は来客予定無かったかしら。」
「リン、来客予定は3時までありません。電話も留守電にします。」
と、初めて平日昼間に留守電の機能を使うコウヘイ。
「苦しゅうない、ついて参れ。」
「ははっ、ユウ様。お荷物お持ちいたします。」
とダイキ。
「コウヘイ、今日は奢らないでね。コスパに負けない私、と自信をつけたいから。」
「ダイキもね。今日は、メニューの値段見ないで決めてみたい。」
「ユウ、そこまで出世したの?私は絶対無理!」
「リン、もう負けを認めたのね?そういえばこの頃、電話早取り選手権に、たまに勝てるし。」
「悔しい、あれだけは譲れない、また血の滲むようなトレーニングを積むわ!」
と、テンション高く歩いて、キラキラしたカフェに入る。

 「ねえ、この頃の森企画のゆとりには、どういうカラクリがあるの?」
リンが言うとユウも、
「私も知りたい!教えて!」
「それは、ダイキがまず、いろいろ抱えていたのを整理して優先順位をつけて、」
「コウヘイが、それを見直して、一部凍結させて、上から順に仕事を進めているからかな。」
結局、一番リーズナブルなランチを4人とも注文する。
「コウヘイが凍結させたのは、ごくわずかだったんだけどね。」
「私は、あれもこれもと同時進行ができなくて、パニックになっていましたが、今はひとつずつ進められて、すごく楽です。」
コウヘイがしみじみ言う。
「私もそうだよ。結局、一個ずつゆっくり確実にやったほうが、効率良いことに気づいた。しかし、コウヘイがパニックになるなんて,想像つかない、見たかった。」
「ユウ、コウヘイが本気で怒ったら怖いよ、気をつけるんだよ。」
「ダイキ、コウヘイが怒る姿は想像できるから、私は絶対怒らせない。でももし何かやっちゃったら、すぐ遠くに避難する。」
「ユウ、私はそんなに怖いですか?」
笑いながらコウヘイが聞くと、ユウはまっすぐコウヘイを見つめながら、
「あ、怖いとはちょっと違う。逆らいたくないって思わせるオーラ、かな?これもちょっと違うな。この人に従っておけば安心、この人に逆らいたくなったら、自分、なんか、やばいんじゃない?って感じ?あれ?何言ってるんだろ。わかんなくなってきた。」
と、混乱しだしたユウが、美味しくないランチを頬張る。
「ユウ、わかるよ、まさにそんな感じよ。」
リンは、気取って食べながら言う。
「まさにそれだった。」
ダイキが静かに言う。コウヘイは苦笑い。

 「それでね、リン、運転技術数値化アプリ開発なんだけど」
「それ凍結候補ナンバーワン!私のイメージをいちいち具現化しないで。スイスは楽しくて最高だったけど。」
「でも、僕、かなりのところまで作り込んじゃったんだ。リンはそれを携えて、大手自動車メーカーの自動運転開発チームを訪ねて、提携を持ち込んで、」
「カツカツ、ヒールの音響かせて行くのね?」
リンが身を乗り出した。
「すぐに、アイデア取り上げられて終わりだと思うけど、20歳の美女が作ったアプリっていう『売り』を、向こうはおそらく手放さないと思う。そこで雑誌の取材を受けるんだ。」
「わぁ、できる美女として広告塔になるのね。その流れだと次は、3ヶ月後に高級ブランド服着て、ファッション雑誌だわ。コウヘイ、一緒にプレゼンしに行こうよ。コウヘイと一緒なら、ブランド服と、高級腕時計の広告モデル依頼が来るわ。でも、コウヘイと私、アプリ開発者っぽく写るかしら。コウヘイ、二人でダイキに、短期集中講座開いてもらお!」
「リン、私はそういうのはちょっと」
口ごもるコウヘイに、急にリンが身震いした。
「ごめん、ダイキ、今の無し!あなたは今何も耳にしなかったの!お願い、具現化しないで!私、今、コウヘイの住んでるアパートの隣の部屋の女が、ファッション雑誌に載ってるコウヘイ見つけて、勝手にコウヘイの部屋入って待ち伏せしてる姿が頭に浮かんで震えた!あの女、絶対コウヘイ狙ってんの!」
「それ言ったらリンだって、高校の時の斉藤とか、渡辺が、雑誌出た日に会社の前で張ってて、家までつけてくるよ。」
「ひっ」
リンが固まる。
「あいつらリンの『隙のない美女の上から目線』設定にも、負けずに立ち向かってきたよね。オスの欲の強さって、すごいなと思った。」
「あいつら怖かったー。ユウに必殺技教わってたのに、とっさに繰り出せず。」
「あったね、必殺技。『グォっら、なめとんのか』って」
「ユウ、そのセリフで、しつこい奴何人か撃退してたね。言われたやつら、『自分の耳、今何聞いた?』って固まってた。でも私、とっさにうまく言えず。自分の力不足、痛感した。」
「笑顔とドスの効いた声で言うのが良いよ。月イチで練習して。何パターンか用意しとくよ。」
「あ、『テメェ殴られたいんか?』ってパターンもあった!ま、私のモテ期はすぐ終わったけど、警戒は怠らないようにしよ。あ、ユウのその技効かない強者居たじゃん。バレー部の田中。」
「ひっ」
今度はユウが固まる。

 「リン、残念です。『運転技術数値化アプリ開発者は実は若い美女』計画、かなり稼げそうだけど、仕方ない。僕が売り込んで、できるだけがっぽり儲けてくるよ。大手メーカーが上手に売り出したら、毎年少しは、もらえるかもしれないし。」
「ダイキ、ダイキも、雑誌取材受けるのはNGね。私の嫉妬の凄まじさ、ご存知よね。大地を焼き尽くすからね。」
「いやいや、僕は雑誌に載ろうが、何も起きないよ。」
「あのね、ダイキ、理系男子の人気は、太古の昔から連綿と続いているの。美しさの基準は、時代によって変化があるけど、理系男子ファンは、常に存在することを忘れないように。」
「そうね!私たち、お仕事してる時のお化粧とか、髪型とか、高校時代にあれこれ研究してたけど、この2年でまた変わった。ユウと初めてじっくり喋った時の、私の将来イメージが『小洒落た小ぶりのIT企業で、パソコンをキーボード見ずに叩いてる私たち』だったけど、その時の私のイメージはロングストレートヘアで」
リンが話してる途中で、ユウが、
「あれ?そうだった、じゃ具現化してるよ?毎日。」
「え?ユウ、まさか忘れてたの?社内恋愛が良いよねって所まで完璧に、具現化しちゃったのよ。私たち。私、あの時考えた将来像に自分を寄せるため日々努力したんだけど、ユウ、忘れてたんだ・・・」
「そうだった、ごめん、リン、思い出してきたよ、あまり中身を知らない男は嫌、人間性がよくわかる社内恋愛希望、でも、男は別れた後や三角関係を嫌がるからやっぱ社内恋愛却下、『同窓会で再会』から始まる恋に決定!ってなったけど同級生に良いのが全く見つからず」
「理想の恋愛の話はそれっきり出てこなくなったね。ひたすら『できるオフィスワーカー』への道に注力したよね。ほんと、ダイキが『君も来ない?』に、ふらふらついて行ったユウ様のおかげで、全て叶いました。」
「あれ?あれれ?」
ユウが空を見る。
「私もう一個思い出した。ダイキの『君も来ない?』になぜか反応してあの会社を出てったと思ってたけど、」
「違うの?」
「ダイキが、急にパソコンの中身消してることに気づいて、私も消してた。」
「そこまでダイキのことガン見してたんだ。」
「あれ?違う、ダイキのパソコン見えてない。遠かったし。でも気配でわかった。『そろそろ辞めるよな、あの人』って観察してたからかな。それでダイキがゴミ捨ててたから私も捨てて、ダイキと同期して私物まとめてた!」
「ユウすごい!!たまーに超能力発揮するよね。」
「私、まさかダイキに誘われるとは思ってなかったから、追いかける気満々だったんだ、ダイキを見失っちゃいけないと集中してたから、自分の行動、無意識でやってた。」
「じゃあ、ダイキの『君も来ない?』は」
「私の超能力が言わせた?かな?」

 ランチを食べ終わって店を出た瞬間、リンが、
「やっぱりコスパ大事よね!無駄なお金をみんなに使わせてしまった自分に腹が立つ。あれさ、ほとんど冷凍食品とカット野菜をきれいに並べただけなんじゃない?会社から遠いし、もう来ない。」
ユウも言う。
「美しく輝いてる私たちをしっかり窓際に座らせて、店に貢献させられたし。店の宣伝に貢献した分、おまけして欲しかったよ。さっき、ぽいしたコスパ、社に戻ったら即拾う!」

 リンとユウが手を繋いで、森企画に向かって、さっさと先を歩いて行く。後ろから歩くダイキがコウヘイに、
「僕はバレー部のタナカとは違いますよね?」
コウヘイは吹き出した。
「笑わないでください。僕は本当に不安に苛まれているんです。」
「いえ、ダイキを笑ったんじゃなくて、同じことを考えていた自分を笑ったんです。サイトウやワタナベではなく、私が今リンと付き合えているのは何故でしょう。」
「それは、コウヘイが優しくて心が広くて、リンが安心できる人だからです。僕とは違って。」
「ダイキはユウに選ばれた人間のようですよ。」
「そうでした、そして僕はユウの思い通りに動いていたと。」
「気に入りませんか?」
「いえ、死ぬまでユウに動かされたいですね。」
「なら、良かった。私のハリボテの強さの補強をこれからも時々お願いしますね。」
「僕たちも手をつなぎますか?」
「私の心の中では、ダイキと手を繋いで、お互いを支えあってます。」
「はは、置いていかれないようにしないと、ですね。」
「はい急ぎましょう。もうあんな所まで行っちゃってる。」

おっしまい
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