絶望人生にさようなら、人間にして魔王に転ず。

御歳 逢生

文字の大きさ
19 / 37
第二章 極寒の王国~ハイランド王国編~

第十九話 ハイランドの采配

しおりを挟む
——宣戦布告後。

「『テンジョウ』、『コクジョウ』、ご苦労。陰に戻っていいぞ。」

「御意。」

2人はオべリスの足元にすっと身を隠した。

「さてと、今後の方針だが、ルーデン、当初の予定通りハイランドを攻める。ハイランドがどんな場所か説明できるかい?」

「はい、オべリス様。ハイランド王国は山岳地帯を開拓しており、厳しい冬の寒さに包まれており万年雪が降る土地です。荒涼とした岩山と深い谷が連なっており、臘雪峡谷と呼ばれております。その岩壁に村や街が点在し、石造りのハイランド城がございます。」

「なるほど。冬の土地か……。ヤマ、どうやって人間を裁く?」

「はっ!それには考えがございます。私の力で善人と悪人の判別ができる力がございます。まずはその力を実行してから行動に移した方がよいかと。」

「うむ……。そうするとしようか。その後の捕虜の解放や保護は、ヤゴリ率いる雷狸族、ナコビ率いる狐火族、メザカモ率いる雹狼族に任せる。いいかな?」

「御意。」


——ハイランド 上空。

「それではいいですかな?」

「うん、任せるよ。」

さて。ヤマの善人と悪人の判別ができる力とやら、見せてもらうとしようか。

「黒烏、獬豸、準備はいいかい?」

「いつでもいいですよ。」

「ヤマさん、久々で気合入ってません?」

「そりゃ君たちもでしょ!」

黒烏と獬豸もやる気十分といったところだ。そして、ヤマは唱えた。

『曼荼羅の陣 千手千眼自在!!』

獬豸が天空の端を持ち、黒烏が紙をめくるように天空をめくると、そこにはヤマ御殿の床の曼荼羅陣が現れた。そして、その曼荼羅陣から無数の輝く手が地上にめがけて差し伸べている。

曼荼羅陣から差し伸べられた無数の手。そのひとつひとつが、薄く輝く金と黒の織り糸でできていた。
その掌はゆっくりと回転しながら、臘雪峡谷に点在する村々へと降下し、まるで夜空に広がる蜘蛛の糸のように地を撫でていく。

ヤマの額に三つ目が開き、そこから漏れる光が曼荼羅の陣へと注がれた。
すると、ヤマ御殿自体が天空へと現れた。
四方の柱に設置されている檀荼幢がコソコソブツブツとヤマに伝えている。
浄玻璃鏡と静澄盤の上に乗せられた業秤も現れ、ハイランド一帯の村や街や城など逃げ場などないほどその無数の手は地を這う。

「おまえの命の重さは、善か、悪か。」

ヤマが一人一人に問いかけるようにして、短く詠唱を重ねると、魂は静かに左右に揺れ、やがて均衡を崩す。

「……南の村『シルハル』。子を庇い、村人を守った母、アレッタ。善人、保護対象。」
「東の岩壁集落『ゾルマ』。人を餓死させた領主とその従者。悪人、処刑対象。」
「峡谷の吊り橋付近、逃亡中の兵士。過去に略奪行為あり。業、重し──ただし悔いの兆しあり。審問保留。」

次々と、地上の者たちの運命が曼荼羅の手によって分けられていく。

「これが……ヤマの采配か……」

どうやら、悪人、処刑対象の者と審問保留の者がヤマ御殿へとあの手によって掴み取られている。

数分ののち、無数の手やヤマ御殿は天空の陣へと帰り、元の空へと戻った。

「これで裁定は終わりました。オベリス殿。」

「今までこんな仕事をしてたのヤマ?」

「はい!何か不手際がありましたでしょうか!?」

なんとも末恐ろしい奴だな。

「いや、よくやった。あとの始末は頼むぞ。」

「承知。」


——地下8階層 環中宮。

「ヤマによって裁定は終わった。ヤゴリ率いる雷狸族、ナコビ率いる狐火族、メザカモ率いる雹狼族はこれより捕虜の解放や保護を開始。ヤマの判定を受けて救済された人間たちも保護対象だ。それでも牙を向いてくる奴は容赦なく殺せ。ルーデンは一緒に来い、ヤマ御殿を見に行くぞ。」

「御意。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

処理中です...