絶望人生にさようなら、人間にして魔王に転ず。

御歳 逢生

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第二章 極寒の王国~ハイランド王国編~

第二十三話 第一の審問①~極寒の民たち~

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——地下2階層 ヤマ御殿。

3種族がハイランドに向かうと同時に、地下2階層に存在するヤマ御殿では、曼荼羅の手によって分けられた人間たちがヤマによって裁かれ始めていた。
その空間は、薄暗い照明に包まれ、静寂が支配していた。
無数の曼荼羅の手が空間を漂い、浄玻璃鏡や静澄盤の上の業秤が、神秘的な輝きを放つ。
人間を測り、記憶を映し出すこの儀式場で、次々と裁かれていく。

業秤に黒烏と浄玻璃鏡に獬豸が揃い、曼荼羅陣を操作しながら、ヤマの三つ目が光り輝き、人間から魂を抜き出し、その深淵を探り当てていた。

最初に浮かび上がったのは、元兵士の男の魂だった。彼は戦場で幾度も罪を犯した。
しかし魂の中で、村の子どもを必死に守った記憶が輝きを帯びていた。
その輝きは後悔だけでなく、誇りの色も含んでいる。

「この者は罪を犯した。しかし、己が守るべき者のために戦った。それは…善か。」

ヤマの声が深く響いた。魂はわずかに揺れ、業秤の針がゆっくりと上に傾いた。

続いて、貴族の娘の魂が映し出される。
彼女は知らず知らずに多くを虐げてきたが、ほんの一瞬、助けようとした自分を思い出す。
胸に宿る葛藤が魂を揺らし、悔恨の色を漂わせる。

「知らずのうちに傷つけた者もある。だが救いの意志もある。それは再審に値する。」

ヤマは判定を下し、浄玻璃鏡が青白く輝いた。

さらに老女の魂が映る。
生きるために盗み、赦しを乞う。赦されることなど望まず、ただ己の罪を認める。
魂は暗く沈み、業秤の針は断罪の方へと触れる。

「赦しは得られぬ。だが、その悔いは認める。」

ヤマの言葉に、魂は静かに消えていった。

黒烏と獬豸が補佐を続け、魂の一つ一つが語り出す。
やがて空間は重く張りつめ、裁定は佳境へと差し掛かる。

「ヤマ、仕事の具合はどうだい?」

その時、静かながらも鋭い気配が、裁定の場を包み込んでいた。
冷たい石の床を踏みしめる足音が、重々しく響く。

「魔王オべリス殿、ルーデン殿、お待ちしておりました。」

ヤマが玉座の前に姿を現し、その三つ目が微かに光を放っている。

オべリスは黒衣をたなびかせ、静かに歩み寄った。
深い闇のような瞳は、この場所の空気を一瞬で凍らせた。

「君の物差しを見せてもらおうかな、ヤマ。」

ルーデンも続き、冷静ながらも好奇心を隠せない様子で周囲を見渡す。

「こんな光景が見れるとは……。」

ヤマが頷くと、ヤマ御殿の中心に設えられた曼荼羅陣が淡く輝きだした。
浄玻璃鏡が映し出すのは、魂の断片。記憶の欠片が浮かび上がり、過去の苦悩や選択が映し出される。

オべリスは一瞬、遠い過去を思い起こすように目を細めた。
かつて自らも人間だったころの面影が、胸の奥で静かに揺れる。
だがすぐにそれは氷のように冷え、瞳は鋭く光った。

「魂は陽と陰でできている。その裁きは容易ではないだろう。」

ルーデンは静かに見ていた。
幾度の大戦で人間に敗れ、無念の思いをいただいていた彼はその光景を唯々見ていた。
善悪を秤にかけられる人間たちを見下すでもなく、哀れむでもなく。
彼はただ、それでも彼らを見てしまう自分自身から目を背けることができなかった。

「それを正義とは言わないが。裁きなくして秩序は成り立たない。」

黒烏と獬豸が次々に魂を呼び出し、業秤が揺れる。
ヤマは厳粛に審判を下しながら、オべリスとルーデンの視線は鋭く儀式の様子を追う。
だがその瞳の奥には、何か冷たく、怒りにも似た感情が宿っていた。

獬豸が囁くように言う。ヤマは重々しく頷き、次なる審問に進もうとしていた。

地下の空間に緊張が走る。魂を裁く者たちの息遣いが、静かに響いていた。

次の魂はアルデオ、元ハイランド騎士。罪は重く、その悔恨の深さが微かに揺らぐ。
曼荼羅陣にその魂が浮かび上がる。
ヤマの三つ目が冷たく輝き、沈黙の中に裁きの瞬間が迫った。

「アルデオ、元ハイランド騎士。罪は重いが、後悔の兆しあり。」

次の魂が曼荼羅陣に浮かび上がった。アルデオ、元ハイランド騎士の名は重く響いた。
その魂は暗く渦巻き、過去の傷と罪の重さが如実に映し出されていた。
斑に光る後悔の欠片が、冷たい闇の中で揺れている。

黒烏が静謐な声で語りかける。

「罪は深く、手放せぬ重荷を抱えている。しかし、その胸には確かな悔恨が宿っている。」

獬豸が顔をしかめ、眉根を寄せながら続ける。

「ヤマ様、これは単なる善悪の裁定ではなく、魂の揺らぎの判定でございます。審問を慎重に。」

「分かっているさ、獬豸。」

ヤマの三つ目が鋭く光を放ち、魂の奥底を見透かす。
彼の目にはただの裁きではない、忌まわしい過去を知る者の冷たい怒りが宿っていた。

オべリスの横顔も陰影を帯び、かつて自らが人間であった頃の記憶が微かに浮かぶ。
苦痛と裏切り、そして失われた誇り。それらが彼の胸に深く刻まれているのだ。

「裁きの終わりには、何が残るのか。それを知るのは我々だけだ。」

ヤマが重々しい声で告げる。静寂が空間を満たし、魂たちの囁きが遠のく。

曼荼羅の無数の手が、ゆっくりと次なる魂へ伸びていく。
その先にも、多くの善悪を揺らがせる命たちが待ち受けている。

闇に浮かぶ光と影の間で、裁きの儀式は今も続いていた。
静かに燃える魂の灯火だけが、冷えた地下空間をほんのりと照らしていた。

オべリスは静かに呟いた。

「…かつての私たちのように、あの魂たちもまた迷い、苦しんでいるのだろうか。」

だが、その瞳はやがて鋭さを取り戻し、冷徹な魔王の光を宿した。

「均衡とは、冷徹なものでなければならない。情けは、やがて弱さを生むだけだ。」

その決意が、ヤマ御殿の奥深くに響く。
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