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神龍大帝

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第1章 約束

騎士の誇り

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神聖紀4198年ーバルフェスト大陸テラン地方

草木もまばらにしか生えない荒野に激しい剣戟の轟音が響いていた。
元は純白に煌めいていたであろうその鎧を、砂埃と傷によってくすませている騎士が目にも留まらぬ速さで踏み込み、手にしていた長剣で上段から袈裟懸けに斬りかかった。
相対していた黒騎士は僅かに身を沈ませると左手に持っていた丸盾ラウンドシールドで斬り込みを弾く、が、予想以上に威力があったのか僅かによろめいた。
「ぐぬぅぅっ」
だが、黒騎士は間髪入れず右手の曲剣で白騎士に逆袈裟でカウンターを放った、無理な姿勢から放ったためかそれとも相手が上手かったのか、白騎士は剣撃を弾かれた反動を利用しカウンターを躱すとともに黒騎士から一気に距離を取った。

黒騎士の内部で初老の男が座席に身を固めながら、肩で息をつきその身を血と汗で濡らしていた。
「ふぅ、ふぅ…。
 歳はとりたくないものだな、エルナ。もう身体が言う事を聞かんわい。
 あの若造と闘い始めて何時間経った?」
すると、どこからともなく若い女性の声が聞こえた。
「戦闘開始から約47時間になります御主人様マイ、マスター。」
それを聞いた初老の主人は肩を震わせながら
「ほう、そんなになるか、これ程長くったのはいつ振りだったかのぅ…。」
「ビザンス騎士団の包囲戦突破の時以来です。あの時は52時間程闘っておりました。」
「あぁ、思い出したわい、ランダースの奴とった時だったな、あの時は引き分けに終わったのだったな。」
突如、目の前に見えていた白騎士の鎧が次々と剥がれ落ちて行き始め、更に様々な液体…冷却液や油の様なモノを出し始めた。
「ほう、あやつめ次の一撃で決めるつもりか…後先気にせず立ち向かう勇気、あれこそ若さだの、エルナ」
「確かに…しかし、こちらも、もう余力が有りません、次で決めましょう。」
「そうだな、ここらで幕引きとしようかの。」
そう言うと、黒騎士も傷付きへしゃげた丸盾ラウンドシールドを手から離すと曲剣を正眼に構えた。

白騎士の内部では若い男が盾を手離した黒騎士を見据えていた。
「おぉ!!エリーナ、向こうも乗って来てくれたぞ!!」
「全装甲及び冷却剤、余剰潤滑油のパージ完了…どうやら、その様ですね。
 まぁ向こうもこちらも、もう余力は有りませんし、予定以上の時間も掛けてしまいました。」
そう淡々と述べる女性の声が聞こえた。
「あぁ解っている、この一撃で決めてみせるさ、神都でお待ちの陛下に良い報告をせねばならんし、何より」
男はニヤリと笑うと、今ここに姿の見えない女性を思い浮かべながら
「早くお前の顔が見たいしな。」
そう言い放ったのだった。
「はい、私も早く御主人様マスターのお顔が見たいです。」
先程より、少し照れを浮かべながら、しかし、はっきりとそう女性は切返した。
「よし、ならそろそろいかんとな、向こうもお待ちかねだ。」
そう言うと、先程よりもかなり身軽になった白騎士が長剣を両手に持ち、肩に担ぐ様に構えた。

突然の静寂…まるで神が息を飲んだかの如く風まで止んだその瞬間、正しく電光石火と言わんばかりの速度で一瞬に両者の間を詰めた白騎士
だが、その神速の突撃に黒騎士は見事に合わせ曲剣を振るったのだった。
「ちぃぃぃ!!」
白騎士は咄嗟に左手を剣から離し腕で曲剣を受けようと突き出した、黒騎士の振るう曲剣は白騎士の左腕を安易と斬り落とし、そのまま右肩を深々と斬り裂いた。
決まった!!そう黒騎士の中の老騎士思った瞬間だった。
「まだまだ!!」
そう、若い騎士が吠えると、白騎士の頭部の角が白熱した。
「くらえ!!」
白騎士は白熱した角を黒騎士の首元に突き付け、一気に切り裂いたのだった。

荒野に一陣の風が吹き砂埃が舞った…。
砂埃が晴れたその時、両腕を失い膝をつく白騎士と、その下で大地に附する黒騎士の姿があった。
黒騎士の首元から切り裂かれた装甲の合間から、へしゃげた装甲に下半身を潰されている老騎士の姿が見えた。
突如、白騎士の胸元が開き内部から若い騎士がその姿を現した。
黒騎士ブラックナイトボードビュール卿とお見受けする。」
老騎士は口から血を滲ませながら
「いかにも、ラインバッハ・ボードビュールだ。」
若い騎士は佇まいを直し
「神聖アトリウス帝国第一神炎旅団第9席ガザーランド・ディス・ライナムです。」
ラインバッハは眩しい物を見る様に目を細めながら
「見事な一撃だった、まぁ、優雅とは言い難いがね…。
 これで、ミトラムル聖帝の覇道を阻む者は無くなった訳だが…、かの方は何を目指しておられるのか…。
 いや、すまん、今のは老兵の戯言だ、気にするな若いの。」
ラインバッハの呟きに答えあぐねていたガザーランドを見上げ、ニヤリと笑った。
「さぁ、この首を持って参られよ、ガザーランド殿下」
そうラインバッハが言った時だった。
「嫌!!」
そう若い女性の声が響いた。
黒騎士の頭部から20代前半に見える若い女性が身を乗り出しながらそう叫んだのだ。
「エルナ、そうわがままを言うな、これは戦の作法、仕方ない事だ。」
ラインバッハはそう言ってエルナと呼ばれた若い女性を諭すが、エルナはイヤイヤと首を振り、滑る様な身のこなしで黒騎士の頭部からラインバッハの居る首元まで辿り着くと、ラインバッハに縋って抱きついた。
ラインバッハはエルナの頭を優しく撫でながら、ガザーランドに語りかけた。
「ガザーランド殿下、敗者の言えた事では無いが恥を忍んでお願い致す。どうか、エルナを保護して貰いたい。」
「嫌です!!御主人様マイ、マスター、私は絶対にお側を離れません!!それにもう…黒騎士ヴァイシュも立ち上れません…。」
ガザーランドは逡巡した、このエルナと黒騎士の関係とその意味、そして現在の状況において何が最適なのかを…。
「申し訳ありませんボードビュール卿、私には彼女を無理に引き離す事は出来ません、そんな事をしたら私の妖精パートナーに一生口を聞いて貰えなくなります。
 それに我が陛下マイロードは貴方の首を持って行かなくとも、私の勝利を疑う事は致しますまい。」
そう、朗らかに笑いかけながらラインバッハに答えたのだった。
「…そうか、すまないなガザーランド殿下、心遣い感謝する。
 さぁ、もう参られよ、そなたの機体では此処からの帰還も厳しかろう…。」
「はい、では行かせて頂きます。最後に貴殿と合間見えたこと、末代までの誇りとさせて頂きます。」
そう言うとガザーランドは白騎士を立たせた。
「エルナお姉様、お達者で!!」
歩き始めた白騎士の頭部から身を乗り出した、女性がラインバッハの横に佇むエルナにそう声をかける。
「エリーナ、貴女も幸せになりなさい!!」
エルナはそう返したのだった。
「よし、エリーナ帰るぞ!!ちょっと無理をし過ぎたが、何とかなるだろう。」
ガザーランドは白騎士の胸元まで降りて来たエリーナを抱きしめてながらそう言った。
「全然ちょっとでは無いですよ、御主人様マスター、でも、白騎士この子もまだ頑張れるって言ってくれてますし、ファルガ様が迎えを用意してくださってますよ、きっと。」
エリーナはガザーランドの胸に埋まりながらそう返すのだった。



アトリウス帝国ー聖帝宮アドラ

広い宮殿の廊下を貴族としてははしたない程に急いで進む騎士が居た、その勢いはすれ違った侍女が驚く程のものだった。
「おっと、済まない急ぎなんだ。」
その騎士は侍女咄嗟に謝ると、脇目も降らずとある部屋に入って行った。
「陛下!!ファルガ・ランポートから入電、テランにてガザーランド殿下が黒騎士ブラックナイトボードビュール卿を撃破、これによりナランカナ王国の残存兵力は壊滅、全域の制圧を完了致しました!!」
部屋入ると同時にもたらされた吉報に、室内に居た重臣達は一斉にどよめいた。
「静まれ、ガザーランドの状況とボードビュール卿の首は?」
室内の一番奥、玉座の隣に居た男が皆を制し、必要な報告を求めた。
「は、ガザーランド殿下及びエリーナは無事ですが、乗機は大破、帰還出来たのが奇跡であったとの事です。
 また、ボードビュール卿及びエルナに関しては死亡を確認、遺体は破損が大きく回収が困難であったとの事。」
その報告を聞き、玉座の隣に居た男は、玉座に座する皇帝に向き直り跪くと、
「ボードビュール卿とエルナに関しては残念ですが致し方無いかと、ですがこれで全域の制圧が完了致しました。
 おめでとう御座います、陛下」
そう述べた。そして、周りの重臣も後に続き
「「「「おめでとう御座います!!」」」」
と唱和したのだった。
「皆のこれまでの働きに感謝を述べるとともに、戦いで傷付き倒れていった者達の勇気と忠誠を讃えよう。」
そう、皇帝が述べたのであった。


バルフェスト大陸テラン地方

いつの間にか夜の帳がおり、空には満天の夜空が煌めいていた。
既にラインバッハの遺体はエルナにより黒騎士ヴァイシュの足元に埋葬されていた。
エルナは黒騎士ヴァイシュの頭部の自分の席に着くとそっと目を閉じた。
思い出されるのは、ラインバッハとの思い出の日々…そして、最期の言葉…
「エルナ…お前と共に歩んだこの50年の日々…それはわしの宝物だ…お前は、初めて出逢ったあの日から…少しも変わらぬ…美しいままだ…
 今思えば、わしがこの歳まで嫁も取らなかったのは…あの日から…お前に恋を…して…居たから…なのかも…しれん…な。
 さ…らば…だ…愛しき…我が娘…よ…お前…に…見出…されて…し…あわ…せ…だっ…た…。」
そうしてラインバッハは二度と目を開ける事は無かった。

“いつも”なら私は旅立ち、新たな“御主人様”を見出す旅に出る事だろう…。

でも今回は違った。

もう、黒騎士ヴァイシュも立ち上がら無い、であれば、私が新たな“御主人様”を探す必要ももう無いのだ。

私は、最期に愛した最愛の御主人様マイ、マスターの側で、私の分身黒騎士の中で、永遠とわに覚め無い夢を見る。

『あぁ…おやすみなさい、ヴァイシュ。お待たせ致しました“御主人様達マイ、マスターズ”』

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