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 チリーン、店のドアベルが来客を告げる。

「いらっしゃいませ~」

 間延びした男の子の声が聞こえた。




 ここは王都の女性向けの雑貨屋だ。所狭しと可愛い物で埋め尽くされた店内。

 入ってきた貴族っぽい令嬢が二人。二人とも2次元かってくらいの美貌だ。

 間抜けな声を上げる俺。俺の名前は緒方健。読みは、「おがたけん」だ。間違っても「おおがたけん」って呼ぶなよ、ガキの頃の嫌な思い出がよみがえるぜ!
 
 そんなくだらないことを考えていると令嬢が目をくわっと見開き

 「なんてこと」

 「そんなまさか」

 とそれぞれに独り言が駄々漏れた。

 高校生くらいの少女二人、赤い髪の毛をツインテールにした娘と青い髪の毛をハーフアップにした娘の二人組が雑貨に目もくれず俺に突撃してくる。

 怖い。

 タッグを組んだ二人の迫力に俺は後ろに下がった。

 おかーさん。心の中で絶叫する。

 俺は一年ほど前に日本からうっかりこの異世界に落っこちた。それから細々とバイトのような仕事をするうちに、この雑貨屋のご夫婦に養子として引き取って頂き今に至る。ご夫婦はとっても優しい人達で、もうすっかりお母さん=異世界のお母さんの事だ。日本のお袋よ、ごめん。

 今日は運悪くお母さんはお父さんとお出掛け中で助けを求めても無駄だった。

 ああああ、帰って来てぇ。

 JK、怖かですう。

 カツアゲするチンピラのメンチみたいに斜め下から睨んでる! 

 俺の肩くらいの身長だからか?

 「お前、……いや……ねえ貴方、名前は?」

 赤毛のツインテールがにーっと張りつけた笑顔で聞いてきた。

 は?なに?真名で俺を奴隷にすんの?ねえ。

 絶対に言わないと思ったのに、謎の圧力に屈した元高校生の俺16歳。。

 「健です」

 あああ答えちゃった……。でもでも名字は言ってないもんね。

 「それがフルネームではありませんわね?」

 青毛のハーフアップがきっぱりと否定する。

 ギクッ。

 俺の顔色の変化に二人組がにーっと笑った。

 「おお客様、いらっしゃいませ。当店は可愛い物でいっぱいでしてお嬢様方にお似合いな物もございます。どうぞお買い物をお楽しみください」

 切羽詰まった俺は無駄口を叩き彼女らの意識をそらそうと必死の努力をする。

 とりあえず俺から離れて!祈るような気持ちだ。

 二人は目配せを交わしリボンのコーナーに行ってくれた。ほっとした事は言うまでもない。


 
 
 「ねえ、あの黒髪……」

 「ええ、あの黒い瞳……」

 ごくっとどちらともつかない音がなる。

 「滅多な事は口に出来ないわ」

 「ええ、もちろん。もしや……」

 「もしかすると……」

 チラチラと二人は視線を店番の健になげる。

 


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