19 / 47
二章
17話 まだ14歳
しおりを挟む
「セツ、ちょっと外で話せないか?」
「何?構わないけど。」
タロウとの訓練を終え、宿に戻った俺は食事を終えてどこか満足げな様子のセツに話しかけた。
俺はセツを連れて宿の外に出る。
外はすっかり暗くなっているが、横を見ると山の斜面に沿って段々畑に建てられた家の窓からちらほらと明かりが見える。
山の斜面は上から見たときに曲線を描いているため、左右を見るとアナンの村全体が見渡せるようになっているのだ。
そして空には冷たく澄んだ空気で遮られるものがない星明りと、地球に比べるとはるかに大きい月が空に浮かんでいる。
無言で歩く。
聞こえるのは静かな冬の夜にサクサクという音だけ。
明かりのついた家の前を通ると中からかすかに楽し気な声が聞こえてくるが、それも大した音ではない。
暫くセツを連れて二人で歩くと民家のあるエリアから外れ、雪で平らになった土地が段々と連なっている場所についた。今は雪で何も見えないが、恐らく夏の間は畑でもしているのだろう。
周りに民家も人の気配もないことを確認した俺は振り返ると、セツが話が始まるということを感じ取ったようで足を止めてこちらを見てくる。
「話って?」
「えっと……あの赤い猩々に襲われたときなんだけど、俺がセツの腕から出た血を飲んだの覚えてる?」
「……もちろん。忘れるわけない。」
俺の言葉を聞いたセツは口をきゅっと結んで目を反らした。
腕は右腕を曲げて体の前で左の腕を掴んでいる。
セツは何を感じているのだろうか。
諦め?後悔?少なくとも喜んでいないことは確かだ。
やはり俺が血を飲んだ事は禁忌だという事をセツは知っていたらしい。
「今日この村の戦士見習いのタロウから聞いたんだ。
他人の血は猛毒で多くの村で禁忌とされているって。」
「……。」
「その様子だとサンの村でも禁忌にされてるようだな。」
セツは何も言わず首を縦に振る。
セツは顔を俯かせ、雪のような白い髪が落ちてきて目元が見えない。
「本当にごめん、無理やりセツの血を飲んで…。」
俺はセツに頭を下げる。
「禁忌を犯すとどうなるんだ?
罰があるなら俺は受けるつもりだ。」
「……禁忌を犯した者は村から追放される。」
俺はセツの言葉を聞いて深く息を吐いた。
白い吐息が月明りに照らされる。
ようやく戦士の試練を受けることが許され、村の一員として認められることができると思っていた。
身元不明の俺を受け入れてくれた村への恩返しがやっとできると思っていた。
命の恩人であるアンジやルーク、セツ達狩猟衆の背中を守ることが、できるはずだった。
だがそれは叶わないようだ。
(こんなに頑張ったの生まれて初めてだったんだけどな……)
「なあ、なんで教えてくれなかったんだ?」
「あんたには関係ないから。」
「関係ないって……。」
そんな訳がないだろう。
俺はそう言おうとしたがセツの言葉に茫然とする。
「追放されるのは私。
禁忌とは貴重な男に血を飲ませて危険にさらすという事。
だから……あなたには関係ない。」
「……え?」
村を追放されるのは俺じゃなくて…セツ?
意味が分からない。
なんで?俺のせいで?血を飲んだのは俺なのに?
「そんなの…駄目だろ……。
俺が悪いのにセツが村を追い出されるなんて……。
なにかの間違いだろ?俺が出ていくのじゃ駄目なのか!」
「駄目。私が村を出ることは変えられない。」
「じゃあ秘密にしよう!
俺もまだタロウにしか言っていない!
それに俺が誰の血を飲んだかは言っていないし、あいつも胸に秘めておくと言ってくれている!
俺がセツの血を飲んだことは誰にもわからない!」
「もう父様には伝えてある。」
「な?!」
アンジは知っていた。
俺がアンジの娘であるセツの血を飲み、村にいられなくさせた事を。
アンジは俺に何も言わなかった。
「じゃあ…どうしてセツはまだ……。」
「ミナトが戦士として認められ次第私は村を出る。
それまでは父様に村にいることを許してもらった。」
(俺の戦士と認められるまでだって?)
「もう決まったこと。
あんたは何も気にしなくていい。」
セツはそう言うと話は終わりと背を向けて歩き始めた。
「セツ!待てよ!」
俺はまだ納得していない。
そんな理不尽を俺のせいで年下の女の子に味合わせるわけにはいかない。
彼女を止めようと追いかけて肩に手をかけようとした。
だがセツは俺の手を後ろを向いたまま掴むと、腕を引いて腰を落として俺を腰で持ち上げる。
俺が気付いた時には雪の上に大の字で転がっていた。
「これはもう決まったこと。我儘言わないで。」
そうセツは言うと再び歩き始めた。
俺は茫然として星を眺める事しかできなくてセツを止める事ができない。
「なんて顔してんだよ……。」
俺が戦士の試練を乗り越えるのは正しいことなのだろうか。
投げられ倒れた俺が見た星空を背景にしたセツの顔はくしゃっと歪んでいて、涙を必死にこらえていた。
初めて会った時、俺に見つめられて不機嫌そうにしたセツ。
無表情というわけではないが、感情があまり表にでないセツ。
俺を木刀で殴り、さっさと立てと悪態をついたセツ。
そのどれとも当てはまらない表情をしていた。
強く気高いと思っていた彼女は、まだ14歳の少女だった。
「何?構わないけど。」
タロウとの訓練を終え、宿に戻った俺は食事を終えてどこか満足げな様子のセツに話しかけた。
俺はセツを連れて宿の外に出る。
外はすっかり暗くなっているが、横を見ると山の斜面に沿って段々畑に建てられた家の窓からちらほらと明かりが見える。
山の斜面は上から見たときに曲線を描いているため、左右を見るとアナンの村全体が見渡せるようになっているのだ。
そして空には冷たく澄んだ空気で遮られるものがない星明りと、地球に比べるとはるかに大きい月が空に浮かんでいる。
無言で歩く。
聞こえるのは静かな冬の夜にサクサクという音だけ。
明かりのついた家の前を通ると中からかすかに楽し気な声が聞こえてくるが、それも大した音ではない。
暫くセツを連れて二人で歩くと民家のあるエリアから外れ、雪で平らになった土地が段々と連なっている場所についた。今は雪で何も見えないが、恐らく夏の間は畑でもしているのだろう。
周りに民家も人の気配もないことを確認した俺は振り返ると、セツが話が始まるということを感じ取ったようで足を止めてこちらを見てくる。
「話って?」
「えっと……あの赤い猩々に襲われたときなんだけど、俺がセツの腕から出た血を飲んだの覚えてる?」
「……もちろん。忘れるわけない。」
俺の言葉を聞いたセツは口をきゅっと結んで目を反らした。
腕は右腕を曲げて体の前で左の腕を掴んでいる。
セツは何を感じているのだろうか。
諦め?後悔?少なくとも喜んでいないことは確かだ。
やはり俺が血を飲んだ事は禁忌だという事をセツは知っていたらしい。
「今日この村の戦士見習いのタロウから聞いたんだ。
他人の血は猛毒で多くの村で禁忌とされているって。」
「……。」
「その様子だとサンの村でも禁忌にされてるようだな。」
セツは何も言わず首を縦に振る。
セツは顔を俯かせ、雪のような白い髪が落ちてきて目元が見えない。
「本当にごめん、無理やりセツの血を飲んで…。」
俺はセツに頭を下げる。
「禁忌を犯すとどうなるんだ?
罰があるなら俺は受けるつもりだ。」
「……禁忌を犯した者は村から追放される。」
俺はセツの言葉を聞いて深く息を吐いた。
白い吐息が月明りに照らされる。
ようやく戦士の試練を受けることが許され、村の一員として認められることができると思っていた。
身元不明の俺を受け入れてくれた村への恩返しがやっとできると思っていた。
命の恩人であるアンジやルーク、セツ達狩猟衆の背中を守ることが、できるはずだった。
だがそれは叶わないようだ。
(こんなに頑張ったの生まれて初めてだったんだけどな……)
「なあ、なんで教えてくれなかったんだ?」
「あんたには関係ないから。」
「関係ないって……。」
そんな訳がないだろう。
俺はそう言おうとしたがセツの言葉に茫然とする。
「追放されるのは私。
禁忌とは貴重な男に血を飲ませて危険にさらすという事。
だから……あなたには関係ない。」
「……え?」
村を追放されるのは俺じゃなくて…セツ?
意味が分からない。
なんで?俺のせいで?血を飲んだのは俺なのに?
「そんなの…駄目だろ……。
俺が悪いのにセツが村を追い出されるなんて……。
なにかの間違いだろ?俺が出ていくのじゃ駄目なのか!」
「駄目。私が村を出ることは変えられない。」
「じゃあ秘密にしよう!
俺もまだタロウにしか言っていない!
それに俺が誰の血を飲んだかは言っていないし、あいつも胸に秘めておくと言ってくれている!
俺がセツの血を飲んだことは誰にもわからない!」
「もう父様には伝えてある。」
「な?!」
アンジは知っていた。
俺がアンジの娘であるセツの血を飲み、村にいられなくさせた事を。
アンジは俺に何も言わなかった。
「じゃあ…どうしてセツはまだ……。」
「ミナトが戦士として認められ次第私は村を出る。
それまでは父様に村にいることを許してもらった。」
(俺の戦士と認められるまでだって?)
「もう決まったこと。
あんたは何も気にしなくていい。」
セツはそう言うと話は終わりと背を向けて歩き始めた。
「セツ!待てよ!」
俺はまだ納得していない。
そんな理不尽を俺のせいで年下の女の子に味合わせるわけにはいかない。
彼女を止めようと追いかけて肩に手をかけようとした。
だがセツは俺の手を後ろを向いたまま掴むと、腕を引いて腰を落として俺を腰で持ち上げる。
俺が気付いた時には雪の上に大の字で転がっていた。
「これはもう決まったこと。我儘言わないで。」
そうセツは言うと再び歩き始めた。
俺は茫然として星を眺める事しかできなくてセツを止める事ができない。
「なんて顔してんだよ……。」
俺が戦士の試練を乗り越えるのは正しいことなのだろうか。
投げられ倒れた俺が見た星空を背景にしたセツの顔はくしゃっと歪んでいて、涙を必死にこらえていた。
初めて会った時、俺に見つめられて不機嫌そうにしたセツ。
無表情というわけではないが、感情があまり表にでないセツ。
俺を木刀で殴り、さっさと立てと悪態をついたセツ。
そのどれとも当てはまらない表情をしていた。
強く気高いと思っていた彼女は、まだ14歳の少女だった。
0
あなたにおすすめの小説
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる