男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん

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二章

25話 嫌い

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 今なんて言った?
 こいつらが盗賊って言ったように聞こえた。
 たしかに俺とは相容れない、ガラの悪そうな感じは盗賊にぴったりだが……

「何のことだ?」

 当然、ダグラスはなんの事か分からないといった表情をしている。
 真実はどうかはわからないが、あなたは犯罪者ですか? と聞いてそうですと答える訳がない。
 ジークはなにか確信があるんだろうか。

「ああ、そうだぜ」   
「お、合ってた」

 だが、グリードが正反対の事を言いだした。
 ジークの反応もラッキーと言わんばかりの軽さだ。
 どうやら確信はなかったようだ。

「こいつの言ってることは気にしないでくれ」
「アナンの村の戦士を殺ったのは俺だ」

 ダグラスが否定しようとするが、グリードは被せる様に自分の行いを告白する。
 まるで自分の功績を誇るかのように全く隠す気がない。

 からかっているのか?
 普通に考えればメリットなどないし、こんな堂々と村で飲んでいるとは思えない。

 こいつの考えが分からない、分かりたくもない。

 こいつは人を殺しておきながらなんでこんなに楽しそうなんだ。
 これがこの世界の普通の感覚なのだろうか。

 脳裏に泣いているアナンの村の人たちがよぎる。
 俺達が殺したあの盗賊の女たちにも泣いてくれる人がいたのかもしれない。

 俺はこいつが嫌いだ。
 人を殺したことをこんなに笑顔で語れる奴と友人になれるはずがない。
 でもグリードを嫌悪する資格は俺にあるのか?

「それで? やるのか?」

 グリードは続けて挑発してくる。
 その様子にダグラスは目に手を当てて、深いため息をついた。

「やらん」
「じゃあ、親父は見とけよ」

 グリードが席から立つ。

「お前ら手ぇ出すなよ」

 そう言って手の平を上に向けて左右に手を出すと、侍らせていた女が武器を彼に手渡した。

 片刃で幅の広い刀身、先端部分がピッケルのような突起、武器は大鉈か。

「ミナト……死んじゃ駄目だよ」

 グリードはそのまま大鉈を頭上に構えると目の前の机を叩き割った。
 机に載っていた酒と料理が、俺とグリードの間で宙を舞う中、俺達は臨戦態勢を取る。
 肉や野菜の雨越しに見えたグリードは歯をむき出しに笑うのが見えた。

「そりゃ無理だ!」
「ぐっ!!」

 重い……
 俺の腹へ向かってグリードは突き刺すような蹴りを放ってきた。
 俺は咄嗟に剣で受け止めたが、勢いを殺しきれずに後ろへと吹き飛ばされてしまう。
 
 俺と入れ替わるようにしてセツがグリードへと剣を抜いて斬りかかる。遅れてシオとセリアが左右に回り込んだ。

 セツの狙いは俺を蹴り飛ばしすために、体をやや倒して足を上げるグリードの軸足だ。
 セツは地面すれすれまで体を倒して疾走する。
 
 グリードの足を切断せんと迫るセツの剣は速く、鋭い。
 彼女の剣は、刃を通さない異常なまでのタフネスを持った獣相手には破壊力が足りないが、人間相手であれば骨ごと一刀両断することができる。

 そんなセツの一撃をグリードは蹴りを放った後の不自然な体勢で、軸足でそのまま飛び上がって避けた。
 セツは突進した勢いのまま、グリードが倒した後ろの椅子を剣で砕きながら床を滑ってすれ違う。

 次の攻撃はシオだ。
 片足を前に伸ばした不自然な状態に宙に飛んだグリードにシオが、その宙に浮いている体を一刀両断しようと頭上から剣を振り下ろす。

 金属がぶつかる音が響く。
 グリードの両手に持った大鉈の内、右の大鉈を頭上に構えてシオの剣を受け止める。
 シオの一撃でグリードは地面へと再び叩き落された。

「セリア!」

 グリードを立ち上がれないように、シオが鍔迫り合いでグリードへ抑え込み、セリアがとどめを刺そすため、剣を首へと向ける。

「おっと!」

 頭上からシオに抑え込まれて、片膝をついた状態のグリードは、もう片方に持った大鉈でセリアの剣を受け止める。
 すかさずグリードは二人の剣を受け止めたまま、足を出してセリアに足払いをかけたため、セリアは転んでしまう。

ぜなさい」

 だがセリアもただでは転ばない。
 セリアは倒れ行く体から、触れれば爆発するマナを吹き出している。

 シオは既に下がっており、セリアの爆裂魔法の巻き込まれることはない。
 直後、店内で爆発が起きた。

 耳を貫く爆音と共に店内にいた女性たちの悲鳴が響き渡る。
 あの距離、タイミング、避けるのは難しいはず。
 だが、俺にはグリードがやられていない確信があり、急いで立ち上がり爆炎の中へと突っ込む。

「お~こっわ!」
「うっ……」

 鈍い音とセツのうめき声が煙の中から聞こえた。
 あいつセツに何をしたんだ。
 煙でグリードの姿が見えないが、勘であたりをつけて剣を振り上げる。

 すると煙の中から左右に開いた大鉈が、俺を挟むように突如現れた。

 俺は慌ててグリードへ振り下ろすはずの剣を下げて、受け止めざる得なくなった。
 だが、剣で受けようにも、剣は一本しか持っていないため、片方の斬撃を止められたとしても、もう片方の大鉈で腹を裂かれてしまう。
 では地に伏せるか? それとも前へ出て一か八かのカウンターを仕掛けるか?

「ミナト!」

 タロウの声だ。なら俺は一本受け止めることに集中しよう。

「っ!」

 俺は右から迫る横薙ぎの一撃を受けとめた。
 手から、痺れが全身に回るほどの衝撃。
 踏ん張った足が、木の床の上を滑る。

 だが、俺が止めることができなかったグリードの左の一撃は、俺の腹を裂くことはない。

「おっ仲いいなお前ら」

 思った通り、タロウが左の大鉈を受け止めてくれた。
 これでグリードの片手に対して、こっちは両手の全力で抑えることができるはずだが……

「この……馬鹿力が……!」

 いくら剣に力を込めても、どれだけ踏ん張っても、グリードの大鉈を押し返すことができない。
 それどころかジリジリと押されている。
 すぐそばで聞こえるタロウのうめき声からして、タロウも同じ状況のようだ。

「ミナトォ! なんとかしろ!」
「出来たらっ! やってる!」

 グリードが両手に持った大鉈で作り出したハサミが閉じていく。
 反らそうにも、少しでも気を緩めれば均衡が崩れて、剣を取り落として体を真っ二つにされてしまうに違いない。

「なんていうか……お前ら……軽いんだよ」

 グリードはつまらなそうに言うと、ゆっくりと力をさらに籠め始めた。

 押し込まれ、ついにタロウと肩が触れる。
 触れたタロウの肩を通してお互いの体で支えあうが、剣を保持する腕が限界を迎えつつある。
 歯が砕けそうになるほど食いしばっても、グリードと俺の膂力の差は埋まることなく、スタミナも一方的に削られてしまう。

「ジークさん……」

 歯を食いしばりながらくぐもった声で助けを呼ぶ。

 隣でそんな大立ち回りをしているが、相変わらずダグラスはグリードに加勢せずにジークと見つめあったまま動く様子はない。
 
「そこまでにしよう。 いいよね?」

 ジークは動かないが戦いの終わりを告げる。

「ああ、また日を改めよう。グリード帰るぞ」
「はあ?! 何言ってんだ親父!」

 この二人の間になにがあったんだ。
 ただにらみ合っていただけのはずだが、どんなやり取りが行われたんだろうか。

「この男、酒を入れて対峙するには……少々勿体ない」
「へぇ……親父が……」

 グリードの目つきが変わった。
 俺達への興味を失った目とは違う、新たな獲物を見つけた獣の目だ。
 俺はその目を見て、常に刺激に飢え、いくら欲を満たしても次の身を焦がすような戦いを求める、餓狼。
 明らかに俺たちの時とは気持ちの入り方が違う。

「グリード、今は抑えろ。直ぐに機会は作ってやる」
「直ぐっていつだよ」

 グリードはジークから目を離さずにダグラスへ問う。

「三日だ。三日後に仲間を集め、この村を襲う」
「それは穏やかじゃないね」
「逃げてもいいが、この小さな村の戦力では俺達は止められん。お前が居なければこの村の人間は皆殺しだ」
「わかった。僕はこの村に残って君たちを待とう」

「文句はないだろうな?」

 空気がズンっと重くなったような気がした。
 ダグラスのその問いは、問いかけの様で、命令だ。
 強者特有の威圧感が俺達を包み込み、否が応でも彼がグリード以上の実力者だという事が理解させられてしまう。

「……ちっしょうがねぇな」

 ダグラスの命令にグリードも逆らう気が失せたようだ。

「命拾いしたな」

 俺を襲っていた大鉈の圧力が消え、甲高い音が鳴り響いた。
 目の前には大鉈を横に突き出し、横薙ぎの一撃を振り終えたような恰好のグリード。
 俺はグリードから視線を外し、やけに軽い剣を見る。

 剣が折れていた。
 グリードからしたらなんて事のない一撃なのかもしれない。
 でも、俺からすれば今まで努力してきた俺自身が折れた気がした。

 俺を眼中から外したグリードは思いついたように、立ち上がったセツの方へと向き直った。

「あっそうそう、そこの女。お前気に入った。嫁に迎えてやるよ」

 誰に何を言っているんだこいつ?

「……盗賊の相手はお断り」

 セツは血を流した頭を押さえながら立ち上がる。

「じゃっ三日後迎えに来るから」

 グリードはセツのそんな断りも聞こえてないかのように無視して、出口へと歩き始めた。

 俺はあいつが嫌いだ。

「ジークさん」
「なんだい?」

「何でですか?」
「それは逃がしたこと?」
「はい」

 あの悪いのがカッコいいと勘違いしたような性格が嫌いだ。

「わざわざ盗賊団かって聞いたこと?」
「はい」

 俺の好きな人を既に自分の物のように扱う所が嫌いだ。

「最後まで手を出さなかったこと?」
「全部です」

 なにより……

「逃がしたのは弓が得意な僕はこの室内で勝てる確信がなかったから」
「盗賊っていう確信がなかったから」
「ミナトにいい経験をさせられると思ったから」

 そんな奴が俺より強いのが悔しくてたまらない。

「ジークさん」
「なんだい?」

「俺、あいつに勝ちたいです」

 そんな俺を見て満足そうにジークは頷くと、

「うん、無理だね」

 俺は疲れがどっと押し寄せ、ガックリと膝をついた。
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