男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん

文字の大きさ
33 / 47
二章

31話 防衛戦③

しおりを挟む
 セリアと風の魔法使いが起こした爆風は一人残らず防壁の上から吹き飛ばし、敵も味方も誰も残らなかった。

 防壁の上にいた全員が雪面へと着地する。
 セツ達の目的は防壁を死守し、地の利を維持して有利に叩く事である。
 敵も味方も全員雪面に落とされた今、戦況は数の上で優る盗賊側に大きく傾いた。
 セツ達の防壁をめぐる戦いは敗北である。 

 シオは至近距離で魔法の余波を受けたためか、立ち上がろうにも体に力が入らず再び崩れ落ち、セリアはそんなシオの前に立って、風の魔法使いと対峙する。
 暗い夜の中、セリアは炸裂魔法を宿した光の玉を浮かばせながら風の魔法使から視線を外さずに口を開いた。
 
「セツちゃん、そっちは頼みましたぁ」








「くそっ……」

 セリアの声が聞こえたセツはハッと意識を取り戻すと悪態をついて立ち上がった。
 揺れる視界を頭を振って戻そうとすると、セツの白い頭髪からハラハラと雪がこぼれ落ちる。

 炎の魔法使いもダメージを受けているのか、セツ同様立ち上がるのが遅い。
 セツは体中に走る鈍い痛みを無視して先制攻撃を加えるため走り出した。

 セツが剣の間合いに炎の魔法使いを収めるが、残念ながら既にあちらも立ち上がっている。
 再びセツの剣と炎の魔法使いの拳が火花を散らせた。

 剣を受け止められたセツはその攻撃に固執せず、すぐに剣を引き戻して次の斬撃を放つ。
 セツの剣は太ももを狙った横薙ぎだ。

 炎の魔法使いはそれを膝を上げて金属製の脛当てで防御すると、そのまま軸足で地面を蹴って後ろに跳ぶ。
 距離を離して魔法を使うつもりだと察知したセツは、炎の魔法使いと全く同じだけの距離を前方に移動すると剣を振り下ろす。
 セツの斬撃は再び小手に阻まれるが魔法の使用を止める事に成功した。

 魔法を止められた炎の魔法使いはさっきとは逆に、両腕で体の前で防御を固め、踏み込んで距離を詰めにかかってくる。
 セツはそれを迎え撃つのではなく、再び炎の魔法使いと同じ速度、同じ距離だけバックステップを踏む。
 結果、炎の魔法使いが距離を詰めてきたが、間合いは相変わらず剣の間合いだ。

 そんな打ち合いと駆け引きが一合、二合と続いていく。
 一手間違えれば終わりの戦い。
 両者は自分が生き残るための最適解を模索し続ける。

「くそっ!」

 そして数える事13合、先ほど立ち上がる時にセツが吐いた悪態と同様の言葉を炎の魔法使いが吐いた。
 徹底的に距離を支配しようとするセツに苛立っているようだ。

 時間は炎の魔法使いの味方である。
 盗賊の方が数で優るため、狩猟衆達がやられるのは時間の問題だ。
 今、セツ達が他の盗賊に襲われていないのは時折飛んでくるジークの矢の援護があるため、狩猟衆達が決定的な敗北をしていないためである。

 そのため、セツのこの決定打のない戦いは炎の魔法使いの圧倒的有利である。
 炎の魔法使いもそれは理解しているが、生来の気性の粗さが理屈ではなく怒りを優先させていた。
 そうなれば冷静に隙を伺うセツに勝機が訪れる……はずだった。

 セツの背中側から突風が吹いた。
 セリアと風の魔法使いの魔法のぶつかり合いがたまたまセツの近くで起こったのだ。
 セツが戦っている間も二人の魔法はぶつかり合っていたが、セツの戦いに影響のない範囲だった。
 だが、常に移動しながら戦っていたため、いつのまにか魔法合戦で巻き起こる突風で体勢を崩すほど近くに来てしまっていたらしい。

 背中から不意に突風を受けたセツはバランスを崩してしまう。

「うううぅるぅあああ!」
「うぐっ!」

 そこに炎の魔法使いが雄たけびを上げながらセツの顔面めがけて殴りかかってきた。
 咄嗟にセツは左腕で受け止める。
 重い金属製の小手をつけた拳はセツの腕を骨まで軋ませ、防御した腕そのものにダメージを与えた。

 ギチチ!

 セツは歯を食いしばる。
 痛みをこらえるためではない、反撃の為だ。

 セツはの右手には剣がある。
 吹き飛ばされながらも決して手放すことのなかった剣だ。
 厳しい鍛錬の果てに体の髄まで染みついた剣への執着がそこには現れていた。

「ふッ!」

 炎の魔法使いの第二の拳がすぐそばまで迫っている。
 セツはその拳に剣をぶち込むと拳と剣は拮抗した。
 力勝負の結果は防壁の上で行った一合の打ち合いと同じ。
 ダメージを受け、不完全な体勢での一撃にも拘らず同じだった。

 セツは呼吸を止め、さらなる連撃を狙う。

 まずは剣を引き戻すのと同時に足を一歩後ろに下げ間合いを開ける。
 拳が届くということは剣にとって近すぎるということだ。
 そのためセツは自分の間合いを取ろうとする。

 熟練の格闘家でもある炎の魔法使いの最も苦手とするのは、拳が届かず、魔法を使う暇のない剣の間合いである。
 当然、炎の魔法使いは踏み込んでくる。 

 力は同等、速度は炎の魔法使いが上、魔法の破壊力など比べ物にならない。
 片腕はしばらく使えない。
 突風にバランスを崩されるという運も悪い事が起こった。

(そういえばあの時も腕潰されたっけ)

 セツの脳裏に浮かぶのは赤い猩々との戦い。
 あの時はどうしようもなかった。

 ありとあらゆる面でセツは劣っており、有利に戦いを進めることが出来る要素が皆無だった。
 暫くの間、あの時の恐怖が蘇って一人では寝られなかった。
 まだ14歳の少女なのだ
 徹底的なまでの理不尽、どうしようもなく突き付けられた死が恐怖を植え付けた。

 だがそれは恐怖を乗り越えたセツに強さも与えていた。
 繰り返すが、炎の魔法使いとセツの能力は力は同等、速度は炎の魔法使いが上、魔法の破壊力など比べ物にならない。
 その上、片腕はしばらく使えない。

 そして魔法の応用力は明確に勝っている。

 勝ってる要素があるのなら問題ない。

「?!」

 炎の魔法使いは踏み込んだ足を滑らせた。
 炎の魔法使いが踏み込んだ場所はセツがいた場所。
 そこは雪面ではなく、氷となっていた。

 驚愕する炎の魔法使いに対して、セツは引き戻していた剣を鎖骨の間から突き入れ心臓を貫いた。
 炎の魔法使いは一瞬抵抗のそぶりを見せるが、直ぐに絶命した。

「ふぅ……」

 セツは息を吐いて一息つく。
 セツはこの一息の間、この一瞬だけ休むことにした。
 セツは雪が積もるようなこの極寒の夜に汗だくになるほど疲弊している。
 まだまだ戦いは続くため、一瞬でもいいから呼吸を整え、他の者の援軍に向かおうとしたのだ。

 そうやって勝利を確信したセツだが、自分の失態を悟った。

 セツが振り向いてセリアの援護に向かおうと振り向いたその時、視界の端に背後から迫る盗賊の姿が見えたのだ。

 セツは見えた。自分の身に迫る盗賊の剣が、だが避けるすべがない。

(本当に嫌になる)

 セツは自分の弱さに今度は心の中でため息を吐いた。

(今日は何度負けたんだろう)

 だが同時にセツは自分が非常に運がよく、このまま避ける必要の無いことも理解した。
 セツと盗賊の間に一人の人物が割って入ったのだ。

(本当に嫌だ)

 その人物はセツに迫る斬撃を正面から剣で受け止め、それどころかそのまま盗賊の剣を弾き飛ばすとと、盗賊を切り伏せた。

(私はこいつより強いのに……)

 ミナトと背中合わせになったセツは剣を構えながら表情を変えない。

(ずっと長く剣に生きてきたのにな……)

 セツはいつものように。

「生きてたんだ」
「当然」

 本音を言う。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...