男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん

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三章

3話 祭り

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「ついにこの日が来たか……」

 俺は気合が入っていた。

「ミナト、君は今日この儀式を乗り越えて男になる」

 ジークが俺の前で腕組みをして語り掛けてくる。
 真っすぐ俺を映した瞳は、俺の全てを見透かしているようで、言外に覚悟を問いかけくるようだ。

「これから行われるのは地獄だ。君は敗北を、無力さを、そして屈辱を味わうことになる」
「それでも俺は……」

 去年の俺には力が足りなかった。
 村の一員として認められておらず、参加する事すら敵わない。
 
 俺は見ていた。

 ジークの屈辱を。

 そして尊敬した。

 それでも立とうとするジークを。

 だから何を言われようと俺の答えは決まっている。

「俺も……参加します」




 

「ふん! ぐぅおおおお!」
「おい! あんた! しっかりしな!」
「まだ私が残ってるよ!!」
「ふんぐぉおお!!」

 アンジが聞いたことのないような唸り声をあげた。
 
 アンジは今、村の広場にて何枚もの木の板を張り合わせて作った床の下にいる。
 床の形は円形で、その大きさは直径5mほどだろうか。それをアンジは下から曲げた首、肩、両腕でもち上げている。

 床を支える物はアンジのみ、床を支える支柱などは存在しない。
 上半身裸で小細工など一切ない純粋な筋力による支え。アンジが支柱だ。

 その床に繋がるように隣に丸太のスロープがある。片方は地面に着いており、もう片方が床と同じ高さくらいまで持ち上がる様に、丸太の丸みに沿って半円状に削られた木の台座に持ち上げられている。
 
 本来なら土台とか巨大な板とか表現するべきであろう、この円形の木の板で出来た物を【床】と表現したのはその用途のためだ。

 床の上には現在10人の女が乗っている。
 アンジが床を一人で支え、その床の上に女達が立っているのだ。
 
 下にいるアンジの体重より、明らかに上に乗っている女達の方が重い。
 それにアンジは床を安定させようと必死に床を支えるが、床の上にいる女達はアンジの苦労を知らないかのように、飛んだり跳ねたり全く安定させる気がない。
 なんなら踊っている女までいる。

 同じ重さの、動かない只の物であればアンジの腕力なら支えることはそう難しくないはずだが、直径約5mという大きな床の上を縦横無尽に重さが移り変わっていくため、アンジも必死の形相だ。
 アンジの真上、つまり中心に皆が固まっているうちはいい、だが床の端の方に女が移動すれば、アンジの腕に途轍もない負担がかかる。
 すると床が傾き、キャーという地球の女と変わらない黄色い叫び声をあげながら傾いた方に女が寄っていき、さらに片方に重さが集中してしまう。

 だがアンジはこの催しの大ベテランだ。

 アンジはすかさず床の下で体の位置を端に寄った女達の真下まで移動させ、床を安定させることに成功した。

 この大勢の女達の乗った床を、たった一人の腕力のみで支えるというアンバランスな光景は、見る者をひやひやさせ、興奮した村人たちが囃し立てる。
 女達は村に伝わる民謡を歌い、笛や太鼓、弦楽器で音楽を奏でる。

 皆が笑うこの光景はそう、祭りだ。
 
「アンジ! まだまだ余裕そうだね!」
「次は私が行くから受け止めなよ!」
 
 アンジは10人の女の体重を見事に支えており、床の上に立つ女達はバランスを崩す事がない。
 だが次はどうだろうか。
 
 新しい女が丸太のスロープを駆け上がった。
 床と同じ高さまであるスロープ先には何も繋がっておらず、代わりにアンジの支える床が上に立つ女の動きに合わせてゆらゆらと動いている。
 女はニヤリと悪戯な笑みを浮かべるとスロープから飛び上がり、アンジが支える床へとドン! と音を立てて着地した。

「ぐっ……おい! 普通に乗れんのか!」

 その衝撃にアンジは見事耐えきり、床を支えつづけたアンジだが、たまらず上に向かって文句を言った。

「これくらいアンタなら大丈夫でしょ!」

 その言葉に村中の女と床の上の女がケラケラと笑う。
 そして次々と女達が丸太を駆け上がり、アンジの支える床の上に飛び乗り始めた。

「おっ! おいっ! 無理だ! やめろ! うぉおお!」
 「「「キャーーー!!」」」
 
 一人だけならまだしも、続けざまに飛び乗られたアンジは、流石に床を支えきることが出来ず、床をひっくり返す様に地面に落としてしまった。
 床の上に乗った逞しい女達は、半分くらいは地面に綺麗に着地し、もう半分くらいはもつれるながら床の上を滑って地面に落ちてしまった。

 アンジが床の下から這い出して来る。
 すると床に乗っていた女の一人であるアンジの一番の嫁、アイラが這い出してきたアンジの後ろに立ち、声を張り上げた。
 
「お前は男の癖に自分の家族すら支えられないのか!!」
 
 その言葉を言い終えるのと同時に、スパーン! と気持ちよくアンジの尻を蹴とばした。
 普段男が家長としてえらぶっているアンジが、尻を蹴られる。その様子が女達には面白くてたまらないらしく、皆が腹を抱えて笑っている。

 そして床の上に乗っていた女達が代わる代わるアンジの尻を蹴り始めた。
 アンジはうめき声をあげながらも、文句も抵抗もする様子は見せず、四つん這いという情けない姿のまま尻を蹴られ続ける。

 アンジの尻を蹴っていた女の中には、明らかに床に乗っていなかった女もいたが、アンジは最後まで文句も言わず蹴られ続け、ため息を吐いて立ち上がった。
 
 このなんとも珍妙な光景が、この村伝統の祭りらしい。

 この祭りを少し説明すると、床の上に乗るのは基本的に男の嫁や子供といった家族だ。
 男が支える床の上に家族が乗り、全員を支えきることで女達を守り切る力があることを示すという。そして見ての通り失敗すれば情けない男として家族に尻を蹴られるという謎の祭りだ。

 自分の女すら持ち上げられない男=情けないということで生まれたらしい風習なのだが、どう見ても家族以外の女が乗っているし、乗ってもいない女がアンジの尻を蹴っている。

「もっ……! もう無理だ! ちょっと勘弁してほしい!」

 それにモテまくる強い男ほど乗せる女の数が増えて難易度があがっている。
 丁度今、アンジの後に続いたジークがあっという間に潰されて大勢の女性に尻を蹴られまくっている。

 俺が密かに憧れていた理想の大人像に近い二人がなんということか。
 尻を抑えながら退場するジークの後姿になんともいえない哀愁を感じる。
 
「次はどいつだい!」

 このお祭りの音頭を取っているアイラが、楽しくて仕方がないという様子で次の獲物を探し始めた。
 基本健康な村の男は強制参加だ。

 アンジとジークを合わせて数えるほどしかいない男たちの様子は三者三様だ。
 やれやれと言いながら参加する男、嫁にいいところを見せようと気合を入れる男、腰を気遣う中年の男。
 
 殆どの男が次々と失敗していき、背中に哀愁を漂わせながら退場していくが、男たちに共通するのはケラケラと楽しそうな女達を見てフッと笑う事だ。
 家長として、男として、あの笑みと全く同じものを俺もいつか浮かべることになるんだろうか。

 俺にはまだ想像できない。
 
 けどいつかそうなりたいと思った。

「次、俺が!」

 覚悟を決め、俺は手を挙げて一歩足を進めた。
 
「お? ミナト、今年は大丈夫かい?」
「知ってるでしょ。去年の俺とは違うんですよ」
 
 俺は力こぶを作り、服を脱ぎ捨てながら地面に置かれた床に向かう。
 去年はこのバカ重い木の床単体でさえ持ち上げる事ができなかったため、俺は参加できなかった。
 俺の歳なら持ち上げられて当たり前だと馬鹿にされたのをよく覚えている。というか根に持っている。

 だが今の俺ならできるはずだ。
 いや、できるできないというより、これは必要な事だ。
 俺を認めさせる。何より任せてもらう。

 そのための通過儀礼なのだ。

 ちなみにボロはまだ持ち上げることが出来ないため、歳が近い少女達と一緒に骨付き肉を片手に踊っている。

「ふぅ……いきます!」

 俺は地面に置かれた床に手を差し込み持ち上げると、見た目の重さにそぐわぬズシッとした重さが腕にかかる。

 だが問題ない。
 
 踏み固められた広場の土の上で足に力を入れ、持ちあがった床の下に体を滑り込ませる。
 
 そして俺は床の中心で床を持ち上げた。

 俺の視界を塞ぐように斜めになっていた床が持ち上がり、俺を見る村の女達と対面する。

「やるじゃない!」
「あの骨みたいだったミナト君が……」

 女達が床を持ち上げた俺に歓声を上げた。
 女達の持ったジョッキが一気に煽られ、歌っている女の声に力が籠る。
 俺は期待されている。
 
「来てください!」

 気合を入れる様に地面を踏みつけ、俺は女達を呼んだ。
 俺を見ろ! そういう思いを込めて。

「……」
「……」
「……」
「……あれ?」

 だが、どういうわけか俺の持ち上げた床は重くなることはない。

「ミナト……あんた一年もいてまだなのかい……」
「あ……」

 アイラの言葉で俺は自分の考えの浅さを理解した。
 誰も乗る女がいないのだ。
 この祭りは【自分の家族】を持ち上げるというものだ。

 俺は今、アンジの家に居候の身であり、家族というものがいない。
 アイラが言うまだというのは、まだ俺の家族になってくれるような人、つまり嫁ができていないのか? という事だろう。
 その場のノリで家族でもない女が床に乗ることもある緩いお祭りだが、本来の嫁を差し置いて一番乗りで他人の夫の上に乗ってくるようなことはしないんだろう。

 このままでは俺は男を見せることが出来ず、を任せてもらうことが出来ない。
 俺は焦りながら広場を見回した。

 セリアは?

 駄目だ。見あたらない。

 シオは?

 ボロや少女達と一緒に踊りに夢中でこっちを見ていない。

 じゃあ……セツは……見てる。こっちを見ている。

 皆が集まって飲んで騒いて踊っている広場から少し離れた場所で、地面に膝を立てて座り込み、膝の上で腕を枕にして白い頬を潰している。
 セツはこっちを見ているが、どことなく俺に焦点が合っていない気がする。
 俺を見ているというより、俺達みんなの様子をぼうっと眺めているような感じだ。

 つまらなそう。

 たしか去年は皆と一緒にアンジの尻を蹴飛ばしていたはずだ。
 その時の表情は生き生きとしていて楽しそうだったのを覚えている。

 セツはなにもない時は表情が分かりづらく、口数はやや少なめであるが、笑うし、こういうお祭りを楽しむ少女のはずだ。
 彼女が今楽しめていない理由……
 俺に心当たりは……ある。
 セツは俺の試練の後、村を出ることになる。

 それはあのセツが俺の前で泣く程嫌な事で、その嫌なことがあと数日に迫っている。
 そんな時に祭りを楽しめるわけがない。
 
 俺がセツの血を勝手に飲んだせいで……だ。
 つまり俺はセツを悲しませた責任を取らなければいけない。
 決心した俺は大声でセツに向かって叫んだ。
 
「セッセセっ……セツぅ!」

 緊張で声が裏返った。
 やばい。俺の顔絶対真っ赤になってる。
 
 セツがなに? と言わんばかりのめんどくさそうな目線だが俺に焦点があった。
 俺は床を持ち上げながらセツの方へと歩いた。
 何をするのか察したのか、村の人々の目線が黄色い声と共に俺に突き刺さる。

「セツ!」
「……なに?」

 いつかの時のような嫌そうな返事だ。
 俺を拒絶する意志の込められた目に心が萎えかける。
 だけど俺はもう決めてある。アンジにも俺の決意は言ってある。
 
「乗ってくれ!」
「……乗らない……」

 セツはそう言うと目の前まで来ていた俺から離れようと立ち上がった。

「頼む! ほら! 俺を助けると思って!」
「え……やだ……」
「うっ……」
 
 シンプルな拒絶の言葉に胸がキュッとなった。
 もしかして俺の一人相撲だったのか?
 そう思うとさっきまでの決意が鈍りそうになる。
 
「私がどうなるか……ミナトも知ってるでしょ……」
 
 だけどセツが横を向きながらそんな事を言った。
 セツが俺の前から去ろうとする。
 だから俺は去ろうとするセツの前に回り込み、叫んだ。

「乗れ!」
「……」
「セツ! ほら祭りだし! 楽しめよ!」

 だがセツは床の上に乗ろうとしない。俺は床を投げ捨てた。

「え?」
 
 突然の俺の奇行に驚くセツの足に一瞬で掴みかかる。俺に襲われるなんて予想していなかったのか、完全に虚を突けたようであっさり俺のタックルは成功し、セツの足に組み付いた俺はセツを持ち上げた。
 
「は?! ちょっと! ミナト! やめっ……」
「俺も一緒にアンジさんの家に住んでんだから家族みたいなもんだろ!」
 
 セツの両足を抱っこするように抱えたまま顔を上に上げてみると、セツが目を真ん丸にしている。
 セツのこんな顔初めて見た。
 俺は未だに混乱している様子のセツの体をさらに持ち上げて反転させ、俺の肩に腰かけさせた。
 
「アイラさん! 参加者確保しました!!」

 セツを肩に乗せた俺は広場の中心へと走り出した。
 
「セツ」
「いい加減に……」

 セツが右肩に乗っていたはずのセツが、左足を俺の左肩にかけ、俺の頭を太ももで挟み込んだ。
 
「しろ!!」
 
 そしてセツは体を後ろに倒しながら体を捻り、俺の頭を足で投げた。
 俺は地面に体を叩きつけられ、あまりの衝撃に一瞬息が詰まる。

「ヘッド……シザ……スボム……」

 そして地面に倒れ伏した俺の尻をセツは踏みつけ、俺から離れていった。
 
「我が娘ながら言い投げっぷりだよ」
「セツちゃんの初恋はまだみたいね~」
「ミナト君……がんばれ!」
「はは……」

 一連の様子を見ていたアイラをはじめとする女達に代わる代わる慰められる。
 地面から手をついて起き上がりながら乾いた笑いでお茶を濁す。何も言いたくない。

「はぁ……俺……ださ……」
 
 ため息をついた俺は出番を他の男に譲り、アンジやジーク達男が何とも言えない空気で食事をしている場所へと向かう。
 どうやら空回りしすぎたらしい俺の背中は、きっと煤けていることだろう。
 俺は大分強くなったはずだが、まだまだセツのお眼鏡には敵わないらしい。
 
 俺は未練たらしくセツを探すと広場の反対側にセツはいた。
 セツはいつの間にかやってきていたセリアと合流しており、セリアからでかい骨に肉のついた、いわゆるマンガ肉を受け取ると、豪快にかぶりついていた。
 どうやら食欲は出たらしい。

「まあ……いっか」
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