五輪の遺志

洋夏晴崇(YOKA SEISHU)

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Free Spirit

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 私が、いわゆる『宮本武蔵』を研究して、既に10年以上の月日が経った。
 当方は、漫画やゲームの黄金時代でもある氷河期世代の生まれであり、夢中になったそれらの物語において、強敵を打ち倒したり、謎を解く重要なカギとなる刀剣は、子供心にも憧れの品であった。
 そのため、いつか本物の日本刀を手に入れたいと願ったものだが、日本にある刀剣の数は、実に250万口にも達するそうで、それらの品質や価格も様々であり、上は、数千万~数億円、下でも十万円以上はする高価な骨董品である。
 そんな中、自分が持つならどんな日本刀が良いかと思案した結果、たどり着いたのが、『宮本武蔵』だったのだ。
 おそらくは、日本で最も有名な侍であり、「最強の兵法家」、「剣聖」、「二天一流」等と様々な異名を持つ彼であるが、意外にもその愛刀についてクローズアップされることが少ない。
 というのも、彼の物語のクライマックスである巌流島の戦いは、最強の好敵手『佐々木小次郎』との死闘であるにもかかわらず、小次郎の三尺を誇る「物干し竿ものほしざお」に対し、武蔵の武器は、名のある刀でも脇差でもない「四尺超えの木刀」というのが、最大の理由であろう。
 もう一つの理由は、彼の残した唯一の兵法書である『五輪書ごりんのしょ』の地之巻ちのまきに記述があるのだが、

「総じて戦闘の道具についていえば、馬も程々に歩き、刀や脇差も程々に切れ、槍や薙刀も程々に射通せればよく、弓や鉄砲も強い破壊力などなくてよい」

 というように、名のある剣客であれば、絶対にこだわりたい刀剣にこだわりを持たないところだろう。むしろ、

「特定の道具を偏って愛好することがあってはならない」

 と逆に戒めてしまうほどだ。 
 これに限らず、五輪書にある彼の兵法や哲学は、現代の剣道や剣術と比較しても、まるで異なり、一刀を両手で扱うことに対しては、

「刀は片手で扱うべきである」

 と説き、剣道の基本的な足さばきである送り足、開き足、継ぎ足、歩み足において、かかとを地に着けないという常識に対しても、

「爪先を少し浮かせて、かかとを強く踏むべし」

 というようにあっさりと否定してしまうのである。
 その理由もただ単に否定しているわけではなく、片手で刀を扱うことについては、

「戦場では片手に槍や弓、または馬上で手綱を持つから」

 かかとを強く踏みしめることについては、

「戦場では平坦な地面は少なく、むしろ坂だったり、足場が悪かったりするのが当然だから」

 という明確な理由を述べる。
 確かに剣道の足さばきは平らな道場で重い鎧甲冑などを身に付けなければ効果を発揮できるが、そんな戦場では無用な技術である。
 おまけに江戸時代において、著名な剣術家や兵法家に弟子入りするとすれば、厳しい誓約や掟、上下関係があるのが当然であるのに対し、

「我が道を伝えるに、入門誓約等を好まない。そんなことよりもこの道を学ぶ人の才覚を見抜いて、真っ直ぐな道を教え、兵法の悪いところを捨てさせ、自ずと武士の兵法の真実の道へ入り、疑いなき心にする」

 このように、むしろ数百年後である令和の社会に求められるような言葉を平然と書き記してしまう五輪書を見て、宮本武蔵は、一気に「我が人生の師」となった。
 それがきっかけで、彼の五輪書を読み進めると同時に彼の生涯を調べてみたのだが、どうにも納得できない事項が二つあった。
 それは、

①宮本武蔵が、五輪書を書き始めたきっかけは、本当に『霊厳洞』なのか?
②宮本武蔵の遺体はどこにあるのか?

 この2点である。
 これらについて、おおよその目星はつけていたのだが、今回幸運にも現地に赴いて直接確認する機会を得たため、ここに書き残す。
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