中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo

文字の大きさ
19 / 20

19

「ああ、無事に終わったよ」

 週に一度、医者は俺の診察と治療にやって来る。今日はその日だった。

 動きの悪くなった左手足に治療魔法をかけ、傷痕に薬を塗り、左目には目薬。先週の体調管理表(食べた物、食べた量、体重、体調なんかを記録したもの。使用人さんが記録している)を確認して薬を処方する。この薬のおかげで、腹の調子が劇的に良くなったし、膝や股関節の痛みもなくなった。

 日に日に健康になっていく俺の体だけど、下半身にいる息子は相変わらず元気にはならない。それだけ俺が受けた心の傷は深くて、慌てずに治療を続けるしかないのだと医者は言った。

「順調に回復していると報告を受けてます。傷痕も薄くなってきましたね、良かった」

 ルーファスはシャツの袖から見える左腕の傷痕を見て微笑んだ。確かに目に見えて手足の傷痕は薄くなっている。

「……アッチは治ってないけどね」

「ああ、それはゆっくり治していけばいいのですよ。心の傷は焦らず、ゆっくりと治療することが基本ですから。ベッドでのことは回数を重ねることで気持ちよさも上がりますからね。私たちのペースで楽しみましょう。それに……ければ、…………もん…………から」

「ルーファス、なにか言ったか?」

 もう少しなにか言っていたようだが、うまく聞き取れなかった。 

 俺たちが借りている代官屋敷は高台にあって、中庭は海を見渡せるように作られているため海風が吹く。風が強いと人の言葉なんてかき消されてしまうのだ。

「いいえ、なにも。治療はゆっくりすすめたらいいんですよ。カイトに無理はさせたくないので」

 俺の手をとり、ルーファスは指先にキスをする。まるで王子がお姫様にするような行為だが、こちらの世界では伴侶にする〝愛しています〟という行動による告白なのだそう。

「……あ、ああ。うん」

 こちらの世界の人は種族に関係なく、自分の気持ちをストレートに伝える。

 特に獣人の〝番〟に対する愛情表現は本当にまっすぐで、それが美徳とされているのだ。でも、慎ましい日本人の中でも、色恋に無縁で照れ屋な俺はこの告白に全く慣れない。

 毎回恥ずかしいし、照れるし、胸がどきどきして顔が火照る。同時に、ルーファスとの夜を思い出してしまって、やり場のない気持ちが溢れてどうにもならなくなる。

 俺にとっての性行為は暴力と拷問を伴う苦痛そのものだったのだが、ルーファスとの性行為で初めて苦痛を伴わないものだと知った。殴られることも蹴られることもなく、優しく触れられキスを落とされ、丁寧に解されてお互いを高めるように体を重ねる。

 これが俺たちの間にある性行為なのだと教えられ、今も進行形で教えられている最中なのだ。

 ベッドの中では翻弄されているので覚えていないことも多いが、非常に恥ずかしい。

 俺は赤くなった顔を見られたくなくて、冴えない中年である俺をうっとりと見つめるルーファスから視線を外した。

 俺は〝番〟なんてわからない、異世界からやってきた恋愛初心者の異邦人だ。

 なんの後ろ盾もなく、知り合いもほとんどなく、居場所のない根無し草のようなもの。

 そんな俺の言ったことを真面目に受け取って考えてくれて、実際に行動してくれて、毎日側にいてくれて、毎日「愛しています」「愛おしいカイト」「一人にはしません、ずっと一緒です」なんて甘い言葉を囁かれて、反応の薄い体であるのにまるで壊れ物を扱うように優しく丁寧に抱かれていれば……情も湧くし、好意も抱く。

 例え、その笑顔や甘い言葉や直接的な行動の裏側に異常とも思える俺への執着があったとしても。

「ゆっくりでいいですよ、カイト。治療も私への気持ちも、ゆっくりで。……私たちはずっと一緒ですから」

「ルーファス」

「私たちは〝番〟で、伴侶で、家族なんです。私はカイトを置いていったりしません、だから安心して私を好きになってください」

 ――……もう、好きだよ。

 この言葉は口から声になって出たりはしなかった。

 でも、そう遠くない未来に言え……、たらいいと思ってる。

 反らした視線の先にあるのは、綿菓子のような雲の浮かぶ空と、広大な青い海と、黄色みがかった砂浜、そして真っ白な塩田。海から吹いてくる風は力強いけれど爽やかで心地いい。

 この世界に来てから多くの人に裏切られてきたこと、奴隷になって数年に渡り経験した暴力と性搾取と人権のない生活、その過去はなかったことにはならない。

 けれど、この海沿いの街で、俺を〝番〟だという美貌の年若い夫と共にゆっくり生きて老いていけたのなら……いつか、辛かったこと全部、過去のこととして受け入れられる気がする。

 ルーファスの作り上げた優しい檻の中が自分の居場所になった、俺が死ぬまできっとそれは変わらない。ルーファスは俺を逃がさないだろうから。

 けれど、ずっと一緒に暮らしていけるのなら……それでいいと俺は決めた。

「……ルーファス、話しがあるんだけど」

 俺がいうと、ルーファスは嬉しそうな顔をして身を寄せる。

 その笑顔を見ながら、俺はおやつのチョコレートをルーファスの口の中に放り込み、自分も口にした。

「なんでしょう? なんでも言ってください」

「俺が生まれた世界で売っていた塩商品なんだけどさ、こっちでも作ったら売れると思ってさ」

 俺に対してちょっと引くほど重い執着を見せ、チラチラと狂気を覗かせる伴侶の笑顔は高価なチョコレートよりもまろやかで……逃げられない何かを感じさせるのだ。


 (終)

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

異世界転移された傾国顔が、アラ還宰相の幼妻になって溺愛されるまでの話

ふき
BL
異世界に転移したカナトは、成り行きでアラ還の宰相ヴァルターと結婚することになる。 戸惑いながら迎えた初夜。衝動のキス、触れあう体温――そして翌朝から距離が遠ざかった。 「じゃあ、なんでキスなんてしたんだよ」 これは、若さを理由に逃げようとするアラ還宰相を、青年が逃がさない話。 ヴァルター×カナト ※サブCPで一部、近親関係を想起させる描写があります。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる

古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。