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2章:王の胎動
13話:ヴィオの作戦
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ヴィオはテーブルの上にタニスの地図を広げ、その上に指を滑らせた。
「ルルエからタニスを目指すなら、マリアンヌ沖を通らないといけない。けれど、マリアンヌは岩礁も多いし、この季節は潮の流れも複雑で強い。大型船はより決まった行路しか通れない」
ツッと、ヴィオの指はルルエからタニスへと滑る。それを、ユリエルとクレメンスは食い入るように見ていた。
「慣れた商人でも、大型船で岩礁地帯を進むのは至難の業。この辺の海域に詳しくないルルエの船なら、ほぼ間違いなく道は決まる。そこを襲えば、キエフまで辿り着けない」
「ですが、道は決まっていても襲うとなれば危険が大きくはなりませんか?」
ユリエルの指摘に、ヴィオはにっこり笑って首を横に振る。
「岩礁と岩陰が、僕達を守ってくれる。僕達の船は中型船、進める道は多いし、何よりあの辺の詳しい海図を持ってる。だから、絶対に沈まない。離れて大砲で狙って、岩場に隠れれば平気。奴らは僕達の所には来られない」
ユリエルは顔を上げる。クレメンスも顔を上げ、互いに見つめ合って頷いた。これならいけると確信したのだ。
「でも、商船に変装した中型船なんかは難しい。全部を阻めないけれど、大丈夫?」
「そこは構いません。中型の偽装船程度ならどうにかなります。それに、相手の退路を完全に断つことはしません」
「では、キエフ港を取り戻した後でも奴らの撤退の為に道を残すと?」
クレメンスが渋い顔をするが、ユリエルは真っ直ぐに頷いた。
「追い詰められたネズミは猫を噛むものです。退路を完全に断たれたとなれば必死に向かってくるでしょうが、逃げられる場所を残しておけば無用な戦いを避けられるかもしれません」
「あくまで戦いは最小限って考えてるんだ、殿下は」
レヴィンの言葉に頷いて、ユリエルは真剣な目で全員を見回した。
「これは王都を取り戻す為の戦いです。無用な血を流す必要はどこにもありません。私としてはあちらが全面降伏してくれるのならば、全てを許すつもりでいます」
「そいつは、煮え湯を飲まされた宮中のお歴々が煩そうな話だ」
ロアールの言葉にユリエルは溜息が出る。その様子が物凄くリアルに想像できて辟易したのだ。
「血も流さずに抗議だけする老人など放っておきなさい。嫌なら奴らが戦いに出向けばいい。傷の一つも負わずに利益だけは欲しいなど、虫のいい話です」
ごもっともな発言は戦う者にとっては嬉しい言葉だ。ユリエルは決して前線で戦う兵をないがしろにしない。いつも兵と同じ側に立って、彼らを思って言葉を伝える。だからこそ軍部に人気があるのだ。
「まずは大型軍船を抑え込み、供給路を絶ちます。そこで我々が圧力をかけるのと同時に、キエフ港を奪還します。キエフが落ちたと知れば王都に立てこもっているルルエ軍も撤退を考えるかもしれない」
「もしもルルエ軍が撤退を決め降伏したら、どうなさいますか?」
「キエフ港からの出港許可を出します。ですが、人間だけです。持ち出すことは許しません」
クレメンスは腕を組んで考え込む。眉根を強く寄せるものだから、そこには深い皺が出来てしまっていた。
「……いいでしょう。幸い王都の民に大きな被害はありませんし、略奪もありません。何も持ち出されずに大人しく撤退してくれれば、国民感情としてはおさまりもつけられましょう。まぁ、煩い老人達の相手は面倒そうですが」
「黙らせます」
「まぁ、お前さんならそうするだろうな」
ロアールが困ったように言い、グリフィスは若干心配そうにする。それでも、異論はなさそうだった。
「ルルエからタニスを目指すなら、マリアンヌ沖を通らないといけない。けれど、マリアンヌは岩礁も多いし、この季節は潮の流れも複雑で強い。大型船はより決まった行路しか通れない」
ツッと、ヴィオの指はルルエからタニスへと滑る。それを、ユリエルとクレメンスは食い入るように見ていた。
「慣れた商人でも、大型船で岩礁地帯を進むのは至難の業。この辺の海域に詳しくないルルエの船なら、ほぼ間違いなく道は決まる。そこを襲えば、キエフまで辿り着けない」
「ですが、道は決まっていても襲うとなれば危険が大きくはなりませんか?」
ユリエルの指摘に、ヴィオはにっこり笑って首を横に振る。
「岩礁と岩陰が、僕達を守ってくれる。僕達の船は中型船、進める道は多いし、何よりあの辺の詳しい海図を持ってる。だから、絶対に沈まない。離れて大砲で狙って、岩場に隠れれば平気。奴らは僕達の所には来られない」
ユリエルは顔を上げる。クレメンスも顔を上げ、互いに見つめ合って頷いた。これならいけると確信したのだ。
「でも、商船に変装した中型船なんかは難しい。全部を阻めないけれど、大丈夫?」
「そこは構いません。中型の偽装船程度ならどうにかなります。それに、相手の退路を完全に断つことはしません」
「では、キエフ港を取り戻した後でも奴らの撤退の為に道を残すと?」
クレメンスが渋い顔をするが、ユリエルは真っ直ぐに頷いた。
「追い詰められたネズミは猫を噛むものです。退路を完全に断たれたとなれば必死に向かってくるでしょうが、逃げられる場所を残しておけば無用な戦いを避けられるかもしれません」
「あくまで戦いは最小限って考えてるんだ、殿下は」
レヴィンの言葉に頷いて、ユリエルは真剣な目で全員を見回した。
「これは王都を取り戻す為の戦いです。無用な血を流す必要はどこにもありません。私としてはあちらが全面降伏してくれるのならば、全てを許すつもりでいます」
「そいつは、煮え湯を飲まされた宮中のお歴々が煩そうな話だ」
ロアールの言葉にユリエルは溜息が出る。その様子が物凄くリアルに想像できて辟易したのだ。
「血も流さずに抗議だけする老人など放っておきなさい。嫌なら奴らが戦いに出向けばいい。傷の一つも負わずに利益だけは欲しいなど、虫のいい話です」
ごもっともな発言は戦う者にとっては嬉しい言葉だ。ユリエルは決して前線で戦う兵をないがしろにしない。いつも兵と同じ側に立って、彼らを思って言葉を伝える。だからこそ軍部に人気があるのだ。
「まずは大型軍船を抑え込み、供給路を絶ちます。そこで我々が圧力をかけるのと同時に、キエフ港を奪還します。キエフが落ちたと知れば王都に立てこもっているルルエ軍も撤退を考えるかもしれない」
「もしもルルエ軍が撤退を決め降伏したら、どうなさいますか?」
「キエフ港からの出港許可を出します。ですが、人間だけです。持ち出すことは許しません」
クレメンスは腕を組んで考え込む。眉根を強く寄せるものだから、そこには深い皺が出来てしまっていた。
「……いいでしょう。幸い王都の民に大きな被害はありませんし、略奪もありません。何も持ち出されずに大人しく撤退してくれれば、国民感情としてはおさまりもつけられましょう。まぁ、煩い老人達の相手は面倒そうですが」
「黙らせます」
「まぁ、お前さんならそうするだろうな」
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