恋愛騎士物語4~孤独な騎士のヴァージンロード~

凪瀬夜霧

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2章:残り物には福がある?

5話:経験なんてありませんから!(トレヴァー)

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 …………どうしよう。

 トレヴァーは目の前の光景を呆然と見ていた。正直、頭の中は真っ白だ。
 疲れ果てたキアランは白い肢体を投げ出し、とても穏やかに眠っている。眼鏡もしたままで、時折口元に笑みが浮かんでいる。

 かわいい……いやいや!

 なんせ今が酷い状態だ。トレヴァーはまだキアランの中に入ったまま。気を失うように眠ったキアランを呆然と見ているのだ。

 やらかした。どうしよう……
 いや、気持ちは間違いなくこの人が好きで、今は望むべく状況ではある。好きな人と同じ気持ちで交われたのだから幸せなんだ。
 けれど、酒の勢いってのはどうなんだ! いや、告られた時点でだいぶ覚めてしまったし、その前だってそんなに飲んでない。ランバート達と飲んでいる時と比べればまったく平気だ。
 でも、もっとちゃんと……雰囲気とか作ってこう、せめて食事とか誘って!

 思ってみても、全部自分にはオシャレ過ぎて似合わない気がする。大衆食堂にこの人を連れて行く気にはなれないし。

 キアランを好きになるのに、時間はかからなかった。
 最初は愚痴を聞いてくれて、愚痴を聞く先輩と後輩だった。
 けれどその中で見せる寂しげな横顔とか、ちょっと意地になりながらも赤くなる顔とか、舐めるように酒を飲む口元とか、酔った時の子供みたいな視線とか。
 そういうものに引きつけられているのを感じて、焦った。それでなくても壁のある人だって聞いていたから、突破出来るなんて思わなかった。

 そんな中で避けられて、辛くて苦しくてそれ以上に気になっていた。
 何か気に障ることを言ったんだと思った。少し親しくなって調子に乗ってしまったんだと後悔した。
 この頃になるとランバートやレイバン、ハリーに気付かれるようになっていた。せっつかれて白状したら、あれこれ提案してくれた。
 ランバートは「手放すな」と言ってくれたし、作戦立案はボリスだった。「わんこならわんこらしく部屋の前で待てしたら?」なんて言われてしまった。
 同時にハリーは怪しげな本を貸してくれて……部屋で読んで後悔した。
 チェスターまで「教則本」と言って、妙に実践的な手ほどき本を貸してくれた。あいつら、どこからこんな本を手に入れるんだ。

 まぁ、今日はそれが役立ったわけなんだが……

 無事に話せて、弱い姿を見せてくれるキアランの側にいたいと思えて、気持ちは固まった。もっと親しくなれたと感じたら告白しよう。似合わなくてもいい店に行って、散歩なんかをして……全部パーだが。

「んぅ……」
「っ!!」

 寝返りを打った人の頬が僅かに上気している。
 とりあえず抜かなければ。慌てているけれど丁寧にゆっくりと抜き去ると、さっきまでトレヴァーのものを咥え込んでいた部分がくぱりと開いたまま、そこからトロトロと吐き出した白濁が溢れ落ちた。

「……」

 どうしよう、凄く淫靡だ。これだけで興奮してまた硬くなったと言ったら凄い目で見られそうだ。
 でも、どうしようもなく股間が熱くなってくるのは仕方がない。それだけキアランは色っぽくて、ちょっと可愛かったんだ。
 熱っぽく上気した頬、涙に潤んだ瞳、少し掠れた喘ぎ声まで。

「(ハッ!)ダメだろ俺!」

 これ以上興奮したらどうしようもなくなる。それに、まだやる事はあるんだ。
 このままにしておくとお腹を悪くするらしい。だから指で掻き出してある程度綺麗にしてやらないとならないと、教則本に書いてあった。

 ゴクリと唾を飲み込み、指を二本揃えてまだ緩い後孔へとゆっくり挿入していく。柔らかなそこはトレヴァーの指を受け入れると嬉しそうに包み込み、掻き出すように出し入れする度にまとわりついてくる。

「んぅ……はぁん……」
「っ!」

 寝ているのは間違いない。けれど寝ながらの声が色っぽい! 絶対に感じていると分かるキアランの声に愚息が反応して、吐き出したばかりなのに苦しくなってくる。
 それに指に感じる中の感覚が凄い。狭い部分がまとわりついて抱きしめてくる。綺麗にしているだけなのに、欲しそうに入口がパクパクしている。
 しかも出し入れする度に溢れる白濁が落ちて、白い内股を落ちていく。それがあり得ないくらいイヤらしい。

 ダメだ、これにどうして耐えられるんだ? というか、他の恋人達はどうなっているんだ? むしろやりまくって余裕なのか!

 ファウストやクラウルはそれでも納得がいく。経験豊富な年上っぽい二人だから、こういう部分で無様な姿は晒さないんだろう。
 むしろゼロスが受けというのが未だに想像出来ないが。
 だが、ボリスはなんであんなに余裕なんだ! コンラッドはどうなんだ! 乙女になるなドゥー!

「俺が無様なのか……?」

 ガックリと、全力で敗北を感じる。

「んっ」

 フルリと、キアランは体を小さく丸める。季節はもう秋だ、寒いだろう。
 慌てて体を綺麗にして、布団をしっかりとかけて、トレヴァーは項垂れた。未だに臨戦態勢の愚息をどうしようか。悩んだが、これが勝手に収まるとは思えない。若いという事を恨んだが、どうする事もできないのだ。
 結局自分で握り込み、さっきのキアランの表情や感覚を頼りに無様に扱くしかない。それでも普段よりずっと気持ち良くて、あっという間に達してしまった。

「……寝よう」

 衣服を纏めて部屋に戻ろうとして、ふと翌日寂しそうな顔をされないかと思って止まった。
 案外寂しがり屋なんだと思う。自分ではあまり認めたがらないが、酔うと必ず「寂しい」と呟くか、表情がそう語っている。そういう、繊細で不器用な人だと思う。

 暫く考えて、トレヴァーはベッドへと戻った。そしてちょっと遠慮もしながら、キアランの横に潜り込む。
 体温が少し低いのだろうキアランの布団は思ったよりも暖かくはない。
 それを証拠に、トレヴァーが潜り込むと寝返りを打ち、胸元に身を寄せている。そしてスヤスヤと眠るのだ。

「拷問……」

 また反応しないように頑張らねば。それでも今日は眠れる気がしない。

 抱きとめて、幸せそうならいいかと諦めて、ちょっと考える。
 遅れたけれど明日、キアランの様子を見てランチに誘おう。夜はオシャレな店もハードルが高いけれど、ランチなら少し気が楽だ。
 そして散歩したりして、二人で使うワイングラスなんてのを見てもいい。建国祭に贈るプレゼントにしたい。
 それから改めて、告白しよう。お酒の勢いじゃない、ちゃんとしたやつを。既に言っているけれど、シラフで伝えないといけない気もしている。

 貴方が好きです。俺と、お付き合いしてください。


 翌日、やっぱり寝られなくて大あくびをした。
 隣ではまだ静かに寝息を立てている人がいる。
 とりあえず水浴びをしようと外に出て、ついでに食堂でコーヒーを飲もうと行くと、珍しく同期が数人集まっていた。

「よぉ」
「早いな」
「お前等もな」

 ランバートは既に一汗かいてきた感じだ。病み上がりだってのに復活したら途端にアクティブだ。隣にはゼロスがいて、同じく軽めの朝食を食べている。ボリスは昨日と服装が同じだから朝帰りだ。ハリーはまだ少しぼーっとしていた。
 トレヴァーは朝食にパンとジャム、コーヒーを持って彼らと同じ席についた。

「どうした、ぼーっとして」
「眠そうだねー」
「ハリーも眠そうだろ」
「夜が長いと事も長いのー」

 くたんとテーブルに伏せたハリーがそんな事を言い、全員が苦笑する。ただ、トレヴァーはどう反応していいか分からずに顔を赤くした。

「おや?」

 ニヤリとボリスが笑い、意図して距離を詰める。そして、顔を覗き込んだ。

「とうとう、かな?」
「なっ!」
「相談が役に立ったのかなぁ。ってね」
「な!」

 こうなると隠しようがない。しどろもどろになれば全員がニヤリと笑い、意味深な「ほ~」がハミングする。

「まぁ、いい相手だろ。惚れたんだから」
「それは勿論! あぁ、えっと……お世話になりました」

 なんていえばいいのか分からず、とりあえず頭を下げると彼らは笑い、「どういたしまして」と言う。

「それにしても、これでほぼ全員が恋人持ちか。案外年上の恋人が多いな」
「俺に、ゼロス、コナン、レイバン、チェスター。それにトレヴァーか」
「俺みたいに同期でってのは少ないねー。クリフの所がそうか」

 ゼロスの言葉をランバートとハリーが引き継ぐ。やっぱり上が多いようだ。

「俺は年下だけど。あとドゥーも」

 そこでふと、手が止まった。それは昨日の記憶が不意に蘇り、同時に恐ろしい疑問が浮かんだからだ。

「なぁ、ドゥーのって……でかいよな? あれ、ディーン相手してるのか?」

 背格好ではそんなに変わらないキアラン相手でも、やっぱり狭かった。慣らしていけばと聞いているから、そうなんだと思って丁寧にしたのを思いだしたのだ。
 そうなると大柄なドゥーだ。風呂も一緒にしているから標準サイズを知っている。それが興奮すると更に大きくなるとする。
 一方のディーンは元々は小柄だった。最近では身長も伸びて、体格も良くはなった。けれどドゥーと比べるとまだ細く小柄に見える。

 トレヴァーの疑問にボリスは笑い、ランバートとゼロスは苦笑する。そして驚愕の真実を明かした。

「あいつ、受けだから」
「……え」

 何とも破壊力のある一撃に一瞬の沈黙。その後、トレヴァーは沈んだ。

「マジか……」
「まぁ、ある意味奴の優しさだろ」
「うん」

 そうか、だよな。どっちが無理がないかって言えば、肉体的には明らかにあいつが受け入れる方が無理がない。譲れたあいつは凄いな。

 そこで新たな疑問が浮かんだ。それは昨日の自分だった。

「あの、さ。もう一つ聞きたいんだけど……」

 モソモソと伝えると、彼らは妙な顔をしてしまった。

「あ……ファウストは収まりつかないよ」
「それ、どうしてるんだ?」
「相手するよ。こっちもエンジンかかってるし、その為に体力訓練増やしたし」
「そこ発信かよ!」

 多少言いづらそうにしながら言うランバートだが、トレヴァーとしてはなんだかほっとした。自分ばかりがこうじゃないんだって思えたから。

「それでも寝る時間くれるだろ、ファウスト様は。クラウル様は……」
「クラウル様って、ちょっとS気あるんだっけ?」
「そういうんじゃないが……エンジンかかると歯止めがきかない。ちょっと別人みたいになるんだ」
「時々ぐったりしてるからね」

 そんなに、なんだ……

 自分はそこまでは……多分、大丈夫。

「それで? トレヴァーは収まりがつかなかったと。若いねぇ」
「そういうボリスはどうなんだよ」
「ん? 求められれば応じるし、その前に一発抜いておくかな。体力的にはどうしても俺のが上だからね。無理させて壊したら大変」

 意外と大人な答えが返ってきた。意外だ。

「でもさ、そういうの気にするだけトレヴァーは理性的で優しいんじゃない?」
「え?」

 ダラダラしていたハリーが伸びをする。そして、のんびりとした様子で口を開いた。

「コンラッドもだけど、自分の欲望をそういう場面で抑えられるって、かなり理性的だよ。普通そんなの吹っ切れてる状態なわけだし」
「あいつ、抑えるの?」
「うん、俺の体気遣ったりして。こっちとしてはもう少し求めてくれてもいいんだけど、加減が分からないからか無理言わないし、ちょっと疲れた様子見せるとしない日もあるくらい」
「優しいよな、あいつ。小姑のくせに」
「そう言わないでよ、ゼロス。いい奴なんだよ?」
「そこは否定しない」

 ハリーは苦笑し、ゼロスは涼しい顔だ。
 けれど、そんな形もあるんだと知ると安心する。トレヴァーだってキアランに無理なんてさせたくない。本当は途中で止めるつもりだったんだ。あんな風に言われなければ。

「それぞれの形があるってことだよ、トレヴァー」
「んっ、そうみたいだな」

 あんまり悩みすぎるのもいけないんだろう。そういうことにして、トレヴァーはキアランの部屋へと戻る事にした。

 ノックをして部屋に入ると、キアランはベッドの上で起き上がっていた。まだ、ぼーっとしているみたいだけれど。

「おはようございます、キア先輩」

 よし、とりあえず様子を見てデートに誘おう。意気込むと顔がこちらを見て、なんだか泣きそうな顔をしている。
 「あれ?」と思って慌てて近づくと、まだ寝ぼけた様子のキアランがしがみつくように腰に腕を回した。

「どうしたんですか!」

 もしかして、何かあったのだろうか。もの凄く体が辛いとか、そういう……

「全部、都合のいい夢だったのかと思った」
「え?」

 思いがけない言葉に虚を突かれ、次に少しドキドキする。小さな子が親に抱きつくような仕草と頼りない表情に、守らなければという気持ちが大きくなっていく。

「起きたら隣にいないから。でも、体は痛いし……もしかして、良くなかったんじゃないかと」
「ちが! 先に水を浴びて朝食を軽く」

 猥談している間に不安にさせてしまったなんて!

 慌てて訂正を入れると、ジッとキアランが見上げてくる。そして次には少し恥ずかしそうに手を離した。

「そうか。勘違いして、悪かった」
「いえ。俺こそ不安にさせてしまって、すみません」
「別に不安になったわけじゃ!」

 顔を赤くしたキアランは少しムキになって不満そうな顔をしている。けれどこういう部分が、トレヴァーにとっては妙な庇護欲を駆り立てられるというか、可愛いというか。とにかくツボなのだ。

「あの、昨日の事なんですが」
「なっ、なんだ!」
「あぁ、いえ! キア先輩は後悔とか、ないのかなって」

 聞くのは怖いが聞かないのも怖い。後悔していると言われても後戻りはできないが、言われたらショックだ。今のうちに何かあれば修正していかなければ。
 思ったが、キアランの顔は更に赤くなっていく。口元はワナワナしていて、恥ずかしいんだと分かった。
 でも、後悔とかは見えない。だからこそ安心できた。

「あの、体が辛くなければこの後、ランチとか食べに行きませんか?」
「え! 俺と、か?」
「? はい。あの、デートってほど気の利いた事は出来ませんけれど」

 今度雰囲気のいい店をレイバンに聞いておこう。恋人がジェイクというだけあって、彼の情報はとても的確で味の評価も信用できる。

 キアランは赤くなった顔を更に赤くして、最終的にボンと音がしそうなほどになってから、突然幼い顔をした。

「俺とで、いいのか? その、あまり楽しくないと思うが」
「そんな事ありませんよ。先輩と一緒ってだけで楽しいです」

 伝えたら視線を外される。それを追って体を近づけて、ベッドに手をついて触れるだけのキスをする。驚きながらも受け入れてくれたキアランを近くで見つめて、嬉しさと恥ずかしさにドキドキした。

「お願いします、先輩」
「……しかたないな」

 意地っ張りなキアランからの了解を得て、トレヴァーは満面の笑みを浮かべた。
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