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2章:残り物には福がある?
6話:初デート(キアラン)
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デートというのを、初めてしている。更に言えば誰かと連れだって街を歩くのが記憶にないくらい久しぶりだ。多分、妹が最後だ。
隣を歩くトレヴァーはやはり日の光が似合う。焦げ茶色の髪や適度に焼けた肌。健康的で爽やかで、キアランとは対照的だ。
未だに昨日の事が信じられない。自分の中のどこを探したらあれだけの勇気があったのか疑問だ。酔っていてふわふわしていたから詳細は覚えていないが、誘ったのも煽ったのも自分だったと思う。
当然後悔なんてしていない。例え今、尻にもの凄く違和感があったとしても。
違和感だ、痛みじゃない。それだけ丁寧にトレヴァーは抱いてくれたということだ。酔って誘って無理を言ったのに、いい奴だ。
でも、やっぱり言った方がいいんだろうか。酔っていない状態で、「好きだ」と。
考えて、ボンッと頭の中で音がする。改めてなんて恥ずかしくて死ねる気がする。
「キア先輩、何食べたいですか?」
「え?」
「え? ランチ、何が食べたいですか?」
「あぁ、えっと……」
違う事を考えていたし、正直ノープランだ。更に言えば今後の予定もノープランだ。
そもそもデートなんてした事がないんだ。これが当然で!
思ったら、自信がなくなる。気の利いた事も言えないし、プランもない。これでは相手を退屈させてしまう。
俯きそうになっていたら、不意に手を繋がれた。
「希望がないなら、見て決めませんか?」
「あぁ、そう、だな」
ニッと笑う顔が子供っぽい。そしてふと、肩から力が抜けた。
大通りから少し入ると賑やかだ。食事処を探すが、決まらない。それというのも好き嫌いもけっこうある。生野菜は嫌い、肉も沢山はいらない。そんなだから、決められないのだ。
「すまない」
「え?」
「なかなか、決められなくて」
落ち込んで俯いてしまいそうになる。けれどトレヴァーは気にもしていないように笑った。
「俺は楽しいですけれど」
「無理することは……」
「無理なんてしてませんよ。先輩のこと色々見られて楽しい」
「え! あっ、いや……」
「嫌いな物は俺が食べますから、気になった店に行きましょう」
バレている。恥ずかしいが、気が楽になったのもそうだ。
決めたのは、スープとパンが美味しそうな店だった。シチューとパンとサラダ、それに小さなケーキがついてくる。
トレヴァーにサラダを押しつけると、彼はペロリとそれらを平らげた。
「生野菜、ですか」
「どうにも腹が冷える感じがあって、調子を崩すんだ」
「もしかして、牛乳も?」
「あぁ。それを知っているから、ジェイクもアルフォンスも俺にはホットミルクにしてくれる」
昔から腹が弱くて、ストレスに胃が痛めつけられる事も多い。胃薬を多用していたら胃潰瘍で倒れて、エリオットに薬を没収された。
「それでサラダのある店を避けてって……ほぼ、全滅じゃないですか」
「……食堂で食べれば避けられる」
「なるほど」
もぐもぐとレタスを食みながら、トレヴァーは次に笑っていた。
「じゃ、これからは俺が食べるので遠慮せずに好きな店に入りましょう」
「え?」
「嫌、ですか?」
しょんぼりした顔をされて、キアランは首を横に振った。
今、楽しい。誰かと話をしながら食べる食事は美味しくも感じる。腹じゃない部分が満たされている。
「俺も、その……また、誘って欲しい」
伝えたら、とても嬉しそうに笑ってくれた。
「楽しそうだな、トレヴァー」
「楽しいですよ。だって、デートですから」
「デ!」
「それに、先輩の事を知れて嬉しいです。他に嫌いなものって、ありますか?」
「……油の多い肉。脂っこくて胃が受け付けない。臭みのある魚や肉も苦手だ。レバーは、食べられない」
「あー、分かるかも。俺もホルモンとか、タコとか、イカが苦手です。あと貝」
「え?」
思わずキョトンと見ると、トレヴァーは恥ずかしそうな顔をした。
「貝は砂が入って、ジャリッとするのが」
「騎士団の食堂のは?」
「それは食べれます。俺、騎士団入って一度も貝でジャリッとした事なくて感激ですよ。本当に丁寧に下処理されてて。でも、外では避けます」
「ホルモンとかは、どうしてだ?」
「いつ飲み込んでいいか、分からなくて」
「……え?」
「こう、いつまで噛んで、いつ飲み込めばいいのか分かんなくて飲み込めないまま口に残ってるっていうか」
「あ……」
分かるような、分からないような?
でも、ちょっと親近感だ。何でも美味しく食べるイメージを勝手に抱いていた。トレヴァーでも、嫌いな物はあるんだ。
「キア先輩は、甘い物好きみたいですね」
「ん?」
「デザートのケーキ、美味しいですか?」
「!」
食後のケーキと紅茶を飲んでいる。その様子を観察されていたんだと思うと恥ずかしくて顔が赤くなった。
おそらく宰相府で甘い物が嫌いな者はいないだろう。その筆頭はマーロウだろうが、キアランも嫌いじゃない。食べ過ぎないようにはしているが。シウスもドライフルーツの類いが結構好きだ。
「今度、ケーキ食べに出ませんか?」
「……わかった」
見られているというのは、少し恥ずかしいのかもしれない。
食事を終えて、秋色になる公園を歩いている。空気が冷たくなってきてコートの襟首を上げる。
「寒くなりましたね」
「そうだな。でも、秋は好きだ」
「そうなんですか?」
「色彩が綺麗だ」
空気が澄んで、凛と引き締まっている。彩る葉は黄金に赤に。木の実の茶色も綺麗だと思う。
「キア先輩、秋色似合うと思いますよ」
「え?」
「色が白い分、オレンジとかいいなって。茶色も落ち着いて似合いそうだし」
「そう、か? 地味な色しか持ってないが」
「俺はどうしても体型に合うようにすると、デザインとか二の次で。やっぱり腕が太いんですよね。大きめにするとダボダボして見える」
そんな事を言うが、トレヴァーだってそう不格好ではない。丈は少し長いが。
「丈、直してやろうか?」
「え?」
「俺の実家は縫製工場をしている。俺も小さな頃から一通り教えられてきたから、できるが」
「え!」
言ってから、ちょっと恥ずかしくなった。裁縫が得意な男というのも女々しい気がする。
でも、嬉しそうな顔をされたら今更引っ込めるのも申し訳ない。実際、手を動かす時間は脳のリフレッシュにもなるのだ。
「あの、いいんですか?」
「あぁ、いいぞ」
「嬉しいです!」
「……うん」
嬉しいのはキアランもだ。こんなに喜ばれるなら悪くない。そう思えた。
「キアラン?」
「え?」
その時ふと名を呼ばれて顔を上げると、丁度前からオリヴァーが一人の青年と共に歩いてくる。濃紺の髪の、穏やかそうな青年だ。
「オリヴァー様!」
「トレヴァー? あぁ、なるほどね」
楽しそうな顔をしたオリヴァーを見ると、咄嗟に色々隠したくなる。繋ぎそうな手も離れた。
「それが、貴方のいい人ですか?」
「いや、これは……」
なんて言えばいい。咄嗟に否定的な事を言ってしまって、苦しさが増した。
隣のトレヴァーはどんな顔をしているのか。思って見ていると、わりと平気そうな顔をしていた。
それはそれで傷つく。最初に否定したのはキアランなのに。
「オリヴァー様、違いますよ。親しくはさせてもらってますけれど」
「そうなのですか?」
「はい」
どうしよう、ドンドン痛くなる。咄嗟に隠そうとしたのはキアランだ。でもトレヴァーにこう言われると胸が痛む。
分かっている。否定しようとしたキアランを庇ってくれているんだ。
「あぁ、紹介が遅れました。私の旦那様のアレックスです。アレックス、同期のキアランと後輩のトレヴァー。トレヴァーはランバートの同期です」
「初めまして、アレックスです。オリヴァーがお世話になっています」
「あぁ、いいえ! オリヴァー様にはいつもご指導頂いております」
ぺこりと頭を下げるトレヴァーを見て、煮え切らない思いが増していく。そして気付いたら、ギュッとトレヴァーの腕を掴んでいた。
「キア先輩?」
「……だ」
「え?」
「こいつは、俺の恋人で……その……」
小さな声で反論してみた。その声にトレヴァーは顔を真っ赤にして、オリヴァーはニコニコ笑っていて、アレックスも穏やかな笑みを浮かべた。
「良い相手ですね、キアラン」
「……あぁ」
「二人の時間を邪魔してしまったらしい。申し訳ない、キアラン殿」
「いえ。こちらこそ、挨拶が遅れて申し訳なかった」
顔を見合わせたオリヴァーとアレックスが、穏やかに笑う。そうして過ぎ去っていく彼らを見送って、隣で真っ赤なまま立ち尽くすトレヴァーへと視線を移した。
「お前はいつまでそんなんなんだ」
「いえ、だって……嬉しくて、俺」
ちょっと目を潤ませたトレヴァーを睨んだが、手はずっと彼の服を掴んだままだ。
「トレヴァー」
「はい」
「好き、だ。酒の勢いは借りたが、昨日の言葉は嘘じゃない。それだけはちゃんと、伝えておきたい」
心臓が飛びでそうなほどドキドキしている。でも、ちゃんと伝える事は出来てほっとした。
そうして力が抜けていると、不意に掴まれて人気のない木陰まで引っ張られる。そして人目を気にしながら木に押しつけられて、不意打ちにキスをされた。
「!」
「もっ、ほんと……キア先輩、煽らないでくださいよ」
「べつに、煽った覚えは!」
「俺、本当に困るんですから……」
顔を真っ赤にしたトレヴァーを監察すると、主にどこが困っているのか見た目で分かった。
カッと体が熱くなる。そして焦って、口をパクパクさせた。
「だっ、おま、昨日!」
「分かってますよぉ!」
泣きそうな顔をしながら深呼吸したトレヴァーは、それでも少し周囲を気にしながら歩いていく。その横についたキアランは若い恋人の素直すぎる反応に素直に笑った。
「キア先輩」
「んっ、俺も体力つけないとな」
「え!」
「お前の相手くらい、ちゃんとしてやろうってことだ」
若い恋人を持つと色々と大変だが、それもいいと思える。少なくとも彼の為にする努力を、キアランは辛いなんて思わないのだから。
隣を歩くトレヴァーはやはり日の光が似合う。焦げ茶色の髪や適度に焼けた肌。健康的で爽やかで、キアランとは対照的だ。
未だに昨日の事が信じられない。自分の中のどこを探したらあれだけの勇気があったのか疑問だ。酔っていてふわふわしていたから詳細は覚えていないが、誘ったのも煽ったのも自分だったと思う。
当然後悔なんてしていない。例え今、尻にもの凄く違和感があったとしても。
違和感だ、痛みじゃない。それだけ丁寧にトレヴァーは抱いてくれたということだ。酔って誘って無理を言ったのに、いい奴だ。
でも、やっぱり言った方がいいんだろうか。酔っていない状態で、「好きだ」と。
考えて、ボンッと頭の中で音がする。改めてなんて恥ずかしくて死ねる気がする。
「キア先輩、何食べたいですか?」
「え?」
「え? ランチ、何が食べたいですか?」
「あぁ、えっと……」
違う事を考えていたし、正直ノープランだ。更に言えば今後の予定もノープランだ。
そもそもデートなんてした事がないんだ。これが当然で!
思ったら、自信がなくなる。気の利いた事も言えないし、プランもない。これでは相手を退屈させてしまう。
俯きそうになっていたら、不意に手を繋がれた。
「希望がないなら、見て決めませんか?」
「あぁ、そう、だな」
ニッと笑う顔が子供っぽい。そしてふと、肩から力が抜けた。
大通りから少し入ると賑やかだ。食事処を探すが、決まらない。それというのも好き嫌いもけっこうある。生野菜は嫌い、肉も沢山はいらない。そんなだから、決められないのだ。
「すまない」
「え?」
「なかなか、決められなくて」
落ち込んで俯いてしまいそうになる。けれどトレヴァーは気にもしていないように笑った。
「俺は楽しいですけれど」
「無理することは……」
「無理なんてしてませんよ。先輩のこと色々見られて楽しい」
「え! あっ、いや……」
「嫌いな物は俺が食べますから、気になった店に行きましょう」
バレている。恥ずかしいが、気が楽になったのもそうだ。
決めたのは、スープとパンが美味しそうな店だった。シチューとパンとサラダ、それに小さなケーキがついてくる。
トレヴァーにサラダを押しつけると、彼はペロリとそれらを平らげた。
「生野菜、ですか」
「どうにも腹が冷える感じがあって、調子を崩すんだ」
「もしかして、牛乳も?」
「あぁ。それを知っているから、ジェイクもアルフォンスも俺にはホットミルクにしてくれる」
昔から腹が弱くて、ストレスに胃が痛めつけられる事も多い。胃薬を多用していたら胃潰瘍で倒れて、エリオットに薬を没収された。
「それでサラダのある店を避けてって……ほぼ、全滅じゃないですか」
「……食堂で食べれば避けられる」
「なるほど」
もぐもぐとレタスを食みながら、トレヴァーは次に笑っていた。
「じゃ、これからは俺が食べるので遠慮せずに好きな店に入りましょう」
「え?」
「嫌、ですか?」
しょんぼりした顔をされて、キアランは首を横に振った。
今、楽しい。誰かと話をしながら食べる食事は美味しくも感じる。腹じゃない部分が満たされている。
「俺も、その……また、誘って欲しい」
伝えたら、とても嬉しそうに笑ってくれた。
「楽しそうだな、トレヴァー」
「楽しいですよ。だって、デートですから」
「デ!」
「それに、先輩の事を知れて嬉しいです。他に嫌いなものって、ありますか?」
「……油の多い肉。脂っこくて胃が受け付けない。臭みのある魚や肉も苦手だ。レバーは、食べられない」
「あー、分かるかも。俺もホルモンとか、タコとか、イカが苦手です。あと貝」
「え?」
思わずキョトンと見ると、トレヴァーは恥ずかしそうな顔をした。
「貝は砂が入って、ジャリッとするのが」
「騎士団の食堂のは?」
「それは食べれます。俺、騎士団入って一度も貝でジャリッとした事なくて感激ですよ。本当に丁寧に下処理されてて。でも、外では避けます」
「ホルモンとかは、どうしてだ?」
「いつ飲み込んでいいか、分からなくて」
「……え?」
「こう、いつまで噛んで、いつ飲み込めばいいのか分かんなくて飲み込めないまま口に残ってるっていうか」
「あ……」
分かるような、分からないような?
でも、ちょっと親近感だ。何でも美味しく食べるイメージを勝手に抱いていた。トレヴァーでも、嫌いな物はあるんだ。
「キア先輩は、甘い物好きみたいですね」
「ん?」
「デザートのケーキ、美味しいですか?」
「!」
食後のケーキと紅茶を飲んでいる。その様子を観察されていたんだと思うと恥ずかしくて顔が赤くなった。
おそらく宰相府で甘い物が嫌いな者はいないだろう。その筆頭はマーロウだろうが、キアランも嫌いじゃない。食べ過ぎないようにはしているが。シウスもドライフルーツの類いが結構好きだ。
「今度、ケーキ食べに出ませんか?」
「……わかった」
見られているというのは、少し恥ずかしいのかもしれない。
食事を終えて、秋色になる公園を歩いている。空気が冷たくなってきてコートの襟首を上げる。
「寒くなりましたね」
「そうだな。でも、秋は好きだ」
「そうなんですか?」
「色彩が綺麗だ」
空気が澄んで、凛と引き締まっている。彩る葉は黄金に赤に。木の実の茶色も綺麗だと思う。
「キア先輩、秋色似合うと思いますよ」
「え?」
「色が白い分、オレンジとかいいなって。茶色も落ち着いて似合いそうだし」
「そう、か? 地味な色しか持ってないが」
「俺はどうしても体型に合うようにすると、デザインとか二の次で。やっぱり腕が太いんですよね。大きめにするとダボダボして見える」
そんな事を言うが、トレヴァーだってそう不格好ではない。丈は少し長いが。
「丈、直してやろうか?」
「え?」
「俺の実家は縫製工場をしている。俺も小さな頃から一通り教えられてきたから、できるが」
「え!」
言ってから、ちょっと恥ずかしくなった。裁縫が得意な男というのも女々しい気がする。
でも、嬉しそうな顔をされたら今更引っ込めるのも申し訳ない。実際、手を動かす時間は脳のリフレッシュにもなるのだ。
「あの、いいんですか?」
「あぁ、いいぞ」
「嬉しいです!」
「……うん」
嬉しいのはキアランもだ。こんなに喜ばれるなら悪くない。そう思えた。
「キアラン?」
「え?」
その時ふと名を呼ばれて顔を上げると、丁度前からオリヴァーが一人の青年と共に歩いてくる。濃紺の髪の、穏やかそうな青年だ。
「オリヴァー様!」
「トレヴァー? あぁ、なるほどね」
楽しそうな顔をしたオリヴァーを見ると、咄嗟に色々隠したくなる。繋ぎそうな手も離れた。
「それが、貴方のいい人ですか?」
「いや、これは……」
なんて言えばいい。咄嗟に否定的な事を言ってしまって、苦しさが増した。
隣のトレヴァーはどんな顔をしているのか。思って見ていると、わりと平気そうな顔をしていた。
それはそれで傷つく。最初に否定したのはキアランなのに。
「オリヴァー様、違いますよ。親しくはさせてもらってますけれど」
「そうなのですか?」
「はい」
どうしよう、ドンドン痛くなる。咄嗟に隠そうとしたのはキアランだ。でもトレヴァーにこう言われると胸が痛む。
分かっている。否定しようとしたキアランを庇ってくれているんだ。
「あぁ、紹介が遅れました。私の旦那様のアレックスです。アレックス、同期のキアランと後輩のトレヴァー。トレヴァーはランバートの同期です」
「初めまして、アレックスです。オリヴァーがお世話になっています」
「あぁ、いいえ! オリヴァー様にはいつもご指導頂いております」
ぺこりと頭を下げるトレヴァーを見て、煮え切らない思いが増していく。そして気付いたら、ギュッとトレヴァーの腕を掴んでいた。
「キア先輩?」
「……だ」
「え?」
「こいつは、俺の恋人で……その……」
小さな声で反論してみた。その声にトレヴァーは顔を真っ赤にして、オリヴァーはニコニコ笑っていて、アレックスも穏やかな笑みを浮かべた。
「良い相手ですね、キアラン」
「……あぁ」
「二人の時間を邪魔してしまったらしい。申し訳ない、キアラン殿」
「いえ。こちらこそ、挨拶が遅れて申し訳なかった」
顔を見合わせたオリヴァーとアレックスが、穏やかに笑う。そうして過ぎ去っていく彼らを見送って、隣で真っ赤なまま立ち尽くすトレヴァーへと視線を移した。
「お前はいつまでそんなんなんだ」
「いえ、だって……嬉しくて、俺」
ちょっと目を潤ませたトレヴァーを睨んだが、手はずっと彼の服を掴んだままだ。
「トレヴァー」
「はい」
「好き、だ。酒の勢いは借りたが、昨日の言葉は嘘じゃない。それだけはちゃんと、伝えておきたい」
心臓が飛びでそうなほどドキドキしている。でも、ちゃんと伝える事は出来てほっとした。
そうして力が抜けていると、不意に掴まれて人気のない木陰まで引っ張られる。そして人目を気にしながら木に押しつけられて、不意打ちにキスをされた。
「!」
「もっ、ほんと……キア先輩、煽らないでくださいよ」
「べつに、煽った覚えは!」
「俺、本当に困るんですから……」
顔を真っ赤にしたトレヴァーを監察すると、主にどこが困っているのか見た目で分かった。
カッと体が熱くなる。そして焦って、口をパクパクさせた。
「だっ、おま、昨日!」
「分かってますよぉ!」
泣きそうな顔をしながら深呼吸したトレヴァーは、それでも少し周囲を気にしながら歩いていく。その横についたキアランは若い恋人の素直すぎる反応に素直に笑った。
「キア先輩」
「んっ、俺も体力つけないとな」
「え!」
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