恋愛騎士物語4~孤独な騎士のヴァージンロード~

凪瀬夜霧

文字の大きさ
71 / 217
9章:攻め達の妄想初夢

4話:理想は持ってもいいじゃないか!(グリフィス)

しおりを挟む
 新年三日の休みを使って温泉に行こう。
 そう言い出したのはリッツからだった。

「見て見てグリフィス! 浴衣って着やすくてオシャレだな!」

 宿にある浴衣を着てはしゃぐリッツはクルクルと回ってはご機嫌にしている。

「温泉じゃ浴衣は今は普通だな。脱ぎやすくて着やすくて、通気性もいいからな」
「俺、こういう温泉街って来た事がないから知らなかったわ」

 騎士は怪我も多いから、休みを利用して温泉というのは結構ある。グリフィスは若い頃、特に傷が多かった。そのせいで温泉マニアかってくらい温泉は行きまくっていた。

 リッツは白と青の女物の浴衣がどうしても着たいとダダを捏ねて、宿の人にお願いしてグリフィスが着せた。小柄だから似合う。
 一方のグリフィスは黒地にグレーの模様が不規則に入った男物の浴衣だ。股がスカスカなのが少し心許ないが、他は快適だ。

「温泉、あちこち回るんだろ?」
「あぁ」
「それじゃ、行こうか」

 鼻歌でも歌いそうな軽い足取り。浴衣だけじゃ寒いからと羽織を着せて、二人は宿泊先の宿から出た。


 温泉街には土産屋やカフェがつきもの。店先をひやかすリッツはとても楽しそうにグリフィスの少し先を行く。

「ねぇ、これ美味しそう! えっと……マンジュウ?」
「あぁ、東国の甘い菓子だ。美味いぞ」

 手の平に乗るくらいの温泉饅頭は、まだほこほこと湯気を上げている。二つ買ったグリフィスはその一つをリッツに渡し、自分は大きく半分位を食べた。

「甘いの?」
「甘い。でも、クリームとかとは違うな。あんこだ」
「あ、それは俺も食べたことある。王都でも店があるし」

 中身を聞いて安心したのか、リッツはパクンと饅頭を口にする。そして、明るいキャラメル色の瞳をパッと輝かせた。

「美味い!」
「だろ?」
「これ、王都で売れないかな?」

 饅頭を見つつ仕事の顔も見せるリッツを見て、グリフィスは苦笑して頭をワシワシと撫でた。

「わぁぁ!」
「こーら、リッツ。俺と旅行してるってのに仕事の事考えるんじゃねーよ」

 キョトッとした瞳が見上げる。そして次にはちょっと申し訳なさそうに瞳を緩めて笑うリッツがいた。

「うん、ごめん。そうだよな」

 やけに聞き分けがいいリッツは饅頭を更に二つ買って持ち歩きにしてもらい、更に先へと歩き出す。
 そうして到着したのは、誰もが入れる足湯だった。

「うわぁ、ぽかぽかだ。気持ちいいな」
「あぁ」

 浴衣の足元を軽く上げて湯に足をつける。これだけで体が温まってぽかぽかしてくる。
 それにしてもリッツの足は細い。隣りにグリフィスがいるからだが、折れてしまいそうだ。

「もぉ、俺の足ばかりみて。そんなに色っぽい?」
「言ってろよ」
「あっ、酷いな。そんなこと言うと、させてやらないんだからな」

 上目遣いで睨む瞳がちょっと拗ねている。湯で温まってほんのりと色付く頬。ちょっと扇情的で可愛く見える。

「それでお前は耐えられるのか?」

 ほんの少し手を伸ばして内股に触れると、ヒクンとリッツの体が揺れる。そして股座も少し持ち上がった。

「お前、それは……」
「グリフィスが触るからじゃないか! 俺、今はそんなつもりなかったのに。うぅ、恥ずかしいなぁ」

 人がいても欲望をあまり隠さないリッツが、とても恥ずかしそうに頬を染める。潤んだ瞳を反らし、口を尖らせて。
 これは、何か悪い事の前兆なのか? リッツが恥じらいなんて!

 でも、こういうのは以外とくる。思わず大きくなったグリフィスの股間を見て、リッツはギョッとしたあと、可笑しそうに笑った。

「グリフィスもじゃないか」
「あぁ、いやぁ、これは……」

 なんというか、格好がつかなくてたまらない。恥じ隠しに頭をかくと、リッツは妙に嬉しそうな顔をした。

「もう少し、外風呂楽しみたい。宿に戻ってご飯食べたら、沢山サービスしてあげるからね」
「……おう」

 人目のないところでしようとか、今すぐ宿に戻ろうというのではない。恥じらいや控えめな態度とか、そういうものが新鮮だ。

 くすくす笑うリッツの楽しげで、ちょっと子供っぽい笑顔がとても眩しく思えるグリフィスは、そっとリッツの前髪を上げてそこにキスをした。

◇◆◇

 目が覚めると、外は薄ぼんやりと明るくなり始めていた。だがまだ、日の出前だろう。

 辺りを見回すと宿舎のラウンジの床で、あちこちに無残な隊員が転がっている。

「あぁ、そっか。あの後飲み過ぎて沈んだか……」

 軽く頭を振って昨日を思い出す。年末パーティーで盛り上がり、その後年が明けても飲み続けた奴等がここに転がっている。
 リッツとの温泉旅行は、今日の朝出発だ。

 それにしても、悪くない夢だった。仕事からも離れ、少し控えめに旅行を楽しむリッツは子供っぽい顔もしてよかった。あれだと純粋に旅行も楽しいし、日中溜めたムラムラを夜に一気に出せそうだ。

「……ありだな」

 今日の旅行で提案してみよう。旅行は旅行で楽しみ、夜宿に戻ったら眠らせないほど抱く。メリハリもあるし、きっと楽しい。買い食いして、はしゃいで、足湯もやっぱりいい。
 室内露天なら背中を流し合うのも悪くない。

「よっしゃ、軽く酒抜いてからだな」

 立ち上がり、足取り軽くラウンジを後にするグリフィスは今日これからをとても楽しみにするのだった。
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...