恋愛騎士物語4~孤独な騎士のヴァージンロード~

凪瀬夜霧

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9章:攻め達の妄想初夢

5話:素直じゃない(クラウル)

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 ぼんやりと自室にいる。こんな事は新年のみ許されたものだ。
 明日は親戚や実家、ヴィンセントの所に挨拶回りに行く予定だ。そこにゼロスもと誘ってみたが、「どうして俺が行く必要があるんですか?」という素っ気ない返事で却下された。
 クラウルとしてはそろそろ、もう少し先を目指したい。ゼロスは家族への挨拶は不要だと言っていたが、クラウルは反対されるの覚悟でも顔を出しておきたい。大事な息子を貰うのだから、これが筋というものだ。
 そしてもう一つ越えたいのが、話し方と呼び方だ。ゼロスは未だに「様」をつけて呼ぶし、余程頭に血が上らないと敬語をやめない。
 それもいいとは思う。思うが、少し他人行儀に思えて寂しくもある。

 そんな事をモヤモヤ考えていると、不意にノックがされた。

「開いてるぞ」

 声をかけると扉が開いてゼロスが顔を出す。が、その姿に声がなかった。

 丸っこいヒョウ柄の耳に、スラリとしなやかなヒョウ柄の尻尾の先端がゆらゆらしている。まがい物じゃなくて動いているのだ!

「クラウル、まだ着替えてなかったのか? アンタが俺をデートに誘ったのに」
「!」

 クラウルと呼び捨てた。しかも、話し方もランバート達と話している時のように崩れている。

 これは、なんだ? 何が起こっている? 夢か? 夢だな。まずヒョウ耳可愛すぎる。

「ゼロス、その耳……」
「耳? 俺の耳、何かおかしいか?」
「いや、ヒョウ耳」
「? アンタもついてるだろ」

 言われ、暫く無言。その後で自分の耳を触ったクラウルは驚いて鏡の前に立った。

 クラウルの耳も丸っこく、尻尾はしなやかに動いている。黒いが、よく見ると濃淡でヒョウ柄だ。どうやら黒ヒョウらしい。

「どうしたんだ? 酒が残ってるわけじゃないだろ?」
「……あぁ、平気だ」

 理解した、これは夢だ。そうじゃなければ説明がつかない。

 それを理解したうえで、クラウルはゼロスを観察した。真っ直ぐに立った尻尾、こちらへと向いている耳。どうやら機嫌はいいらしい。いつも通りの表情をしているが、いつもよりも好意的なのが尻尾でわかる。

 近づいて行っても警戒なんてされない。そうして抱き込み、クラウルはふにふにと優しく丸い耳を揉んだ。

「なっ! こら!」
「気持ちいいな」

 手に柔らかな毛の感じが気持ちいい。癖になりそうだ。
 耳の根元を優しくマッサージする様にするよ、ゼロスの頬が僅かに上気しはじめる。瞳は気持ち良さそうにトロンと蕩け、手がクラウルの服を握っている。

 素直だ。そして弱点が増えている。耳の先端を甘噛みすると、ゼロスは微かに声を漏らしてプルプルと震えた。

「ゼロス、気持ちいいのか?」
「ちが!」
「尻尾、揺れてるぞ」
「なっ!」

 気持ち良さそうに大きく大きく揺れる尻尾は、ネコ科の動物にとっては機嫌がいい、気持ちいい証だ。
 見る間に顔を赤くし、距離を取って機嫌悪くこちらを睨むが尻尾は揺れたまま。ちぐはぐだが本心が透ける感じはたまらなく可愛い。

「可愛いな」
「だから、そういう酔狂な事を言うのはアンタくらいなんだよ、クラウル」
「そうか? 皆お前の事がわかっていないな」

 まぁ、わからなくていいが。

 近づいていくと身構えても逃げない。本当に嫌なら逃げればいいものを。

 捉まえて、抱き寄せて、そっとキスをする。触れるだけだが、ゼロスの体からゆっくりと力が抜けていくのがわかった。

「デート、しないのか?」
「夕食は食べに出よう」
「……アンタ、ホントずるいよ」

 赤くなりながらも嫌だとは言わない。その背中を撫でて、クラウルはゼロスをベッドへと誘った。
 押し倒し、服を脱がせて現れる体は最初の頃に比べてだいぶ逞しい。最初に抱き合った時もそこそこいい体をしていたが。
 元々、しっかりと筋肉がつくタイプだろう。ランバートのように細いまま柔らかい筋肉が付くタイプではなく、鍛えれば鍛えるほどしっかりとそれが浮き出る。
 割れた腹筋に舌を這わせればヒクリとその部分が動く。最近入念に弄っているから、敏感な体はココを気持ちいいと感じ始めているのだろう。

「そこ、弄らないでくれって言ってるだろっ」
「気持ち良くないか?」
「気持ち良くなったら問題だ!」
「俺は嬉しいんだがな」

 顔が真っ赤で、ビンッと尻尾が立つ。怒ったのかと思いきや、驚いただけ。今はまたふにゃふにゃと揺れている。

「開発、するなっ」

 声を抑えようと手を口元に持って来て睨むゼロスは、それでも隠しきれない荒い息を吐いている。気持ちいいのに抗おうとしている。そういう部分が余計にそそるのだと言ったら、彼はどんな行動に出るのだろうか。
 言う気は無いが。

 少し弄っただけでツンと尖り硬くなり始める乳首は、こいつにとって弱点の一つ。指の腹で押し潰すようにすると反発してくる。胸筋がもう少しついて脂肪もそこにのれば、慎ましいながらも胸ができそうだ。
 感度もいいそこに舌を這わせ丁寧に舐めると、ゼロスは控えめに喘ぎ始める。自然と腰が動いている。

「気持ちいいな」
「くっ」
「腰、動いてるぞ」
「ちが! っ!!」

 パッと目を開けて否定する、その目が潤んでいる。
 これだけ感度のいい体をしていて恥ずかしがり屋とは、鴨葱だ。全てがクラウルの欲を刺激する。元々従順すぎるのは好みじゃない。だからといって抵抗されすぎるのも萎えるが。
 そのてん、ゼロスは本当に程よい。男としての矜持を強く持ってぶれない部分とか、クラウルよりも精神的に強い部分とか。本当に男らしい。そして、可愛い。

 丁寧に全身を撫で、一緒に気持ちのいい胸や昂ぶりに触れる。触られている部分が気持ちいいのか、それとも弱い部分が気持ちいいのか、徐々に頭が錯覚を始める。そのうち、今まで何でもなかった部分が気持ちいいんだと頭が思い込む。開発の基本だ。
 感じやすいゼロスだから、本人が拒んでも体は従順に染まりつつある。

 そうして触れていくと、丁度尻の部分で手が止まる。力が入らない様子の尻尾がだらりと垂れて、それでも揺れている。

 確か、猫はココが気持ちいいはずだ。

「ふあぁぁ! なっ、なにして!!」

 尻尾の根元をふにふにと優しく揉むと、途端に力が抜けたゼロスはトロンとした顔をする。体も力が入らないのかだらんとしている。
 それで後孔を弄ると、簡単に指二本を咥え込んだ。

「こんな、卑怯ぅ!」
「そうかもな」

 別に否定はしない。弱い部分を攻め、蕩けさせて頂く。こういうやり方をするのは確かに卑怯だ。拒めなくして手込めにするんだから。
 それでも欲しいのは飢えているから。ゼロスが欲しくてたまらないから。

 いつも以上に解けるのが早かった。もっと言えば、クラウルを覚えていた。いつものように解せば容易く受け入れ、大きな苦痛もなく準備ができる。ゼロスはこうした自分の体を嫌うが、クラウルとしては嬉しい限りだ。
 当然だ、愛している人が自分の事を体で覚えているのだから。

「ゼロス、いいか?」

 手で顔を隠しているゼロスの潤んだ瞳が僅かに見える。コクンと頷くのを見て、クラウスはゼロスの体をうつ伏せにして腰を持ち上げ、ゆっくりと腰を進めた。

「ふっ、あっ! くっっ!」
「っ!」

 声をあげないよう、ゼロスはいつも息を止める。体に力が入って辛くなるのは彼なのに。
 抵抗のある入口はそれでも飲み込めるまで柔らかくした。だが、奥へと進むには狭い。無理もできるが、相手に苦痛を与えるのは趣味ではない。

 手を伸ばして、口に指を入れてかき混ぜる。口が開けば我慢もできなくて素直に声が漏れる。同時に息もするから少し緩まった。

 ピンと硬い乳首や、芯を持った昂ぶりを握ると快楽に勝てずに力が抜ける。こうしていつも、少しゆっくりと暴いていく。
 尻尾が僅かに丸くなって下がっている。痛いのかもしれない。耳も心なしか元気がない。
 まだ全部収まっていない。クラウルは考えて、尻尾の付け根をクリクリと揉んだ。

「ふぁあ! やっ、あぁぁ!」

 解れていくのと、気持ち良さそうな喘ぎ声は同時。半分ほどだった挿入は一気に根元まで咥え込まれた。

「凄いな、そんなに気持ちいいのか」
「やっ、そこダメだって、言って!」
「気持ちいいんだろ?」

 力は抜けて簡単に挿入できる。だが中はねっとりと絡みつく。いつも以上に気持ちいいのだろう。
 だが、そんなに気持ちいいなら自分も味わってみたい。そう思うのは自然な流れだ。暫く考えて、クラウルは自分の尾が思うままに動く事を確かめてから、ゼロスの尾に絡ませた。

「ふぅ!」
「っ!」

 ゾクゾクっと尾てい骨から背を駆けた快楽に思わず腰が浮く。ただ互いの尾を絡ませただけだ。なのにこんなに気持ちいいとは恐れ入った。
 癖になって腰を進めながら尾を絡ませている。ゼロスはずっと軽くイッている。そういう断続的な、吸い上げるような締めつけが不意打ちでくるものだから時々まずい。気を抜くと出してしまいそうだ。

「ゼロス」
「クラウ、ル」

 首だけでこちらをむくゼロスの唇にキスを。そして、最奥には愛情を注ぐ。欲するように誘い込むからいくらでも出そうだ。
 同時にゼロスの前を軽く刺激したら彼もあっという間に陥落した。ぷるぷると腰が震えているが、耐えきれなくて崩れた。

「はぁ……気持ちよかった」
「こっちは腰が立たない……尻尾は止めてくれって何度も言ってるのにアンタは」
「説教は聞くが、今はこのまま眠りたい」

 後で正座でも何でもする。ただ、今のこの時間に悔いはない。
 ゼロスを抱いて眠るなか、自然と互いの尾を軽く絡ませたまま、クラウルは眠りに落ちていった。

◇◆◇

「…………さま」

 遠くで声がする。肩を揺する手を知っている気がする。

「……ゥル様」

 あぁ、また「様」をつけている。それは不要なのに。

「クラウル様」
「……ゼロス」

 机に突っ伏して眠っていたらしい。体を上げて軽く伸びをすると、ゼロスが呆れたように溜息をついた。

「明日は挨拶回りに行くから、今日は俺と出かけたいと言ったのはクラウル様ですよ」
「……様がついてる。しかも敬語だ」
「は?」

 話がわからないという様子のゼロスを軽く睨んだクラウルは、腕を掴んで引っ張り、噛みつくようなキスをした。
 驚いて目を丸くするゼロスはクラウルの肩に手をついて押しのけようとするが、生憎こいつに負けるほど弱くない。

「ちょっと、どうしたんですか!」

 赤い顔をして睨み付けるゼロスだが、夢の影響か照れ隠しにしか見えない。こちらもまだ寝ぼけているのだろう、まったく遠慮がなかった。

「お前が俺を呼び捨てにしない。いつも様がついたままだ」
「いつも通りではありませんか」
「恋人だぞ。そろそろ、二人の時だけでもやめないか」

 戸惑いの見えるゼロスにまた、噛みつくようにキスをする。現実にはない耳のあった部分を撫で回しながら、譲らないと訴えて。

「ゼロス、どうして嫌なのか理由だけでも聞かせてくれ」
「それは! ……とにかく、嫌です!」
「ゼロス!」
「そんな事言うなら、今日のデートは無しですからね!」

 それを言われると引き下がるしかない。クラウルは溜息をついて要望を取り下げた。

「準備するから、待っていてくれ」

 一度ゼロスを外に出して、クラウルは水差しに手を伸ばす。そこで、サイドボードの上に見た事のあるヒョウ耳カチューシャが置いてあるのに気付いた。

 思いだした。昨日の年末パーティーの余興、ゼロスは初めて当たったらしく獣みみの刑を受けた。
 一度女装させられたランバートはこんなの平気だったらしいが、ゼロスは結構ダメージを食らっていた。
 でも、ヒョウ耳カチューシャが可愛くてたまらず、パーティーもそこそこに連れ込んで、たっぷり夜を楽しんだのだ。

 あの夢はココに影響されたのか。
 思いながら、クラウルはこっそりとヒョウ耳カチューシャをクローゼットの引き出しの中にしまった。

 後でオリヴァーに確認を取って、このカチューシャを買い取ろう。そうしてたまにはこれをつけてもらって楽しもうではないか。

 それにしても惜しい夢に思いを馳せたクラウルは、今年の目標を敬語廃止と敬称禁止に定めたのだった。
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