恋愛騎士物語4~孤独な騎士のヴァージンロード~

凪瀬夜霧

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11章:暗府団長刺傷事件

8話:越えたい夜(ゼロス)

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 クラウルの事件から、なんだかんだで一ヶ月が経った。

 事件は結局、犯人の事故死によって被疑者死亡のまま有罪となった。
 犯人レベッカ・キャラハンは、四人の娼婦と少年一人を殺した罪で有罪。事故死したが、そのあまりに身勝手な言い分だと死刑か、狂ってるとされて一生牢獄から出てこなかっただろうと言われている。
 クラウルを刺したレイも被疑者死亡のまま殺人未遂の罪には問われたが、情状酌量が十分に通るものだろう。
 そしてノアに関しても大した罪にはならなかったはずだ。

 世の中はこの事件をセンセーショナルに書き立てた。過去に起こった娼婦殺しの悪妻が、今度は同じように娼婦を殺したうえに謎の事故死。
 「呪われている」とか「自業自得だ」とか「狂っている」とか言われている。

 クラウルに事故の話をしたら、ただ静かに「そういうものは、間違いなくいるんだろうな」と呟いていた。

 ランバートは二人分の遺骨を持って、案内役にハリーを連れてスノーネルへと向かった。二人であの地に行くと色々思い出すと溜息をつきながらだが、ハリーはついでに兄の墓参りをしてくるそうだ。


 一ヶ月を過ぎてようやく、クラウルは自室へと戻ってきた。抜糸も済んだが、無理をすると傷が開きかねないと口酸っぱくエリオットに言われての帰宅だ。
 今は補助として杖をついているが、それでも危なげはない。本人は「格好がつかないな」と苦笑しているが、わりと似合っているように思う。

「それにしても、暗府の仕事が溜まっているだろうな。明日見るのが怖いが」
「明日から仕事復帰するおつもりですか?」

 身の回りの世話をするために当然のようにゼロスはクラウルの部屋にいる。ベッド回りを整えたり、水差しに水を入れたり。

「急ぎの案件は病室でも見ていたが、もう動けるしな。時間は短くするし、リハビリもあるが、少しずつ。何よりこれ以上仕事をしないと、復帰できなくなってしまいそうだ」

 冗談めかして言うクラウルの声は明るい。その気持ちは分かる。痛みはまだ多少、無理に動いたりするとあるらしいが無事の退院だ。体も動かせるし、何より自分の部屋は落ち着くのだろう。
 だが、ふとこみ上げる言葉をゼロスは飲み込まなかった。

「復帰、しなくてもいいですよ」
「ゼロス?」

 ボソリと呟いた言葉。だが流石クラウルだ、ちゃんと拾って心配そうに近づいてくる。背に触れそうな熱を感じて、ゼロスは振り向いて静かに抱きしめた。

「……正直、怖かったです。貴方が死ぬんじゃないかと」
「ゼロス」
「危険なのは分かりきっていたのに、今更ですよね。でも、またこんな怪我をしたらと思うと……復帰、遅らせて欲しいと思う自分もいます」

 我が儘は言わない。子供みたいな事はしない。あくまで大人な自分を見せていたい。困らせて、嫌われたくはない。そんな想いから言えなかった言葉は沢山ある。
 だが、アシュレーの言葉を聞いて思ったのだ。言わずに募る後悔が多すぎる。このままクラウルを失ったら、この言葉達は全部自分を突き刺すナイフになるんじゃないかと。

 驚いたように見下ろすクラウルは、心配そうにしながらも嫌そうではない。面倒そうではない。それだけで、安心できる。

「今日はやけに、素直だな」
「……もう、色んなものを溜め込むのは止めにしたんです。この世は儚くて、命は短くあっという間だということを、今回身を以て知ったので」

 全部があっという間だ。殺された娼婦達も、レイも、自分が数分後に死ぬ事など考えていただろうか? きっと事切れる寸前まで、明日の事などを考えていたに違いない。
 果たされなかった思いが、約束が、言葉が、想いが、自身の胸に刺さる事をゼロスは知ったのだ。

 不安そうに見下ろすクラウルに手を伸ばし、ゼロスは伸び上がってキスをした。ジワリと伝わる熱さがある。広がっていく愛しさがある。躊躇う、臆病な心がある。
 その全てを伝えた先が見えないが、ゼロスはもう逃げないと誓ったのだ。大事な瞬間に、後悔しないために。

「クラウル様」
「どうした?」
「俺、したいです」

 伝えると、クラウルは困ったように表情を曇らせる。当然だ、そんな激しい運動なんてしたら最悪傷が開く。
 だからこの日を目指して、ゼロスは入念に準備をしてきたのだ。

「俺がします。貴方はただ寝ているだけでいいので」
「だが……」
「お願いします」

 食い下がり、頭を下げようとするゼロスの肩を掴んで頭を上げさせたクラウルは本格的に困っている。
 悩ませているのは申し訳ない。もしもここで断られたら今日は引き下がろう。臆病な自分がまた逃げる。だが、逃げないと決めたゼロスもまた背中を押している。

「クラウル様」

 縋るように見上げたゼロスを見て、クラウルはふっと一つ息をついてベッドへと足を向けた。

 まだ、夜も浅い時間だ。誰かがくれば怪しまれる。分かっているが、止めるきはない。
 さっさと服を脱ぎ捨てたゼロスはクラウルの足の間に身を置いた。ズボンを脱がせ、上はボタンを外してシャツを羽織るだけの格好。黒い瞳が心配そうにこちらを見ている。

「無理しなくてもいいんだぞ」
「無理じゃないので」

 もう何度もシミュレーションをした。そっと昂ぶりを手に取り、頬ずりするように舐める。流石に一ヶ月とまではいかないが、間違いなく数日我慢をしている。脱がせただけである程度硬くなっているのは分かっている。

「んぅ……ふっ」
「これは……けっこうクルな」

 太くて熱い肉棒の先端を舐め、唾液を絡めながら咥え込んで上下に動くと更に硬く脈打つようになってくる。
 鋭さを感じる声が上でして、髪を撫でられる。いい子だと褒めてもらっているような恥ずかしい状態だが、不思議と嫌とは思わなかった。

「どこでそんな舌使いを覚えてくるんだ、ゼロス?」
「あんたが俺にやるんだろ。俺はされた経験はわりとあるが、するのは数えるくらいだ。そしてその全てがアンタに対してだよ」

 何の探りを入れてきたんだ、まったく。こちらは慣れないながらも頑張っているのに。

 ふと動きが止まり、ゼロスはクラウルを上目遣いに見る。驚いた黒い瞳が、揺れている。

「どうした?」
「敬語じゃ、ない」

 呟いて実感したのか、次には嬉しそうな顔をした。たったこれだけの事なのに、単純な事で喜んでいる。

「こんなんで喜んでんじゃ、単純すぎませんかね? クラウル様」

 待たせたのは自分だ。意地になった自分が引いた線が、こんなにもこの人を待たせたんだ。こんな単純な事で嬉しそうにするほど、この人を悩ませたんだ。

 クラウルの準備はもう十分なくらい出来た。ゼロスは立ち上がってサイドボードから香油を取り出す。それをしっかりと纏わせると、躊躇いながらも自ら後孔を解し始める。ここ暫くで慣れた行為だが、見られていると思うと躊躇いや羞恥心がすごい。
 クラウルの方は目を丸くして手を伸ばしてくる。慌てているようにも見える彼の表情が珍しくて、少し笑って伸ばされた手を払った。

「今日は俺がするって、言いましたよ」
「だが!」
「貴方はそこで、大人しくしていてください」

 片手でクラウルの昂ぶりを握り、適度に刺激しつつもう片方は自らの準備をする。想像はしていたがそれ以上に興奮している。すこしボーッとしてくるのは、当てられたからか?

「ゼロス」
「もう、十分です」

 事前準備はしっかりと。後孔を十分に濡らし、更にクラウルの昂ぶりにもしっかり香油を纏わせたゼロスはその上に自らの腰を持っていき、ゆっくりと下ろした。
 流石に少しドキドキはする。いつもはここまでで理性が半分飛んでいるし、クラウルは十分すぎて孔が蕩けるくらい解すから苦痛はない。けれど今回はまだしっかり理性があるし、十分に解せているか分からない。
 しかも完全に、ゼロスが自ら動くなんてのは初めてだ。

 片手で固定した肉杭の上に慎重に場所を定め、ゆっくりと腰を落としていく。濡れて滑るだけで苦痛は少なく、そのかわり腹の底から沸き上がるようにゾクゾクした快楽が這い上がっていく。息を吐いて力を抜いて、馴染ませるように何度か抜き差しを繰り返してしばらくで、ゼロスは全てを飲み込めた。

 痛みはない。だが、異物感と圧迫感で苦しい。楔は熱くて、存在感がある。そこを意識して締めるようにすると、クラウルが低い声で呻いた。

 濡れた、男の顔をしている。ほんの少し上気した肌と、飢えたような目に見られているだけで熱くなる。そういう人を今、ゼロスは抱いている気分だ。

「すごい、絶景」
「それは俺の台詞だ、ゼロス」

 動きたいのを我慢しているのだろうクラウルにニッコリ笑ったゼロスが、ゆっくりと腰を上げる。それだけで腰が抜けそうなくらい気持ちいい。太く長く熱いそれが内襞をズルズルと引っ掻くように抜けていく。これだけでも震えが走る。だがそこに腰を下ろした時は、声を抑えられなかった。
 ゴリッと深い部分を硬い切っ先が抉る。チカチカと眼前に火花が散っている感じがして崩れてしまいそうだ。
 一緒にそこがキュッと締まると、クラウルが切なげに息を詰める。感じている顔や声を聞くと嬉しいのは、やはり惚れているからだ。

「あんた、可愛いよな」

 思わず呟いた言葉に、クラウルは驚いた顔をする。そしてふにゃっと甘い笑みを浮かべる。こういうのが、この人のずるさだ。

「俺にそういう事を言うのはお前だけだぞ、ゼロス」
「ははっ、だろうな……っ! あっ! はぁぁ!」

 揺するように腰を動かして中で微妙に擦ると、ちょうどいい快楽が甘く蕩けさせてくれる。徐々に気持ちよさが溜まっていって、ウズウズしてくる。
 いい感じに理性が蕩けてきた。とてもシラフじゃ言えない事も、言えそうなくらい。

「ゼロス」
「え? あっ! やっ……あぁぁ!」

 大きな手が伸びて、グリッと乳首を押し込む。何もされていないのに簡単に尖っていくそこをされただけでビクビクッと体は震えて一瞬飛んだ。
 ドサリとクラウルの胸元に身を預けたゼロスは、整わない息をどうにかしようと喘いでいる。その背を、クラウルはずっと撫でていてくれた。

「中でイッたな」

 甘やかす手。この手はずるい。心地よくて、ダメだと思っているのに欲しくなるから。

「どうした、ゼロス。何を悩んでいるんだ?」

 穏やかな声で問われ、ゼロスは目を閉じた。そして意地悪に後孔を締めると、クラウルからセクシーな声が漏れる。しっかり熱く大きくなっているのは、お見通しだ。

「……俺は、あんたが好きだ」
「え? あぁ、俺もだ」
「だけど俺はずるくて……臆病だから。ずっと、逃げを用意してた」
「どういうことだ?」
「いつか俺の存在がアンタにとって邪魔になった時。例えば俺がヘマをしてアンタに迷惑かけたり、どっかのお偉いさんから婿養子とかの話が出たとか」
「おい、ゼロス!」
「そういう時、後腐れなく別れて部下と上司に戻れるようにと、ずっと考えてた」

 一気に吐き出した。その時のクラウルの表情は、悲しそうだった。驚きと、苦しさを混ぜた表情に胸が痛む。怒られる事や嫌われる事よりも、この顔を見たくなかったのかもしれない。

「最低だろ? 様をつけていたのも、敬語を崩せなかったのも、俺の逃げなんだ。騎士ゼロスというものしか持たない俺の、越えられない一線だったんだ」
「ゼロスやめ!」
「でも! そんなの上っ面で……半分以上俺の我が儘と意地で……もう何でもない顔で別れるなんて出来ない所にいるってのに、形だけ……挙げ句、アンタの些細な願いを知っていたのに無下にしたまま、失ったかもしれなくて……」

 「いつか名を呼ぼう」「いつか普通に話してみよう」「いつか両親に紹介しよう」「いつか……」
 その「いつか」が、来ない時もある。常に日常があるわけじゃ無いことを知らないと腰が上がらなかった。自分と向き合って、素直になる事もできなかった。
 今だってこういう事に持ち込まないと言えなかった。クラウルをどうしようもなく愛しているんだと実感して、罪悪感に苛まれなければ口が重かった。

 ふと、大きな手が頬を撫でる。その心地よい体温に身を寄せた。

「俺は絶対に、お前を手放す気はないぞ。例え今の仕事を失っても、お前を離す気はない」
「バカ言うなよ……アンタが舵取りしなかった暗府、もの凄く怖かった」
「本気だ。そうでなくてもいつ何があるか分からない仕事だからな、既に後任は育てている。ネイサンに任せても問題ないくらいには育てた」
「そのネイサンが一番ヤバイだろ。あの人、本気でちょっと怖い」

 笑顔に闇が見えるって、どんなんだよ。

 クラウルは低く笑って「まだ青いな」と冗談みたいに言っている。そしてポンポンと、ゼロスの頭を撫でた。

「まぁ、冗談だ。だが、お前を離す気はないというのは、本気だ。お前が嫌がっても、大人の判断で手を離しても、俺は全部を無視してお前だけを取りにいく。今更お前を失うほうが、俺は壊れるぞ」
「……そうか」

 本当に、甘い人だ。アンタの愛を疑うような事をしていたのに、怒らないのか。

「ゼロス」
「ん」
「怪我がちゃんと治ったら、両親のところに挨拶に行きたい」
「はい」
「二人でいる時……せめてこの部屋の中だけは、敬語をやめてほしい」
「善処する」
「……名を、呼んでくれないか?」

 黒い瞳がジッとゼロスを見ている。自分より年上の美丈夫が、ちょっとあざとい目で見ているのだ。可愛い奴なら子犬のおねだりだが、この人がやると大型肉食動物が連想されて似合わない。

「ははっ、似合わない顔しないでくれ、クラウル」

 破顔したゼロスがその勢いのまま名を呼ぶ。途端、噛みつくようなキスに一瞬にして意識を持っていかれた。
 息苦しいくらい深くて、口腔を埋めるような貪るキスは一気に全身に火をつける。求めていたのはこれだと、体が歓喜しているのが分かる。
 入りっぱなしの後孔が意識せずに吸い上げるように蠢いて、クラウルをしっかりと抱きしめている。

「んぅ、はっ……ぁ」
「ゼロス、もう一度キスしたい」
「クラウ、んぅ……っ」

 ビリビリ腰の辺りが痺れて、酸欠からか快楽からか頭の中が白くなる。キスだけしか考えられなくなって、ゼロスからも求めた。

「クラウル、もっ……キス、して欲しい」
「煽るな、ゼロス」

 完全にギラついた獣の目でゼロスを見るクラウルが、深くキスをしながらゼロスの体をひっくり返す。クラウル越しに見えた天井。その眉根が一瞬、痛そうに寄ったのを見過ごさなかった。

「アンタ! バカ、傷が!」
「こんな風に煽られて、大人しく出来るほど人間ができてない!」
「っっ!!」

 両足を抱えられ一気に奥まで突き通すように最奥を抉られたゼロスは真っ白になって飛んだ。頭の中まで痺れた気がする。強く深く埋め込まれた肉杭を必死に抱きしめたまま達している。
 なのに、クラウルは容赦なく最奥をめがけて腰を打ち付けてくる。最初から激しい快楽はゼロスを何度も絶頂へと突き落とし、回復する暇も与えてくれないまま更なる高みへと強制的に押し上げてくる。

「やっ、だ……あぁぁ! く……るぅ! あっ、あっ、んぅぅぅ!」
「ゼロス」
「クラ……ゥル!」

 もう、訳が分からない。頭の中が沸騰したみたいに熱くいて痺れる。体の力が入らない。腹の中が別物みたいに動いている気がする。その中を、熱いものが激しく擦りながら抉り、コツコツと狭い部分をこじ開ける勢いで叩きつけてくる。

「あっ……はい、る……?」
「ここが、気持ちいいだろ?」
「ぐっ! あぁ、嫌……だっ。そこは……クラウル!」

 落とし込まれるような快楽の波に背をしならせて、ゼロスは後ろだけでイッた。締め上げたクラウルのそれが、今までよりもずっと深い部分に熱を注ぎ込んでいく。最後の一滴まで残そうとするように。そしてゼロスもまた、一滴残らず搾り取るように。

 息が吸えない苦しさに口を何度もパクパクさせている。湿り気を帯びた体を互いに抱いて、ゼロスはぐったりと息をつく。大きな体がのし掛かるように脱力するのは苦しいが、クラウルも疲れたのだ。そう思うとこの重みすらも愛しく…………ん?

 ふと背を撫でる手に濡れた感触。汗だと思っていた手を見た時、僅かにそこに赤が……

「って! 傷開いてる!」
「あ……だな。まぁ、自然と塞がる……」
「バカな事言うな! エリオット様!!」

 バカな事を言うクラウルを睨み付け、ゼロスは下を抜け出してガウンを羽織る。事後の余韻もクソもない。

「言えば間違いなく大目玉だぞ。それに、多分表面だけでそんな大げさな……」
「あれだけの大怪我して何の余裕だ!」

 怪我慣れとか、本当に勘弁してもらいたい。

「……俺が悪いから、俺が怒られる。だからアンタはちゃんと診てもらってくれ。アンタに何かあったら俺が不安で眠れないんだ」

 恥ずかしいから顔を見ないで言った言葉。けれど背後で嬉しそうな気配は伝わった。近づいて、抱きしめようと伸ばされる手を避けて、ゼロスはそのまま部屋を出る。そうして怒られる覚悟を決めてエリオットの所へと向かっていった。

◇◆◇

「ほんと、バカですかね貴方。脳外科は担当外ですが……必要ですか?」
「エリオット、怖いぞ」
「部屋に戻した途端に自制きかずにやらかした奴の傷の診察に起きる私の立場を考えてからものを言え」
「本当に、申し訳ありませんでした」

 ご立腹なエリオットはずっと青筋が立っている。
 幸い傷はそれほど開いてはなく、止血と薬、強めのテーピングをされただけで済んだ。

「ゼロス、気持ちは分かりますが駄目ですよ。こいつはファウストと同じで理性が外付けなんです。しかも腕力があって小賢しい」
「エリオット、ちょっと酷くないか?」
「お前には言う資格はない」
「……すまない」

 治療を終え、痛み止めをクラウルに渡したエリオットが溜息をつく。そしてゼロスとクラウル両方を見た。

「それで? 色々と収まり尽きましたか?」

 ドキリとしたゼロスがクラウルを見て、クラウルが困ったように苦笑する。もうそれだけで十分な答えだ。

「はぁ。ほんと、ご馳走様ですね」

 立ち上がったエリオットがヒラヒラと手を振って出て行く。その背を見送ったゼロスは、今度お詫びに甘い物でも差し入れようと心に誓ったのであった。
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