恋愛騎士物語4~孤独な騎士のヴァージンロード~

凪瀬夜霧

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16章:特別な記念日を君に

6話:想いごと抱いて

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 その夜は、なんだかとても静かな夜だった。
 お風呂も済ませて、ランバートはファウストの部屋で今日の余韻に笑っている。その隣ではファウストもまた、楽しそうな笑みを見せてくれる。

「そういえばファウスト、この指輪どんだけ高かったのさ」

 問いかければ、ファウストは首を傾げた。

「これ、イエローダイヤモンドだろ。今とても人気だから、高かったんじゃないのか?」
「そうなのか? 値札見て払えたからそれでよかったんだが。覚えてないな」
「そういう所、あるよな」

 変な所で頓着しないファウストに、お坊ちゃまなのに妙に金銭感覚が庶民なランバートは呆れた顔をする。
 それでも嬉しいのはその通りで、窓から差し込む月明かりに指輪をかざした。キラキラと光を放つ石が、月みたいだった。

「お前に似ていると思ったんだ」
「月みたい?」
「あぁ」
「それじゃ、俺はファウストに夜の指輪を探さないとね」

 黒もいいけれど、夜なら深い紫色もいい。アメジストとかが、きっと似合うと思う。

「結婚指輪は、二人で決めよう」
「勿論」
「気に入ってくれたか?」
「文句なんてあるわけないだろ?」

 見ているだけで幸せになれるのだから、そこに文句なんてあるものか。
 微笑んでしばらくそうして眺めていたランバートは、やがて十分に堪能して指輪を外し、ケースに収めた。

「外すのか?」
「引っかけたら怪我するし、傷がついたら嫌だからね」
「そういうものか?」
「勿論。だから普段もつけないけれど、勘弁な」
「え!」
「傷がつくのは絶対に嫌だ。剣を握るんだから傷つく可能性がでかいだろ。俺、泣くぞ」
「……結婚指輪はもう少し、簡単なものにしよう」
「うん、そうしようね」

 何か反省したらしいファウストが、がっくりと肩を落とす。少し残酷かとも思ったが、これが現実だったりする。

 ソファーに座るファウストの膝の上に横座りしたランバートは、首に手を滑らせてキスをする。沢山の想いを込めたキスはするりと受け入れられ、舌を絡めながらゆっくりと深まっていく。

「明日休みだったら良かったのにな」

 今日が安息日で、明日は普通に仕事だ。それが無ければ思い切りファウストとイチャイチャするのだが。それでも一度くらいはしたいと思っている。

「あぁ、言ってなかったな。明日休みだぞ」
「……え? 誰が?」
「俺とお前が」
「……そこまで、仕組んでた?」
「師団長連中も喜んで代行してくれるそうだ」

 本当に周到に準備がされていたのかと思うと、気づかなかった自分に頭痛がしてくる。色んな感情や問題に内面振り回されていたが、こんなに周囲が動いていたのに全く察していなかっただなんて。

「お互いに、いい仲間を持ったな」

 笑顔で言うファウストに、ランバートも笑って頷いた。

「勿体ないくらいだよ」
「お前は人タラシだからな」
「ファウストもでしょ?」
「さぁ、どうかな?」

 互いに言って、小さく笑って、合間に小さなキスを繰り返して。徐々に気持ちは解れて熱を求めるようになっていく。
 分かっているように、ファウストが胸元に手を差し込んでくる。入浴も終えて互いにローブ姿だから、肌に触れるのは簡単だ。

「んっ」
「気持ちいいか?」
「んっ、とても。もっと触って?」
「あぁ、勿論」

 優しい手が肌の上を滑っていく。剣を握る、指の腹が硬くなった手。手の平にも消える事のない剣タコがある。それらが擦れてアクセントになって、ちょっとずつ淫らな気持ちになっていく。

「はぁ……」

 吐息が漏れて、ブルッと僅かに震える。手は体の隅々まで知っているように、イイ部分を僅かに掠りながら触れてくる。薄らと肌の上を行く熱だけでも、体は期待に興奮していくのを感じた。

「ファウスト、ベッドがいい」
「崩れそうか?」
「んっ。なんか今日、敏感かも」
「俺としては嬉しい事だ」

 こんなエロい事をしているのに爽やかに笑ったファウストが、ランバートを横抱きにする。突然で落ちそうで首に抱きつくと、立派にお姫様抱っこだ。

「恥ずかしい……」

 思わず顔を首筋に埋めて呟くランバートを、ファウストは楽しそうにクツクツと笑う。

「式ではしなかっただろ?」
「ん、そこは助かった。流石に恥ずかしすぎて顔上げられなくなるよ」
「可愛いお前は俺だけの宝物だからな。そう易々と見せるつもりはない」
「え……なにそれ。恥ずかしい。そして独占欲だったの?」
「俺はお前の事については心が狭いぞ」

 言いながら、嫌じゃない自分がいる。ファウストになら独占されたいのだから、本当に困ってしまう。首に抱きついていた腕をもう少し強くして、ランバートは耳元に小さな声で囁いた。

「……ファウストだけな」
「!」

 心なしか足早になり、丁寧にベッドに寝かされる。そうして上に陣取ったファウストは余裕のない、色気ダダ漏れな目をして深くキスをしてくる。熱い舌に捕まって絡められて、それだけで頭の芯が痺れた。

「優しくしたいと思っているんだ、あまり煽らないでくれ」

 本当に困った顔で言うけれど、飢えたような目は隠しきれない。それに普段もそんな乱暴な事なんてしないんだから、安心して任せられる。
 今度はランバートから首に腕を絡めてキスをする。これは、了承という意味で。

「俺、そんなに優しくされなくても平気だよ」

 だって、そんな物欲しそうな顔を見ながらセーブされても、全然気持ちよくなんてないんだから。


 絡まるようなキスを何度もしながら、ファウストは手を這わせていく。確かめるような動きはもどかしくて……そして煽られる。気持ちいい場所である必要はない。肌の全部で「そこじゃない」とか「もう少し上」とか、とにかく落ち着かなく思ってしまう。

「体をくねらせて、誘っているみたいだぞ」
「意地悪して気持ちのいい場所に触らないのはファウストだろ」
「バレてたか。お前がそうして体を捩るのが、俺にはエロく見えるんだ」
「なんか、拗らせた?」
「なに、大したものじゃない。どんな姿のお前も見ていたいというだけだ」
「……今日、恥ずかしい」
「たまには素直に口に出してみたんだが?」
「普段からそんな事思ってたのかよ!」

 知らなかった、とんだむっつりだろ!
 ファウストはクツクツと楽しそうに笑う。ランバートの反応を楽しんでいるみたいに。そういう自然な姿に、どこかホッとした。

「どうした?」
「ん? ファウストが笑ってるの、いいなって思ってさ」
「俺も、お前が嬉しそうに笑ってくれるのを見ると嬉しいと思う」

 ギュッと抱きしめてくれる腕の中で、ランバートは目を閉じた。自分よりも高い体温、心臓の音。甘い、誘うような匂い。五感の全部で感じていると、ドキドキするのに落ち着くという矛盾が発生する。体は期待しているが、気持ちは落ち着くのだ。

「焦らさないで、触ってよ。俺、ファウストに触られるの好きだよ」
「だから……煽るな」

 溜息混じりの言葉は、行動で示される。
 ざらりと硬い指の腹で乳首を強く撫でられる。僅かな引っかかりと感覚に、ジンと感じてしまったのはもう仕方が無い。これだけで甘い息が漏れるのも、仕方が無い。

 ファウストは何度も指で胸を刺激してくる。強い事はせず、撫でたり転がしたり捏ねたりして起立して硬い乳首を愉しんでいる。
 最初こそまだ余裕だったランバートも、徐々に甘い痺れが広がっていって気持ちよくゾクゾクしてくる。赤くぷっくりと膨らむそこは、ファウストにはさぞ美味しそうに見えるだろう。

「さて、どうしようか」
「もっ、今日は意地悪なのかよ」
「ふふっ、お前が可愛い顔をするからついな」
「可愛いってなにさ」
「欲しいと、顔に書いてある。言わせたいと思うのは、ダメか?」

 そんな顔をしていたのかと、顔が熱くなる。だが自重しようにも無理だ。だってもう、欲望のほうが前に出たがっている。

「口が、いい」
「仰せのままに」
「っ! はぁ……」

 望み通り与えられる快楽に腰が痺れた。思わず足の指がシーツを掴んでしまうくらいには、望んでいた。
 ファウストはとてもゆっくりと、丁寧にしてくれる。立ち上がっている周囲も、その中心の硬く尖った部分も舌で絡めて優しく吸って。口でしていない方は指で先をひっかくようにされて。
 完全に感じるようになっている部分が素直に反応する。ジンジンと疼いてたまらない。そして一緒に、腰も揺れてしまう。

 気持ちいいんだから、仕方が無い。ファウストの逞しい筋肉に擦りつけるように腰を揺らしてしまう。先が擦れて、実はとても気持ちがいい。思わず果ててしまいそうだ。

「先に一度イクか?」
「でも……っ!」
「夜は長い。どうせ一度では治まらないんだ、次を長く愉しむ為に」
「……それなら、ファウストも気持ちよくなってほしい」

 自分ばかりが気持ちよくされるのは癪だ。
 ランバートの提案にファウストも頷き、二人で向かい合って座る。ファウストの膝の上に正面を向いて座ったランバートは、二人分の昂ぶりを握りこんで扱き始めた。

 ツッコむばかりで終わる事もあるから、こうして前戯を愉しむのは余裕が無いとできない。勿論時間的な余裕が大きい。
 ヌチッという水音が、手の動きに合わせてしている。ファウストのものはやっぱり立派で、興奮するとランバートのものよりも大きくなる。けれどそれが、いつもとは違う部分に擦れて気持ちいい。

「ランバート」

 濡れた男の声が嬉しい。飢えた黒い瞳は濡れている。薄らと汗をかく肌が手に吸い付いてくる。
 少し伸び上がるようにするファウストが、鎖骨の辺りに歯を引っかける。そして軽く甘噛みして、薄らとついた跡を舌で舐めていく。
 痛いのと気持ちいいのが混ざって、案外好きだ。素直に喉を鳴らすランバートの扱く手を上から包んだファウストが、助けるように動いた。

「あっ、あっ! やっ、気持ちいいっ」
「それでいい」
「俺が、したいのにっ!」
「俺が我慢できないんだ。っ! 気持ちいい」

 こうなると主導権を握られてしまう。次第に、喘ぐしかできなくなってしまう。でも、二人で動くのは好きだ。お互いに求めあっているみたいで。
 ファウストからも気持ちよさそうな低い声が漏れる。吐息のような微かなものだけれど、気持ちいいんだって分かる声。膝に乗って、ほんの少し目線がファウストよりも上で、ランバートはファウストの唇を上から塞いだ。

 気持ちよく頭の中が霞んで、上り詰めるように二人で扱いて触り合って、背筋が震える。吐き出した白濁が二人の手を汚していく。熱くて、ドロリと少し濃いのはお互い様だ。

「ランバート」
「んっ、気持ちよかった?」
「当たり前だ」
「ははっ、良かった」

 笑って、甘えてキスを強請って、軽く求め合って。
 その間にファウストに仰向けにされて足を開かれ、後孔を解されていく。すっかりファウストの形を覚えているそこは、与えられる刺激を求めるように簡単に指の侵入を許している。自分たちが放ったものを塗り込まれて、余計に興奮しているように思う。

「柔らかいな」
「ファウストが弄るからだよ」
「自分で準備はしてないのにな」

 準備なんてしなくたって、あんな風に前戯をされて一度イッてしまったら、体はそれに従おうとする。無駄な力も自然と抜ける。ファウストが与えてくれるものを余すところなく受け入れる準備は出来ている。

 指が増えて、流石に自前のものだけじゃ潤いが足りなくて香油を足して、淫靡な音が微かにしている。これは毎度耳を犯されている気がして恥ずかしい。
 指先が時折気持ちのいい場所を掠めて、それだけで腰が痺れる。腹の中が熱くてジクジクする。

「受け入れ準備は出来ている。という感じだな」
「も……気持ち良くて腹の中が熱い……ファウスト」

 ぬるりと抜けた指。代わりに宛がわれる熱がゆっくりと、柔らかく口を開ける後孔へと侵入してくる。圧倒的な圧迫感に息が漏れて声が出る。痛くはないが、圧迫感はいつもある。腹の中を内側から埋められて、苦しくはある。そして今日はなかなかの質量だ。

「平気か?」
「今日……はぁ……大きくない?」

 多分まだ、全部は入っていない。なのにもう苦しくてたまらない。一緒に、気持ちもいい。

「三分の二といったところか」
「なんか……届きそうっ」

 腹の中がうねっていて、ファウストを締め付けているのを感じる。もう、へその辺りまで来てしまいそうな感じがする。

「特別な日だからな。妙に興奮している」
「結婚初夜とか、俺どうなるわけ?」
「……三日くらい休みを確保する」
「あっ、もう潰されるの前提なんだ」

 まぁ、こちらもそのつもりだとは恥ずかしくて言えなかったけれど。

 ずずっ、と長大なものが腹の中を行き来して、徐々に奥へと向かってくる。内壁を擦られて、その奥にある気持ちのいい部分も刺激されて、先走りが止まらない。下生えまで濡れてしまうくらい透明な液が溢れている。
 ファウストはとても長い時間を掛けてくれる。キスをしたり、乳首を刺激されたり、睦言を交わしたり。そうしてぴったりと全部が埋まる頃には、ランバートは蕩けきった状態だった。

「あ……ふか、い……っっ!」

 ちょっと押し込まれたら、最奥を突きそうだ。そうなったら、既に快楽で霞がかった状態なのにどうなってしまうのだろうか。

 ファウストは少し辛そうに……でも気持ちよさそうに柳眉を寄せる。この顔は好きだ。仕事の時に見せるキツい感じではなく、切なげに眉を寄せ、瞳を濡らす。白い肌が僅かに上気して、逞しい体を汗が伝う。

「慣れたか?」
「んっ……あれだけ長い時間かけられたら、慣れるよ」

 伝えたら、僅かに腹の中から熱源が抜けていく。そして次にはゆっくりと中を擦りながらもう少し深くを突いてくる。甘い痺れが全部に伝わって、ランバートは甘く鳴いた。
 我慢していたのだろうファウストの動きは徐々に確かになっていく。早さも深さも増していく。押し込まれる瞬間、やっぱり最奥にコツコツ当たってその度に軽く飛んだ。目の前がチカチカして、中イキしているのだと分かる快楽と中の締め付けを感じた。感じたところでコントロールはできないが。

「やっ、ファウスト! イッ……深い!」
「悪い、俺も止められないっ!」

 パンッと音がしそうなくらいしっかりと押し込められて、快楽に奥が空いたのかもしれない。苦しいのに酷く気持ち良くて目の前で星が飛んだ。腰が跳ね上がってガクガク震える。腹の中も頭もおかしくなっていく。

「やっ! あっ! あぁぁっ!」
「くっ! ランバート」

 低い声が近くでする。熱いものが深く深くを染め上げる。ガクガクと震えながら、繋がっている部分を意識して、与えられるキスを受け入れて、気持ちよさに目眩がした。
 抜ける時までぐぷっと音がしそうなくらいで、それが気持ち良かったのか完全に抜けきる前にまた腹の中で大きくなっていく。
 意識朦朧状態だけれど、まだ感覚も残っていたランバートはぼんやりとファウストを見上げた。とても恥ずかしそうに、目元を隠している。

「……しようか?」
「だが、限界だろ?」
「話す力残ってるから、大丈夫だよ」
「いや、限界だぞ」

 けれどまだここにあるものは、どうするつもりなのだろう。
 試しに少し力を込めて締め付けたら、ファウストは気持ちよさそうな吐息を漏らす。そして正直な熱源がムクリと大きくなった。

「しようよ、ファウスト。明日休みなんだからさ」
「立てなくなるぞ」
「平気。ファウストが世話してくれるだろ?」

 ぶっ飛んだ頭が戻ってくると、ランバートもまだ欲しい。誘うように笑うと、ファウストは困った顔をする。でも知っている、その困ったような笑みはまんざらでもないって顔だろ?

「お前の世話なら、喜んで」

 甘やかす優しいキスを全身に受けて、ランバートもまた甘えるようにファウストの腕の中で微笑んだ。
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