恋愛騎士物語4~孤独な騎士のヴァージンロード~

凪瀬夜霧

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16章:特別な記念日を君に

5話:プロポーズ

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 目が覚めたのは穏やかな朝の日差しの中。ベッドの中で、隣にはファウストがいて穏やかな笑みを見せてくれる。朝っぱらから妙な色気を感じる表情は毎度だが、どうしても毎回ドキッとはしてしまう。

「おはよう」
「おはよう。起きてたなら起こしてくれてよかったのに」
「気持ちよさそうに寝ていたからな。もったいなかった」

 さらっとこういうことを言うのだ、朝から心臓に悪い。

 起き上がるとファウストも起き上がって水を渡してくれる。受け取って飲み込むと、喉が渇いていたんだと認識させられる。そして徐々に、昨夜の事を思い出した。
 途端に、サーッと血の気が引いた。確かに悩んでいて、それによるストレスからか言いたい愚痴も出てきて、それを飲み込んできた。けれど言うつもりは無かったんだ。

「あの……ファウスト、昨日俺」
「ん? どうした?」
「……色々、言った気がする」

 ごく普通に受けてくれたファウストに小さくなって言うと、ファウストは真剣な顔をして近づいてきてくれた。
 ベッドに腰を下ろして半分だけ乗り上げ……強く抱きしめてくれる。その暖かさに、気持ちが落ち着いてくる。

「言いたかった事、飲み込んでいたんだな」
「アレは、なんていうか!」
「気づいてやれず、すまなかった。不甲斐なくて、すまない」

 真剣な声で伝えられた言葉が染みてくる。背中に手を回して、抱きついた。

「ちゃんと、向き合って行こうと思う。お前にばかり苦労をかけるわけにもいかないからな。自分の事はちゃんと、自分で出来るようになる」
「……俺、我が儘じゃない?」
「我が儘なんかじゃないさ。俺の事で悩ませて、すまなかった。もっとちゃんと、話す時間が必要だとも思った。お前も、言ってくれていい。ちゃんと受け止めるから」
「うん……俺、ファウストとアーサー様はもっと話した方がいいと思ってる」
「あぁ、それも考えた。流石に二人だけで会うと喧嘩になるから、ルカに頼んで少しずつ」
「うん」

 ファウストに持ち上がった問題をどうにかしようと考えて動いて、どうにもならなくて捏ねくり回して、ルカに任せようかとか思う度に「新婚に圧と迷惑かけられない」と悩み、そのうちに色々と小さな不満が出てきて。
 全部言ってしまった。嫌われたくなくて言えなかった言葉があふれ出た。けれどそれで、良かったんだと思ったらスッと胸の中が軽くなった。

「ところでランバート、今日の予定は?」
「ない、けれど……」

 そういえば何時だろうか。気になって時計を見たら九時を過ぎていた。いくら安息日とはいえ寝過ごした感じがして、ちょっと罪悪感だ。

「ごめん、俺だいぶ寝過ごしたんじゃ」
「普段が早すぎるんだ。今日は休みなんだから、このくらいでいい」

 優しいファウストの言葉に首を傾げるも、昨日の事があったから甘やかしてくれるのだろうかとも思う。

「今日の予定がないなら、出かけないか?」
「いいけど、どこ?」
「デート」
「デ……ト」

 妙にドキリとしてしまう。ファウストは楽しそうに笑っている。
 思えばデートなんて、久しぶりだ。最近忙しくて、顔を合わせると仕事の話しが主で、そうでなければ深刻な顔をしていた気がする。
 顔が熱くなっていく。妙に照れてしまうけれど、嬉しいのは確かだ。

「うん、デートしたい」
「よし、決まりだな」
「じゃあ、まずは着替えて……」
「その前に、もう少し俺の時間をくれないか?」
「? うん」

 なんだかとても改まったファウストを前にして、ランバートは首を傾げる。その間にランバートの手を片方取ったファウストは、その手の甲にキスをした。

「ランバート、愛している」
「え?」

 「愛している」は、よく言ってくれる。けれどこんなに改まって言われたことはあまりない。心臓がバクバクいっている。呆然と見ているランバートの前で、ファウストはまるで誓いを立てる騎士のような雰囲気で話し出した。

「俺はお前に苦労をかけっぱなしで、お前に支えられて、気づかされる事も多い。自分の不甲斐なさに嫌気が差すこともある。お前のようないい男を恋人に出来ている事を嬉しく思いながら、愛想を尽かされないかと不安になる」
「そんな事ないよ。俺だってファウストに嫌われないか、ヒヤヒヤする。細かすぎたり、秘密主義だったり、頑固だったり。そう言うの、嫌だよなって」
「嫌う事なんてあり得ない。むしろ俺の方が、お前に捨てられないかヒヤヒヤだ」
「それは俺だって」

 互いに言い合って、きりが無い事を知って、二人して破顔した。だってお互いに好きすぎるのは、ちゃんと伝わっている。どちらがどれだけ相手を好きかなんて、言い合って決着がつく事なんてないんだ。

「俺達、お互い好きすぎるってことだよな」
「あぁ、まったくだ」

 抱き合って、伝わる熱が心地よい。触れる匂いに落ち着く。ここが居場所なんだと教えてくれるのだ、全てで。

 ファウストが僅かに距離を取る。そしてもう一度、ランバートの手の甲にキスを落とした。

「ランバート、俺と結婚してくれないか」
「……え?」

 突然のプロポーズは、どう捉えていいか分からなかった。
 勿論ゆくゆくはと思っていた。ファウストの問題が片付いたらとか。それがあまりに遠く見えて絶望して、疲れたのもある。
 この結婚は、いつの話?

「えっと……結婚って、いつ?」
「今すぐでもいいが」
「だって、問題解決してないよ!」
「だから今は、プロポーズと約束をしたい。俺の心が変わらない事。お前への変わらない愛を誓う」
「……婚約ってこと?」

 伝えると、ファウストは真剣に頷いた。

 心臓がドキドキしている。嬉しい。ほんの少し、皆が羨ましかった。ゼロスが、羨ましかった。何度もこんな話しになって、互いに好意を伝え続けているけれど、はっきりとプロポーズだと言ってくれたのは初めてだ。

 ファウストは大事そうにベッドサイドから綺麗な箱を取り出す。丁寧に開けられた箱の中身を見て、ランバートは驚いて息が苦しくなった。
 プラチナの台座は三日月。その月が、金色の宝石を大事そうに抱えている。まるで月のようなその指輪を見つめたまま、ランバートは目頭が熱くなった。

 優しく笑うファウストを見つめたまま、なんて言えばいいか分からずに口をパクパクさせていると、ファウストはふわりと抱きしめて頭を撫でてくれる。
 ランバートは背中に手を回して、何度も頷いた。

「待たせて悪かった」
「ううん」
「受けてくれるか?」
「勿論!」
「よかった。受けてくれなかったら土下座して頼み込もうかと思っていた」
「そんな事しなくていいよ!」

 安堵したファウストの声と、力の抜けた体。ランバートも泣きながら心から笑った。

 ランバートを誘って立ち上がらせたファウストは、その前に丁寧に膝を折る。そして丁寧に左手を取ると、薬指に指輪をはめた。本当にぴったりとはまった手に、改めてキスをされた。

「ここに、変わらない心を誓う。残りの俺の時間全てを、ランバートに」
「俺も誓う。俺の残りの時間の全部を、ファウストに」

 立ち上がったファウストと向き合って、どちらからともなく抱きしめて、深くキスをした。左手の薬指に指輪を感じて、改めて進んできた道のりを感じて、ランバートはまた少し涙腺が緩んでしまった。

「さて、出かけようか」
「婚約祝い?」
「あぁ」
「それなら、少しいい格好するよ。ランチだけじゃなくて、ディナーもどう?」
「いいな」

 笑ったファウストと一端別れて部屋に戻った。
 そうして改めて、まじまじと受け取った指輪を見てみる。
 本当に綺麗な石だ。しかも結構大きい。透明感があり、中で綺麗に乱反射して、それが黄金色に光っている。吸い込まれるような存在感に思わず見とれてしまう。

「……ん? これ、イエローダイヤモンドじゃ?」

 そうだとするとかなりの高額だ。色味も強く発色がいいし、1カラットはある。まるで強い月のような輝く色をしているのだ。

「……嘘だろ?」

 これ一つで馬が一頭買える値段なんじゃ?

 思ったら、急に外したくなった。こんな高価なもの、つけて歩いて傷でもつけたら大変だ。けれど外したら……間違いなく拗ねる!

「高すぎるよ、ファウスト……」

 がっくり肩を落としながらも、次には笑みがこぼれた。宝石なんてちっとも分からないだろうファウストは、これをどんな顔をして選んでくれたのだろう。驚いたり、引いたりしなかったのだろうか。

「ほんと、素敵な旦那様だよ、ファウスト」

 「月のようだから」とか、そんな理由なんじゃないだろうか。指輪に抱いた第一印象を考えて、ランバートは笑う。それはファウストがランバートにくれる印象と、同じだから。

◇◆◇

 街に出る時は大抵動きやすい簡素な格好が多いけれど、この日はちゃんと整えた。お気に入りのスラックスとジャケットを着て、髪もちゃんと香油をつけて梳いて。
 だって、今日という日は今この時しかない。ファウストがプロポーズしてくれた今日は、特別な日なのだから。

 ファウストもいつもは簡素な格好をするのに、今日はきっちりと整えている。
 そうして二人で、恋人みたいに手を繋いだ。最近は手なんて繋いでなかったのに、近い距離で指を絡めて手を繋いで、二人で笑って街を歩くのはほこほこと気持ちが温かくなった。

 そうしてファウストが向かったのは、西地区の少し古い町。そこはこの都のほぼ真ん中辺りにあった。

「こんな所に店って、あったっけ?」

 覚えが無くて首を傾げた。
 屋敷は小さめだけれど居心地がいい、明るくて穏やかな空気が漂っている。丁寧に管理されていて、小さな前庭には小さな花の咲く垣根が腰の辺りまである。

「今日だけの特別な店だ」

 笑うファウストを見て、流石にランバートも気づく。そして更に、気持ちが一杯になっていく。

「ほら」
「うん」

 手を伸ばされてレンガ畳の道を進んで玄関を開けると、真っ直ぐに奥へと続く大きな道がある。そこには飾られたばかりの花が活けられていて、どれもがとても美しく清楚だ。
 まるで、城のような花。華やかなばかりではなく、花瓶や飾る場所に合わせて飾られている。そういう丁寧な仕事をする人達を知っている。

 二人でその廊下を真っ直ぐに進んでいくと、突き当たりに大きな両開きのドアが見える。その先に、沢山の人の気配が感じられる。

「ねぇ、誰の企画?」
「知らなくていいだろ? 皆、お前を祝いたい奴らだ」
「お礼を言いたいかなって」
「当ててみろ。お前なら分かるはずだ」

 まぁ、なんとなく予想はついているのだが。

 腕を出すファウストの腕に、自然と自分の腕を絡ませて。二人で開けたドアの向こうは、日差しがキラキラと煌めくような世界だった。
 赤い絨毯が真っ直ぐに伸び、その両サイドには花かごを持った同期と団長達、その恋人達が並んで、色とりどりの花びらを撒いてくれる。

「ランバート、誕生日&婚約おめでとう!」

 声をそろえて皆が口にする祝福の言葉が胸に迫って熱くなる。嬉しすぎてなかなか出ない足を、リードしてくれるのは隣にいるファウスト。見つめる黒水晶の瞳を覗き込んで、頷いて一歩を踏み出すそこには、沢山の友人と愛しい人がいる。

「おめでとう!」
「おめでとう!」

 笑い声と花の雨とが降り注いで、優しい匂いを振りまいていく。その道を進みきった先には簡易の祭壇があって、白い衣服を着たシウスが二人を待っていた。

「待て、まずは準備をいたそう」

 シウスが手を上げると、脇からブーケを持ったコナンとルイーズ、その後ろからベールを持ったトレヴァーとキアランが出てくる。

「コナン」
「婚約おめでとう、ランバート!」

 そう言って差し出してくれたブーケは、白バラとアイビーを組み合わせた三日月の形をしたブーケだった。

「クレセントブーケはスタイリッシュでクールな印象がある。お前に似合う」
「ルイーズ様」
「俺達からの贈り物だ。幸せになれ、ランバート」
「はい」

 ふわりと穏やかな視線を向けるルイーズに頷いてブーケを受け取ると、今度は頭にベールが掛けられる。目を向けると、トレヴァーがニコニコと笑っている。

「似合うな、こんな派手なのに」
「ふん、凡人では負ける代物だ。うちの母が面白がって作ったが、誰もがこれを前にたじろぎ負けを認めた。これを脇役に出来る花嫁はそうそうはいないということだ」

 隣に並ぶキアランが頭にベールを止める為の輪をはめる。金で出来たシンプルなものだ。
 ベールは総レースで、全体が花模様で繊細で薄い。長さはランバートの腰を僅かに超えるほどに長くて、その全体にビーズが留められている。優美な曲線とシルエットは厳かでありながら華やかだ。

「こんな立派なもの!」
「人それぞれに相応しい物がある。このベールは長年我が家にしまわれ、一度として日の目を見ていない。このままでは一生暗がりにあったものだ。つけてくれて感謝する。母もこれに見合う花嫁がいると伝えたら、とても喜んでいた」

 綺麗に整えたキアランが、嬉しそうに笑うのを初めて見た。その隣に立つトレヴァーも、穏やかな笑みを見せてくれる。

「さて、これで準備は整った。これより、ランバートとファウストの婚約の儀式を執り行う」

 シウスが厳かな声で宣言すると、その場が静かになる。シウスに向かい並んだランバートとファウストに、シウスは清めの水でその場を清めた。

「これが結婚と言うなら誓いの言葉もあろうが、あくまで婚約。既に誓いは立ててあるであろう」

 シウスに言われ、先ほどのファウストの言葉とか、表情とかを思い出す。途端にカッと顔が熱くなって、少し落ち着かない気分だ。
 こういうとき、ベールが厚ければよかったとも思う。背中を向けている皆には見えていないだろうが、シウスには赤くなっているだろう顔が見えている。だから、笑われた。

「良き誓いだったのだろうの」
「シウス様」
「よいよい、お前はそのくらい平和ぼけしていてくれたほうがよいよ」
「もう、いいですから」
「そうさな」

 小声で交わされる会話。その先を促され、シウスは改めて咳払いをした。

「双方、今後も変わらぬ愛を互いに示し、辛い時も、立ち塞がる試練も越えてゆき、幸せになることを誓うか?」
「誓います」
「誓います」

 ファウストが誓い、ランバートもそれに続く。一瞬合った目が、嬉しそうに笑っている。照れがあって視線をシウスに戻したら、バッチリ見られていて笑われた。

「この場にいる者達を証人として、晴れて二人の婚約は成立するものとする。承認の拍手を」

 会場が割れんばかりの拍手に包まれる。振り向くと、皆が祝福の拍手をくれる。その顔を見るだけで、こみ上げるものがある。
 シウスが場をおさめ、ランバートとファウストを見る。そして一つ大きく頷いた。

「大きな祝福をもって、二人の婚約を認める」

 改めて大きな拍手が送られるなか、ファウストがランバートへと向き合う。つられて向き合ったランバートのベールが上げられる。これが意味する事は分かった。
 まさかここで? 妙な緊張と照れはあったが、拒む気持ちはない。一歩近づきファウストに任せると、そっと触れるキスが唇へと落ちてきた。

 ドキドキする。触れるだけの挨拶みたいなキスなのに、すごく胸の奥がジンジンする。嬉しいとか、幸せだとか、色んな誓いとかが迫ってくる。とても短い時間なのに、とても長く感じる時間だった。

「改めてよろしく、ランバート」
「こちらこそよろしく、ファウスト」

 小さな声で伝え合い、ファウストは思い切り抱きしめる。そのままお姫様抱っこしそうな勢いにランバートがあたふたすると周囲も笑い、厳かな雰囲気は一気に崩れていった。

「さて、祝いには料理も大事だろ? 食べてくれ」
「わぁぁ!」

 白いテーブルクロスを掛けた長テーブルに沢山の色鮮やかな料理が並ぶ。その前に立つジェイクは実に満足げな顔をしている。
 立食形式ということで、各が好きな物を手に取る。野菜のジュレ掛け、オマール海老の白ワインソース、牛ヒレ肉の赤ワインソース煮、ビシソワーズなどなど。とにかく目に鮮やかだ。

「凄い、ジェイクさんが作ったんですか?」

 バカ高そうなベールはとりあえず取って、ランバートはジェイクの側へと行き目を輝かせる。それに対して、ジェイクもまた満足そうだ。

「予算も気にせず好きに作れる事は珍しいからな。楽しかった」

 その隣ではレイバンも頷いて、「一緒に料理出来て楽しかった」と嬉しそうに言う。どうやら二人で料理を作ったらしかった。

「まずはシャンパンなんてどうだい?」
「チェスター!」

 シャンパンのグラスを配り歩くチェスターからグラスを受け取り、それに皆がグラスを合わせる。そうして思い思いの食事が始まった。

 色んな人にお祝いを言われ、料理を楽しみ大いに飲んで。その中でランバートは、おそらく今回の黒幕だろう人物を探していた。
 しばらく会場の中を見回していたランバートは、端の方で静かにしているゼロスを見つけ、そこへと近づいていった。

「ゼロス」
「主役がこんな所にいていいのか?」
「お前が今回の黒幕だろ」
「大いに楽しんだよ」

 楽しげに笑うゼロスと乾杯したランバートは隣に並ぶ。そして、今回色々な事を気にかけてくれた親友へ、伝えきれない程の感謝を述べた。

「有難う。お前のおかげで色々、溜まってたものもスッキリした」
「アレは抱えられないだろ」
「お前ならどうする?」
「……昔の俺なら物わかりのいい奴でいるな。別れるかもしれないし、俺が愛人でいいと言っていたかもしれない」
「今は?」
「譲れない。自分が死ぬかもしれないと思った瞬間まで、俺はあの人でいっぱいだった。これが生きたまま別れるとなれば、絶えられない。クラウル攫って俺も逃げる」
「強いな、ゼロスは」
「お前はどうする?」
「……俺も、ファウスト連れて逃げようかな」
「あぁ、いいと思うぞ」

 そんな不穏な会話をしながらも、二人は笑っていた。冗談を言い合う友人同士のような顔で笑うゼロスに、ランバートは手にしていたブーケを渡した。

「? これは?」
「ブーケトスはないから、俺からお前に祝福」
「祝福?」

 本当に知らない顔で首を傾げるゼロスを笑いながら、ランバートはこのブーケに沢山の思いを詰め込んだ。

「知らないのか? 花嫁からブーケを受け取った人が、次の花嫁になるらしいぞ」
「……えっ」
「俺の事は気にせずさっさと籍入れていいんだからな、ゼロス。俺も十分幸せだ」
「いや、ちょっと……げっ!」

 視線を感じたゼロスがそちらへと顔を向けると、しっかりクラウルと目が合っている。
 これは今夜、離してもらえないかもしれない。ご愁傷様と心の中で言いながらも、幸せならいいだろうとランバートは笑う。

 賑やかで楽しいパーティーはその後夕方くらいまで続き、終始お祝いムードのままだった。
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