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19章:建国祭ラブステップ
11話:ミスコンその後とその結果2
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★リカルド・ビセット編
ミスコンが終わって壇上を降りると、途端に隊員達が近づいてきてぐるりと囲まれてしまった。
「リカルド先生! 俺、なんだか熱っぽいです」
「え?」
「俺は胸が苦しくて」
「あの、それはエリオット先生に……」
「俺は頭がいっぱいで痛いです!」
「それはまた違う先生で……」
どうしたらいいのか分からず、とにかくオロオロしている。近づいてくる隊員は見たところ具合が悪そうには見えない。顔色は普通……というか、むしろ血色が良く思える。
だが、当人達からの訴えを無下にしては医師はできない。
「あの、では医務室に……」
そう言いかけた時、人垣をかき分けてきたチェスターが前に出て、リカルドの胸に飛び込んできた。
「この人は俺のだ! あっち行けよ!」
「!」
もの凄く必死な目をしていて、ギュッと抱きしめてくる腕がとても愛しく思える。開いている背中に触れる手の熱さに、ドキドキしてしまう。
「そんなの決まってないだろ、チェスター!」
「そうだぞ! 先生はみんなのだ!」
「ちがーう! 先生は俺と付き合ってるんだ!」
……そういえば、宿舎の中では彼がリカルドの部屋を訪れるのが常。食事も時間帯が合わないので一緒にはしていない。二人で出かけるときも隊員の少ない時間帯にいつもなる。(前日激しくて早起きができない)
チェスターはなおも必死にしている。柴犬の耳がひょこひょこしていて、とても可愛い。
リカルドは微笑んで、必死なチェスターの顔に触れてやんわりと唇を塞いだ。
「先生!!」
「マジか!!」
周囲がどよめき、頭を抱えて崩れ落ちて涙する者もある。
その中で、腕の中の可愛い柴犬は目をパチパチさせて赤くなっていた。
「はい。私は貴方のものですよ、チェスター」
「……勿論!」
力強い言葉にリカルドは微笑む。そのままチェスターに手を引かれるまま人垣を越えたが、彼らはもうなにも言わずひたすら涙を流していた。
チェスターが連れてきてくれたのは会場を出た所にある休憩スペース。そこは人気もなくて、とてもひっそりとしていた。
「もぉ、やっぱりだ」
「やっぱり?」
「先生の魅力がバレたぁ」
嘆くチェスターが頭を抱えている。柴犬の苦悩、ちょっと可愛い。
「そんなに心配しないでください」
「するよ! さっきの見たでしょ」
心配するチェスターには申し訳無いが、本当に心配なんて無用なのだ。
リカルドはにっこりと笑い、むくれ顔の頬にキスをする。ほんのりと、口紅の跡がついた。
「私は貴方と決めています。それだけは揺るぎません。例えどんな人が私に言い寄っても、私は貴方を選びますから」
「……もう、ずるいよ」
ぽふっと、作り物の胸に顔を埋めるチェスターの頭を撫でている。柔らかい感じの髪が心地よい。
「……似合ってるよ、リカルド。凄く綺麗で、驚いた」
「有難うございます。貴方も似合っていますよ、チェスター」
「先生、飼ってくれる?」
「おや、情けない。そこは一緒に来いくらい言わないと」
「……勿論、それも考えてるよ」
思わぬ言葉に目をパチリ。リカルドの心臓は思ったよりも大きく鳴った。
故郷を追われ、母と二人で人目を避けるように逃げ続け、恩師に出会い、死に別れ。世を捨てるはずだった自分が、もしかしたらまた家族を得られるかもしれない。
こんな忌み嫌われる目を持ちながら、それを知りながら、受け入れてくれる人がいる。
「リカルド? え! リカルドどうして泣くの!」
気づいたら、頬が濡れていた。流れて涙を拭って、リカルドは幸せな笑みを浮かべた。
「貴方が私の恋人で……伴侶で良かった」
失ったものを与えてくれる人が貴方で、良かった……
★シウス・イーヴィルズアイ編
会場に降りてくると、真っ先に出迎えてくれたのは可愛らしいウエディングドレス姿のラウルだった。走ってきて、両手でギュッと抱きついてくる姿など可愛くて仕方が無い。
シウスは受け止め、その頭を柔らかく撫でた。
「シウス、綺麗」
「そうかえ? ふふっ、嬉しいの。其方も綺麗ぞ、ラウル」
オフショルダータイプのドレスには飾り気が少ないが、その分素材が活きている。ほっそりとした肩の華奢さ、腰の細さ、肌の白さが際立って見える。
薄付きの口紅は淡いピンク色で、大きなライトブラウンの瞳が揺れている。
「愛らしくてたまらぬよ、ラウル」
「シウス」
「何か貰えたら、私と共に過ごしてくれるかえ? 其方と二人で過ごす時間を思って、このような催しに出たのだよ」
「勿論です!」
首に抱きつく愛しいラウルに、シウスは優しくキスをする。甘えるように震える腰を引き寄せて、小さな唇を悪戯するように開かせて。
この様子を見ていた周囲の一般隊員は涙を流して拝んだ。あまりに尊い禁断の百合な光景に、男共は免疫が一切無かったがために数人が昇天したという。
「うわぁ……中身どっちも男なのに今は女性同士に見えるよ」
「凄い光景ですよね」
離れて見ていたオスカルが呆れ、エリオットが苦笑する。眩しい光を放ちながら、ラブラブ夫婦は周囲にまったく構うことなく二人の世界を満喫するのであった。
★コナン・オーウェン・マグナンティ編
壇上を降りてくると、すぐにルイーズが待っていた。やんわりと微笑み手を差し伸べてくれる仕草はとても自然でかっこいい。手を乗せると、彼はそのままそっと隣に促してくれた。
「可愛い、コナン」
「本当ですか?」
「あぁ、とても愛らしい。メイクは誰がしたんだい?」
「ランバートが。この服に似合うようにとしてくれました」
「彼か。どうりでセンスがいい」
ルイーズはとても満足げに笑ってくれる。それにコナンも返した。
ルイーズに、喜んでもらいたい。デイジー付きのルイーズとは時間がずれて一日顔を合わせない事もある。そんな夜はなんだか寂しくて、二人の部屋で布団を引き寄せて眠っている。
二人の時間が欲しかった。他の誰かや何かに邪魔をされない時間。
でも、コナンだってそんなに余裕があるわけではない。ルイーズを大衆食堂に連れていくわけにもいかず、たまには高級なお店をと思っていた時に、これを見つけたのだ。
「ルイーズ」
「どうした?」
「あの……今日はこのまま、その……」
抱いてください。
その言葉が出てこなくて口ごもってしまう。
けれどルイーズは心得ているのかフッと笑い、コナンの手に唇を寄せた。
「勿論、このままの君と過ごしたい。明日は皆休みだから、いくらでも朝寝坊ができる」
「!」
「今夜はとても楽しくなるよ。準備は出来ているかい?」
「! はい!」
勿論、外も中もこの人の為にピカピカに磨き上げてきた。
コナンは夫と過ごす夜を期待し、満面の笑みを浮かべた。
★ベリアンス・ヴァイツ編
壇上から降りてくると直ぐに、アルフォンスがいることに気づいた。
やっぱり、目はとても怒っているように見える。それを直視することが出来ずに、ベリアンスは顔を俯けた。
「ベリアンス」
「あの……」
「……少し、話をしよう」
「……(こくん)」
手を引かれ、いったん会場の外に出て、連れてこられたのはベリアンスの部屋。ドアを開けるとアルフォンスはベリアンスをベッドに座らせ、正面からギュッと抱きしめた。
「!」
「心配をさせないでくれ」
とても苦しそうに言われて、怒られると思った時よりも胸が痛んだ。こみ上げるような感情に言葉が詰まって出てこなくて、ベリアンスは代わりにアルフォンスの背中を握った。
「今はまだ、誰も君の魅力に気づいていなかった。隊の仲間として受け入れられていく姿は穏やかに見守っていられる。だが……欲を向けられる君を見守る事はできないんだ」
逞しい腕が離さないようにと強く抱きしめてくる。思いが流れてくると、ベリアンスも苦しくなってくる。未だに不可解な恋愛という感情は、ベリアンスをいつも押し流そうとする。
「男として、器の小ささを見せるようで恥ずかしいが、だが……俺は君を誰にも渡したくはないんだ。色目で見られることすら、許せなくなってしまいそうなんだ」
「すまない、アルフォンス。俺は……」
優しい恋人が、悲しんでいる。
けれどベリアンスだってこの大会に出ることには悩んだ。そして、確かな思いがあったのだ。
伝えなければいけないと思った。ちゃんと話せば分かってくれると信じている。
ベリアンスは背中の手を離して、アルフォンスを真っ直ぐに見た。
「俺は、この大会に出たかったんだ」
「どうしてだい?」
「……一緒に、でかけられるようになったのは、嬉しい。だが俺は何も持たない。全てをアルフォンスに払わせてしまう事が、心苦しくてたまらなかった」
素直に伝えると、アルフォンスはとても驚いた顔をして、その後は少し俯いた。
「お前の優しさは知っている。気にするなと言うのかもしれない。けれど俺は! 俺は、心苦しいんだ。受けてばかりだから、返したいと思う。一方的に与えられるばかりでは、いけないとも思う。だから今回、この手でつかみ取ったものをアルフォンスに贈りたかったんだ」
胸元に縋るように腕を伸ばして掴んだ。その顔を見上げると、アルフォンスはどこか申し訳なさそうな顔をする。
何か、この想いは間違いだったのだろうか。受けたものを返したいというのは、ダメなのだろうか。
困惑が広がっていくようで不安で、ひどく気持ちが落ち込んでいく。気持ちに振り回されるというのはこんなにも難しくて、疲れるのだろうか。不安に押しつぶされそうになるのだろうか。
恋はそれほどに、難しいのだろうか。
「……すまない、勝手をして。迷惑」
「違う! あっ、すまない。大きな声を出して」
顔を上げたアルフォンスが狼狽えて見える。見たことのない姿に目をパチパチとしていると、彼はなんだか恥ずかしそうに笑った。
「いや、ほどほど自分の小ささを知ったというか。情けない気持ちになってしまった」
「情けない? アルフォンスはいつも俺を助けてくれて、大人で、情けない事などない」
「……そんな事はない。現に俺は、君のそうした気持ちに気づいてやれなかった。合図は送っていただろうに、受け取れていなかった」
ベリアンスは首を傾げる。合図を、送っていただろうか。自分でもよく分からない。
「俺は、君と過ごす時間を楽しんでいた。俺が全てを出す事に……一方的に与え続ける事に疑問も持たなかったし、当然だと思っていた。いつの間にか、君の上に立って物事を進めていたのかもしれない」
「俺もアルフォンスと過ごす時間は楽しかったんだ! ふと……考えてしまっただけで」
「隣にと、思ってくれているからだろ?」
「あ……」
言われて、するすると絡まったものが解けていく。
隣にいたい。背中を見るのではなくて、触れる位置で、手を握って、同じ歩調で歩いていきたい。だから、全てを委ねられなかったのだろうか。
アルフォンスが申し訳無く微笑む。ベリアンスも、微笑んだ。
「何を、狙ったんだい?」
「オペラを、また見たい」
「あぁ、いいな」
「取れなかったら、申し訳無い」
「そのうち、仕事を任されるだろ?」
「知っているのか? その予定らしい」
「取れなかったら予定は延期して、二人で行こう。隣に、いてくれるか?」
その意味を、ベリアンスは正しく受け取る。ベリアンスも自分で得たものを持って、ちゃんと二人で、気を遣うのではない関係で隣にいよう。そう、言ってくれるのだ。
「アルフォンス!」
「おっと」
「浅はかですまなかった。そして、これからもお願いしたい。恋人になって一年が過ぎる今日この日を、二人で過ごしたい」
記念の日を、忘れられない日をアルフォンスと一緒にいたい。その為のプレゼントが欲しかったんだ。
「そうか、もうそんなに経つんだな。一年、過ぎたのか」
アルフォンスは穏やかに笑い、頷く。そしてベリアンスの頭を包むように抱きしめる。心臓の音がとても近くに聞こえる。それが心地よくて、身を任せている。
自然な動きで大きな手が頬を包んで、上向いて受けるキスの心地よさ。このまま全て委ねてしまいたくなる。
「さぁ、結果を見届けよう。ベリアンス、側にいてくれるかい?」
「勿論だ」
当然のように延べられる手を嬉しく思う。取って、繋いだこの熱がいつまでもここにあるようにと、ベリアンスは願った。
★ランバート・ヒッテルスバッハ編
ランバートがステージを降りると、隊員達はちょっと静かになった。
あくまで聖女のような気持ちで、慈悲に満ちた表情のまま静かに歩を進める。すると隊員達は無言のまま道を譲り、ランバートが行く先が割れていった。
見つけたのはソファーに座っているゼロスと、他の仲間達。そこまで進みゼロスの前に出ると、彼は苦笑した。
「お前もよくやるよな」
「似合うだろ?」
ニッと笑うと空気が崩れる。途端にシスターの仮面は剥がれ、コスプレ感が強くなった。
「お疲れ、ランバート」
「美人すぎて笑えないよ」
「レイバンもボリスも似合うと思うけれど」
「当たり前じゃん。でも、俺の女装はジェイさんだけに見せるんだ」
「俺は勘弁だよ」
ニヤリと笑うレイバンの側に立つジェイクが僅かに眉を寄せる。おそらくそういう需要はないのだろう。
ボリスは嫌そうな顔だ。顔的には化けるとは思うのだが。
「ゼロス、大丈夫か? なんか大変な事になったみたいだな」
未だ衝撃が大きそうなゼロスは苦笑するばかりだ。まさか人前で告白され、しかも意図せず公開処刑を食らうとは。
……なんだか人ごとじゃないな。
「ゼロスは後輩にモテモテだからね」
「おい!」
「知らないの? ゼロス先輩に恋人はいるのか? っていうの、けっこう聞くよ」
「なに?」
「!」
背後からする声はクラウルのもので、ゼロスはビクリと震える。一方のクラウルは威嚇しそうな表情だ。
「いや、俺達もやんわりといる事は伝えてますよ! ……噂の域を出なくて」
「相手がクラウル様らしいというのも、どこか信憑性がないのか……」
コンラッドとハリーが慌てて言う。それでもクラウルは眉を寄せている。かなり心配している様子だ。
「もう一度キス」
「!」
「それをしたら確実にここで説教を食らうぞ」
クラウルの隣にいるファウストが苦笑して、ランバートの隣にやってくる。そしてふわりとベールの上から頭を撫でた。
「お疲れ」
「あれ? 余裕だねファウスト」
ランバートは首を傾げる。
これは、ファウストを誘惑するために選んだのだ。タイトで、隠れているからこそのエロさがある。視線も全部ファウストを意識したのに。
少し残念そうにすると、ファウストが予想外に手に力を込める。ほんの少し痛いくらいの力で、見上げるともの凄く睨まれた。
「そう思うか?」
「あ…………やせ我慢か」
「部屋に戻ったら覚えてろよ」
憎たらしいと言わんばかりの声音と目に、ランバートは思い切り笑う。何せ軍神様が女装一つで大ダメージだ。体を折って笑うと、ファウストは憎らしそうにそっぽを向いた。
「ランバート楽しそう」
「ファウスト様、案外苦労してるんだな」
周囲がそんな事を漏らし、ゼロスまで苦笑している。
ランバートは悪戯に微笑み、そっとファウストの首に腕を回し滑らかな頬に唇を寄せた。
「!」
「拗ねないでよ、旦那様?」
「おま! あぁ……くそっ!」
「あははははっ」
くしゃくしゃと髪をかくファウストの下半身がちょっと大変そうなのをランバートは見逃さない。だからこそ前に立って隠していると、首に腕が回って肩にコツンと頭が置かれた。
「潰すからな」
「分かってるよ」
今夜はとても楽しくて、そして激しい夜になりそうだった。
★結果発表
再びオリヴァーが舞台に上がり、後ろには景品を持ったグリフィスが立つ。それに気づいた隊員達の声が自然と静まり、視線が集まった。
「皆様、お待たせいたしました。集計結果が出ましたので、これよりミスコンの表彰式を行います。出場者の皆様はお集まりください」
呼び集められた九人の出場者が登壇し、オリヴァーの後ろに立った。
「なお、出場者の一人でありますディーンは既に恋人という賞金を手にしましたので、棄権となります」
本懐はとげられた! by.ディーン
気を取り直したオリヴァーが集計結果の書かれた紙を手にする。そして、よく通る声で順位発表を開始した。
「それでは、順位発表を行います! 第九位、ミック!」
名前を呼ばれたミックが、少し恥ずかしそうに前に一歩出て丁寧に一礼すると、会場からは大きな拍手が贈られた。
「普通に綺麗なのですが、他の出場者のインパクトに埋もれてしまった感じですね」
「冷静な解説いりませんよ、オリヴァー様!」
ミックの声に、会場がドッと笑った。
「続きまして第八位! コリー!」
「えー!」
コリーは予想よりも順位が低かった事に不満そうな声を上げるが、前に出て皆の前で手を振った。
「以外とショタ系が多かったので。でも、数枚投票用紙にメッセージが書き添えられていましたよ」
「うぇ! いらないよ!!」
コリーはドン引きし、会場からは「コリーちゃん!」の野太い声が上がった。
「続きまして第七位! ダレン!」
黒い女王様が相変わらずの無表情で前に出て、軽く会釈をする。
「なお、彼は料理府の二班所属です。皆さん、彼の手がけた料理が食べられますよ」
「マジか!!」
いや、今までも食べていると思う。
ダレンは思ったが、それは一切声にも表情にもならなかった。
「続きまして上位入賞をギリギリ逃しました、第六位! ユーイン!」
「俺の妹!!」
野太い声に怯えながらも、ユーインが前に出て小さく頭を下げる。それすらも会場は湧いた。
「五位とはなんと五票差でした。そこで、健闘した彼に急遽特別賞を用意いたしました」
そう言ったオリヴァーの声で、控えていたウルバスが手に少し大きめの箱を持ってくる。綺麗にリボンが掛けられたそれは片手で持つには大きく重そうだった。
「ショコラトリー『La lune』の、ボンボンショコラの詰め合わせです」
「わぁ!」
小柄なユーインが箱を受け取ると余計に大きく見える。木製の箱は宝石箱のようで、それだけでも高級感が漂っている。
「私の秘蔵です。楽しんでくださいね」
「? 有難うございます」
素直に頭を下げて下がったユーインに、再度惜しみない拍手が贈られた。
「では、上位入賞者発表です! 第五位、リカルド先生!」
わー!! と声が上がり、リカルドは一礼する。オリヴァーが手に室内楽鑑賞券を持って近づき、直接手渡した。
「彼と楽しんできてくださいね」
「!!」
「はい、勿論です」
リカルドに恋人がいるとはまだ知らない隊員達がざわめき、リカルドはにっこりと微笑んで皆に改めて一礼した。
「続いて四位! ベリアンス!」
「!!」
驚いた顔をするベリアンスがおずおずと前に出る。オペラ鑑賞券の封筒を受け取ったベリアンスの視線はアルフォンスへ。その視線を追った一般隊員の目もアルフォンスへ。そしてその視線を受けたアルフォンスは全てを肯定するように頷いて、穏やかに微笑んで見せた。
「うあぁぁぁ、こっちも恋人持ちかぁぁぁ」
一般隊員達の心からの叫びにベリアンスはビクリとし、オリヴァーは楽しげに笑った。
「続きまして三位! ショタ票を集めましたね。コナン!」
前に出てきたコナンは顔をほんのりと赤くしている。惜しみない拍手が贈られ、賞金としてレストランの食事券が贈られる。それをギュッと抱きしめるコナンを見た会場の隊員達が、改めて「おぉぉぉ!」という声を漏らした。
「さて、残るはグランプリと準グランプリです」
視線がシウスとランバートへと注がれる。その中で、オリヴァーは順位を発表した。
「第一回騎士団ミスコンテスト、栄えある準グランプリは…………シウス様!」
わー!! と割れんばかりの拍手が響く中、シウスは少し驚きながら前に出る。
「最年長にもかかわらずこの美しさですからね。いやぁ、恐ろしいです」
「うるさいぞオリヴァー。まぁ……悪い気はせぬな」
賞金である温泉旅行を手にしたシウスは笑みを隊員達に満面の笑みを見せて一礼した。
「さて、もうおわかりですね? ミスコンテスト、グランプリは……ランバート!」
「わぁぁぁ!!」
歓声と指笛とが入り交じる騒々しい中、進み出たランバートはロザリオを手に祈りの形を作る。それにも会場は湧いた。
「賞金はスキー旅行です。そして、ランバートはこれにて殿堂入りとし、次回からの参加はご遠慮願います」
「え!!!」
会場から湧き上がるブーイング。だがオリヴァーは苦笑した。
「声色まで変えられる人が出場しては、結果は圧勝ですからね。暗府からも物言いがつきますので、殿堂入りとさせて頂きます。いいですね、ランバート?」
「勿論構いませんよ」
ランバートはウェインに恩返しができればいいのだから、今後出るつもりはない。にっこり快諾したランバートに再び拍手が贈られる。
出場者全員が前に出て、隊員達へ一礼するとこれにて年末パーティーはお終い。
年が明けた事を伝える盛大な花火が、夜の空を華々しく彩った。
ミスコンが終わって壇上を降りると、途端に隊員達が近づいてきてぐるりと囲まれてしまった。
「リカルド先生! 俺、なんだか熱っぽいです」
「え?」
「俺は胸が苦しくて」
「あの、それはエリオット先生に……」
「俺は頭がいっぱいで痛いです!」
「それはまた違う先生で……」
どうしたらいいのか分からず、とにかくオロオロしている。近づいてくる隊員は見たところ具合が悪そうには見えない。顔色は普通……というか、むしろ血色が良く思える。
だが、当人達からの訴えを無下にしては医師はできない。
「あの、では医務室に……」
そう言いかけた時、人垣をかき分けてきたチェスターが前に出て、リカルドの胸に飛び込んできた。
「この人は俺のだ! あっち行けよ!」
「!」
もの凄く必死な目をしていて、ギュッと抱きしめてくる腕がとても愛しく思える。開いている背中に触れる手の熱さに、ドキドキしてしまう。
「そんなの決まってないだろ、チェスター!」
「そうだぞ! 先生はみんなのだ!」
「ちがーう! 先生は俺と付き合ってるんだ!」
……そういえば、宿舎の中では彼がリカルドの部屋を訪れるのが常。食事も時間帯が合わないので一緒にはしていない。二人で出かけるときも隊員の少ない時間帯にいつもなる。(前日激しくて早起きができない)
チェスターはなおも必死にしている。柴犬の耳がひょこひょこしていて、とても可愛い。
リカルドは微笑んで、必死なチェスターの顔に触れてやんわりと唇を塞いだ。
「先生!!」
「マジか!!」
周囲がどよめき、頭を抱えて崩れ落ちて涙する者もある。
その中で、腕の中の可愛い柴犬は目をパチパチさせて赤くなっていた。
「はい。私は貴方のものですよ、チェスター」
「……勿論!」
力強い言葉にリカルドは微笑む。そのままチェスターに手を引かれるまま人垣を越えたが、彼らはもうなにも言わずひたすら涙を流していた。
チェスターが連れてきてくれたのは会場を出た所にある休憩スペース。そこは人気もなくて、とてもひっそりとしていた。
「もぉ、やっぱりだ」
「やっぱり?」
「先生の魅力がバレたぁ」
嘆くチェスターが頭を抱えている。柴犬の苦悩、ちょっと可愛い。
「そんなに心配しないでください」
「するよ! さっきの見たでしょ」
心配するチェスターには申し訳無いが、本当に心配なんて無用なのだ。
リカルドはにっこりと笑い、むくれ顔の頬にキスをする。ほんのりと、口紅の跡がついた。
「私は貴方と決めています。それだけは揺るぎません。例えどんな人が私に言い寄っても、私は貴方を選びますから」
「……もう、ずるいよ」
ぽふっと、作り物の胸に顔を埋めるチェスターの頭を撫でている。柔らかい感じの髪が心地よい。
「……似合ってるよ、リカルド。凄く綺麗で、驚いた」
「有難うございます。貴方も似合っていますよ、チェスター」
「先生、飼ってくれる?」
「おや、情けない。そこは一緒に来いくらい言わないと」
「……勿論、それも考えてるよ」
思わぬ言葉に目をパチリ。リカルドの心臓は思ったよりも大きく鳴った。
故郷を追われ、母と二人で人目を避けるように逃げ続け、恩師に出会い、死に別れ。世を捨てるはずだった自分が、もしかしたらまた家族を得られるかもしれない。
こんな忌み嫌われる目を持ちながら、それを知りながら、受け入れてくれる人がいる。
「リカルド? え! リカルドどうして泣くの!」
気づいたら、頬が濡れていた。流れて涙を拭って、リカルドは幸せな笑みを浮かべた。
「貴方が私の恋人で……伴侶で良かった」
失ったものを与えてくれる人が貴方で、良かった……
★シウス・イーヴィルズアイ編
会場に降りてくると、真っ先に出迎えてくれたのは可愛らしいウエディングドレス姿のラウルだった。走ってきて、両手でギュッと抱きついてくる姿など可愛くて仕方が無い。
シウスは受け止め、その頭を柔らかく撫でた。
「シウス、綺麗」
「そうかえ? ふふっ、嬉しいの。其方も綺麗ぞ、ラウル」
オフショルダータイプのドレスには飾り気が少ないが、その分素材が活きている。ほっそりとした肩の華奢さ、腰の細さ、肌の白さが際立って見える。
薄付きの口紅は淡いピンク色で、大きなライトブラウンの瞳が揺れている。
「愛らしくてたまらぬよ、ラウル」
「シウス」
「何か貰えたら、私と共に過ごしてくれるかえ? 其方と二人で過ごす時間を思って、このような催しに出たのだよ」
「勿論です!」
首に抱きつく愛しいラウルに、シウスは優しくキスをする。甘えるように震える腰を引き寄せて、小さな唇を悪戯するように開かせて。
この様子を見ていた周囲の一般隊員は涙を流して拝んだ。あまりに尊い禁断の百合な光景に、男共は免疫が一切無かったがために数人が昇天したという。
「うわぁ……中身どっちも男なのに今は女性同士に見えるよ」
「凄い光景ですよね」
離れて見ていたオスカルが呆れ、エリオットが苦笑する。眩しい光を放ちながら、ラブラブ夫婦は周囲にまったく構うことなく二人の世界を満喫するのであった。
★コナン・オーウェン・マグナンティ編
壇上を降りてくると、すぐにルイーズが待っていた。やんわりと微笑み手を差し伸べてくれる仕草はとても自然でかっこいい。手を乗せると、彼はそのままそっと隣に促してくれた。
「可愛い、コナン」
「本当ですか?」
「あぁ、とても愛らしい。メイクは誰がしたんだい?」
「ランバートが。この服に似合うようにとしてくれました」
「彼か。どうりでセンスがいい」
ルイーズはとても満足げに笑ってくれる。それにコナンも返した。
ルイーズに、喜んでもらいたい。デイジー付きのルイーズとは時間がずれて一日顔を合わせない事もある。そんな夜はなんだか寂しくて、二人の部屋で布団を引き寄せて眠っている。
二人の時間が欲しかった。他の誰かや何かに邪魔をされない時間。
でも、コナンだってそんなに余裕があるわけではない。ルイーズを大衆食堂に連れていくわけにもいかず、たまには高級なお店をと思っていた時に、これを見つけたのだ。
「ルイーズ」
「どうした?」
「あの……今日はこのまま、その……」
抱いてください。
その言葉が出てこなくて口ごもってしまう。
けれどルイーズは心得ているのかフッと笑い、コナンの手に唇を寄せた。
「勿論、このままの君と過ごしたい。明日は皆休みだから、いくらでも朝寝坊ができる」
「!」
「今夜はとても楽しくなるよ。準備は出来ているかい?」
「! はい!」
勿論、外も中もこの人の為にピカピカに磨き上げてきた。
コナンは夫と過ごす夜を期待し、満面の笑みを浮かべた。
★ベリアンス・ヴァイツ編
壇上から降りてくると直ぐに、アルフォンスがいることに気づいた。
やっぱり、目はとても怒っているように見える。それを直視することが出来ずに、ベリアンスは顔を俯けた。
「ベリアンス」
「あの……」
「……少し、話をしよう」
「……(こくん)」
手を引かれ、いったん会場の外に出て、連れてこられたのはベリアンスの部屋。ドアを開けるとアルフォンスはベリアンスをベッドに座らせ、正面からギュッと抱きしめた。
「!」
「心配をさせないでくれ」
とても苦しそうに言われて、怒られると思った時よりも胸が痛んだ。こみ上げるような感情に言葉が詰まって出てこなくて、ベリアンスは代わりにアルフォンスの背中を握った。
「今はまだ、誰も君の魅力に気づいていなかった。隊の仲間として受け入れられていく姿は穏やかに見守っていられる。だが……欲を向けられる君を見守る事はできないんだ」
逞しい腕が離さないようにと強く抱きしめてくる。思いが流れてくると、ベリアンスも苦しくなってくる。未だに不可解な恋愛という感情は、ベリアンスをいつも押し流そうとする。
「男として、器の小ささを見せるようで恥ずかしいが、だが……俺は君を誰にも渡したくはないんだ。色目で見られることすら、許せなくなってしまいそうなんだ」
「すまない、アルフォンス。俺は……」
優しい恋人が、悲しんでいる。
けれどベリアンスだってこの大会に出ることには悩んだ。そして、確かな思いがあったのだ。
伝えなければいけないと思った。ちゃんと話せば分かってくれると信じている。
ベリアンスは背中の手を離して、アルフォンスを真っ直ぐに見た。
「俺は、この大会に出たかったんだ」
「どうしてだい?」
「……一緒に、でかけられるようになったのは、嬉しい。だが俺は何も持たない。全てをアルフォンスに払わせてしまう事が、心苦しくてたまらなかった」
素直に伝えると、アルフォンスはとても驚いた顔をして、その後は少し俯いた。
「お前の優しさは知っている。気にするなと言うのかもしれない。けれど俺は! 俺は、心苦しいんだ。受けてばかりだから、返したいと思う。一方的に与えられるばかりでは、いけないとも思う。だから今回、この手でつかみ取ったものをアルフォンスに贈りたかったんだ」
胸元に縋るように腕を伸ばして掴んだ。その顔を見上げると、アルフォンスはどこか申し訳なさそうな顔をする。
何か、この想いは間違いだったのだろうか。受けたものを返したいというのは、ダメなのだろうか。
困惑が広がっていくようで不安で、ひどく気持ちが落ち込んでいく。気持ちに振り回されるというのはこんなにも難しくて、疲れるのだろうか。不安に押しつぶされそうになるのだろうか。
恋はそれほどに、難しいのだろうか。
「……すまない、勝手をして。迷惑」
「違う! あっ、すまない。大きな声を出して」
顔を上げたアルフォンスが狼狽えて見える。見たことのない姿に目をパチパチとしていると、彼はなんだか恥ずかしそうに笑った。
「いや、ほどほど自分の小ささを知ったというか。情けない気持ちになってしまった」
「情けない? アルフォンスはいつも俺を助けてくれて、大人で、情けない事などない」
「……そんな事はない。現に俺は、君のそうした気持ちに気づいてやれなかった。合図は送っていただろうに、受け取れていなかった」
ベリアンスは首を傾げる。合図を、送っていただろうか。自分でもよく分からない。
「俺は、君と過ごす時間を楽しんでいた。俺が全てを出す事に……一方的に与え続ける事に疑問も持たなかったし、当然だと思っていた。いつの間にか、君の上に立って物事を進めていたのかもしれない」
「俺もアルフォンスと過ごす時間は楽しかったんだ! ふと……考えてしまっただけで」
「隣にと、思ってくれているからだろ?」
「あ……」
言われて、するすると絡まったものが解けていく。
隣にいたい。背中を見るのではなくて、触れる位置で、手を握って、同じ歩調で歩いていきたい。だから、全てを委ねられなかったのだろうか。
アルフォンスが申し訳無く微笑む。ベリアンスも、微笑んだ。
「何を、狙ったんだい?」
「オペラを、また見たい」
「あぁ、いいな」
「取れなかったら、申し訳無い」
「そのうち、仕事を任されるだろ?」
「知っているのか? その予定らしい」
「取れなかったら予定は延期して、二人で行こう。隣に、いてくれるか?」
その意味を、ベリアンスは正しく受け取る。ベリアンスも自分で得たものを持って、ちゃんと二人で、気を遣うのではない関係で隣にいよう。そう、言ってくれるのだ。
「アルフォンス!」
「おっと」
「浅はかですまなかった。そして、これからもお願いしたい。恋人になって一年が過ぎる今日この日を、二人で過ごしたい」
記念の日を、忘れられない日をアルフォンスと一緒にいたい。その為のプレゼントが欲しかったんだ。
「そうか、もうそんなに経つんだな。一年、過ぎたのか」
アルフォンスは穏やかに笑い、頷く。そしてベリアンスの頭を包むように抱きしめる。心臓の音がとても近くに聞こえる。それが心地よくて、身を任せている。
自然な動きで大きな手が頬を包んで、上向いて受けるキスの心地よさ。このまま全て委ねてしまいたくなる。
「さぁ、結果を見届けよう。ベリアンス、側にいてくれるかい?」
「勿論だ」
当然のように延べられる手を嬉しく思う。取って、繋いだこの熱がいつまでもここにあるようにと、ベリアンスは願った。
★ランバート・ヒッテルスバッハ編
ランバートがステージを降りると、隊員達はちょっと静かになった。
あくまで聖女のような気持ちで、慈悲に満ちた表情のまま静かに歩を進める。すると隊員達は無言のまま道を譲り、ランバートが行く先が割れていった。
見つけたのはソファーに座っているゼロスと、他の仲間達。そこまで進みゼロスの前に出ると、彼は苦笑した。
「お前もよくやるよな」
「似合うだろ?」
ニッと笑うと空気が崩れる。途端にシスターの仮面は剥がれ、コスプレ感が強くなった。
「お疲れ、ランバート」
「美人すぎて笑えないよ」
「レイバンもボリスも似合うと思うけれど」
「当たり前じゃん。でも、俺の女装はジェイさんだけに見せるんだ」
「俺は勘弁だよ」
ニヤリと笑うレイバンの側に立つジェイクが僅かに眉を寄せる。おそらくそういう需要はないのだろう。
ボリスは嫌そうな顔だ。顔的には化けるとは思うのだが。
「ゼロス、大丈夫か? なんか大変な事になったみたいだな」
未だ衝撃が大きそうなゼロスは苦笑するばかりだ。まさか人前で告白され、しかも意図せず公開処刑を食らうとは。
……なんだか人ごとじゃないな。
「ゼロスは後輩にモテモテだからね」
「おい!」
「知らないの? ゼロス先輩に恋人はいるのか? っていうの、けっこう聞くよ」
「なに?」
「!」
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コンラッドとハリーが慌てて言う。それでもクラウルは眉を寄せている。かなり心配している様子だ。
「もう一度キス」
「!」
「それをしたら確実にここで説教を食らうぞ」
クラウルの隣にいるファウストが苦笑して、ランバートの隣にやってくる。そしてふわりとベールの上から頭を撫でた。
「お疲れ」
「あれ? 余裕だねファウスト」
ランバートは首を傾げる。
これは、ファウストを誘惑するために選んだのだ。タイトで、隠れているからこそのエロさがある。視線も全部ファウストを意識したのに。
少し残念そうにすると、ファウストが予想外に手に力を込める。ほんの少し痛いくらいの力で、見上げるともの凄く睨まれた。
「そう思うか?」
「あ…………やせ我慢か」
「部屋に戻ったら覚えてろよ」
憎たらしいと言わんばかりの声音と目に、ランバートは思い切り笑う。何せ軍神様が女装一つで大ダメージだ。体を折って笑うと、ファウストは憎らしそうにそっぽを向いた。
「ランバート楽しそう」
「ファウスト様、案外苦労してるんだな」
周囲がそんな事を漏らし、ゼロスまで苦笑している。
ランバートは悪戯に微笑み、そっとファウストの首に腕を回し滑らかな頬に唇を寄せた。
「!」
「拗ねないでよ、旦那様?」
「おま! あぁ……くそっ!」
「あははははっ」
くしゃくしゃと髪をかくファウストの下半身がちょっと大変そうなのをランバートは見逃さない。だからこそ前に立って隠していると、首に腕が回って肩にコツンと頭が置かれた。
「潰すからな」
「分かってるよ」
今夜はとても楽しくて、そして激しい夜になりそうだった。
★結果発表
再びオリヴァーが舞台に上がり、後ろには景品を持ったグリフィスが立つ。それに気づいた隊員達の声が自然と静まり、視線が集まった。
「皆様、お待たせいたしました。集計結果が出ましたので、これよりミスコンの表彰式を行います。出場者の皆様はお集まりください」
呼び集められた九人の出場者が登壇し、オリヴァーの後ろに立った。
「なお、出場者の一人でありますディーンは既に恋人という賞金を手にしましたので、棄権となります」
本懐はとげられた! by.ディーン
気を取り直したオリヴァーが集計結果の書かれた紙を手にする。そして、よく通る声で順位発表を開始した。
「それでは、順位発表を行います! 第九位、ミック!」
名前を呼ばれたミックが、少し恥ずかしそうに前に一歩出て丁寧に一礼すると、会場からは大きな拍手が贈られた。
「普通に綺麗なのですが、他の出場者のインパクトに埋もれてしまった感じですね」
「冷静な解説いりませんよ、オリヴァー様!」
ミックの声に、会場がドッと笑った。
「続きまして第八位! コリー!」
「えー!」
コリーは予想よりも順位が低かった事に不満そうな声を上げるが、前に出て皆の前で手を振った。
「以外とショタ系が多かったので。でも、数枚投票用紙にメッセージが書き添えられていましたよ」
「うぇ! いらないよ!!」
コリーはドン引きし、会場からは「コリーちゃん!」の野太い声が上がった。
「続きまして第七位! ダレン!」
黒い女王様が相変わらずの無表情で前に出て、軽く会釈をする。
「なお、彼は料理府の二班所属です。皆さん、彼の手がけた料理が食べられますよ」
「マジか!!」
いや、今までも食べていると思う。
ダレンは思ったが、それは一切声にも表情にもならなかった。
「続きまして上位入賞をギリギリ逃しました、第六位! ユーイン!」
「俺の妹!!」
野太い声に怯えながらも、ユーインが前に出て小さく頭を下げる。それすらも会場は湧いた。
「五位とはなんと五票差でした。そこで、健闘した彼に急遽特別賞を用意いたしました」
そう言ったオリヴァーの声で、控えていたウルバスが手に少し大きめの箱を持ってくる。綺麗にリボンが掛けられたそれは片手で持つには大きく重そうだった。
「ショコラトリー『La lune』の、ボンボンショコラの詰め合わせです」
「わぁ!」
小柄なユーインが箱を受け取ると余計に大きく見える。木製の箱は宝石箱のようで、それだけでも高級感が漂っている。
「私の秘蔵です。楽しんでくださいね」
「? 有難うございます」
素直に頭を下げて下がったユーインに、再度惜しみない拍手が贈られた。
「では、上位入賞者発表です! 第五位、リカルド先生!」
わー!! と声が上がり、リカルドは一礼する。オリヴァーが手に室内楽鑑賞券を持って近づき、直接手渡した。
「彼と楽しんできてくださいね」
「!!」
「はい、勿論です」
リカルドに恋人がいるとはまだ知らない隊員達がざわめき、リカルドはにっこりと微笑んで皆に改めて一礼した。
「続いて四位! ベリアンス!」
「!!」
驚いた顔をするベリアンスがおずおずと前に出る。オペラ鑑賞券の封筒を受け取ったベリアンスの視線はアルフォンスへ。その視線を追った一般隊員の目もアルフォンスへ。そしてその視線を受けたアルフォンスは全てを肯定するように頷いて、穏やかに微笑んで見せた。
「うあぁぁぁ、こっちも恋人持ちかぁぁぁ」
一般隊員達の心からの叫びにベリアンスはビクリとし、オリヴァーは楽しげに笑った。
「続きまして三位! ショタ票を集めましたね。コナン!」
前に出てきたコナンは顔をほんのりと赤くしている。惜しみない拍手が贈られ、賞金としてレストランの食事券が贈られる。それをギュッと抱きしめるコナンを見た会場の隊員達が、改めて「おぉぉぉ!」という声を漏らした。
「さて、残るはグランプリと準グランプリです」
視線がシウスとランバートへと注がれる。その中で、オリヴァーは順位を発表した。
「第一回騎士団ミスコンテスト、栄えある準グランプリは…………シウス様!」
わー!! と割れんばかりの拍手が響く中、シウスは少し驚きながら前に出る。
「最年長にもかかわらずこの美しさですからね。いやぁ、恐ろしいです」
「うるさいぞオリヴァー。まぁ……悪い気はせぬな」
賞金である温泉旅行を手にしたシウスは笑みを隊員達に満面の笑みを見せて一礼した。
「さて、もうおわかりですね? ミスコンテスト、グランプリは……ランバート!」
「わぁぁぁ!!」
歓声と指笛とが入り交じる騒々しい中、進み出たランバートはロザリオを手に祈りの形を作る。それにも会場は湧いた。
「賞金はスキー旅行です。そして、ランバートはこれにて殿堂入りとし、次回からの参加はご遠慮願います」
「え!!!」
会場から湧き上がるブーイング。だがオリヴァーは苦笑した。
「声色まで変えられる人が出場しては、結果は圧勝ですからね。暗府からも物言いがつきますので、殿堂入りとさせて頂きます。いいですね、ランバート?」
「勿論構いませんよ」
ランバートはウェインに恩返しができればいいのだから、今後出るつもりはない。にっこり快諾したランバートに再び拍手が贈られる。
出場者全員が前に出て、隊員達へ一礼するとこれにて年末パーティーはお終い。
年が明けた事を伝える盛大な花火が、夜の空を華々しく彩った。
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