恋愛騎士物語4~孤独な騎士のヴァージンロード~

凪瀬夜霧

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最終章:最強騎士に愛されて

6話:独身最後の日(夫婦)

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 あれこれあっても約束を守ってくれたゼロス達と分かれて、ランバートは自室となったファウストの部屋を目指していた。階段を登り、扉の前。そこに夜を見つけて、ランバートは立ち止まった。

「ファウスト?」
「あぁ、帰ったのか。意外と早かったな」
「明日は朝からだし、早いだろうからって」

 日付が変わるまで、まだ一時間ある。
 ファウストは笑って近づいてきて、自然と隣に並んだ。

「少し付き合わないか?」
「いいけど、どこに?」
「ちょっとだ」

 楽しそうに笑うファウストについて、来た道を戻っていく。そうして一階まで降りてきたランバートが連れてこられたのは、修練場だった。

「……なぜここ?」

 見慣れた場所に今は人の姿はない。ぽっかりと月が見える場所に座ったファウストの隣に、ランバートも座った。

「シウス達に誘われて、俺も独身パーティーというのをしていたんだ」
「楽しかった?」
「あぁ。そこで、色々思い出してな。ここで、お前とは散々訓練したなと」

 言われればそうだ。安息日の早朝、ここでファウストと訓練をする。それは今も続いている習慣のようなものだ。
 でも、それだけじゃない。眠れない夜、落ち込んだ夜、ここでファウストと話をしたり、ストレス発散と言わんばかりに剣を交えたり。

「俺、ファウストに勝ってないな」
「それ、諦めないのか?」
「は? 諦めないけど」

 何を言ってるんだこの人は。睨むと、ファウストは困った顔をした。

「俺も年を取る。今で三十だ、これからどんどん衰えるだろう。お前に負けたら、俺も引退だな」
「雑魚相手とは言え戦場で九百人も切り刻んだ人が衰える?」
「お前も出来そうだが」
「出来るか! そんな体力どこにあるんだよ」

 本当にこの人の体力と気力と筋力は化物クラスだ。勝てるわけがない。
 それに……。

「俺は、ファウストの背中を追っていたい……かな」
「ランバート」
「隣に並びたい、くらいは言う。でも、追い越したくはない。ファウストが辞める時は、俺も辞める」

 だって、夫婦だ。生涯を共にすると決めた人なんだから。
 伝えたら、寂しそうに笑うファウストがいる。大きな手が髪を撫でて、それが嬉しいけれど少し寂しくもあった。

「じゃあ、出来るだけ長く居座らないとな」
「当たり前だろ?」

 俺の軍神。俺の伴侶。俺の……全部。

 隣にある逞しい腕に頭を寄せた。コテンと寄りかかるそれを、ファウストがそっと肩に手を回して支えてくれる。

「明日、結婚式だな」
「うん」
「楽しみなような、怖いような」
「怖いの?」
「お前、あのタキシード着て披露宴で食事と酒だぞ? 汚したら首括るレベルだろ」
「思い出させるなよ! もう、本当に怖い」

 母シルヴィアはそれほどの衣装を作り上げてご満悦だ。汚したら、傷つけたら……怖すぎて泣きたい。

「まぁ、汚してもいいのよって言っていたけれどな」
「それで汚しましたって言えないっての」
「はは。まぁ、楽しみでもある」

 不意に手が伸びて頬に触れる。外気に少し冷たくなった頬に触れる温かな手が心地よく、ほんの少し見上げる唇に優しいキスが降りてくる。心が穏やかに、優しくなるものだ。

「お前の姿を見ていない。どんなに綺麗か、楽しみだ」
「俺もファウストの衣装見てないから、楽しみだ」

 お互い衣装の試着の時は別室だった。当日のお楽しみらしい。

 とても近い距離で見つめ合って、互いに笑う。ランバートもファウストの頬に手を伸ばして、互いに分かってキスをして。
 甘い睦言を、抜けるような夜空と綺麗な月だけが見ていた。
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