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最終章:最強騎士に愛されて
5話:独身最後の日(ランバート)
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夕食を食べ終わった段階でいきなりボリスとレイバンに両腕を掴まれた。おや? と思う間もなくゼロスがきて、呆然としているファウストへと丁寧に「日付が変わるまでにはお返ししますので、借りていきます」と言ってズルズル引きずられてきた。
そうして連れられてきたラウンジでは色んな隊員からお祝いの言葉を貰った。それに返していくのは少しくすぐったくて、そして嬉しい事だった。
「それにしてもさ、明日には結婚式なんだな」
酒を飲みながらしみじみと言うコンラッドに、ランバートも笑って頷く。いまいち実感がないというのが本音だ。
「惜しいよな~。これでも俺、最初はわりと本気でランバートの事狙ってたのに」
カウンターに肘をついてそんな事を言うハリーは、その実嬉しそうだ。
「そんな事言っていいのか、ハリー。彼氏泣くぞ」
「いいの! いい思い出だし、今は全然そんな気ない。今はコンラッド一筋なんだもん」
これにはコンラッドも穏やかに微笑む。ハリーが実は本気だったなんて、知ったのはだいぶ後になってからだった。
「でも、みんな幸せそうだよね。羨ましい。レイバン、結婚生活ってどんな感じ?」
「ん? 別にこれまでと大きく違う事はないけれど。まぁ、過保護にはなったかも。あと、お互いに遠慮がなくなったかな。喧嘩とかもするけれど、溜め込むよりはいいしね」
「お前、ジェイクさん相手に喧嘩するのか!」
「するよ、旦那様だもん。俺は騎兵府の兵隊で、危険な事も多い。それを心配しすぎるからさ」
驚いた声を上げるドゥーガルドに、レイバンは当然のように言っている。
自分もまた、ファウストと喧嘩になることはあるんだろうか。いや、今でも小さくはあるが。だが大抵はファウストが折れてくれるし、仕事の事は突き詰めて話し合いをして互いに納得出来る着地点を見つけている。
「そういえばコンラッド、母さんが話してたんだがお前、ハリーを実家に紹介するって?」
舐めるように酒を飲んでいたゼロスの言葉に、コンラッドは慌てて指を立てて「シー!」と言い、ハリーは初耳だという顔をして驚いてコンラッドを見る。どうやらまだ言っていなかったみたいだ。
「本当、コンラッド!」
「あぁ、いや。まぁ、うん」
「どうして言ってくれなかったのさ!」
「ランバートの結婚式が終わってからでいいと思ってたんだよ。まずはこっちだろ」
「そうだけど!」
思わぬ事にハリーは興奮冷めやらぬという様子だ。そしてコンラッドはジトリとゼロスを見ている。
「ゼロス~」
「いいじゃないか、努力が実って。ハリーに辛い思いさせないように実家に小まめに帰っては家族を説得してたんだろ?」
「それもおばさんからかよ。もう、俺の母親も口が軽いんだからな」
「親友同士だ、諦めろ。その分俺の事はお前のお袋に伝わってるだろ?」
「嫌ってくらい聞くわ」
騎士団に来る前から幼馴染みで親友の二人は、最終的に諦めたように笑う。こういう関係もいいものだ。
「いいじゃないか、幸せは沢山のほうが。良かったな、ハリー」
「有り難うランバート! 俺、凄く嬉しい。家族になれるかな?」
「なれるって。ハリー案外甲斐甲斐しいしね。粗相のないようにだけ気をつけろよ」
「勿論!」
嬉しそうに笑い、幸せそうに頬を染めるハリーは可愛い。それを見るコンラッドもまた、優しく見守る男の顔をしている。そしてそれを見ているこちらも、なんだかホッとするのだ。
「ゼロスは話進んでるのか?」
「ん?」
ランバートが水を向けると、ゼロスは少し表情を曇らせる。不仲というのは聞かないから、おそらくこの表情の意味は違うだろう。
「まだ結婚式をするかしないかで攻防してるのか?」
「俺は家族だけでいい。食事会でいい」
「えー! 勿体ないよゼロス。式挙げないの?」
「そういうキャラじゃないだろ」
ハリーからも非難めいた声があがり、ゼロスは困った顔をした。
「クラウルはしたいと言うんだが、どうにもな」
「した方がいいよ、ゼロス。絶対に思い出に残るから」
そう言うのはコナンだった。笑いながら、でも少し寂しそうだ。
「僕は急遽って感じだったし、実家からも縁が切れていたから書類を提出して二人でお祝いしたけれど、今は小さくても式挙げればよかったなって思うんだ。だって、特別な日だもん。家族なんてなくても、親しい人や仲間にお祝いしてもらうの、いいなって思う」
「あー、言えてるかもね。俺も今更な感じがあったし、俺は家族全員もういないからって無駄金使わなかったんだけど。でもさ、披露宴パーティーくらいは良かったかもって今更ながら思う」
既婚のコナンとレイバンからの言葉は多少響くものがあるのだろう。ゼロスは考えこんでいる。
「ってかさ、クラウル様だろ? 絶対陛下が一枚噛むじゃん」
「……あ」
ボリスの言葉に呆然として、ゼロスが固まる。その後は全員が苦笑いで「あ~」と異口同音だ。
「忘れてた……」
「どんまい」
「ダメだ、絶対遊ばれる。それでなくても陛下は面白がってるし、ヴィンセント様もあれで」
「いいじゃん、祝ってもらえば。ってか、早く挙げてよね。俺、ゼロスの結婚式出席しないと流石に騎士団離れられないよ」
チビチビ飲むボリスがけしかけるように言うが、その言葉尻を皆が拾って驚いた顔をして見る。それに、ボリスは苦笑いを浮かべた。
「騎士団離れるって……」
「うそ! ボリス騎士団辞めちゃうの!」
ハリーが引き留めるようにボリスの腕を引くが、ボリスは苦笑するばかり。それで、ランバートもゼロスもコンラッドもレイバンも分かった。もう、決めたんだと。
「フェオドール殿下についていくのか?」
「ん、そのつもり。この夏に王様が表敬訪問で来る予定でね、その時にこの事話そうと思ってる」
「いつだ?」
「目安五年……ってか、正確にはあと三年。フェオの留学期間明けかな」
「そうか」
寂しくなる。でも、ボリスがそう決めたのなら応援してやるのも友人だと思う。空になったボリスのグラスに、ランバートは酒を注いだ。
「フェオさ、外交官になるらしい」
「凄い王子様じゃん。最初はすっごく頼りない感じだったのに」
「だよね、最初はあんなに頼りなかったのに。今は、クシュナートと他の国を橋渡しする、その役割を果たしたいって。旅も多くなりそうだからね、頼りになる護衛官の一人くらい必要でしょ?」
「ってことは、この国にもくるな」
「あははっ、来る来る! その時にはさ、また皆と酒が飲みたいな」
「勿論だ」
ゼロス、コンラッド、ランバート、レイバンは強く頷く。そして、ボリスと拳をぶつけあった。
「ボリス……」
「うわ!」
「ボリスぅぅ!」
「なに! なに! ドゥーやめて!」
「ざびじい゛」
「苦しい!!」
これを聞いていたドゥーガルドは鼻水と涙で顔をグチャグチャにしてボリスを後ろから羽交い締めにしている。結局しんみりとはならず、この様子に皆が大笑いした。
「ってかさ、クリフとピアースも付き合いながいだろ。順調?」
「うん、順調だよ! 今度ロッカーナに一度戻るんだ」
「俺の家族に紹介したいと思ってさ」
こちらも順調そう。控え目に頬を染めるクリフを、コナンが微笑ましく笑って見守る。
「トレヴァー……は、それどころじゃないか」
「うぅ、毎日筋肉痛で頭の中バン! しそう……」
「そういえば、トレヴァー個人と話したいって人がいるわ。明日紹介するな」
「誰?」
「アリアちゃん。ほら、年末に倒れただろ? ウルバス様の無茶ブリのせいだって知って、申し訳ないって。ご挨拶したいそうだよ」
「それ、ウルバス様つきだよな?」
「勿論」
「……こわ」
「あはは!」
確かに凄い目で見ていそう。いや、笑顔だけれど目が笑っていないタイプかも。気の毒な友人はグズグズだ。
「ってかさ、この関係を作ったのってトレヴァーなんだよな」
不意にレイバンがそんな事を言って、全員で「だな」と納得をする。
ランバートもあの時の事はよく覚えている。一年目の昇級試験でトレヴァーが声をかけてくれなかったら、きっと今はなかったんだ。
「ってかさ、よくランバートに声かけたよお前。あの頃のランバートって同期とあまり接点なくて、皆声かけづらかったのに」
ハリーの言葉に他も頷く。今では親友と言えるゼロスまで頷くのだ。まぁ、自覚もあるが。
あの頃はまだ入団して数ヶ月、同期よりは先輩達が側に居ることが多かった。何よりファウストがとても近かったから、余計に話しかけられなかった。
そんなランバートに「一緒に組もう!」と最初に声をかけてきたのが、トレヴァーだった。
「なんかさ、迷子みたいだったから」
「迷子?」
コンラッドが疑問そうにするけれど、ランバートは思い当たる。妙に納得だ。
「困ってるって分かったんだ。ランバートって季節外れの特別入団だっただろ? それに先輩達に妙に気に入られる感じで、同期は近寄りがたかったし。だから、どうしたらいいか分からなくて困ってるんだなって思ったんだ」
「お前、いい奴」
思わずランバートは肩を組んで笑う。それにトレヴァーも応じて、二人で肩組み合ってだ。
「俺、この仲間が側にいてくれて凄く嬉しいし幸せだよ。トレヴァー、有り難う」
「へへ、俺も嬉しいしさ」
「……ここくるまで、俺は友達って呼べる相手は下町の奴らとリッツしかいなかった。こんな風にバカやったり、背中預け合ったり。そういう仲間を得られたのって、多分初めてだ」
「ランバート」
「有り難う。皆がいてくれなかったら、俺はここまで来てなかったかもしれない」
昇級試験から続くこの関係はとても心強かった。関わり合って、助け合って、バカもして。この友情はきっと変わらない。年を経ても、例え生きる場所が物理的に離れても。
全員が笑い合う。そして組み合うランバートとトレヴァーを囲むように肩を組み合って、全員で訳も分からず笑った。
「よし、明日は盛大に祝おう!」
「楽しみにしてるからね!」
「幸せになれよ!」
「たまには俺たちとも遊んでね!」
「俺、泣く準備出来てるからな!」
「いや、準備いらないからなドゥー」
「幸せになってね!」
「「おめでとう!!」」
「有り難う、みんな」
皆の気持ちが嬉しい。全員の思いが届く。笑いながら、ランバートは目元がうるむのを感じた。
そうして連れられてきたラウンジでは色んな隊員からお祝いの言葉を貰った。それに返していくのは少しくすぐったくて、そして嬉しい事だった。
「それにしてもさ、明日には結婚式なんだな」
酒を飲みながらしみじみと言うコンラッドに、ランバートも笑って頷く。いまいち実感がないというのが本音だ。
「惜しいよな~。これでも俺、最初はわりと本気でランバートの事狙ってたのに」
カウンターに肘をついてそんな事を言うハリーは、その実嬉しそうだ。
「そんな事言っていいのか、ハリー。彼氏泣くぞ」
「いいの! いい思い出だし、今は全然そんな気ない。今はコンラッド一筋なんだもん」
これにはコンラッドも穏やかに微笑む。ハリーが実は本気だったなんて、知ったのはだいぶ後になってからだった。
「でも、みんな幸せそうだよね。羨ましい。レイバン、結婚生活ってどんな感じ?」
「ん? 別にこれまでと大きく違う事はないけれど。まぁ、過保護にはなったかも。あと、お互いに遠慮がなくなったかな。喧嘩とかもするけれど、溜め込むよりはいいしね」
「お前、ジェイクさん相手に喧嘩するのか!」
「するよ、旦那様だもん。俺は騎兵府の兵隊で、危険な事も多い。それを心配しすぎるからさ」
驚いた声を上げるドゥーガルドに、レイバンは当然のように言っている。
自分もまた、ファウストと喧嘩になることはあるんだろうか。いや、今でも小さくはあるが。だが大抵はファウストが折れてくれるし、仕事の事は突き詰めて話し合いをして互いに納得出来る着地点を見つけている。
「そういえばコンラッド、母さんが話してたんだがお前、ハリーを実家に紹介するって?」
舐めるように酒を飲んでいたゼロスの言葉に、コンラッドは慌てて指を立てて「シー!」と言い、ハリーは初耳だという顔をして驚いてコンラッドを見る。どうやらまだ言っていなかったみたいだ。
「本当、コンラッド!」
「あぁ、いや。まぁ、うん」
「どうして言ってくれなかったのさ!」
「ランバートの結婚式が終わってからでいいと思ってたんだよ。まずはこっちだろ」
「そうだけど!」
思わぬ事にハリーは興奮冷めやらぬという様子だ。そしてコンラッドはジトリとゼロスを見ている。
「ゼロス~」
「いいじゃないか、努力が実って。ハリーに辛い思いさせないように実家に小まめに帰っては家族を説得してたんだろ?」
「それもおばさんからかよ。もう、俺の母親も口が軽いんだからな」
「親友同士だ、諦めろ。その分俺の事はお前のお袋に伝わってるだろ?」
「嫌ってくらい聞くわ」
騎士団に来る前から幼馴染みで親友の二人は、最終的に諦めたように笑う。こういう関係もいいものだ。
「いいじゃないか、幸せは沢山のほうが。良かったな、ハリー」
「有り難うランバート! 俺、凄く嬉しい。家族になれるかな?」
「なれるって。ハリー案外甲斐甲斐しいしね。粗相のないようにだけ気をつけろよ」
「勿論!」
嬉しそうに笑い、幸せそうに頬を染めるハリーは可愛い。それを見るコンラッドもまた、優しく見守る男の顔をしている。そしてそれを見ているこちらも、なんだかホッとするのだ。
「ゼロスは話進んでるのか?」
「ん?」
ランバートが水を向けると、ゼロスは少し表情を曇らせる。不仲というのは聞かないから、おそらくこの表情の意味は違うだろう。
「まだ結婚式をするかしないかで攻防してるのか?」
「俺は家族だけでいい。食事会でいい」
「えー! 勿体ないよゼロス。式挙げないの?」
「そういうキャラじゃないだろ」
ハリーからも非難めいた声があがり、ゼロスは困った顔をした。
「クラウルはしたいと言うんだが、どうにもな」
「した方がいいよ、ゼロス。絶対に思い出に残るから」
そう言うのはコナンだった。笑いながら、でも少し寂しそうだ。
「僕は急遽って感じだったし、実家からも縁が切れていたから書類を提出して二人でお祝いしたけれど、今は小さくても式挙げればよかったなって思うんだ。だって、特別な日だもん。家族なんてなくても、親しい人や仲間にお祝いしてもらうの、いいなって思う」
「あー、言えてるかもね。俺も今更な感じがあったし、俺は家族全員もういないからって無駄金使わなかったんだけど。でもさ、披露宴パーティーくらいは良かったかもって今更ながら思う」
既婚のコナンとレイバンからの言葉は多少響くものがあるのだろう。ゼロスは考えこんでいる。
「ってかさ、クラウル様だろ? 絶対陛下が一枚噛むじゃん」
「……あ」
ボリスの言葉に呆然として、ゼロスが固まる。その後は全員が苦笑いで「あ~」と異口同音だ。
「忘れてた……」
「どんまい」
「ダメだ、絶対遊ばれる。それでなくても陛下は面白がってるし、ヴィンセント様もあれで」
「いいじゃん、祝ってもらえば。ってか、早く挙げてよね。俺、ゼロスの結婚式出席しないと流石に騎士団離れられないよ」
チビチビ飲むボリスがけしかけるように言うが、その言葉尻を皆が拾って驚いた顔をして見る。それに、ボリスは苦笑いを浮かべた。
「騎士団離れるって……」
「うそ! ボリス騎士団辞めちゃうの!」
ハリーが引き留めるようにボリスの腕を引くが、ボリスは苦笑するばかり。それで、ランバートもゼロスもコンラッドもレイバンも分かった。もう、決めたんだと。
「フェオドール殿下についていくのか?」
「ん、そのつもり。この夏に王様が表敬訪問で来る予定でね、その時にこの事話そうと思ってる」
「いつだ?」
「目安五年……ってか、正確にはあと三年。フェオの留学期間明けかな」
「そうか」
寂しくなる。でも、ボリスがそう決めたのなら応援してやるのも友人だと思う。空になったボリスのグラスに、ランバートは酒を注いだ。
「フェオさ、外交官になるらしい」
「凄い王子様じゃん。最初はすっごく頼りない感じだったのに」
「だよね、最初はあんなに頼りなかったのに。今は、クシュナートと他の国を橋渡しする、その役割を果たしたいって。旅も多くなりそうだからね、頼りになる護衛官の一人くらい必要でしょ?」
「ってことは、この国にもくるな」
「あははっ、来る来る! その時にはさ、また皆と酒が飲みたいな」
「勿論だ」
ゼロス、コンラッド、ランバート、レイバンは強く頷く。そして、ボリスと拳をぶつけあった。
「ボリス……」
「うわ!」
「ボリスぅぅ!」
「なに! なに! ドゥーやめて!」
「ざびじい゛」
「苦しい!!」
これを聞いていたドゥーガルドは鼻水と涙で顔をグチャグチャにしてボリスを後ろから羽交い締めにしている。結局しんみりとはならず、この様子に皆が大笑いした。
「ってかさ、クリフとピアースも付き合いながいだろ。順調?」
「うん、順調だよ! 今度ロッカーナに一度戻るんだ」
「俺の家族に紹介したいと思ってさ」
こちらも順調そう。控え目に頬を染めるクリフを、コナンが微笑ましく笑って見守る。
「トレヴァー……は、それどころじゃないか」
「うぅ、毎日筋肉痛で頭の中バン! しそう……」
「そういえば、トレヴァー個人と話したいって人がいるわ。明日紹介するな」
「誰?」
「アリアちゃん。ほら、年末に倒れただろ? ウルバス様の無茶ブリのせいだって知って、申し訳ないって。ご挨拶したいそうだよ」
「それ、ウルバス様つきだよな?」
「勿論」
「……こわ」
「あはは!」
確かに凄い目で見ていそう。いや、笑顔だけれど目が笑っていないタイプかも。気の毒な友人はグズグズだ。
「ってかさ、この関係を作ったのってトレヴァーなんだよな」
不意にレイバンがそんな事を言って、全員で「だな」と納得をする。
ランバートもあの時の事はよく覚えている。一年目の昇級試験でトレヴァーが声をかけてくれなかったら、きっと今はなかったんだ。
「ってかさ、よくランバートに声かけたよお前。あの頃のランバートって同期とあまり接点なくて、皆声かけづらかったのに」
ハリーの言葉に他も頷く。今では親友と言えるゼロスまで頷くのだ。まぁ、自覚もあるが。
あの頃はまだ入団して数ヶ月、同期よりは先輩達が側に居ることが多かった。何よりファウストがとても近かったから、余計に話しかけられなかった。
そんなランバートに「一緒に組もう!」と最初に声をかけてきたのが、トレヴァーだった。
「なんかさ、迷子みたいだったから」
「迷子?」
コンラッドが疑問そうにするけれど、ランバートは思い当たる。妙に納得だ。
「困ってるって分かったんだ。ランバートって季節外れの特別入団だっただろ? それに先輩達に妙に気に入られる感じで、同期は近寄りがたかったし。だから、どうしたらいいか分からなくて困ってるんだなって思ったんだ」
「お前、いい奴」
思わずランバートは肩を組んで笑う。それにトレヴァーも応じて、二人で肩組み合ってだ。
「俺、この仲間が側にいてくれて凄く嬉しいし幸せだよ。トレヴァー、有り難う」
「へへ、俺も嬉しいしさ」
「……ここくるまで、俺は友達って呼べる相手は下町の奴らとリッツしかいなかった。こんな風にバカやったり、背中預け合ったり。そういう仲間を得られたのって、多分初めてだ」
「ランバート」
「有り難う。皆がいてくれなかったら、俺はここまで来てなかったかもしれない」
昇級試験から続くこの関係はとても心強かった。関わり合って、助け合って、バカもして。この友情はきっと変わらない。年を経ても、例え生きる場所が物理的に離れても。
全員が笑い合う。そして組み合うランバートとトレヴァーを囲むように肩を組み合って、全員で訳も分からず笑った。
「よし、明日は盛大に祝おう!」
「楽しみにしてるからね!」
「幸せになれよ!」
「たまには俺たちとも遊んでね!」
「俺、泣く準備出来てるからな!」
「いや、準備いらないからなドゥー」
「幸せになってね!」
「「おめでとう!!」」
「有り難う、みんな」
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