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最終章:最強騎士に愛されて
8話:ウェディングベルが鳴る(披露宴)
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沢山の花びらを浴びて退場し、そのまま少し大きめの部屋に通された。どうやら披露宴の準備などに少々時間がかかるらしい。
突然二人だけにされて、お互いをちょっと見てしまう。どう見てもカッコイイ。それはいつもなんだが、こうして着飾ると更にだ。
「綺麗だ」
「ファウストも格好いいよ」
互いに笑い合う。大きな手が頬に触れて、ランバートも意図を汲んで少しだけ上を向く。人前でキスをするのは慣れないし、先程のは意味合いが重くて緊張したが、今はとてもすんなりとでき……。
「ランバート、おつか……」
バァァン! と勢いよく開いたドアの先頭に立つシルヴィアと、思い切り目が合った。見れば後ろにはジョシュアやアレクシス、ハムレットの他、アーサーやルカ、アリア、リーヴァイまでもがいる。
ある者はニヤニヤし、ある者は顔を赤くし、ある者は溜息をつく。その只中で当人達だけがもの凄く気まずくなった。
「あらあら、お邪魔だったわね」
「……いいです、忘れてください」
「いいのよ、素敵な式で感極まるものよね。そこ、パーテーションあるわよ?」
「母上!」
ファウストもすっかり肩を落としている。そういえばここ、親族控え室なんだな。
シルヴィアが笑いながら入ってきて、置いてある箱をランバートとファウストへと差し出す。それに疑問符を浮かべたのはランバート達だった。
「え? なに?」
「何って、披露宴用の服よ? あんた達、その服で飲食は出来ないって言ってたじゃない。リーズナブルなのも用意したの。着替えてしまいなさい」
「え!」
これにはファウストも驚いて目を丸くする。だって試着の時に着たのは今着ている服だけだったんだから。
驚いて改めた箱の中には、確かに今の衣装よりもシンプルなものが入っている。
ランバートのはクリーム色の無地に、ベージュのベスト。形は結婚式と同じくスマートなシルエットだが、絶対的に価格は抑えてあるように思う。
ファウストのは濃紺にベージュの細かなチェック柄で、こちらもスマートなシルエットだ。
そしてお互いにベストと揃いのネクタイがある。
「上も下も脱いでこれに着替えてらっしゃい。これならちゃんと、食べて飲めるでしょ?」
「母上……有り難う」
どこかほっとしたのは互いに言うまでもない。そして二人してパーテーションの奥へと入っていった。
箱からそれぞれの服を取り出し、今着ているものを丁寧に脱ぐ。ここで気を抜いて引っかけでもしたら泣く。
「それにしても上等な生地で尻込みする。裏地にこんなに素晴らしい布地を使うなんて、俺ではできない」
「隠れた所にこそオシャレを、なんだって。俺もビビるよ」
互いに脱いでしまうとズボンを履いてベルトで締めた。やっぱりぴったりだ。シャツはそのまま着ろということだろう。
ネクタイを取り出し首にかけたところでファウストが近づいてきて、それを手に取る。とても丁寧にランバートのタイを結んだファウストは、にっこりと笑った。
「俺も、していい?」
「あぁ、勿論」
ファウストのネクタイを手に取り首にひっかけ、丁寧に結ぶ。それを締めるとき、ちょっとだけ奥さん気分になった。
「似合ってるよ」
「お前もな」
「こんなのも悪くないね」
「では、たまにしてみるか」
見つめ合って、小さく笑って、さっきしそびれたキスを触れるだけして、後は離れて着替えを進めていく。くすぐったくて、今日はずっとふわふわしている。そんな、嬉しい時間だった。
出て行くと待っていましたと言わんばかりにルカが近づいて、それぞれに香水瓶を手渡してくれる。
ランバートには青い瓶に金のキラキラとした輝きのある特別製のもので、ガラス栓の摘まみには三日月が象られている。
ファウストの物には深い黒に銀の煌めきがある特別製で、ガラス栓の摘まみは剣の柄があしらわれていた。
「僕から二人に、今日の為に」
「有り難う、ルカさん」
「ルカ、有り難う」
「ううん。つけてみてくれる?」
手にコットンを持ったルカに促され、それをほんの少量馴染ませ首筋につける。するとふわりと華やかな香りと一緒に爽やかな香りも広がる。ランバートが好む柑橘の香りも感じるが、同時にフローラル系の香りも潜んでいる。きっと時間が経つとフローラル系の方が際立ってくるんだろう。
ファウストの方は落ち着いたウッティ系だろうか。穏やかでありながらも魅力的な香りがしている。そして仄かに感じるムスクの男臭い魅力もある。大人の男、まさにそんな匂いだ。
「香りを楽しむのは服を着替えるみたいで楽しいよ。兄さんも、たまにはそういうオシャレしてみてね」
「あぁ、そうしてみる」
ふっと笑うファウストの隣、感じる香りに少しドキドキしてしまうランバートがいた。
「兄様達、おめでとう!」
「アリアちゃん!」
ピンク色のシンプルなAラインのドレスを着たアリアが近づいて、丁寧にお辞儀をして笑う。柔らかな色味のピンクは決して派手ではなく上品なものだ。
「私から兄様達にはこちらを」
そう言って彼女が手を伸ばし、ランバートの上着のポケットに生花で作られたコサージュを差していく。
ランバートにはオレンジのバラにスターチス、そしてアイビー。「絆」「信じ合う心」「永遠の愛」「誠実」という意味のあるものだ。
そしてファウストの胸にはカーネーションとかすみ草、そしてアイビー。意味は「あらゆる試練に耐えた誠実」「幸福」「永遠の愛」だ。
「私からのお祝いです。お二人にはいつまでも幸せでいてもらいたいから」
「アリアちゃん、有り難う」
「どういたしまして。ファウスト兄様は後でランバートさんに、このお花の意味を教えてもらってね」
「……すまない」
「想定内ですわ」
これにはハムレットやアレクシスが苦笑し、シルヴィアが笑っている。男たるもの女性に贈る物には気を遣うべし。草花や宝石にはそれぞれ言葉がある。声に出さないメッセージというものだ。
まぁ、ファウストはあまりそういうことを気にするタイプではないだろう。
「やれやれ、我が息子ながら情けない」
「父様」
アーサーが苦笑して近づき、ファウストの前に立つ。そして懐から小さな鍵を出してそれをファウストに握らせた。
「ん?」
「アプリーブに別荘がある。新婚旅行、決まってないんだろ?」
「あぁ、まだ。だが時期もいつになるか分からないんだぞ?」
「だからこその持ち別荘だ。好きな時に行くといい。少し前に連絡してくれれば整えておくよう言っておく。羽根を伸ばしてこい」
アプリーブは王都から三日程かかる商業都市で、別名「娯楽の街」と言われている。遅くまで開いている飲食店、他国からも集められた美術品の展示や、大きなオークション。カジノもある。更に劇場は多くオペラなどの演劇のほか、室内楽を楽しむホールもある。リラクゼーションスパもあり、マッサージや整体、美容の限りを尽くす施設もあるのだ。
不夜城とまで言われるそこは当然犯罪も多く、そうなると当たり前に騎士団の大きめな砦もあったりする。
おっと、これは新婚旅行というよりも視察か?
そんな予感もあり、ならば砦に泊まるのでもいいのではと思うが、そうなると本当に新婚旅行とはなんぞ? と言うことになりかねない。
ファウストもそんな気がしているのか、微妙に眉根が寄っている。
「言っておくが、砦に行くなよ。遊べ」
「あぁ、分かった」
「ランバートもたまには仕事から離れろ。ウルバスが言っていたが、お前達は働き過ぎだ」
「「……面目ない」」
ここにウルバスはいないが、どうやらシュトライザー家とは関係が良好なのだろう。そしてそこから内部事情がバレている。勿論業務の話はないのだろうが、仕事をしすぎるという事は伝わっているらしかった。
「悪いね、アーサー。色々してもらって」
「衣装の方はそちらに任せてしまったから、このくらいはこちらがもつ。そういう話だ、ジョシュア」
「いいわね、アプリーブ。最近行ってないわ」
「シルヴィア、カジノは出禁になっているだろ? あまりに一人勝ちが過ぎて」
「でも、美容にもいいのよ。そのうち行ってこようかしら」
「構わないけれど、人をつけるんだよ」
「じゃあ、チェルルちゃん連れて行きましょう! ぴっかぴかにお肌磨いてきましょうね」
「うえぇ!」
「母上!」
……ここはもうこれが平和なんだろう。そんな予感がした。
ふと、一人静かな人がいることにランバートは気づいて視線を向けた。普段はとても元気なリーヴァイが、今日はどこか静かなまま。見れば一つの肖像画を抱いている。
ファウストにも、アリアにも似た女性だ。長くまっすぐな黒髪に、黒い瞳。色が白く慈悲深い雰囲気はアリアに、芯のある瞳はファウストに似ている。
直ぐにそれが、彼らの母であるマリアだと分かった。
そっと近づいたランバートに、リーヴァイも気づいたのだろう。顔を上げ、ニッカと笑った。
「よい式だったぞ、ランバート。この子もきっと喜んでおるわい」
「有り難うございます、リーヴァイ様。マリア様に、ご挨拶をしても宜しいでしょうか?」
「! あぁ、勿論だ。是非してやっておくれ」
肖像画を手に持ったまま、リーヴァイはほんの少し涙を浮かべている。その手元、肖像画の女性へとランバートは笑いかけた。
「初めまして、ランバートと申します。本日、ファウストと晴れて夫婦の誓いを立てました。不束者ですが、よろしくお願いします」
そして、あの瓦礫となった屋敷で二人の居場所を教えていただき、有り難うございました。
祈りと、感謝と、これからの事。それらを込めて口にしたランバートの髪が不意に大きく風にはためいた。
『ありがとう』
驚き背後を見るも窓が開いている様子はない。柔らかな草花の香りがしそうな風が確かにしたのに。
風が吹き抜けたその先は開いていない扉だ。そちらを見たランバートは確かに、そこに立つ女性を見た。優しい笑みを浮かべた黒髪の彼女は確かに一つお辞儀をして、直後ふわりと消えていく。
「うそ……マリア!」
「え?」
違う方から声がして、驚いてそちらを見る。そこには涙を浮かべるシルヴィアがいる。皆どこから風が吹いたのかと訝しんで窓の方をみているというのに、ランバートとシルヴィアだけが戸口を見て、そしておそらく同じ人を見たのだ。
「母上?」
「……もしかして、あんたも?」
黙って頷くと、シルヴィアは困った顔をして項垂れた。
「そっか……そういう才能が受け継がれたのね。流石私の子だわ」
「もしかして、母上にも見えているのか?」
「色々とね」
苦笑するシルヴィアが何を見たのか、側のジョシュアは理解したようだった。そして気の毒そうにランバートを見る。
だが、他の面々は何のことだか分からない。困惑したファウストが真っ先にランバートへと訪ねた。
「どうしたんだ?」
「あぁ……」
「貴方のお母さんが、今日の日を見に来たみたいね。さっき挨拶して消えていったわ」
「……は?」
訳が分からないという様子のファウストはぽかんとした顔をしたし、ルカとアリアも戸惑った顔をする。アーサーは驚き過ぎて声がないし、アレクシスとハムレットとチェルルはドン引きだ。
「ランバート?」
「あ…………うん。えっと、お祝いを言ってくれた、かな。多分、ファウストとアーサー様の事を心配しているんだと思う」
「どういうことだ?」
「三人の拉致事件で、ファウストとアーサー様が瓦礫に埋もれていただろ? その場所を教えてくれたのも実は、マリア様だったんだ」
「……はぁ!」
パニックなファウストには申し訳ないし、アーサーは声もない。そして披露宴を前に、ランバートはやや強めの圧をかけられあの時の話をする事となった。
結果、結婚式の親族控え室が葬式のような有様だ。
「あ……ごめん」
「どうして言わなかったんだ」
「いや、あの時はそれどころじゃなかったし、言いそびれたというか……」
「死んでからも私は、妻に心配をかけていたなんて」
「あの、でも悪い感じはなくて!」
やばい、どうフォローしていいか分からない。
引きつっていると、助けてくれたのはシルヴィアだった。
「死んでも想いは残るみたいよ」
「シルヴィア?」
「妙なものを見る事はたまにあるけれど、生前の気持ちというものが強いみたい。マリアは二人を、家族を今も愛しているのよ。だから今日は絶対に参加するつもりだったんじゃない? 晴れ姿見せられてよかったじゃない」
「俺もそう思う。クラウル様の刺傷事件の時に犯人を連れて行った双子からは、確かに意志を感じた。悪意が強かったのかもしれないけれど、でも俺たちの事は助けてくれたんだ。マリアさんはとても綺麗で、まるで天使みたいだったよ」
「お前、それも初耳だぞ」
「…………説明のしようがないんだよ」
「はぁ……」
深い溜息をついたファウストは、それでも「仕方がない」という顔をしてポンと頭を撫でる。そして改めてマリアの肖像画を見て、穏やかに微笑んだ。
「俺はもう、心配ないよ母様。最愛に巡り会い、今日こうして夫婦となった。もう、心配しなくていい」
僅かに肩を引き寄せられるそれに従い、ランバートは目を閉じる。まだこの部屋には彼女が通った時の柔らかな草花の匂いがあるような気がした。
「それにしても、母上もランバートもそんなもの見えてたんだ」
ゾクゾクと鳥肌でもたっているのか、ハムレットが自分の腕をさする。それにランバートは苦笑した。
「俺はつい最近だし、見境なく見えてるわけじゃないよ。何か、縁のある場合が多い気がする」
「私は見境なく見えるわ。言っとくけれど、屋敷の中はたまに変なのいるわよ」
「止めてよ母上! 本邸行けないじゃん!」
「大丈夫よ、アンタは縁がなさそうだし。ジョシュアもまったく見えないのよね。何訴えても効果ないから、全然平気」
「……見えなくていいものって、多いよね」
「あんた、恨まれてそうだからね」
呆れ顔のシルヴィアに、ランバートは苦笑が漏れるのであった。
◆◇◆
会場の準備が整ったということで、ランバートとファウスト以外は先に会場に入った。とはいえ、最初の乾杯の挨拶の後はそれぞれが好きに歩き回って会話を楽しんだりという感じだ。ただ気がかりは、この乾杯の挨拶が誰かを聞かされていないこと。通常は上司だが、その上司は現在隣にいる。そうなるとシウスとかだろうか。
何にしても結婚式程の緊張はしなくてもいい。ルイーズに呼ばれて庭にも出られる会場へと移動したランバートとファウストの前で、近衛府の隊員によって扉が開けられた。
皆が拍手で迎えてくれる。赤い絨毯の上を腕を組んで進んでいく間、賑やかなお祝いの言葉がかけられる。その様子は皆笑顔で、ランバートも嬉しく笑った。
一応は新郎新婦の席が会場の一段高い場所に作られている。白いクロスをかけられ、花を飾られたそこに二人並んで座ると、一足先にはっちゃけたオスカルが前に出て来て一礼した。
「ではこれより、ファウストとランバートの披露宴を行います!」
結婚式での厳かさは何処にいったのだろう。この人も変わり身が激しい。
「それではまず、お祝いのメッセージと乾杯を陛下と妃殿下より賜ります!」
「「……は?」」
思わず二人で声がハモり、首を傾げた。
いやいや、あくまで一介の騎士に過ぎないというのに、祝辞が国王ってどうなっている!!
焦ったが、当人達は夫婦二人でノリノリで登壇すると、もの凄く楽しそうに笑った。
「やった! 驚いたね二人とも。驚かせたくて黙ってたんだよ」
カール陛下は礼節もあり王たるに相応しい人柄なのだが、カーライルという個人は根っからの面白い事好きのサプライズ気質だ。それを見誤っていた。
でも、そればかりじゃないのだろう。ふわりと柔らかく笑った人は、色んな感情がありそうだった。
「それと、こんな事でもないとお礼とお祝いが言えないからね。ファウスト、いつも国の為、その身を挺して戦い守ってくれていること、感謝している。君がいなければこの国はもしかしたら滅んでいたかもしれない。私は死んでいたかもしれない。本当に感謝しているんだよ」
「勿体ないお言葉です、陛下」
「ランバートさん、私は個人的にも貴方に助けられました。ドジで自信がなくて、俯いていることの多かった私に沢山の事を根気強く教え、自信をつけてくれたこと。そして危険な時、守ってくれたこと。本当に、どれほど感謝しても足りないくらいです」
「そんな、勿体ない言葉です妃殿下!」
「二人はこの国にとって、大事な剣であり盾だ。互いの弱い部分を補いあい、励まし、更に固い絆を結んでいく。そんな二人が今日、夫婦の誓いを立てた事を喜ばしく、そして頼もしく思っている」
「どうか末永く幸せに、互いを信じて過ごしてくださいね。お二人の幸せを私も祈りますわ」
声にならない、言葉にならない嬉しさが染みる。ファウストはずっとこの言葉を真剣に聞いている。一言ずつを胸に刻むようだ。
「これで、私達からの祝いの言葉とする。それでは皆、グラスは手元にあるかな?」
にっこりと笑うカーライルとデイジーの手にもグラスが渡り、ランバートやファウストの元にもシャンパンの入ったグラスが置かれる。それを持ち、立ち上がるのを確認して、カーライルは明るい声を上げた。
「二人の幸せな未来に。乾杯!!」
「「乾杯!!」」
グラスを上げる光景と、皆がそれを一口飲み込む。そうして次には割れんばかりの拍手が起こった。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
声が聞こえ、照れくさく思う。そこにデイジーが歩み寄って、二人の前に小さめのぬいぐるみを置いた。
「わ!」
「私と陛下から、お二人の結婚の祝いに。ウェルカムベアーですわ」
金色の柔らかな毛のベアーは青い瞳で愛らしく、白いタキシードを着ている。そしてもう一方は黒い毛に黒い瞳で、グレーのタキシードだ。耳には今日の日付が刺繍してある。明らかに特注だった。
「有り難うございます、デイジー様」
「有り難うございます」
「二人には幸せになってほしいの。本当に、有り難うございます。お二人がいなければ、私はここに立っていません」
微笑む彼女の隣にきたカーライルもまた頷いている。そのうちにルイーズが迎えにきて、程なく二人は退出する事となった。
そうなると無礼講らしい。オスカルが「ご自由にご歓談ください」とアナウンスするので自然とそうなる。
テーブル席もあるが、基本料理などは好きに取るようビュッフェスタイル。これが騎士団では普通で、実に慣れたものだ。
「ランバート!」
「ハリー、コンラッド」
「おめでとう! すっごく綺麗じゃん!」
「有り難う」
いつもとは違う礼服のハリーが飛び込んでくる。それを受け止めて、ランバートも大いに笑った。
「おめでとう、ランバート」
「有り難う、コンラッド。バレッタは誰の案なんだ?」
「オスカル様だ。有志だけで金額も気持ちと言ったのに、誰も出し惜しみしないんだからな」
「本当はもっと沢山集まったんだぞ。それは後のお楽しみで」
「マジかよ」
本当に、感謝しかないよ。
「おっ、早速囲まれてるな」
「お疲れ、ランバート。それにしても凄い豪華な式だよね。俺、やっぱりジェイさんにおねだりしようかな」
「華やかだったよ、ランバート。服、そっちも似合ってるね」
苦笑するゼロスと、羨ましそうなレイバン、にこにこなボリス。三人とも乾杯をした。
「お前、今日が自分の誕生日だって忘れてただろ」
「あ……ばれた?」
「案外抜けてるよね、ランバートは。俺なら絶対自分の誕生日忘れない」
「なんで? レイバンって、そんなに誕生日待ち遠しいタイプだっけ?」
「俺の誕生日はジェイさんが特別にケーキ焼いてくれるの。俺の為だけに。それがすっごく嬉しいから」
本当に、ここもいつまでもお熱い様子だ。
「ちなみに、ケーキ入刀のケーキはジェイさんとアルフォンスさんの力作だから。絶対美味しいよ」
「うそ! だって、忙しいんじゃ」
「今日の会場の料理の半分くらいは二人の料理だよ。朝から予算度外視で腕が振えるって、二人とも目の色違った。今日はスコルピオさんが一日宿舎担当買って出てくれたんだよ」
「申し訳ない。でも、楽しみだ」
「期待してくれよ」
ニッと笑うレイバンの嬉しそうな顔ったらない。でも、そうか。それは楽しみだ。
「ランバート~」
「食いもの用意したぞ」
「皆で食おう」
「あっちにテーブル用意してるからさ」
コナン、ドゥーガルド、トレヴァー、チェスターも来てテーブルへと案内してくれる。トビー、ピアース、クリフが待つそのテーブルには豪勢な料理が並んでいた。
鴨のロースト、大ぶりなロブスターの乗ったパエリア、コンソメと野菜のテリーヌなんて断面が美しくて凄い。牛フィレ肉とフォアグラのグリエもなかなかボリュームがある。
「凄い豪勢だな!」
「結婚式だもんな」
「食おうぜ」
それぞれ好きに皿を持って盛り付けて座る。ハリーの目は指輪に釘付けだ。
「指輪みたい!」
「どうぞ」
手ごと差し出せばしげしげと見ている。そして羨ましそうにコンラッドを見るのだ。見られるコンラッドはちょっと逃げたそうだ。
「こんなのは無理だからな」
「分かってる。でも、やっぱり指輪は特別だよね」
そして不意に視線はランバートの隣にいるゼロスへ。彼の手にもシンプルだが指輪がはまっている。
「ゼロスも結婚指輪欲しいよね?」
「いや、あまり拘りはないが」
「どうして? 結婚式は指輪の交換必須でしょ?」
「俺、地味がいいって言っただろ。指輪も派手なのいらないし」
「ちなみに、好きな宝石はあるのか?」
「宝石自体あまり興味……が……?」
ランバートは分かっていた、ゼロスの背後に立った人を。でも、あえて教えなかった。驚いて見上げたゼロスが途端にあわあわしたのは分かった。ゼロスの後ろに立ったクラウルが苦笑している。
「一月の誕生石はガーネットか。悪くないな」
「いえ、あの!」
「諦めろ、ゼロス」
「ランバート!」
「絶対に地味婚にはしないから、安心してくれ」
「裏切り者!」
「親友を盛大に送り出してやりたいという友情、お前なら分かると思うけれどな」
これには同期全員が頷く。何せこれまでも散々ランバートのお祝い事の指揮を執ってきたのだから。それが自分に返るだけだ。
これまでの経緯から何も言わず、顔を僅かに赤くしてぐぬぬっとなるゼロスを全員が笑った。
「ランバート、おめでとう。さっきファウストにも挨拶をしたが、お前にも。本当に色々と世話になったな」
「有り難うございます、クラウル様。俺のほうこそ日頃からお世話になっております。今後もどうか、よろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそ」
「俺の親友の事も」
「それは言われずともだ」
硬く握手をする隣で、ゼロスがなんとも物言いたげな顔をしていた。
ゼロスはそのままクラウルに預けた。恋人が呼びにきたのだから留めておくのも申し訳ない。何よりこの場でなくても彼とは大いに話ができるのだから。
「ゼロスが主導権を握っているように見えて、実はクラウル様が寛容に好きなようにさせているんだろうな」
「ボリス、鋭い所をつくな」
「でしょ?」
ランバートもそう思うのだ。
「お~い! ランバート!」
「ウェイン様!」
こちらを見つけてやや早足なウェインは今日も向日葵みたいな笑みを浮かべている。その後ろからはアシュレーがいて、ランバートを見て静かに頷いた。
「おめでとう、ランバート!」
「有り難うございます、ウェイン様」
「綺麗だったよ。ランバートは僕の自慢の部下だよ」
「俺も、ウェイン様は自慢の上官です」
「今では立場が逆転しているがな。まぁ、気持ちの問題だ」
苦笑するアシュレーだが、多分気持ちは同じだ。確かに位としてはランバートの方が上なのだが、一度だってこの人達を部下だと思ったことはない。いつまでも手本とすべき、頼りになる上官だ。
「ねぇ、聞いて! 僕ね、ランバート達のお陰でプロポーズされたの!」
「え! 本当ですか! わぁ、良かったですね!」
「有り難う!」
凄く幸せそうな笑顔のウェインはルンルンだ。その側で、アシュレーもまんざらではない笑みを浮かべている。
「踏み切りましたか。いつの予定ですか?」
「まだ何も決めていない。とりあえず今日の日を無事に終えてからだ」
「僕の家族にも挨拶にきてくれるんだって。凄く嬉しい。でも、アシュレーの家は行かなくていいって」
「騎士団に入った時点で死んだ者と思われているからな。今更何も言ってこないとは思うが、何かあると面倒だ。まぁ、直ぐ上の兄には報告をしに行くが」
「直ぐ上のお兄さん?」
そういえば、アシュレーの家の事を聞いたことがなかった。首を傾げると、アシュレーはやや困った顔をした。
「俺は男ばかり五人兄弟の末なんだ。家は一番目と二番目が。三番目は自由気ままに出奔中で、直ぐ上の兄は同じく騎士団にいる」
「え!」
これは初耳だ。だが、それらしい人を見たことがない。思って考えていると、アシュレーの苦笑は深くなった。
「今はアプリーブ砦の首座だよ」
「……」
タイムリーだった。
「実は先程シュトライザー公爵から、アプリーブの別荘で新婚旅行はどうかと提案があったばかりなんです」
「あぁ、砦には近づかないほうがいいな。仕事押しつけられるぞ」
「近づかないようにします」
何にしても、ウェインとアシュレーも更に一歩踏み出すようだった。
「おっ! ウェインとアシュレーもいたか」
「グリフィス」
「ランバート、おめでとう!」
「リッツ!」
こちらに近づいてくる大柄なグリフィスはどんな衣装も着こなす。その側につくリッツはいつも以上に小柄に見えた。
「では、私達はこれで」
「また後でね」
「はい」
入れ替るように去って行く二人を見送り、ランバートはグリフィス達を迎えた。
「それにしても流石だよ、お前。俺なら絶対あの衣装着れない」
「俺だって肝が冷えたっての。ぶっちゃけ、いくらだ?」
「聞いたら金玉縮こまるぜ。あれだけの品だぜ? 俺、布を裁つのすら怖い」
「……うん」
金額、聞かないのがいいな。
「まぁ、何にしても美人だったぜ。まぁ、今もだがな」
「有り難うございます、グリフィス様」
心なしかグリフィスはスッキリとした顔をしている。その理由は、きっと祖国の事が解決したからなのだろう。
「リッツはいつ式なんだ?」
「それな。親父はそうでもないんだけど、兄貴が乗り気でさ。人前式だけど上げようって色々動いてるみたい」
「フランクリン様もあの事件以降性格変わったよな。アレク兄上が驚いてた」
「アレが素だったんじゃないかな? 今まで抑圧されてたけど。親父ですらタジタジなんだけど、何でか嬉しそうなんだよな」
そう言うリッツもまた、嬉しそうだ。
「そういえば! ルシールって知ってるだろ」
「当たり前だろ、元俺の家のメイドだもん。腕は確かだから頼もしいよ」
「俺、最近まで知らなかったんだけど!」
「俺だってそっちに出向してるなんて知らなかったよ。でもまぁ、いい人だよ。気も利くし」
「……兄貴、好きみたいなんだけどさ。彼女の好きなもの、知ってる?」
「素朴なエッグタルトと、かすみ草の花束、小さな動物。お酒はあまり飲まなかったかな。ホットミルクとかも好きだよ」
「サンキュ! これで兄貴にいい情報持って行ってやれるわ」
リッツは嬉しそうだ。そしてそんなリッツを見るグリフィスの目も優しい。こんな穏やかな表情もするのかと驚いてしまう。何せこの人は騎士団の中にいると鋭い目をする事が多い。でも世話焼きで苦労性で、面倒見のいい皆の兄貴でもある。
「おや、千客万来ですね」
「オリヴァー様」
にっこりと微笑むオリヴァーの隣には、彼の伴侶であるアレックスもいる。長身の二人がきっちりと礼服を着ていると迫力がある。
「アレックス様!」
「やぁ、リッツ殿。商売、順調なようで嬉しいよ」
「いえ、俺の方こそ支援を頂いて助かっています。あの、最近うちのデザイナーが色々と迷惑をかけていませんか? 主に、オリヴァー様に」
そろそろっとオリヴァーを見るリッツ。それに返すオリヴァーはにっこりと微笑んだ。
「迷惑ではありませんが、そろそろドレッサーがパンクしてしまいそうです」
「ですよね! ほんと申し訳ないです! 俺からも言い聞かせておくので!」
「? 何の話ですか?」
話が見えず問えば、リッツは申し訳なく小さくなった。
「うちに、腕のいいデザイナーの男がいるんだけどさ。ちょっと変わってて」
「男に女性物のドレスを作るのが趣味なのです。勿論女性物のデザインではありますが、男が着ることを前提としているので体型的に無理はあまりなくて。ほら、年末のミスコンで見たあの衣装。アレが全部彼の作品なのです」
「おぉ…………」
凄い数だった。そして凄く豪華だった。確かに女性物にしては腰の部分や肩幅が考慮されていると思ったんだ。
「アレックス様も、本当に申し訳ない」
「いや、構わない。あれは自分の仕立てた服をオリヴァーに着せる事で作品として完成させているのだろう。そういう目だ。オリヴァーも何だかんだと楽しんでいるから」
「だって、そういう日の貴方はとても情熱的なのですもの。この衣装を着て今日はこんなプレイがしたいって、着る前から滾るのですよ」
「俺も普段とは違う君の姿に煽られてしまうんだ」
……ここも相変わらず情熱的で未だにお熱い。そして思い切り見せつけられている。
「おいおい、主役置いてイチャつくなっての」
「おっと、そうでした! ランバート、おめでとう。とても素敵な式でしたね」
「有り難うございます」
「ファウスト様を今後とも、よろしくお願いします。キッチリとリードを握っていてくださいね」
「それ、難しい時がありますが」
「大丈夫、貴方の『おすわり』を無視する度胸などありませんよ」
なんて、とても冗談めかして言うのだ。この人にも適わない。
「おめでとうございます、ランバート殿」
「有り難うございます」
「俺たちの結婚式に来てくれた方の結婚式に出席できるなんて、なんだか感慨深い。幸せになってください」
「はい。アレックス様もオリヴァー様の事をよろしくお願いします」
伝えると、こちらも「言わずもがな」なんだろう。にっこりと柔らかく微笑んで連れ立って去っていった。
リッツ達も広い会場へ。少し落ち着いたかと思ったが、今度は違う所から声がかかった。
「ランバートさん!」
「アリアちゃん!」
「!」
明るく朗らかな声に視線を向けると、ほくほくとした笑みを浮かべるアリアと、その後ろをついてくるウルバスがいる。そんな二人を見るトレヴァーが、思わず食べ物を詰まらせそうになった。
「おめでとう、ランバート。素敵な式だったよ」
「有り難うございます、ウルバス様」
「ところで、トレヴァーを借りたいんだけれどいいかな?」
「んぅぅ!」
……怯えるなよ、上官に。
まぁ、最近ぐったりだから仕方がないのも頷ける。苦手な相手ではないのだろうが、休みの日に会うと戸惑う。そんな感じだろう。
「あぁ、別にどこかに連れて行こうとは思わないから大丈夫。アリアちゃんが挨拶したいんだって」
そろそろっと見るトレヴァーに、アリアがにっこりと微笑んだ。
「……可愛い」
「ファウストの妹で上官の彼女」
「いや、客観的意見だから」
こいつも恋人がいる、別にそういう感情は芽生えないだろう。
立ち上がったトレヴァーの前に、アリアが来て深く頭を下げる。それに、トレヴァーはまず驚いたみたいであたふたした。
「初めまして、アリアと申します。いつも兄様とウルバスさんがお世話になっております」
「え! あの、いえ! 俺の方がお世話になりっぱなしで。あっ、トレヴァーと申します」
慌てて返すトレヴァーを見て、アリアはおかしそうにクスクス笑った。
「ウルバスさんに雰囲気が似ていると伺っていましたが、分かります。とても話しやすい方ですのね」
「そう、ですか?」
「はい。あの、体調はもう戻られましたか? 最近も忙しくしていると伺ったので。すみません、私の家の事情でお忙しくさせてしまって」
「いえ! 俺が勝手に重圧に潰されてるだけなので」
「ほら、言ったでしょ? 俺は彼に特別圧力は掛けていないよ」
その分、かなりの量の知識を詰め込もうとしているけれど……。
ちなみにトレヴァーが倒れた事を切っ掛けに仕事上の心理的負荷を感じた者は速やかに医務室相談となった。そしてトレヴァーは今も経過観察である。
「もう、そんな事を言って。大事にしてあげてください」
「……アリアちゃんが言うなら」
「!」
一瞬、トレヴァーはアリアを天使を見るような目で見た。
「まだ数年は余地があると思っています。焦らずにお願いします」
「んっ、分かったよ」
「トレヴァーさんも、どうか無理をなさらないでくださいね」
「お気遣い、有り難うございます」
よほどトレヴァーとは挨拶をしておきたかったのか、アリアはにっこりと微笑んで他へと流れていく。残されたトレヴァーはしばらくその背をぼんやり見たまま「天使だ」と呟き仲間達を大いに笑わせた。
「ファウスト様の妹さん、可愛い人なんだね」
「似ているのに雰囲気全然違うのは驚くな。あれは守ってあげたい系だ」
ボリスとレイバンはそんな風に言うが、ランバートは知っている。あれで気が強い事を。
しばらくそうして挨拶をしたり、仲間達と食事を楽しんだりしていたが、不意にオスカルが前に出て手を叩いた。
「皆さん、食べて飲んでますか? ここで、ウエディングケーキの入場です!」
カラカラっとカートに乗せられて入ってきたケーキは食べるのが勿体ないものだった。
真っ白に整えられた三段のケーキには零れるほどの苺が飾られ、砂糖漬けと飴細工の花、色のついた飴細工の玉のような飾りに、金色の編み掛け。ホイップの飾りもレースや花を模しているし、クッキーには「ランバート、ファウスト、おめでとう」の文字が書かれている。
「主役のお二人さん、戻ってきてね!」
思わず呆然。その背中をレイバンが押して、ニッカと笑った。
前に出て、ファウストと二人で並ぶとオスカルから金色の長いナイフが渡される。白いリボンをかけられたそれを二人で持って、互いに頷き上からゆっくりと崩れないよう気をつけてナイフを入れた。
「おめでとう!」
「美味しそう!」
パチパチと拍手をされながらそんな言葉が聞こえる。もの凄く照れるけれど、もの凄く嬉しいのはどうしてだろう。今日は一日頬が熱い気がする。
「はーい、一度引っ込みまーす! 切り分けたら皆さんのお手元に行きますので、少々お待ち下さい!」
オスカルの言葉でケーキが戻っていく。それを見送り、ファウストがぽつりと呟いた。
「凄いな、あれ。食べるのか?」
「ジェイクさんとアルフォンスさんの力作で、朝から目の色違ったらしいよ」
「あいつら、何してるんだ?」
「お祝いの気持ちと職人魂?」
何にしても美味しいことは間違いない。それだけは確信だ。
かくして一人分にカットされたケーキが運び込まれてくる。ケーキを飾った飴細工や苺も丁寧に綺麗に盛り付けられている。
クリームは甘みを抑え、スポンジはほんのりと優しい甘み。そしてケーキの中にはカットされた苺が挟まって程よい酸味を加えてくれている。
一口食べて、思わず隣のファウストを顔を見合わせ、笑い合った。
食事も下げられた会場に、音楽隊がひっそりと入ってきて準備をする。程なく音楽が鳴り始めるとそれとなく踊り出す人々がいる。
「ランバート、一曲どうだ?」
「いいね」
手を差し伸べられ、その手を取って前に出る。そうして踊り始めて、そういえばこうして踊るのは初めてなのではと思った。付き合いも長いがこういう機会は本当になかったから。それに以前、苦手だと言っていた。
「なんだ、ファウスト上手いじゃん」
「改めて習ったんだよ、オスカルに。踊りに誘えないなんて情けないって」
「特訓の成果、出てるよ」
腰に回った手がしっかりとリードしてくれる。組んでいる手の大きさと迷いの無さに任せていられる。ランバートは女性側を踊っているが、本当に安心だ。
周りを見れば当然のように男同士で踊っている人もこの場合多い。オスカルとエリオットは当然で、アレックスとオリヴァーも優雅。意外にもグリフィスとリッツが踊っている。リッツが踊れるのは分かっていたが、グリフィスがこんなに堂々と踊れるのは驚いた。シウスとラウルも楽しそうにしている。
一方抵抗を試みている者達もいる。クラウルとゼロスなんかはまさにだ。ゼロスが絶対的に抵抗している。アシュレーとウェインの所はウェインが首を横に振っている。彼もこうしたダンスは苦手と見える。
そしてハリーはどうにかコンラッドを出したらしい。おぼつかないコンラッドをリードしている。そういえば彼もそれなりに上流だった。
「みんな、楽しそうだな」
「そうだね」
「次はクラウルだな」
「ゼロスを説得しないとな」
「あぁ、まったくだ」
笑って、クッと腰を寄せられる。曲が丁度終わる。そうしたらこの宴も終わりになる。
音が止み、綺麗な姿勢で互いに止まる。拍手の中手を取り合ってお辞儀をすると、更に数曲が演奏される。
それも終われば、今日の楽しい夢は終わり。それが少し寂しい気が、ランバートはしてしまうのだった。
突然二人だけにされて、お互いをちょっと見てしまう。どう見てもカッコイイ。それはいつもなんだが、こうして着飾ると更にだ。
「綺麗だ」
「ファウストも格好いいよ」
互いに笑い合う。大きな手が頬に触れて、ランバートも意図を汲んで少しだけ上を向く。人前でキスをするのは慣れないし、先程のは意味合いが重くて緊張したが、今はとてもすんなりとでき……。
「ランバート、おつか……」
バァァン! と勢いよく開いたドアの先頭に立つシルヴィアと、思い切り目が合った。見れば後ろにはジョシュアやアレクシス、ハムレットの他、アーサーやルカ、アリア、リーヴァイまでもがいる。
ある者はニヤニヤし、ある者は顔を赤くし、ある者は溜息をつく。その只中で当人達だけがもの凄く気まずくなった。
「あらあら、お邪魔だったわね」
「……いいです、忘れてください」
「いいのよ、素敵な式で感極まるものよね。そこ、パーテーションあるわよ?」
「母上!」
ファウストもすっかり肩を落としている。そういえばここ、親族控え室なんだな。
シルヴィアが笑いながら入ってきて、置いてある箱をランバートとファウストへと差し出す。それに疑問符を浮かべたのはランバート達だった。
「え? なに?」
「何って、披露宴用の服よ? あんた達、その服で飲食は出来ないって言ってたじゃない。リーズナブルなのも用意したの。着替えてしまいなさい」
「え!」
これにはファウストも驚いて目を丸くする。だって試着の時に着たのは今着ている服だけだったんだから。
驚いて改めた箱の中には、確かに今の衣装よりもシンプルなものが入っている。
ランバートのはクリーム色の無地に、ベージュのベスト。形は結婚式と同じくスマートなシルエットだが、絶対的に価格は抑えてあるように思う。
ファウストのは濃紺にベージュの細かなチェック柄で、こちらもスマートなシルエットだ。
そしてお互いにベストと揃いのネクタイがある。
「上も下も脱いでこれに着替えてらっしゃい。これならちゃんと、食べて飲めるでしょ?」
「母上……有り難う」
どこかほっとしたのは互いに言うまでもない。そして二人してパーテーションの奥へと入っていった。
箱からそれぞれの服を取り出し、今着ているものを丁寧に脱ぐ。ここで気を抜いて引っかけでもしたら泣く。
「それにしても上等な生地で尻込みする。裏地にこんなに素晴らしい布地を使うなんて、俺ではできない」
「隠れた所にこそオシャレを、なんだって。俺もビビるよ」
互いに脱いでしまうとズボンを履いてベルトで締めた。やっぱりぴったりだ。シャツはそのまま着ろということだろう。
ネクタイを取り出し首にかけたところでファウストが近づいてきて、それを手に取る。とても丁寧にランバートのタイを結んだファウストは、にっこりと笑った。
「俺も、していい?」
「あぁ、勿論」
ファウストのネクタイを手に取り首にひっかけ、丁寧に結ぶ。それを締めるとき、ちょっとだけ奥さん気分になった。
「似合ってるよ」
「お前もな」
「こんなのも悪くないね」
「では、たまにしてみるか」
見つめ合って、小さく笑って、さっきしそびれたキスを触れるだけして、後は離れて着替えを進めていく。くすぐったくて、今日はずっとふわふわしている。そんな、嬉しい時間だった。
出て行くと待っていましたと言わんばかりにルカが近づいて、それぞれに香水瓶を手渡してくれる。
ランバートには青い瓶に金のキラキラとした輝きのある特別製のもので、ガラス栓の摘まみには三日月が象られている。
ファウストの物には深い黒に銀の煌めきがある特別製で、ガラス栓の摘まみは剣の柄があしらわれていた。
「僕から二人に、今日の為に」
「有り難う、ルカさん」
「ルカ、有り難う」
「ううん。つけてみてくれる?」
手にコットンを持ったルカに促され、それをほんの少量馴染ませ首筋につける。するとふわりと華やかな香りと一緒に爽やかな香りも広がる。ランバートが好む柑橘の香りも感じるが、同時にフローラル系の香りも潜んでいる。きっと時間が経つとフローラル系の方が際立ってくるんだろう。
ファウストの方は落ち着いたウッティ系だろうか。穏やかでありながらも魅力的な香りがしている。そして仄かに感じるムスクの男臭い魅力もある。大人の男、まさにそんな匂いだ。
「香りを楽しむのは服を着替えるみたいで楽しいよ。兄さんも、たまにはそういうオシャレしてみてね」
「あぁ、そうしてみる」
ふっと笑うファウストの隣、感じる香りに少しドキドキしてしまうランバートがいた。
「兄様達、おめでとう!」
「アリアちゃん!」
ピンク色のシンプルなAラインのドレスを着たアリアが近づいて、丁寧にお辞儀をして笑う。柔らかな色味のピンクは決して派手ではなく上品なものだ。
「私から兄様達にはこちらを」
そう言って彼女が手を伸ばし、ランバートの上着のポケットに生花で作られたコサージュを差していく。
ランバートにはオレンジのバラにスターチス、そしてアイビー。「絆」「信じ合う心」「永遠の愛」「誠実」という意味のあるものだ。
そしてファウストの胸にはカーネーションとかすみ草、そしてアイビー。意味は「あらゆる試練に耐えた誠実」「幸福」「永遠の愛」だ。
「私からのお祝いです。お二人にはいつまでも幸せでいてもらいたいから」
「アリアちゃん、有り難う」
「どういたしまして。ファウスト兄様は後でランバートさんに、このお花の意味を教えてもらってね」
「……すまない」
「想定内ですわ」
これにはハムレットやアレクシスが苦笑し、シルヴィアが笑っている。男たるもの女性に贈る物には気を遣うべし。草花や宝石にはそれぞれ言葉がある。声に出さないメッセージというものだ。
まぁ、ファウストはあまりそういうことを気にするタイプではないだろう。
「やれやれ、我が息子ながら情けない」
「父様」
アーサーが苦笑して近づき、ファウストの前に立つ。そして懐から小さな鍵を出してそれをファウストに握らせた。
「ん?」
「アプリーブに別荘がある。新婚旅行、決まってないんだろ?」
「あぁ、まだ。だが時期もいつになるか分からないんだぞ?」
「だからこその持ち別荘だ。好きな時に行くといい。少し前に連絡してくれれば整えておくよう言っておく。羽根を伸ばしてこい」
アプリーブは王都から三日程かかる商業都市で、別名「娯楽の街」と言われている。遅くまで開いている飲食店、他国からも集められた美術品の展示や、大きなオークション。カジノもある。更に劇場は多くオペラなどの演劇のほか、室内楽を楽しむホールもある。リラクゼーションスパもあり、マッサージや整体、美容の限りを尽くす施設もあるのだ。
不夜城とまで言われるそこは当然犯罪も多く、そうなると当たり前に騎士団の大きめな砦もあったりする。
おっと、これは新婚旅行というよりも視察か?
そんな予感もあり、ならば砦に泊まるのでもいいのではと思うが、そうなると本当に新婚旅行とはなんぞ? と言うことになりかねない。
ファウストもそんな気がしているのか、微妙に眉根が寄っている。
「言っておくが、砦に行くなよ。遊べ」
「あぁ、分かった」
「ランバートもたまには仕事から離れろ。ウルバスが言っていたが、お前達は働き過ぎだ」
「「……面目ない」」
ここにウルバスはいないが、どうやらシュトライザー家とは関係が良好なのだろう。そしてそこから内部事情がバレている。勿論業務の話はないのだろうが、仕事をしすぎるという事は伝わっているらしかった。
「悪いね、アーサー。色々してもらって」
「衣装の方はそちらに任せてしまったから、このくらいはこちらがもつ。そういう話だ、ジョシュア」
「いいわね、アプリーブ。最近行ってないわ」
「シルヴィア、カジノは出禁になっているだろ? あまりに一人勝ちが過ぎて」
「でも、美容にもいいのよ。そのうち行ってこようかしら」
「構わないけれど、人をつけるんだよ」
「じゃあ、チェルルちゃん連れて行きましょう! ぴっかぴかにお肌磨いてきましょうね」
「うえぇ!」
「母上!」
……ここはもうこれが平和なんだろう。そんな予感がした。
ふと、一人静かな人がいることにランバートは気づいて視線を向けた。普段はとても元気なリーヴァイが、今日はどこか静かなまま。見れば一つの肖像画を抱いている。
ファウストにも、アリアにも似た女性だ。長くまっすぐな黒髪に、黒い瞳。色が白く慈悲深い雰囲気はアリアに、芯のある瞳はファウストに似ている。
直ぐにそれが、彼らの母であるマリアだと分かった。
そっと近づいたランバートに、リーヴァイも気づいたのだろう。顔を上げ、ニッカと笑った。
「よい式だったぞ、ランバート。この子もきっと喜んでおるわい」
「有り難うございます、リーヴァイ様。マリア様に、ご挨拶をしても宜しいでしょうか?」
「! あぁ、勿論だ。是非してやっておくれ」
肖像画を手に持ったまま、リーヴァイはほんの少し涙を浮かべている。その手元、肖像画の女性へとランバートは笑いかけた。
「初めまして、ランバートと申します。本日、ファウストと晴れて夫婦の誓いを立てました。不束者ですが、よろしくお願いします」
そして、あの瓦礫となった屋敷で二人の居場所を教えていただき、有り難うございました。
祈りと、感謝と、これからの事。それらを込めて口にしたランバートの髪が不意に大きく風にはためいた。
『ありがとう』
驚き背後を見るも窓が開いている様子はない。柔らかな草花の香りがしそうな風が確かにしたのに。
風が吹き抜けたその先は開いていない扉だ。そちらを見たランバートは確かに、そこに立つ女性を見た。優しい笑みを浮かべた黒髪の彼女は確かに一つお辞儀をして、直後ふわりと消えていく。
「うそ……マリア!」
「え?」
違う方から声がして、驚いてそちらを見る。そこには涙を浮かべるシルヴィアがいる。皆どこから風が吹いたのかと訝しんで窓の方をみているというのに、ランバートとシルヴィアだけが戸口を見て、そしておそらく同じ人を見たのだ。
「母上?」
「……もしかして、あんたも?」
黙って頷くと、シルヴィアは困った顔をして項垂れた。
「そっか……そういう才能が受け継がれたのね。流石私の子だわ」
「もしかして、母上にも見えているのか?」
「色々とね」
苦笑するシルヴィアが何を見たのか、側のジョシュアは理解したようだった。そして気の毒そうにランバートを見る。
だが、他の面々は何のことだか分からない。困惑したファウストが真っ先にランバートへと訪ねた。
「どうしたんだ?」
「あぁ……」
「貴方のお母さんが、今日の日を見に来たみたいね。さっき挨拶して消えていったわ」
「……は?」
訳が分からないという様子のファウストはぽかんとした顔をしたし、ルカとアリアも戸惑った顔をする。アーサーは驚き過ぎて声がないし、アレクシスとハムレットとチェルルはドン引きだ。
「ランバート?」
「あ…………うん。えっと、お祝いを言ってくれた、かな。多分、ファウストとアーサー様の事を心配しているんだと思う」
「どういうことだ?」
「三人の拉致事件で、ファウストとアーサー様が瓦礫に埋もれていただろ? その場所を教えてくれたのも実は、マリア様だったんだ」
「……はぁ!」
パニックなファウストには申し訳ないし、アーサーは声もない。そして披露宴を前に、ランバートはやや強めの圧をかけられあの時の話をする事となった。
結果、結婚式の親族控え室が葬式のような有様だ。
「あ……ごめん」
「どうして言わなかったんだ」
「いや、あの時はそれどころじゃなかったし、言いそびれたというか……」
「死んでからも私は、妻に心配をかけていたなんて」
「あの、でも悪い感じはなくて!」
やばい、どうフォローしていいか分からない。
引きつっていると、助けてくれたのはシルヴィアだった。
「死んでも想いは残るみたいよ」
「シルヴィア?」
「妙なものを見る事はたまにあるけれど、生前の気持ちというものが強いみたい。マリアは二人を、家族を今も愛しているのよ。だから今日は絶対に参加するつもりだったんじゃない? 晴れ姿見せられてよかったじゃない」
「俺もそう思う。クラウル様の刺傷事件の時に犯人を連れて行った双子からは、確かに意志を感じた。悪意が強かったのかもしれないけれど、でも俺たちの事は助けてくれたんだ。マリアさんはとても綺麗で、まるで天使みたいだったよ」
「お前、それも初耳だぞ」
「…………説明のしようがないんだよ」
「はぁ……」
深い溜息をついたファウストは、それでも「仕方がない」という顔をしてポンと頭を撫でる。そして改めてマリアの肖像画を見て、穏やかに微笑んだ。
「俺はもう、心配ないよ母様。最愛に巡り会い、今日こうして夫婦となった。もう、心配しなくていい」
僅かに肩を引き寄せられるそれに従い、ランバートは目を閉じる。まだこの部屋には彼女が通った時の柔らかな草花の匂いがあるような気がした。
「それにしても、母上もランバートもそんなもの見えてたんだ」
ゾクゾクと鳥肌でもたっているのか、ハムレットが自分の腕をさする。それにランバートは苦笑した。
「俺はつい最近だし、見境なく見えてるわけじゃないよ。何か、縁のある場合が多い気がする」
「私は見境なく見えるわ。言っとくけれど、屋敷の中はたまに変なのいるわよ」
「止めてよ母上! 本邸行けないじゃん!」
「大丈夫よ、アンタは縁がなさそうだし。ジョシュアもまったく見えないのよね。何訴えても効果ないから、全然平気」
「……見えなくていいものって、多いよね」
「あんた、恨まれてそうだからね」
呆れ顔のシルヴィアに、ランバートは苦笑が漏れるのであった。
◆◇◆
会場の準備が整ったということで、ランバートとファウスト以外は先に会場に入った。とはいえ、最初の乾杯の挨拶の後はそれぞれが好きに歩き回って会話を楽しんだりという感じだ。ただ気がかりは、この乾杯の挨拶が誰かを聞かされていないこと。通常は上司だが、その上司は現在隣にいる。そうなるとシウスとかだろうか。
何にしても結婚式程の緊張はしなくてもいい。ルイーズに呼ばれて庭にも出られる会場へと移動したランバートとファウストの前で、近衛府の隊員によって扉が開けられた。
皆が拍手で迎えてくれる。赤い絨毯の上を腕を組んで進んでいく間、賑やかなお祝いの言葉がかけられる。その様子は皆笑顔で、ランバートも嬉しく笑った。
一応は新郎新婦の席が会場の一段高い場所に作られている。白いクロスをかけられ、花を飾られたそこに二人並んで座ると、一足先にはっちゃけたオスカルが前に出て来て一礼した。
「ではこれより、ファウストとランバートの披露宴を行います!」
結婚式での厳かさは何処にいったのだろう。この人も変わり身が激しい。
「それではまず、お祝いのメッセージと乾杯を陛下と妃殿下より賜ります!」
「「……は?」」
思わず二人で声がハモり、首を傾げた。
いやいや、あくまで一介の騎士に過ぎないというのに、祝辞が国王ってどうなっている!!
焦ったが、当人達は夫婦二人でノリノリで登壇すると、もの凄く楽しそうに笑った。
「やった! 驚いたね二人とも。驚かせたくて黙ってたんだよ」
カール陛下は礼節もあり王たるに相応しい人柄なのだが、カーライルという個人は根っからの面白い事好きのサプライズ気質だ。それを見誤っていた。
でも、そればかりじゃないのだろう。ふわりと柔らかく笑った人は、色んな感情がありそうだった。
「それと、こんな事でもないとお礼とお祝いが言えないからね。ファウスト、いつも国の為、その身を挺して戦い守ってくれていること、感謝している。君がいなければこの国はもしかしたら滅んでいたかもしれない。私は死んでいたかもしれない。本当に感謝しているんだよ」
「勿体ないお言葉です、陛下」
「ランバートさん、私は個人的にも貴方に助けられました。ドジで自信がなくて、俯いていることの多かった私に沢山の事を根気強く教え、自信をつけてくれたこと。そして危険な時、守ってくれたこと。本当に、どれほど感謝しても足りないくらいです」
「そんな、勿体ない言葉です妃殿下!」
「二人はこの国にとって、大事な剣であり盾だ。互いの弱い部分を補いあい、励まし、更に固い絆を結んでいく。そんな二人が今日、夫婦の誓いを立てた事を喜ばしく、そして頼もしく思っている」
「どうか末永く幸せに、互いを信じて過ごしてくださいね。お二人の幸せを私も祈りますわ」
声にならない、言葉にならない嬉しさが染みる。ファウストはずっとこの言葉を真剣に聞いている。一言ずつを胸に刻むようだ。
「これで、私達からの祝いの言葉とする。それでは皆、グラスは手元にあるかな?」
にっこりと笑うカーライルとデイジーの手にもグラスが渡り、ランバートやファウストの元にもシャンパンの入ったグラスが置かれる。それを持ち、立ち上がるのを確認して、カーライルは明るい声を上げた。
「二人の幸せな未来に。乾杯!!」
「「乾杯!!」」
グラスを上げる光景と、皆がそれを一口飲み込む。そうして次には割れんばかりの拍手が起こった。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
声が聞こえ、照れくさく思う。そこにデイジーが歩み寄って、二人の前に小さめのぬいぐるみを置いた。
「わ!」
「私と陛下から、お二人の結婚の祝いに。ウェルカムベアーですわ」
金色の柔らかな毛のベアーは青い瞳で愛らしく、白いタキシードを着ている。そしてもう一方は黒い毛に黒い瞳で、グレーのタキシードだ。耳には今日の日付が刺繍してある。明らかに特注だった。
「有り難うございます、デイジー様」
「有り難うございます」
「二人には幸せになってほしいの。本当に、有り難うございます。お二人がいなければ、私はここに立っていません」
微笑む彼女の隣にきたカーライルもまた頷いている。そのうちにルイーズが迎えにきて、程なく二人は退出する事となった。
そうなると無礼講らしい。オスカルが「ご自由にご歓談ください」とアナウンスするので自然とそうなる。
テーブル席もあるが、基本料理などは好きに取るようビュッフェスタイル。これが騎士団では普通で、実に慣れたものだ。
「ランバート!」
「ハリー、コンラッド」
「おめでとう! すっごく綺麗じゃん!」
「有り難う」
いつもとは違う礼服のハリーが飛び込んでくる。それを受け止めて、ランバートも大いに笑った。
「おめでとう、ランバート」
「有り難う、コンラッド。バレッタは誰の案なんだ?」
「オスカル様だ。有志だけで金額も気持ちと言ったのに、誰も出し惜しみしないんだからな」
「本当はもっと沢山集まったんだぞ。それは後のお楽しみで」
「マジかよ」
本当に、感謝しかないよ。
「おっ、早速囲まれてるな」
「お疲れ、ランバート。それにしても凄い豪華な式だよね。俺、やっぱりジェイさんにおねだりしようかな」
「華やかだったよ、ランバート。服、そっちも似合ってるね」
苦笑するゼロスと、羨ましそうなレイバン、にこにこなボリス。三人とも乾杯をした。
「お前、今日が自分の誕生日だって忘れてただろ」
「あ……ばれた?」
「案外抜けてるよね、ランバートは。俺なら絶対自分の誕生日忘れない」
「なんで? レイバンって、そんなに誕生日待ち遠しいタイプだっけ?」
「俺の誕生日はジェイさんが特別にケーキ焼いてくれるの。俺の為だけに。それがすっごく嬉しいから」
本当に、ここもいつまでもお熱い様子だ。
「ちなみに、ケーキ入刀のケーキはジェイさんとアルフォンスさんの力作だから。絶対美味しいよ」
「うそ! だって、忙しいんじゃ」
「今日の会場の料理の半分くらいは二人の料理だよ。朝から予算度外視で腕が振えるって、二人とも目の色違った。今日はスコルピオさんが一日宿舎担当買って出てくれたんだよ」
「申し訳ない。でも、楽しみだ」
「期待してくれよ」
ニッと笑うレイバンの嬉しそうな顔ったらない。でも、そうか。それは楽しみだ。
「ランバート~」
「食いもの用意したぞ」
「皆で食おう」
「あっちにテーブル用意してるからさ」
コナン、ドゥーガルド、トレヴァー、チェスターも来てテーブルへと案内してくれる。トビー、ピアース、クリフが待つそのテーブルには豪勢な料理が並んでいた。
鴨のロースト、大ぶりなロブスターの乗ったパエリア、コンソメと野菜のテリーヌなんて断面が美しくて凄い。牛フィレ肉とフォアグラのグリエもなかなかボリュームがある。
「凄い豪勢だな!」
「結婚式だもんな」
「食おうぜ」
それぞれ好きに皿を持って盛り付けて座る。ハリーの目は指輪に釘付けだ。
「指輪みたい!」
「どうぞ」
手ごと差し出せばしげしげと見ている。そして羨ましそうにコンラッドを見るのだ。見られるコンラッドはちょっと逃げたそうだ。
「こんなのは無理だからな」
「分かってる。でも、やっぱり指輪は特別だよね」
そして不意に視線はランバートの隣にいるゼロスへ。彼の手にもシンプルだが指輪がはまっている。
「ゼロスも結婚指輪欲しいよね?」
「いや、あまり拘りはないが」
「どうして? 結婚式は指輪の交換必須でしょ?」
「俺、地味がいいって言っただろ。指輪も派手なのいらないし」
「ちなみに、好きな宝石はあるのか?」
「宝石自体あまり興味……が……?」
ランバートは分かっていた、ゼロスの背後に立った人を。でも、あえて教えなかった。驚いて見上げたゼロスが途端にあわあわしたのは分かった。ゼロスの後ろに立ったクラウルが苦笑している。
「一月の誕生石はガーネットか。悪くないな」
「いえ、あの!」
「諦めろ、ゼロス」
「ランバート!」
「絶対に地味婚にはしないから、安心してくれ」
「裏切り者!」
「親友を盛大に送り出してやりたいという友情、お前なら分かると思うけれどな」
これには同期全員が頷く。何せこれまでも散々ランバートのお祝い事の指揮を執ってきたのだから。それが自分に返るだけだ。
これまでの経緯から何も言わず、顔を僅かに赤くしてぐぬぬっとなるゼロスを全員が笑った。
「ランバート、おめでとう。さっきファウストにも挨拶をしたが、お前にも。本当に色々と世話になったな」
「有り難うございます、クラウル様。俺のほうこそ日頃からお世話になっております。今後もどうか、よろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそ」
「俺の親友の事も」
「それは言われずともだ」
硬く握手をする隣で、ゼロスがなんとも物言いたげな顔をしていた。
ゼロスはそのままクラウルに預けた。恋人が呼びにきたのだから留めておくのも申し訳ない。何よりこの場でなくても彼とは大いに話ができるのだから。
「ゼロスが主導権を握っているように見えて、実はクラウル様が寛容に好きなようにさせているんだろうな」
「ボリス、鋭い所をつくな」
「でしょ?」
ランバートもそう思うのだ。
「お~い! ランバート!」
「ウェイン様!」
こちらを見つけてやや早足なウェインは今日も向日葵みたいな笑みを浮かべている。その後ろからはアシュレーがいて、ランバートを見て静かに頷いた。
「おめでとう、ランバート!」
「有り難うございます、ウェイン様」
「綺麗だったよ。ランバートは僕の自慢の部下だよ」
「俺も、ウェイン様は自慢の上官です」
「今では立場が逆転しているがな。まぁ、気持ちの問題だ」
苦笑するアシュレーだが、多分気持ちは同じだ。確かに位としてはランバートの方が上なのだが、一度だってこの人達を部下だと思ったことはない。いつまでも手本とすべき、頼りになる上官だ。
「ねぇ、聞いて! 僕ね、ランバート達のお陰でプロポーズされたの!」
「え! 本当ですか! わぁ、良かったですね!」
「有り難う!」
凄く幸せそうな笑顔のウェインはルンルンだ。その側で、アシュレーもまんざらではない笑みを浮かべている。
「踏み切りましたか。いつの予定ですか?」
「まだ何も決めていない。とりあえず今日の日を無事に終えてからだ」
「僕の家族にも挨拶にきてくれるんだって。凄く嬉しい。でも、アシュレーの家は行かなくていいって」
「騎士団に入った時点で死んだ者と思われているからな。今更何も言ってこないとは思うが、何かあると面倒だ。まぁ、直ぐ上の兄には報告をしに行くが」
「直ぐ上のお兄さん?」
そういえば、アシュレーの家の事を聞いたことがなかった。首を傾げると、アシュレーはやや困った顔をした。
「俺は男ばかり五人兄弟の末なんだ。家は一番目と二番目が。三番目は自由気ままに出奔中で、直ぐ上の兄は同じく騎士団にいる」
「え!」
これは初耳だ。だが、それらしい人を見たことがない。思って考えていると、アシュレーの苦笑は深くなった。
「今はアプリーブ砦の首座だよ」
「……」
タイムリーだった。
「実は先程シュトライザー公爵から、アプリーブの別荘で新婚旅行はどうかと提案があったばかりなんです」
「あぁ、砦には近づかないほうがいいな。仕事押しつけられるぞ」
「近づかないようにします」
何にしても、ウェインとアシュレーも更に一歩踏み出すようだった。
「おっ! ウェインとアシュレーもいたか」
「グリフィス」
「ランバート、おめでとう!」
「リッツ!」
こちらに近づいてくる大柄なグリフィスはどんな衣装も着こなす。その側につくリッツはいつも以上に小柄に見えた。
「では、私達はこれで」
「また後でね」
「はい」
入れ替るように去って行く二人を見送り、ランバートはグリフィス達を迎えた。
「それにしても流石だよ、お前。俺なら絶対あの衣装着れない」
「俺だって肝が冷えたっての。ぶっちゃけ、いくらだ?」
「聞いたら金玉縮こまるぜ。あれだけの品だぜ? 俺、布を裁つのすら怖い」
「……うん」
金額、聞かないのがいいな。
「まぁ、何にしても美人だったぜ。まぁ、今もだがな」
「有り難うございます、グリフィス様」
心なしかグリフィスはスッキリとした顔をしている。その理由は、きっと祖国の事が解決したからなのだろう。
「リッツはいつ式なんだ?」
「それな。親父はそうでもないんだけど、兄貴が乗り気でさ。人前式だけど上げようって色々動いてるみたい」
「フランクリン様もあの事件以降性格変わったよな。アレク兄上が驚いてた」
「アレが素だったんじゃないかな? 今まで抑圧されてたけど。親父ですらタジタジなんだけど、何でか嬉しそうなんだよな」
そう言うリッツもまた、嬉しそうだ。
「そういえば! ルシールって知ってるだろ」
「当たり前だろ、元俺の家のメイドだもん。腕は確かだから頼もしいよ」
「俺、最近まで知らなかったんだけど!」
「俺だってそっちに出向してるなんて知らなかったよ。でもまぁ、いい人だよ。気も利くし」
「……兄貴、好きみたいなんだけどさ。彼女の好きなもの、知ってる?」
「素朴なエッグタルトと、かすみ草の花束、小さな動物。お酒はあまり飲まなかったかな。ホットミルクとかも好きだよ」
「サンキュ! これで兄貴にいい情報持って行ってやれるわ」
リッツは嬉しそうだ。そしてそんなリッツを見るグリフィスの目も優しい。こんな穏やかな表情もするのかと驚いてしまう。何せこの人は騎士団の中にいると鋭い目をする事が多い。でも世話焼きで苦労性で、面倒見のいい皆の兄貴でもある。
「おや、千客万来ですね」
「オリヴァー様」
にっこりと微笑むオリヴァーの隣には、彼の伴侶であるアレックスもいる。長身の二人がきっちりと礼服を着ていると迫力がある。
「アレックス様!」
「やぁ、リッツ殿。商売、順調なようで嬉しいよ」
「いえ、俺の方こそ支援を頂いて助かっています。あの、最近うちのデザイナーが色々と迷惑をかけていませんか? 主に、オリヴァー様に」
そろそろっとオリヴァーを見るリッツ。それに返すオリヴァーはにっこりと微笑んだ。
「迷惑ではありませんが、そろそろドレッサーがパンクしてしまいそうです」
「ですよね! ほんと申し訳ないです! 俺からも言い聞かせておくので!」
「? 何の話ですか?」
話が見えず問えば、リッツは申し訳なく小さくなった。
「うちに、腕のいいデザイナーの男がいるんだけどさ。ちょっと変わってて」
「男に女性物のドレスを作るのが趣味なのです。勿論女性物のデザインではありますが、男が着ることを前提としているので体型的に無理はあまりなくて。ほら、年末のミスコンで見たあの衣装。アレが全部彼の作品なのです」
「おぉ…………」
凄い数だった。そして凄く豪華だった。確かに女性物にしては腰の部分や肩幅が考慮されていると思ったんだ。
「アレックス様も、本当に申し訳ない」
「いや、構わない。あれは自分の仕立てた服をオリヴァーに着せる事で作品として完成させているのだろう。そういう目だ。オリヴァーも何だかんだと楽しんでいるから」
「だって、そういう日の貴方はとても情熱的なのですもの。この衣装を着て今日はこんなプレイがしたいって、着る前から滾るのですよ」
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「おっと、そうでした! ランバート、おめでとう。とても素敵な式でしたね」
「有り難うございます」
「ファウスト様を今後とも、よろしくお願いします。キッチリとリードを握っていてくださいね」
「それ、難しい時がありますが」
「大丈夫、貴方の『おすわり』を無視する度胸などありませんよ」
なんて、とても冗談めかして言うのだ。この人にも適わない。
「おめでとうございます、ランバート殿」
「有り難うございます」
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「はい。アレックス様もオリヴァー様の事をよろしくお願いします」
伝えると、こちらも「言わずもがな」なんだろう。にっこりと柔らかく微笑んで連れ立って去っていった。
リッツ達も広い会場へ。少し落ち着いたかと思ったが、今度は違う所から声がかかった。
「ランバートさん!」
「アリアちゃん!」
「!」
明るく朗らかな声に視線を向けると、ほくほくとした笑みを浮かべるアリアと、その後ろをついてくるウルバスがいる。そんな二人を見るトレヴァーが、思わず食べ物を詰まらせそうになった。
「おめでとう、ランバート。素敵な式だったよ」
「有り難うございます、ウルバス様」
「ところで、トレヴァーを借りたいんだけれどいいかな?」
「んぅぅ!」
……怯えるなよ、上官に。
まぁ、最近ぐったりだから仕方がないのも頷ける。苦手な相手ではないのだろうが、休みの日に会うと戸惑う。そんな感じだろう。
「あぁ、別にどこかに連れて行こうとは思わないから大丈夫。アリアちゃんが挨拶したいんだって」
そろそろっと見るトレヴァーに、アリアがにっこりと微笑んだ。
「……可愛い」
「ファウストの妹で上官の彼女」
「いや、客観的意見だから」
こいつも恋人がいる、別にそういう感情は芽生えないだろう。
立ち上がったトレヴァーの前に、アリアが来て深く頭を下げる。それに、トレヴァーはまず驚いたみたいであたふたした。
「初めまして、アリアと申します。いつも兄様とウルバスさんがお世話になっております」
「え! あの、いえ! 俺の方がお世話になりっぱなしで。あっ、トレヴァーと申します」
慌てて返すトレヴァーを見て、アリアはおかしそうにクスクス笑った。
「ウルバスさんに雰囲気が似ていると伺っていましたが、分かります。とても話しやすい方ですのね」
「そう、ですか?」
「はい。あの、体調はもう戻られましたか? 最近も忙しくしていると伺ったので。すみません、私の家の事情でお忙しくさせてしまって」
「いえ! 俺が勝手に重圧に潰されてるだけなので」
「ほら、言ったでしょ? 俺は彼に特別圧力は掛けていないよ」
その分、かなりの量の知識を詰め込もうとしているけれど……。
ちなみにトレヴァーが倒れた事を切っ掛けに仕事上の心理的負荷を感じた者は速やかに医務室相談となった。そしてトレヴァーは今も経過観察である。
「もう、そんな事を言って。大事にしてあげてください」
「……アリアちゃんが言うなら」
「!」
一瞬、トレヴァーはアリアを天使を見るような目で見た。
「まだ数年は余地があると思っています。焦らずにお願いします」
「んっ、分かったよ」
「トレヴァーさんも、どうか無理をなさらないでくださいね」
「お気遣い、有り難うございます」
よほどトレヴァーとは挨拶をしておきたかったのか、アリアはにっこりと微笑んで他へと流れていく。残されたトレヴァーはしばらくその背をぼんやり見たまま「天使だ」と呟き仲間達を大いに笑わせた。
「ファウスト様の妹さん、可愛い人なんだね」
「似ているのに雰囲気全然違うのは驚くな。あれは守ってあげたい系だ」
ボリスとレイバンはそんな風に言うが、ランバートは知っている。あれで気が強い事を。
しばらくそうして挨拶をしたり、仲間達と食事を楽しんだりしていたが、不意にオスカルが前に出て手を叩いた。
「皆さん、食べて飲んでますか? ここで、ウエディングケーキの入場です!」
カラカラっとカートに乗せられて入ってきたケーキは食べるのが勿体ないものだった。
真っ白に整えられた三段のケーキには零れるほどの苺が飾られ、砂糖漬けと飴細工の花、色のついた飴細工の玉のような飾りに、金色の編み掛け。ホイップの飾りもレースや花を模しているし、クッキーには「ランバート、ファウスト、おめでとう」の文字が書かれている。
「主役のお二人さん、戻ってきてね!」
思わず呆然。その背中をレイバンが押して、ニッカと笑った。
前に出て、ファウストと二人で並ぶとオスカルから金色の長いナイフが渡される。白いリボンをかけられたそれを二人で持って、互いに頷き上からゆっくりと崩れないよう気をつけてナイフを入れた。
「おめでとう!」
「美味しそう!」
パチパチと拍手をされながらそんな言葉が聞こえる。もの凄く照れるけれど、もの凄く嬉しいのはどうしてだろう。今日は一日頬が熱い気がする。
「はーい、一度引っ込みまーす! 切り分けたら皆さんのお手元に行きますので、少々お待ち下さい!」
オスカルの言葉でケーキが戻っていく。それを見送り、ファウストがぽつりと呟いた。
「凄いな、あれ。食べるのか?」
「ジェイクさんとアルフォンスさんの力作で、朝から目の色違ったらしいよ」
「あいつら、何してるんだ?」
「お祝いの気持ちと職人魂?」
何にしても美味しいことは間違いない。それだけは確信だ。
かくして一人分にカットされたケーキが運び込まれてくる。ケーキを飾った飴細工や苺も丁寧に綺麗に盛り付けられている。
クリームは甘みを抑え、スポンジはほんのりと優しい甘み。そしてケーキの中にはカットされた苺が挟まって程よい酸味を加えてくれている。
一口食べて、思わず隣のファウストを顔を見合わせ、笑い合った。
食事も下げられた会場に、音楽隊がひっそりと入ってきて準備をする。程なく音楽が鳴り始めるとそれとなく踊り出す人々がいる。
「ランバート、一曲どうだ?」
「いいね」
手を差し伸べられ、その手を取って前に出る。そうして踊り始めて、そういえばこうして踊るのは初めてなのではと思った。付き合いも長いがこういう機会は本当になかったから。それに以前、苦手だと言っていた。
「なんだ、ファウスト上手いじゃん」
「改めて習ったんだよ、オスカルに。踊りに誘えないなんて情けないって」
「特訓の成果、出てるよ」
腰に回った手がしっかりとリードしてくれる。組んでいる手の大きさと迷いの無さに任せていられる。ランバートは女性側を踊っているが、本当に安心だ。
周りを見れば当然のように男同士で踊っている人もこの場合多い。オスカルとエリオットは当然で、アレックスとオリヴァーも優雅。意外にもグリフィスとリッツが踊っている。リッツが踊れるのは分かっていたが、グリフィスがこんなに堂々と踊れるのは驚いた。シウスとラウルも楽しそうにしている。
一方抵抗を試みている者達もいる。クラウルとゼロスなんかはまさにだ。ゼロスが絶対的に抵抗している。アシュレーとウェインの所はウェインが首を横に振っている。彼もこうしたダンスは苦手と見える。
そしてハリーはどうにかコンラッドを出したらしい。おぼつかないコンラッドをリードしている。そういえば彼もそれなりに上流だった。
「みんな、楽しそうだな」
「そうだね」
「次はクラウルだな」
「ゼロスを説得しないとな」
「あぁ、まったくだ」
笑って、クッと腰を寄せられる。曲が丁度終わる。そうしたらこの宴も終わりになる。
音が止み、綺麗な姿勢で互いに止まる。拍手の中手を取り合ってお辞儀をすると、更に数曲が演奏される。
それも終われば、今日の楽しい夢は終わり。それが少し寂しい気が、ランバートはしてしまうのだった。
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