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最終章:最強騎士に愛されて
17話:十年後の君へ(帝国・ずっと仲間)
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「ご主人様、お帰りなさいませ」
そう言って恭しく頭を下げて上着と鞄を受け取る執事に穏やかな微笑みを浮かべ、ウルバスはシュトライザー本邸へと入っていく。開放的で明るいエントランスは今、あまり余計な飾りはない。階段の所に家族の肖像画があるくらいだ。花瓶なんてもってのほか。
それというのもやんちゃ盛りが屋敷中を遊び回るからだ。ほら、今日も。
タタタタタッ、という軽快な足音が響く。そうして視線を向けた先に、一人の小さな男の子が大きな目を輝かせて此方へと駆けてくる。お付きのメイドを煙に巻く素早い動きで近づいてくる子は、そのまま大きく手を広げて飛び込んできた。
「お帰りなさい、父様!」
「ただいま、ケイシー」
飛び込んできた子を抱き上げ、そのままくるんと一回転。これを喜ぶ屈託のない笑顔を見ると、一日の疲れも飛んでいく。そのくらいこの子は愛らしい。
ケイシーはルカとメロディの第二子で男の子だ。そして、約束通りアリアの所に養子にきた。この子をメロディが身籠もり、あと二ヶ月ほどで生まれると聞いた時にウルバスはアリアに結婚を申し入れた。
生まれる子には両親が必要だと思ったし、心臓の弱いアリアに子供の世話と家の両方は負担が大きいと考えたのだ。
喜んでくれて、割と早く準備も整って結婚して。それから半年も経たずにこの子が息子としてきてくれた。今年で四歳、やんちゃ盛りである。
ふわふわで、少し毛先に癖のある黒髪に大きな青い目。色が白く、鼻筋が通っていて唇は小ぶり。マシュマロのように柔らかな頬をツンツンするだけで癒やされる。親らしい事ができるのかと心配だったが、杞憂だった。これはいつまででも愛でられる。
「ケイシー、母様はどうしているんだい?」
「夕飯のお支度をしています」
「そうかぁ。母様のご飯は美味しいから、楽しみだね」
「はい!」
ニコニコと嬉しそうに笑うケイシーを腕に抱いたまま、ウルバスは着替えの為に自室へと戻っていった。
手早く着替えている間に、ケイシーはまた違う所に冒険に出たらしい。あの子のメイドは苦労が多そうだ。当然運動量もだが。なにせファウストに向かってお馬さんごっこを申し入れるんだ、焦った。それでも幼いケイシーを背中に乗せてお馬さんをしたあの人に爆笑した。世界広しといえどあの人をお馬さんにできるのはこの子くらいなものだ。
「失礼します」
ノックの後で声がして、執事が恭しく一礼する。視線を向けると彼は静かに話し出した。
「明日の夜に、此方の屋敷に旧友の方達をお招きする準備をいたします。アシュレー様、ウェイン様はしばらく我が家に逗留ということで、宜しいのでしょうか?」
「あぁ、構わない。ついでに、一応部屋をもう二部屋用意だけしておいてくれ。酔い潰れてしまったらそのまま泊めるから」
「畏まりました。お料理とお酒はどのようになさいますか?」
「あまり気を遣わなくてもいい。一次会は外での予定だから、ワインを十本程度と摘まめる料理が少しあれば構わないよ」
「畏まりました」
「いつもすまないね」
伝えると、老齢の彼は僅かに微笑み丁寧に礼をする。それに、ウルバスも穏やかな笑みを浮かべた。
シュトライザー公爵なんて重責を自分のような者が負えるのか、心配でならなかった。だが実際動いてみると実にウルバス好みの仕事だった。ようは人と人との調整が一番大事だったのだ。
大工や石工という職人達は多少頭が硬く融通の利かない部分があるが、懐に入れば多少の無理も小言一つくらいで引き受けてくれる。誰かに頭を下げる事も、時に輪の中に入って同じように楽しむ事もウルバスは苦ではない。おかげで職人達には「若様」と呼ばれて時々飲みに誘われる。
書類仕事に関しても騎士団である程度はしてきた。ただこちらはアリアがかなり手伝ってくれているし、長年仕えている執事も分かっていた。今でも夫婦でやっている。
結婚して五年、息子もいて実に楽しく充実している。
だが、やはり時々海が恋しいと思う事もある。槍を持ち、船を操り風に吹かれていた時代を「懐かしい」と言えるには、まだ日が浅いのだろう。
そういう時は港に散歩に出て、トレヴァーがいれば話し込んでしまう。彼は本当に頑張ってくれている。
相変わらず柔和で垣根を持たないトレヴァーは、この五年で逞しい目になった。自信もついただろう。ウルバスが抜けた事で一度海上がざわついた時があったが、トレヴァーはそれを上手く収めた。常勝の海軍としての威厳を保ったのだ。
それを知った時に「大丈夫だ」と思った。そして、自分のあるべき場所はもう譲っていいのだと諦めた。
「ウルバスさん」
声をかけられて、ウルバスはハッとして振り向いた。戸口に穏やかに微笑むアリアがいる。母親となり柔らかな空気を纏うようになった最愛の人が、そっと近づいてきた。
「お帰りなさい。今日は現場を見にいかれたんですよね?」
「ただいま。問題なさそうだったよ」
古い教会の建て替えをしている。今日は古いものの解体が終わり、瓦礫を撤去した後。最初の作業の日だった。工事が何事もなく終えられるように教会の神父を呼んでお祈りをする日だったから、ウルバスも一緒に受けてきたのだ。
「それはよかった。明日、アシュレーさんとウェインさん、オリヴァーさんとグリフィスさんがいらっしゃるのですよね?」
「うん。騒がせてごめんね」
「あぁ、いえ! とても賑やかですし、皆様気を遣って下さいますから平気です。ウェインさんなんて、ケイシーと遊んでくれるので助かるわ。次は鬼ごっこするんですって」
「うう゛! あぁ、そう、なんだ」
元第二師団師団長を相手に鬼ごっこ。あの子は大物になるかもしれない。
ウェインは先の戦争の後遺症で、肺への影響が大きく残り一線を退いた。とはいえ、王都の訓練が鬼なだけで十分普通に騎士としてやっていける。勿論日常生活に支障なんてない。
そんな人物を相手に、鬼ごっこ。おそらく現役第二師団に提案したら青い顔をして辞退するだろう。
ケイシーについては本当に活発で、笑顔が多い。
そんなあの子が可愛いらしく、ファウストとランバートは月に一~二度ここにきてくれる。ファウストに「お馬さんしたい!」と言った時には焦った。あの人を馬にするんだ、とんでもない奴だ。恥ずかしいながらも無邪気な笑顔で来られると断れないファウストはしばらく背中にケイシーを乗せていた。爆笑したら後で拳骨された。久々の痛みだったな。
ランバートにはよくスイーツを作って欲しいと言う。彼も断らない子だからせがまれるままに料理を作ってくれる。クッキーなんて当たり前、焼き菓子やプティングまで。アリアを手伝って夕飯作りまで手伝っていくのだから、頭が上がらない。
こんな人達に囲まれて、あの子は真っ直ぐに愛情を受けて育っていく。これを、喜ばしくも少し複雑な気持ちで見てしまうのはいけない事かもしれない。
ケイシーがまだ生まれる前、アリアの夢にチャールズが出て来たという。とても寂しそうに、縋るような顔で彼は「お前の側に行けば、私は愛されるのだろうか。この寂しさは、埋まるのだろうか」と、聞いてきたという。
アリアは当然のように手を差し伸べ抱きしめて約束したそうだ。そして、ケイシーがここにきた。
今でも家族の部屋に彼の肖像画がある。神経質そうで、どこか暗い表情のチャールズとあの子は重ならない。あんなに元気で明るく、他を振り回しながらも幸せな気持ちにしてくれる子とは印象が違う。だからあの夢はただの夢で、なんの意味もなかったかもしれない。
でも、思うのだ。本当はこのような子供時代をあの男が願っていたのだったら。アリアとウルバスが愛情を込めて育てているからこそ、あの子も愛情を示してくれるのならば。そう思うと、途端にやるせない。これが本来だったなら、前世はあまりに歪んでしまっていたのだろう。
「ウルバスさん?」
「ん? どうしたの?」
「いえ。今日は考え込む事が多いように思えて。お疲れですか?」
「ううん、違うよ」
ちょっと、考えてしまうのは節目の時がきているから。三日後に、同盟締結十周年の式典が王都で大々的に開かれる。ウルバスは城で行われるパーティーに出席予定だ。シュトライザー公爵としてではなく、あの戦争に大いに関わった元騎士として。
その場にはアシュレーやウェインもくる。彼等がこの時期にここに来るのはそういう理由があってのことだ。
今更騎士としてなんて、どんな顔をしていいものか。少しだけ複雑なのは否めない。
心配そうに此方を見上げるアリアを見る。そしてにっこりと笑い、艶やかな黒髪を撫でた。
「明日、日中は空いているから少し街に出ないかい?」
「え? あの、いいんですか?」
「勿論。ケイシーも連れて、親子三人でね」
「あの子喜びます。では、明日を楽しみに」
「喜ぶのはケイシーだけ? アリアちゃんは喜んでくれないの?」
伝えたら、彼女はポッと赤くなる。こういう所、本当に初々しいままなんだ。
「あの、勿論私も嬉しいですし、その、楽しみです」
ぽっぽっ、と赤くなる顔を見てウルバスは笑い、腰に手を伸ばして抱き寄せてそっと、額にキスをする。驚いた黒い瞳が見上げて、あたふたしている。こういう所がまだまだ可愛くて嬉しくて、ウルバスはそっと唇にもキスをした。
◆◇◆
今日はアシュレーとウェインが王都に来る事になっている。約束は夜だが、グリフィスは午前の仕事を終えて半日休みを取った。午後からの基礎訓練をドゥーガルドとレイバンに任せてきたが、あいつらは顔を見合わせて凄く嬉しそうな顔をした。そんなにかよ。
まぁ、いい加減場を譲る覚悟もしておかなけりゃならないだろうな。いつまでも若くはない。幸い体は動くし衰えたとは思っちゃいないが。
何より直属の上司が相変わらずだ。今年四〇だぞ、化物かよ。いや、化物だったな昔から。
そういうことで半日、リッツと健全なデートをすることにした。会うのは三週間くらい前か。五日前くらいに帰ってきたと連絡が来たから。
向かうのはベルギウス本邸。今の主はフランクリンだ。
いつものように招かれて通されたのは執務室。そこからはまだ声がしている。
「今度ファッションショーをやるんだって? 準備はできてるのかよ兄貴」
「勿論だよ、リッツ。今をときめく女優達に声をかけたら若い子が乗り気でね。顔を売りたいんだと思う」
「家ばかりじゃ味気ないから、他も誘うんだろ? 合同ショーだっけ」
「アベルザード家と、パラモール家の三社。うちは完全オーダーのドレスが中心。アベルザードは今の流行を取り入れた量産服。パラモール家は由緒正しい儀礼服。棲み分けがされているけれど、いい刺激になればと思って」
「引っ張り出したじゃん、兄貴」
「騎士団での繋がりがあると聞いて、口利きをお願いしたんだよ。あそこは人脈の宝庫だからね」
「あまり利用するとランバートが嫌な顔をするんだよな」
「そういえば、ヒッテルスバッハ夫人が引退して、店は誰が引き継いだんだい?」
「アネット・オールコック。現内政長官の奥方だよ。やり手で気性がシルヴィア様に似てる」
「そうなると少し手を考える必要があるね。シルヴィア様も引退なされたとはいえ、未だご壮健だ」
……もの凄く、商人らしい話をしている。
「グリフィス様」
「のわぁ!」
後ろから声をかけられて驚いて飛び上がった。そうして後ろを見ると、五歳くらいの男の子と小さな男の子を抱いたルシールが立っている。相変わらず感情は読めない。
ルシールはフランクリンからの猛アタックを食らい、それでも数年は耐えた。だがそれ以上にフランクリンが折れなかった。彼は柔和そうな笑顔と物腰からは想像ができないくらいに積極的で、かつ優しさで締め上げるようにルシールを落としていったらしい。
最終的にルシールは困り果ててアラステアとジョシュアに相談し、二人が当然のように許したので奥方に収まった。現在は二児の母だ。
「お入りにならないのですか?」
「あぁ、いや。仕事の話してるっぽいから、なんか」
「君に聞かれて困る話はないから平気だよ、グリフィス」
「ぬあぁ!」
ルシールと向かい合っている背後で、今度はフランクリンの声がする。振り向くと彼はにっこりと笑っている。その視線は車椅子の時代よりも高い。リハビリを頑張った結果、屋敷の中くらいは杖で生活できるようになったのだ。
「うわぁ! もうこんな時間になってる! ごめんグリフィス、着替えてからでもいいか?」
慌てて出てきたリッツは、前より少し逞しくなっただろう。少し日に焼けて、腕や足や腹筋にも程よく筋肉がついた。
「ゆっくりでいいぞ」
「急ぐ! だって、三週間ぶりのデートなんだもん!」
「すっ転ぶなよ」
茶のスラックスに白いシャツ、その袖を肘あたりまでまくり上げたリッツが慌てて駆け出していく。肩を少し過ぎるくらいまで伸びたキャラメル色の髪、少し精悍になった顔立ち。昔は可愛いと思っていたが、今はそれに少し男らしい格好良さが加わった。
「では、その間こちらでお待ちください。ルシール、お茶をお願いしてもいいかな?」
「はい、勿論」
杖をつきながらも自らの足でソファーに腰を下ろしたフランクリンの腕に、まだ一歳にも満たない赤ん坊が預けられる。その側では五歳の長男がいるが、動きがとても素早い。
「なぁ、フランクリン。そいつ、前よりも素早くなってないか?」
問えば彼は長男と目を合わせ、とても朗らかに微笑んだ。
「とても素早くて凄いんだよ。最近はケイシーと遊んでいて、追いかけっこが白熱するんだって」
「将来何にするつもりだよ」
「商人だけど、自衛も大事だって身に染みたからね。強い子に育てて欲しいって、ルシールにお願いしているよ」
「はい、とても逞しく健康に育っています。ウェイン様が来られた時はケイシーと二人、とても楽しくかけっこや鬼ごっこをしていますよ」
ウェイン相手に駆けっこなんて、ぜってーしたくない。
それにしてもケイシーも凄い。ふわふわな容姿からは想像できないが、妙な英才教育でも受けていそうだ。父親がウルバスで、血統はファウストと同じ。明らかに仕込みによっては将来化物だろう。
「そういえば、君も十周年の式典に出るんだったね」
不意に真面目な声で問いかけられ、グリフィスは頷く。フランクリンは静かに頷いた。
「名代をリッツに頼んでいる。まぁ、そうでなくても呼ばれていたけれどね」
「欠席かい、フランクリン」
「車椅子ではね、流石に少し。それに元々クシュナートやジェームダルにパイプを持っているのはリッツだから、これでいいんだ」
穏やかに長男の頭を撫でるフランクリンは静かなものだ。ベルギウス家は彼の時代になって人に優しい家になってきている。この人の気性もそこにはあるのだ。
その時、バタバタと走ってくる音がしてリッツが駆け込んでくる。まだタイもよれたままだ。
「お待たせ!」
「いや、タイよれてるぞ」
「だって、早く行きたくて!」
溜息をつくグリフィスと、おかしそうに笑うフランクリン。立ち上がったグリフィスが前にきて、リッツのタイを綺麗に結び直した。
「あっ、有り難う」
「いや。んじゃ、健全なデートというやつをしてこようか」
「うん」
ほんの少し頬を染める嬉しそうなリッツを見ると、穏やかなのに少し騒がしい。ビッチはこの十年で少しだけ、健全という言葉を覚えたのだ。
街はお祝いムードで賑やかになっている。大きな争いもなく十年、民にとっては安心して過ごせただろう。
記念イヤーを祝うという名目で便乗商品が溢れる中を、二人も少し軽い足取りで進んでいる。
「昼どうしようか」
「何が食いたい、リッツ」
「魚! 港の方に入った所に美味い店があるんだ」
「んじゃ、そうすっか」
隣を歩くリッツが楽しそうに声をあげ、さりげなく腕を組む。多分意識はしているんだろう。証拠に、少し歩き方がぎこちない。手にはお揃いの結婚指輪がはまっている。シンプルな細いリングにダイヤモンド型のデザインが入り、そこに小さな石が三つ。真ん中が琥珀で、両サイドがダイヤモンドだ。
「なんだよ、今更意識してるのか?」
「いや、人前だしさ」
「可愛い事言うようになったよな、お前。昔は平気で人前で暴露しまくってたってのに」
「あれは! あぁ、うん、若気のなんちゃらだよ」
顔をほんのりと赤くしながらも嬉しそうなのは、なんとも言えずこちらも照れる。でもまぁ、こういうのもいいんだろう。
案内された店は肩肘張らない感じの店で、魚料理が自慢というだけあって美味かった。
新鮮な鯛のカルパッチョ、デカい魚を丸ごと一匹使ったアクアパッツァ、シーフードたっぷりのパエリア。これらをペロリと平らげながら、グリフィスは最近の話をしていた。
「じゃあ、レイバンやドゥーガルドから突き上げ食らってるんだ」
上品な家の出にしてはワイルドに食べるリッツが目線だけを上げてグリフィスを見る。船暮らしも多いから、上品さよりは食べられる時に素早くなんだろう。
「突き上げって程じゃないが、色々心配されてるらしい。お前と会う時間をもっと取って欲しいみたいだ」
「うわ、いい奴ら!」
「……お前も、俺ともっと会いたいか?」
真剣な声で問いかけると、リッツは食べる手を止める。そして腕を組んで真剣に悩んだ。
「欲望のまま言えば魅力的」
「そうか」
「でも、グリフィスはグリフィスらしく生きてもらいたい」
それは、意外な言葉だった。
リッツはとても真っ直ぐにこちらを見ていて、そこには理性もしっかりある。真剣なんだ。
「俺の所に来てくれるのは嬉しい。俺だって毎日でもグリフィスに会いたいし、一緒に寝たい。俺の商談に同行してくれれば安心もする。でも、これは俺の我が儘だ。グリフィスは立派な男で騎士だ。その誇りを俺の為に曲げてまで一緒に居てなんて言わない」
「言うじゃないか」
この十年で本当にリッツは頼もしくなった。アラステアがフランクリンに当主の座を譲って引退してからは余計にだ。ルシールから剣を習って、グリフィスもたまに教えている。
商人としての冴えは更に。精神的にも強くなっている。
惚れ惚れするじゃないか、男として。生きる世界は違えど、伴侶が格好いいんだから。
「それに、俺に何かあればグリフィスが来てくれるって俺は信じてるしさ」
そう言って、ニッカと笑う顔は幼さがまだ見える。こういう部分は昔と変わらないのだ。
本当に惚れさせてくれる。年月が過ぎれば過ぎるほど、グリフィスはリッツへの思いが深くなるのを感じるのだ。
「でもまぁ、本当に辞めるときには安心してよ。俺の隣はいつでも、グリフィス専用だから」
「そりゃ心強い。俺の方が先にジジィになるしな」
「それでも一緒だって。一緒にジジィになって、昔語りとかするんだろ?」
「何十年先の話だよそれ」
「何十年後も一緒だって事だよ。もう、察してよ」
少し恥ずかしそうに、誤魔化すように拗ねた顔でこんな可愛い事を言う。
でも、想像はできるんだ。お互いジジィになっても一緒にいて、海の見える家にでも引っ越して、何てことはない話をしている。そういう未来も悪くないと思えるくらいには、グリフィスはリッツの事が好きなのだ。
◆◇◆
ウルバス達と飲みに行く日、オリヴァーは休みを取って前日の夜から自宅へと帰ってきている。ハリー達が育ってくれたおかげで何の憂いもなく愛しいアレックスの元へと帰ってこられる。離れていたぶん、増える蜜月がとても幸せだ。
朝日が差し込む室内、一糸まとわぬまま目を開けたオリヴァーは隣のアレックスを見つめてゆるく笑みを浮かべた。
十年を、とても幸せに過ごしている。優しく大らかな旦那様の側でゆっくりと羽根を休める時は安心しきっていて、とても癒やされる。故に寄宿舎へと帰るのが少し寂しくもあるのだ。
サフィールは結婚し、可愛い女の子と男の子がいる。二人ともオリヴァーに懐いてくれて可愛くてしかたがない。この手にこんなに幼い子を抱けるなんて思わなかったから、ちょっと感激してもいる。
ふと気づく、目元の皺。体つきなどは若い時とさして変わらないが、小さな変化はある。おそらく、自分にも。
母アルテミシアが現役を引退して、数年になる。あの人も年には勝てなかったのだ。自分の美貌など、もっと早いスピードで失われていくだろう。そうなったら、少し怖い。
ふと温かな手が頬に触れる。頼りなく見つめる先で、アレックスが微笑んでいた。
「どうした? 何か、心配事かい?」
低く、少しかすれた声。触れる頬を包むように触れるとどこか安心する。
「……アレックス、もしもですよ? もしも私が老いて醜くなってしまったら、貴方は嫌いになりますか?」
不安のまま口にした言葉に、アレックスはとても驚いた顔をする。起き上がり、手を伸ばして頬や頭を撫でて、そして穏やかに微笑み首を横に振った。
「そんな日は来ないよ」
「ですが、確実に老いはきます」
「そうだな。だが、それだけ一緒にいた証でもある」
「え?」
思わずキョトンと見上げると、アレックスはしっかりと頷いてくれた。
「増えた皺の数に気づける程、側にいたんだ。互いに老いを感じても側にいる。過ごした年月の数ほど語り合える思い出があり、幸せがある。最初は君の美しさに目を奪われたかもしれないが、今はそんな表面は関係ない。君が好きだよ、オリヴァー。互いに皺だらけになっても、俺は君を愛すると何度でも誓う」
「……もう、バカですね」
この人はいつも嬉しさで満たしてくれる。温かなものを注いでくれる。不安な心に過剰な程に優しさと安らぎをくれる。そして同じ事を、オリヴァーも言える。
裸のままで触れあう事に興奮以外のものを感じて、抱き合い、見つめ合ってゆっくりと交わすキスは甘く、とても幸せな気持ちで包んでくれるのだった。
◆◇◆
久々の王都は賑やかだ。明後日にはジェームダルの船が到着し、クシュナートからも馬車が到着する予定だ。同盟締結十周年の前夜祭が始まる。
「見てアシュレー! あっちに美味しそうな肉の店がある!」
少し前を相変わらず軽やかな足取りで進むウェインは無邪気そのものだ。顔色もいいし、食欲もある。苦しそうな様子は見られない。
だが、今も時々思い出す。悪夢の再現はそのくらい不意打ちだった。
訓練中に倒れたウェインが医務室に運ばれ、緊急手術を受けたと知った時、アシュレーはあの戦場の日を思い出して駆け出した。死んでしまうのではと不安が募ったのだ。
結果は、やはりあの日の傷が原因による気胸の再発。普通は年齢を重ねるごとに再発率は低下するらしいのだが、王都の訓練はそれだけ激しい。激しい運動による肺への負担が原因だろうと言われた。
特に第二師団は運動量が多い。走り込みは勿論だが、跳躍や瞬発力なども必要とする。ウェインが倒れたのは、そうした身体能力を駆使する鬼ごっこの最中だった。
傷を受けた部分の肺の壁が薄くなって穴が開きやすい状態になっている。これから更に年齢を重ねると再発はしにくいだろうが、今の運動量では絶対とは言えない。それを聞いた時、ウェインはアシュレーの前で大泣きした。
騎士を続けていきたい。そう言いながらも現状難しい。引退を視野に入れた状態でファウストが打診してくれたのが、ラジェーナ砦への移動だった。
訓練は今の半分以下にできる。第一師団から希望者を連れて行っていい。勿論ウェインも。
迷った。一気に師団長が二人抜けるとなれば混乱は避けられない。悩んでいた時、アシュレーを訪ねてきたのがゼロスとコンラッド、そしてチェスターだった。
三人は「隊は俺達が必ず引き継ぎますので、ウェイン様をお願いします」と深く頭を下げて申し出てくれた。
頭を下げるべきは、アシュレーの方だった。これは個人的な我が儘だ。他人に迷惑をかけてはいけないはずだ。それでも、三人は言ってくれたのだ。
考え、迷い、ファウストやランバート、ウェイン以外の師団長にも相談をして、移る事を決めた。ウェインには「一緒に来い」と言った。
結果は、良かったのだろう。他の苦労は増えたが、ウェインは明るさを取り戻してこうして元気にしている。猫のような軽快なステップ、鼻歌交じりの笑顔は萎れてなんていない。大好きな、お日様の匂いがしそうな笑顔だ。
「うっんま~い! アシュレーも食べる?」
「一口もらう」
串に刺して焼いた肉に甘辛タレをかけた肉を頬張り、なんとも言えない幸せ顔をするウェインを笑顔で見ている。差し出された串から肉の塊を一つ貰う。確かにとても美味かった。
「あっ、あっちには動物型のクッキー売ってる! ケイシーのお土産に買って行こうかな」
「あぁ、いいだろうな」
ウルバスの息子ケイシーは活発な男の子だ。ウェインと鬼ごっこをしたり、駆けっこをしたりを楽しんでいる。誰に相手をさせているか、あの子は分からないだろうが。
ウェインも人懐っこいケイシーを気に入って、行く時には何かしらの土産を買っている。ただ、あいつの好きなモコモコシリーズはどうにもお気に召さないらしい。やんちゃ盛りだからだろうが。
そうして一通り賑やかな通りを過ぎて西地区へ。シュトライザー本邸が見えてきた。
門番は既に分かっていて通してくれる。そうして広い前庭を通り本邸のノッカーを叩くと、直ぐに執事が出迎えてくれた。
「ようこそお越しくださいました。さぁ、まずはお荷物を」
「有り難うございます。こちらは少しですが」
手渡したのは途中のバロッサで買った鮭の燻製と生ハム、そしてチーズだ。ここで二次会をするのはもう定番のようなもので、そうなると酒のつまみを考えてしまう。毎回お世話になるのも申し訳ないので、こうして差し入れるようになった。
「あっ、あとこっちはアリアさんとケイシーにお土産です」
ウェインも思い出したように、先程買った品を出す。ケイシーには動物クッキーと綺麗なシェルの形をしたマドレーヌ。アリアには今年の新茶だ。
「ご丁寧に有り難うございます」
丁寧にお辞儀をした執事がいつもと同じ二人部屋へと案内してくれる。離れの一階にある部屋で、談話室が近い。ウェインの酒癖を考慮した見事な部屋割りだ。
「ウルバスは仕事ですか?」
「えぇ、少し出ております。お時間までゆっくりなさいますか?」
「そうさせてもらう。アリアさんはご在宅ですか?」
「はい。ですが、ケイシー坊ちゃまを寝かしつけておりまして」
「では、邪魔になるな。ウルバスが帰ったら挨拶がしたい。申し訳ないが、教えていただけるか?」
「かしこまりました」
一礼して去って行く執事がドアを閉める。そうなると後は静かなものだ。
「はぁ、疲れた。あまり距離はないけれど、やっぱり疲れるね」
ストンとソファーに腰を下ろすウェインの隣に、アシュレーも腰を下ろす。そして薄茶色の髪を撫でた。
「平気か?」
「心配しすぎ。流石に大丈夫だよ」
ちょっとむくれて言うが、アシュレーとしては本当に心配なんだ。今も怖い。
それを察してか、ウェインが両手で頭を掴み、まるで頭突きでもするように近づいてくる。かるくコチンと頭がぶつかった。
「平気!」
「あぁ、うん」
「心配かけた僕が悪いのは分かってる。でも、大丈夫なときは大丈夫って言うし、ダメな時はダメって言うから」
「……あぁ」
ウェインは相変わらず、強い目をする。子供のようにむくれた顔をして、その目はどこまでも真っ直ぐに。これを見るとアシュレーの方が弱くなってしまうのだ。
手を伸ばし、抱き寄せる。確かな体温と規則的な心臓の音が伝わってくることに安堵してしまう。
同時に幸せだ。まだ重なっていられる。この手に抱いていられる。いつか去ると言うのなら、置いて行ってくれるな。
「少し、休む?」
「あぁ」
心配そうに背中をポンポンと叩かれていると、どちらが子供だか分からない。普段世話を焼いて大人のふりをしているものだから、こうなると途端に恥ずかしくなる。
それを含めて許してくれるのがウェインだ。
立ち上がり、ベッドへと誘われる。先に横になって隣をバシバシ叩くウェインに笑いかけながら、アシュレーは旅の疲れを癒やすのだった。
◆◇◆
夕刻になってラフな格好に着替えてから全員で予約した店の前で合流した。みんな数ヶ月会わない事もあったけれど、あまり変わりない様子でちょっとホッとする。騎士団を離れてしまった身としては、みながあまりに変わると寂しい。逆に「ウルバス変わった!」と言われるのも嫌だ。
このメンバーで集まる時は高い店なんて選ばない。騒いで食べてとにかく腹を満たすような店を選んでいる。その方が気兼ねない事を皆が分かっている。
今日は肉料理を中心に食べて、ほろ酔いで帰宅。そのまま離れの談話室という状態だ。
「いつもすまないな、ウルバス」
生真面目なアシュレーが申し訳なさそうにしている。だが、王都に来て宿を取るのはバカらしい。そこそこ金もかかる。それなら頼ってもらいたいと願い出たのはウルバスの方だ。
「気にしないでよ、これだけ広いんだから部屋は余ってるし。此方こそ、来る度にケイシーの相手してもらってごめん」
「僕、ケイシーと遊ぶの好きだから全然だよ! 明日の日中遊ぶ約束したし」
「でも、ウェイン大丈夫なの?」
「いや、四歳児相手に無理なら流石に引退してるって」
最後はちょっと真顔だったウェイン。ほんの少し影がさす。
「そういや、あいつこの間ファウスト様に馬させたって? ランバートが笑ってたぜ」
「大物ですよね、あの子。見た目は可愛らしいのに、末恐ろしい」
「シュトライザー家の血統だよね、やっぱり。それとも、マクファーレン家かな?」
なんて苦笑するけれど、どちらもだろうと思う。今はあんなに愛らしいケイシーが、そのうちファウストのような美丈夫に成長したら…………想像が追いつかなかった。
「マクファーレンといえば、ルカ君達は元気かな?」
「元気そうだよ。手紙のやりとりをしているけれど、あちらで皆健やかに暮らしてるって」
マクファーレンの先代、リーヴァイが体調を崩したのはケイシーがこの家に来る少し前。ルカは弟子のレオに店を譲って、一家でマクファーレン領へと引っ越した。リーヴァイが亡くなったのは、その二年後の事だった。
「まっ、あいつは平気だろう。何せ肝が据わってる」
「確かにな。ファウスト様を相手に説教が出来るのは彼とランバートくらいだ」
グリフィスとアシュレーが笑ってそんな事を言う。これに関してはウルバスも同意見だ。
「それにしても、十年か」
呟くようにグリフィスがこぼす。ワインをちびりと飲みながら、目の前のチーズを口に運んでいる。
「長いような、あっという間だったような」
「そうだな」
アシュレーも少し声が重い。色々と考えているのだろう。そこに、顔をほんのりと赤らめたウェインが突進してきた。
「こら、危ないだろ!」
「酒の席で湿っぽいのはや~だ!」
「まったくですよ、アシュレー。ほら、可愛い兎が拗ねています」
「兎じゃないったら! ってか、僕もいい年なのにまだそれなの?」
「ウェインは年を取っても可愛らしいですよ。童顔ですしね」
「むっきー! オリヴァーは目尻に皺できたぞ!」
「いいのですよ、年相応よりは若いですし。それに愛しい旦那様が、皺が増えても愛してくださると約束してくれましたし」
「惚気かよ」
「はぁ……」
やんのやんのと楽しそうなウェインとオリヴァー。それにツッコんだり呆れたりなグリフィスとアシュレー。この空間は何も変わらない。暮らす場所が、立っている世界が違えども、どれだけ物理的な距離ができたとしても。
「ウルバス?」
不意にウェインが顔を覗き込んでくる。とても驚いた顔で。
「どうしたの? 疲れた?」
「え?」
「寂しそう」
「……ははっ、相変わらず妙な所が鋭いよね、ウェインって」
ちょっと不意打ちだった。悔しくて、恥ずかしくて誤魔化すように鼻を摘まむと「ふぎゃん!」と言う。それを大いに笑った。
「もう!」
「ははっ」
「……ウルバス、お前は俺達の同期で仲間だ。引退していようが、それに変わりはないぞ」
ちびりと飲んで、アシュレーが言う。それは欲しい言葉だった。苦笑して、ウルバスもそれに頷いた。
「分かってるんだけどさ、ちょっと心配になるっていうか。俺一人が引退しちゃったから後ろめたいっていうか」
「俺も王都を離れた。ウェインもそうだ」
「おや、私だってもう半分くらいはハリー達に任せていますよ」
「俺は今レイバンとドゥーに突き上げ食らってるよ。俺を楽隠居させようと躍起になってやがる」
「そうなんだ」
ちょっと意外。その上にいるファウスト達がなかなか退かないから、仲間達もそうなのかと思っていた。
だが、案外みな後輩に譲ろうとしている。少し寂しく、でも嬉しそうに。
思い出すのは引退の日。トレヴァーが涙で顔をグチャグチャにしながらも敬礼をした姿だ。
「……俺の気持ちと技術は騎士団に置いてきた。受け継いでくれているかな」
「あぁ、勿論さ」
「絶対だよね!」
「逞しくなりましたよ、トレヴァーは」
「あぁ、何の心配もいらねーよ」
「そっか……」
あそこにいた、その足跡は残せたのだろう。心は、引き継がれたのだろう。
そしてここに仲間がいる。何も変わらない、集まれば一瞬であの当時に戻れる友が。
「ごめん、しんみりして! ダメだね、疲れてるかも」
「まったく、しかたないなウルバスは。ほら、僕がお酌してあげるから飲んで飲んで!」
「いや、ウェイン手元が危ないから自分でやるよ。眠くなったらアソコにちょっと硬めの枕があるからさ」
「おい、人の膝を枕というな」
「可愛い嫁に膝枕するんだもん、いいでしょ?」
からかうようにするとアシュレーは何か文句を言いたそうにして、でもウェインがいる手前言えなくて結局は腕を組んでむくれる。こいつのこんな顔を見られるなんて、なんて平和なんだろう。
平和だ、今は。この平和をどうかもう少し長く、少しでも永く。その為に戦ってきたんだ。沢山の仲間と、友と、部下と。戦場を駆け、海を渡ったあの日々はここに繋がっていたのだ。突然呼ばれてバタバタと出動し、誰かの傷や辛い顔を見なくていい、こんな賑やかで憂いのない夜に。
そう言って恭しく頭を下げて上着と鞄を受け取る執事に穏やかな微笑みを浮かべ、ウルバスはシュトライザー本邸へと入っていく。開放的で明るいエントランスは今、あまり余計な飾りはない。階段の所に家族の肖像画があるくらいだ。花瓶なんてもってのほか。
それというのもやんちゃ盛りが屋敷中を遊び回るからだ。ほら、今日も。
タタタタタッ、という軽快な足音が響く。そうして視線を向けた先に、一人の小さな男の子が大きな目を輝かせて此方へと駆けてくる。お付きのメイドを煙に巻く素早い動きで近づいてくる子は、そのまま大きく手を広げて飛び込んできた。
「お帰りなさい、父様!」
「ただいま、ケイシー」
飛び込んできた子を抱き上げ、そのままくるんと一回転。これを喜ぶ屈託のない笑顔を見ると、一日の疲れも飛んでいく。そのくらいこの子は愛らしい。
ケイシーはルカとメロディの第二子で男の子だ。そして、約束通りアリアの所に養子にきた。この子をメロディが身籠もり、あと二ヶ月ほどで生まれると聞いた時にウルバスはアリアに結婚を申し入れた。
生まれる子には両親が必要だと思ったし、心臓の弱いアリアに子供の世話と家の両方は負担が大きいと考えたのだ。
喜んでくれて、割と早く準備も整って結婚して。それから半年も経たずにこの子が息子としてきてくれた。今年で四歳、やんちゃ盛りである。
ふわふわで、少し毛先に癖のある黒髪に大きな青い目。色が白く、鼻筋が通っていて唇は小ぶり。マシュマロのように柔らかな頬をツンツンするだけで癒やされる。親らしい事ができるのかと心配だったが、杞憂だった。これはいつまででも愛でられる。
「ケイシー、母様はどうしているんだい?」
「夕飯のお支度をしています」
「そうかぁ。母様のご飯は美味しいから、楽しみだね」
「はい!」
ニコニコと嬉しそうに笑うケイシーを腕に抱いたまま、ウルバスは着替えの為に自室へと戻っていった。
手早く着替えている間に、ケイシーはまた違う所に冒険に出たらしい。あの子のメイドは苦労が多そうだ。当然運動量もだが。なにせファウストに向かってお馬さんごっこを申し入れるんだ、焦った。それでも幼いケイシーを背中に乗せてお馬さんをしたあの人に爆笑した。世界広しといえどあの人をお馬さんにできるのはこの子くらいなものだ。
「失礼します」
ノックの後で声がして、執事が恭しく一礼する。視線を向けると彼は静かに話し出した。
「明日の夜に、此方の屋敷に旧友の方達をお招きする準備をいたします。アシュレー様、ウェイン様はしばらく我が家に逗留ということで、宜しいのでしょうか?」
「あぁ、構わない。ついでに、一応部屋をもう二部屋用意だけしておいてくれ。酔い潰れてしまったらそのまま泊めるから」
「畏まりました。お料理とお酒はどのようになさいますか?」
「あまり気を遣わなくてもいい。一次会は外での予定だから、ワインを十本程度と摘まめる料理が少しあれば構わないよ」
「畏まりました」
「いつもすまないね」
伝えると、老齢の彼は僅かに微笑み丁寧に礼をする。それに、ウルバスも穏やかな笑みを浮かべた。
シュトライザー公爵なんて重責を自分のような者が負えるのか、心配でならなかった。だが実際動いてみると実にウルバス好みの仕事だった。ようは人と人との調整が一番大事だったのだ。
大工や石工という職人達は多少頭が硬く融通の利かない部分があるが、懐に入れば多少の無理も小言一つくらいで引き受けてくれる。誰かに頭を下げる事も、時に輪の中に入って同じように楽しむ事もウルバスは苦ではない。おかげで職人達には「若様」と呼ばれて時々飲みに誘われる。
書類仕事に関しても騎士団である程度はしてきた。ただこちらはアリアがかなり手伝ってくれているし、長年仕えている執事も分かっていた。今でも夫婦でやっている。
結婚して五年、息子もいて実に楽しく充実している。
だが、やはり時々海が恋しいと思う事もある。槍を持ち、船を操り風に吹かれていた時代を「懐かしい」と言えるには、まだ日が浅いのだろう。
そういう時は港に散歩に出て、トレヴァーがいれば話し込んでしまう。彼は本当に頑張ってくれている。
相変わらず柔和で垣根を持たないトレヴァーは、この五年で逞しい目になった。自信もついただろう。ウルバスが抜けた事で一度海上がざわついた時があったが、トレヴァーはそれを上手く収めた。常勝の海軍としての威厳を保ったのだ。
それを知った時に「大丈夫だ」と思った。そして、自分のあるべき場所はもう譲っていいのだと諦めた。
「ウルバスさん」
声をかけられて、ウルバスはハッとして振り向いた。戸口に穏やかに微笑むアリアがいる。母親となり柔らかな空気を纏うようになった最愛の人が、そっと近づいてきた。
「お帰りなさい。今日は現場を見にいかれたんですよね?」
「ただいま。問題なさそうだったよ」
古い教会の建て替えをしている。今日は古いものの解体が終わり、瓦礫を撤去した後。最初の作業の日だった。工事が何事もなく終えられるように教会の神父を呼んでお祈りをする日だったから、ウルバスも一緒に受けてきたのだ。
「それはよかった。明日、アシュレーさんとウェインさん、オリヴァーさんとグリフィスさんがいらっしゃるのですよね?」
「うん。騒がせてごめんね」
「あぁ、いえ! とても賑やかですし、皆様気を遣って下さいますから平気です。ウェインさんなんて、ケイシーと遊んでくれるので助かるわ。次は鬼ごっこするんですって」
「うう゛! あぁ、そう、なんだ」
元第二師団師団長を相手に鬼ごっこ。あの子は大物になるかもしれない。
ウェインは先の戦争の後遺症で、肺への影響が大きく残り一線を退いた。とはいえ、王都の訓練が鬼なだけで十分普通に騎士としてやっていける。勿論日常生活に支障なんてない。
そんな人物を相手に、鬼ごっこ。おそらく現役第二師団に提案したら青い顔をして辞退するだろう。
ケイシーについては本当に活発で、笑顔が多い。
そんなあの子が可愛いらしく、ファウストとランバートは月に一~二度ここにきてくれる。ファウストに「お馬さんしたい!」と言った時には焦った。あの人を馬にするんだ、とんでもない奴だ。恥ずかしいながらも無邪気な笑顔で来られると断れないファウストはしばらく背中にケイシーを乗せていた。爆笑したら後で拳骨された。久々の痛みだったな。
ランバートにはよくスイーツを作って欲しいと言う。彼も断らない子だからせがまれるままに料理を作ってくれる。クッキーなんて当たり前、焼き菓子やプティングまで。アリアを手伝って夕飯作りまで手伝っていくのだから、頭が上がらない。
こんな人達に囲まれて、あの子は真っ直ぐに愛情を受けて育っていく。これを、喜ばしくも少し複雑な気持ちで見てしまうのはいけない事かもしれない。
ケイシーがまだ生まれる前、アリアの夢にチャールズが出て来たという。とても寂しそうに、縋るような顔で彼は「お前の側に行けば、私は愛されるのだろうか。この寂しさは、埋まるのだろうか」と、聞いてきたという。
アリアは当然のように手を差し伸べ抱きしめて約束したそうだ。そして、ケイシーがここにきた。
今でも家族の部屋に彼の肖像画がある。神経質そうで、どこか暗い表情のチャールズとあの子は重ならない。あんなに元気で明るく、他を振り回しながらも幸せな気持ちにしてくれる子とは印象が違う。だからあの夢はただの夢で、なんの意味もなかったかもしれない。
でも、思うのだ。本当はこのような子供時代をあの男が願っていたのだったら。アリアとウルバスが愛情を込めて育てているからこそ、あの子も愛情を示してくれるのならば。そう思うと、途端にやるせない。これが本来だったなら、前世はあまりに歪んでしまっていたのだろう。
「ウルバスさん?」
「ん? どうしたの?」
「いえ。今日は考え込む事が多いように思えて。お疲れですか?」
「ううん、違うよ」
ちょっと、考えてしまうのは節目の時がきているから。三日後に、同盟締結十周年の式典が王都で大々的に開かれる。ウルバスは城で行われるパーティーに出席予定だ。シュトライザー公爵としてではなく、あの戦争に大いに関わった元騎士として。
その場にはアシュレーやウェインもくる。彼等がこの時期にここに来るのはそういう理由があってのことだ。
今更騎士としてなんて、どんな顔をしていいものか。少しだけ複雑なのは否めない。
心配そうに此方を見上げるアリアを見る。そしてにっこりと笑い、艶やかな黒髪を撫でた。
「明日、日中は空いているから少し街に出ないかい?」
「え? あの、いいんですか?」
「勿論。ケイシーも連れて、親子三人でね」
「あの子喜びます。では、明日を楽しみに」
「喜ぶのはケイシーだけ? アリアちゃんは喜んでくれないの?」
伝えたら、彼女はポッと赤くなる。こういう所、本当に初々しいままなんだ。
「あの、勿論私も嬉しいですし、その、楽しみです」
ぽっぽっ、と赤くなる顔を見てウルバスは笑い、腰に手を伸ばして抱き寄せてそっと、額にキスをする。驚いた黒い瞳が見上げて、あたふたしている。こういう所がまだまだ可愛くて嬉しくて、ウルバスはそっと唇にもキスをした。
◆◇◆
今日はアシュレーとウェインが王都に来る事になっている。約束は夜だが、グリフィスは午前の仕事を終えて半日休みを取った。午後からの基礎訓練をドゥーガルドとレイバンに任せてきたが、あいつらは顔を見合わせて凄く嬉しそうな顔をした。そんなにかよ。
まぁ、いい加減場を譲る覚悟もしておかなけりゃならないだろうな。いつまでも若くはない。幸い体は動くし衰えたとは思っちゃいないが。
何より直属の上司が相変わらずだ。今年四〇だぞ、化物かよ。いや、化物だったな昔から。
そういうことで半日、リッツと健全なデートをすることにした。会うのは三週間くらい前か。五日前くらいに帰ってきたと連絡が来たから。
向かうのはベルギウス本邸。今の主はフランクリンだ。
いつものように招かれて通されたのは執務室。そこからはまだ声がしている。
「今度ファッションショーをやるんだって? 準備はできてるのかよ兄貴」
「勿論だよ、リッツ。今をときめく女優達に声をかけたら若い子が乗り気でね。顔を売りたいんだと思う」
「家ばかりじゃ味気ないから、他も誘うんだろ? 合同ショーだっけ」
「アベルザード家と、パラモール家の三社。うちは完全オーダーのドレスが中心。アベルザードは今の流行を取り入れた量産服。パラモール家は由緒正しい儀礼服。棲み分けがされているけれど、いい刺激になればと思って」
「引っ張り出したじゃん、兄貴」
「騎士団での繋がりがあると聞いて、口利きをお願いしたんだよ。あそこは人脈の宝庫だからね」
「あまり利用するとランバートが嫌な顔をするんだよな」
「そういえば、ヒッテルスバッハ夫人が引退して、店は誰が引き継いだんだい?」
「アネット・オールコック。現内政長官の奥方だよ。やり手で気性がシルヴィア様に似てる」
「そうなると少し手を考える必要があるね。シルヴィア様も引退なされたとはいえ、未だご壮健だ」
……もの凄く、商人らしい話をしている。
「グリフィス様」
「のわぁ!」
後ろから声をかけられて驚いて飛び上がった。そうして後ろを見ると、五歳くらいの男の子と小さな男の子を抱いたルシールが立っている。相変わらず感情は読めない。
ルシールはフランクリンからの猛アタックを食らい、それでも数年は耐えた。だがそれ以上にフランクリンが折れなかった。彼は柔和そうな笑顔と物腰からは想像ができないくらいに積極的で、かつ優しさで締め上げるようにルシールを落としていったらしい。
最終的にルシールは困り果ててアラステアとジョシュアに相談し、二人が当然のように許したので奥方に収まった。現在は二児の母だ。
「お入りにならないのですか?」
「あぁ、いや。仕事の話してるっぽいから、なんか」
「君に聞かれて困る話はないから平気だよ、グリフィス」
「ぬあぁ!」
ルシールと向かい合っている背後で、今度はフランクリンの声がする。振り向くと彼はにっこりと笑っている。その視線は車椅子の時代よりも高い。リハビリを頑張った結果、屋敷の中くらいは杖で生活できるようになったのだ。
「うわぁ! もうこんな時間になってる! ごめんグリフィス、着替えてからでもいいか?」
慌てて出てきたリッツは、前より少し逞しくなっただろう。少し日に焼けて、腕や足や腹筋にも程よく筋肉がついた。
「ゆっくりでいいぞ」
「急ぐ! だって、三週間ぶりのデートなんだもん!」
「すっ転ぶなよ」
茶のスラックスに白いシャツ、その袖を肘あたりまでまくり上げたリッツが慌てて駆け出していく。肩を少し過ぎるくらいまで伸びたキャラメル色の髪、少し精悍になった顔立ち。昔は可愛いと思っていたが、今はそれに少し男らしい格好良さが加わった。
「では、その間こちらでお待ちください。ルシール、お茶をお願いしてもいいかな?」
「はい、勿論」
杖をつきながらも自らの足でソファーに腰を下ろしたフランクリンの腕に、まだ一歳にも満たない赤ん坊が預けられる。その側では五歳の長男がいるが、動きがとても素早い。
「なぁ、フランクリン。そいつ、前よりも素早くなってないか?」
問えば彼は長男と目を合わせ、とても朗らかに微笑んだ。
「とても素早くて凄いんだよ。最近はケイシーと遊んでいて、追いかけっこが白熱するんだって」
「将来何にするつもりだよ」
「商人だけど、自衛も大事だって身に染みたからね。強い子に育てて欲しいって、ルシールにお願いしているよ」
「はい、とても逞しく健康に育っています。ウェイン様が来られた時はケイシーと二人、とても楽しくかけっこや鬼ごっこをしていますよ」
ウェイン相手に駆けっこなんて、ぜってーしたくない。
それにしてもケイシーも凄い。ふわふわな容姿からは想像できないが、妙な英才教育でも受けていそうだ。父親がウルバスで、血統はファウストと同じ。明らかに仕込みによっては将来化物だろう。
「そういえば、君も十周年の式典に出るんだったね」
不意に真面目な声で問いかけられ、グリフィスは頷く。フランクリンは静かに頷いた。
「名代をリッツに頼んでいる。まぁ、そうでなくても呼ばれていたけれどね」
「欠席かい、フランクリン」
「車椅子ではね、流石に少し。それに元々クシュナートやジェームダルにパイプを持っているのはリッツだから、これでいいんだ」
穏やかに長男の頭を撫でるフランクリンは静かなものだ。ベルギウス家は彼の時代になって人に優しい家になってきている。この人の気性もそこにはあるのだ。
その時、バタバタと走ってくる音がしてリッツが駆け込んでくる。まだタイもよれたままだ。
「お待たせ!」
「いや、タイよれてるぞ」
「だって、早く行きたくて!」
溜息をつくグリフィスと、おかしそうに笑うフランクリン。立ち上がったグリフィスが前にきて、リッツのタイを綺麗に結び直した。
「あっ、有り難う」
「いや。んじゃ、健全なデートというやつをしてこようか」
「うん」
ほんの少し頬を染める嬉しそうなリッツを見ると、穏やかなのに少し騒がしい。ビッチはこの十年で少しだけ、健全という言葉を覚えたのだ。
街はお祝いムードで賑やかになっている。大きな争いもなく十年、民にとっては安心して過ごせただろう。
記念イヤーを祝うという名目で便乗商品が溢れる中を、二人も少し軽い足取りで進んでいる。
「昼どうしようか」
「何が食いたい、リッツ」
「魚! 港の方に入った所に美味い店があるんだ」
「んじゃ、そうすっか」
隣を歩くリッツが楽しそうに声をあげ、さりげなく腕を組む。多分意識はしているんだろう。証拠に、少し歩き方がぎこちない。手にはお揃いの結婚指輪がはまっている。シンプルな細いリングにダイヤモンド型のデザインが入り、そこに小さな石が三つ。真ん中が琥珀で、両サイドがダイヤモンドだ。
「なんだよ、今更意識してるのか?」
「いや、人前だしさ」
「可愛い事言うようになったよな、お前。昔は平気で人前で暴露しまくってたってのに」
「あれは! あぁ、うん、若気のなんちゃらだよ」
顔をほんのりと赤くしながらも嬉しそうなのは、なんとも言えずこちらも照れる。でもまぁ、こういうのもいいんだろう。
案内された店は肩肘張らない感じの店で、魚料理が自慢というだけあって美味かった。
新鮮な鯛のカルパッチョ、デカい魚を丸ごと一匹使ったアクアパッツァ、シーフードたっぷりのパエリア。これらをペロリと平らげながら、グリフィスは最近の話をしていた。
「じゃあ、レイバンやドゥーガルドから突き上げ食らってるんだ」
上品な家の出にしてはワイルドに食べるリッツが目線だけを上げてグリフィスを見る。船暮らしも多いから、上品さよりは食べられる時に素早くなんだろう。
「突き上げって程じゃないが、色々心配されてるらしい。お前と会う時間をもっと取って欲しいみたいだ」
「うわ、いい奴ら!」
「……お前も、俺ともっと会いたいか?」
真剣な声で問いかけると、リッツは食べる手を止める。そして腕を組んで真剣に悩んだ。
「欲望のまま言えば魅力的」
「そうか」
「でも、グリフィスはグリフィスらしく生きてもらいたい」
それは、意外な言葉だった。
リッツはとても真っ直ぐにこちらを見ていて、そこには理性もしっかりある。真剣なんだ。
「俺の所に来てくれるのは嬉しい。俺だって毎日でもグリフィスに会いたいし、一緒に寝たい。俺の商談に同行してくれれば安心もする。でも、これは俺の我が儘だ。グリフィスは立派な男で騎士だ。その誇りを俺の為に曲げてまで一緒に居てなんて言わない」
「言うじゃないか」
この十年で本当にリッツは頼もしくなった。アラステアがフランクリンに当主の座を譲って引退してからは余計にだ。ルシールから剣を習って、グリフィスもたまに教えている。
商人としての冴えは更に。精神的にも強くなっている。
惚れ惚れするじゃないか、男として。生きる世界は違えど、伴侶が格好いいんだから。
「それに、俺に何かあればグリフィスが来てくれるって俺は信じてるしさ」
そう言って、ニッカと笑う顔は幼さがまだ見える。こういう部分は昔と変わらないのだ。
本当に惚れさせてくれる。年月が過ぎれば過ぎるほど、グリフィスはリッツへの思いが深くなるのを感じるのだ。
「でもまぁ、本当に辞めるときには安心してよ。俺の隣はいつでも、グリフィス専用だから」
「そりゃ心強い。俺の方が先にジジィになるしな」
「それでも一緒だって。一緒にジジィになって、昔語りとかするんだろ?」
「何十年先の話だよそれ」
「何十年後も一緒だって事だよ。もう、察してよ」
少し恥ずかしそうに、誤魔化すように拗ねた顔でこんな可愛い事を言う。
でも、想像はできるんだ。お互いジジィになっても一緒にいて、海の見える家にでも引っ越して、何てことはない話をしている。そういう未来も悪くないと思えるくらいには、グリフィスはリッツの事が好きなのだ。
◆◇◆
ウルバス達と飲みに行く日、オリヴァーは休みを取って前日の夜から自宅へと帰ってきている。ハリー達が育ってくれたおかげで何の憂いもなく愛しいアレックスの元へと帰ってこられる。離れていたぶん、増える蜜月がとても幸せだ。
朝日が差し込む室内、一糸まとわぬまま目を開けたオリヴァーは隣のアレックスを見つめてゆるく笑みを浮かべた。
十年を、とても幸せに過ごしている。優しく大らかな旦那様の側でゆっくりと羽根を休める時は安心しきっていて、とても癒やされる。故に寄宿舎へと帰るのが少し寂しくもあるのだ。
サフィールは結婚し、可愛い女の子と男の子がいる。二人ともオリヴァーに懐いてくれて可愛くてしかたがない。この手にこんなに幼い子を抱けるなんて思わなかったから、ちょっと感激してもいる。
ふと気づく、目元の皺。体つきなどは若い時とさして変わらないが、小さな変化はある。おそらく、自分にも。
母アルテミシアが現役を引退して、数年になる。あの人も年には勝てなかったのだ。自分の美貌など、もっと早いスピードで失われていくだろう。そうなったら、少し怖い。
ふと温かな手が頬に触れる。頼りなく見つめる先で、アレックスが微笑んでいた。
「どうした? 何か、心配事かい?」
低く、少しかすれた声。触れる頬を包むように触れるとどこか安心する。
「……アレックス、もしもですよ? もしも私が老いて醜くなってしまったら、貴方は嫌いになりますか?」
不安のまま口にした言葉に、アレックスはとても驚いた顔をする。起き上がり、手を伸ばして頬や頭を撫でて、そして穏やかに微笑み首を横に振った。
「そんな日は来ないよ」
「ですが、確実に老いはきます」
「そうだな。だが、それだけ一緒にいた証でもある」
「え?」
思わずキョトンと見上げると、アレックスはしっかりと頷いてくれた。
「増えた皺の数に気づける程、側にいたんだ。互いに老いを感じても側にいる。過ごした年月の数ほど語り合える思い出があり、幸せがある。最初は君の美しさに目を奪われたかもしれないが、今はそんな表面は関係ない。君が好きだよ、オリヴァー。互いに皺だらけになっても、俺は君を愛すると何度でも誓う」
「……もう、バカですね」
この人はいつも嬉しさで満たしてくれる。温かなものを注いでくれる。不安な心に過剰な程に優しさと安らぎをくれる。そして同じ事を、オリヴァーも言える。
裸のままで触れあう事に興奮以外のものを感じて、抱き合い、見つめ合ってゆっくりと交わすキスは甘く、とても幸せな気持ちで包んでくれるのだった。
◆◇◆
久々の王都は賑やかだ。明後日にはジェームダルの船が到着し、クシュナートからも馬車が到着する予定だ。同盟締結十周年の前夜祭が始まる。
「見てアシュレー! あっちに美味しそうな肉の店がある!」
少し前を相変わらず軽やかな足取りで進むウェインは無邪気そのものだ。顔色もいいし、食欲もある。苦しそうな様子は見られない。
だが、今も時々思い出す。悪夢の再現はそのくらい不意打ちだった。
訓練中に倒れたウェインが医務室に運ばれ、緊急手術を受けたと知った時、アシュレーはあの戦場の日を思い出して駆け出した。死んでしまうのではと不安が募ったのだ。
結果は、やはりあの日の傷が原因による気胸の再発。普通は年齢を重ねるごとに再発率は低下するらしいのだが、王都の訓練はそれだけ激しい。激しい運動による肺への負担が原因だろうと言われた。
特に第二師団は運動量が多い。走り込みは勿論だが、跳躍や瞬発力なども必要とする。ウェインが倒れたのは、そうした身体能力を駆使する鬼ごっこの最中だった。
傷を受けた部分の肺の壁が薄くなって穴が開きやすい状態になっている。これから更に年齢を重ねると再発はしにくいだろうが、今の運動量では絶対とは言えない。それを聞いた時、ウェインはアシュレーの前で大泣きした。
騎士を続けていきたい。そう言いながらも現状難しい。引退を視野に入れた状態でファウストが打診してくれたのが、ラジェーナ砦への移動だった。
訓練は今の半分以下にできる。第一師団から希望者を連れて行っていい。勿論ウェインも。
迷った。一気に師団長が二人抜けるとなれば混乱は避けられない。悩んでいた時、アシュレーを訪ねてきたのがゼロスとコンラッド、そしてチェスターだった。
三人は「隊は俺達が必ず引き継ぎますので、ウェイン様をお願いします」と深く頭を下げて申し出てくれた。
頭を下げるべきは、アシュレーの方だった。これは個人的な我が儘だ。他人に迷惑をかけてはいけないはずだ。それでも、三人は言ってくれたのだ。
考え、迷い、ファウストやランバート、ウェイン以外の師団長にも相談をして、移る事を決めた。ウェインには「一緒に来い」と言った。
結果は、良かったのだろう。他の苦労は増えたが、ウェインは明るさを取り戻してこうして元気にしている。猫のような軽快なステップ、鼻歌交じりの笑顔は萎れてなんていない。大好きな、お日様の匂いがしそうな笑顔だ。
「うっんま~い! アシュレーも食べる?」
「一口もらう」
串に刺して焼いた肉に甘辛タレをかけた肉を頬張り、なんとも言えない幸せ顔をするウェインを笑顔で見ている。差し出された串から肉の塊を一つ貰う。確かにとても美味かった。
「あっ、あっちには動物型のクッキー売ってる! ケイシーのお土産に買って行こうかな」
「あぁ、いいだろうな」
ウルバスの息子ケイシーは活発な男の子だ。ウェインと鬼ごっこをしたり、駆けっこをしたりを楽しんでいる。誰に相手をさせているか、あの子は分からないだろうが。
ウェインも人懐っこいケイシーを気に入って、行く時には何かしらの土産を買っている。ただ、あいつの好きなモコモコシリーズはどうにもお気に召さないらしい。やんちゃ盛りだからだろうが。
そうして一通り賑やかな通りを過ぎて西地区へ。シュトライザー本邸が見えてきた。
門番は既に分かっていて通してくれる。そうして広い前庭を通り本邸のノッカーを叩くと、直ぐに執事が出迎えてくれた。
「ようこそお越しくださいました。さぁ、まずはお荷物を」
「有り難うございます。こちらは少しですが」
手渡したのは途中のバロッサで買った鮭の燻製と生ハム、そしてチーズだ。ここで二次会をするのはもう定番のようなもので、そうなると酒のつまみを考えてしまう。毎回お世話になるのも申し訳ないので、こうして差し入れるようになった。
「あっ、あとこっちはアリアさんとケイシーにお土産です」
ウェインも思い出したように、先程買った品を出す。ケイシーには動物クッキーと綺麗なシェルの形をしたマドレーヌ。アリアには今年の新茶だ。
「ご丁寧に有り難うございます」
丁寧にお辞儀をした執事がいつもと同じ二人部屋へと案内してくれる。離れの一階にある部屋で、談話室が近い。ウェインの酒癖を考慮した見事な部屋割りだ。
「ウルバスは仕事ですか?」
「えぇ、少し出ております。お時間までゆっくりなさいますか?」
「そうさせてもらう。アリアさんはご在宅ですか?」
「はい。ですが、ケイシー坊ちゃまを寝かしつけておりまして」
「では、邪魔になるな。ウルバスが帰ったら挨拶がしたい。申し訳ないが、教えていただけるか?」
「かしこまりました」
一礼して去って行く執事がドアを閉める。そうなると後は静かなものだ。
「はぁ、疲れた。あまり距離はないけれど、やっぱり疲れるね」
ストンとソファーに腰を下ろすウェインの隣に、アシュレーも腰を下ろす。そして薄茶色の髪を撫でた。
「平気か?」
「心配しすぎ。流石に大丈夫だよ」
ちょっとむくれて言うが、アシュレーとしては本当に心配なんだ。今も怖い。
それを察してか、ウェインが両手で頭を掴み、まるで頭突きでもするように近づいてくる。かるくコチンと頭がぶつかった。
「平気!」
「あぁ、うん」
「心配かけた僕が悪いのは分かってる。でも、大丈夫なときは大丈夫って言うし、ダメな時はダメって言うから」
「……あぁ」
ウェインは相変わらず、強い目をする。子供のようにむくれた顔をして、その目はどこまでも真っ直ぐに。これを見るとアシュレーの方が弱くなってしまうのだ。
手を伸ばし、抱き寄せる。確かな体温と規則的な心臓の音が伝わってくることに安堵してしまう。
同時に幸せだ。まだ重なっていられる。この手に抱いていられる。いつか去ると言うのなら、置いて行ってくれるな。
「少し、休む?」
「あぁ」
心配そうに背中をポンポンと叩かれていると、どちらが子供だか分からない。普段世話を焼いて大人のふりをしているものだから、こうなると途端に恥ずかしくなる。
それを含めて許してくれるのがウェインだ。
立ち上がり、ベッドへと誘われる。先に横になって隣をバシバシ叩くウェインに笑いかけながら、アシュレーは旅の疲れを癒やすのだった。
◆◇◆
夕刻になってラフな格好に着替えてから全員で予約した店の前で合流した。みんな数ヶ月会わない事もあったけれど、あまり変わりない様子でちょっとホッとする。騎士団を離れてしまった身としては、みながあまりに変わると寂しい。逆に「ウルバス変わった!」と言われるのも嫌だ。
このメンバーで集まる時は高い店なんて選ばない。騒いで食べてとにかく腹を満たすような店を選んでいる。その方が気兼ねない事を皆が分かっている。
今日は肉料理を中心に食べて、ほろ酔いで帰宅。そのまま離れの談話室という状態だ。
「いつもすまないな、ウルバス」
生真面目なアシュレーが申し訳なさそうにしている。だが、王都に来て宿を取るのはバカらしい。そこそこ金もかかる。それなら頼ってもらいたいと願い出たのはウルバスの方だ。
「気にしないでよ、これだけ広いんだから部屋は余ってるし。此方こそ、来る度にケイシーの相手してもらってごめん」
「僕、ケイシーと遊ぶの好きだから全然だよ! 明日の日中遊ぶ約束したし」
「でも、ウェイン大丈夫なの?」
「いや、四歳児相手に無理なら流石に引退してるって」
最後はちょっと真顔だったウェイン。ほんの少し影がさす。
「そういや、あいつこの間ファウスト様に馬させたって? ランバートが笑ってたぜ」
「大物ですよね、あの子。見た目は可愛らしいのに、末恐ろしい」
「シュトライザー家の血統だよね、やっぱり。それとも、マクファーレン家かな?」
なんて苦笑するけれど、どちらもだろうと思う。今はあんなに愛らしいケイシーが、そのうちファウストのような美丈夫に成長したら…………想像が追いつかなかった。
「マクファーレンといえば、ルカ君達は元気かな?」
「元気そうだよ。手紙のやりとりをしているけれど、あちらで皆健やかに暮らしてるって」
マクファーレンの先代、リーヴァイが体調を崩したのはケイシーがこの家に来る少し前。ルカは弟子のレオに店を譲って、一家でマクファーレン領へと引っ越した。リーヴァイが亡くなったのは、その二年後の事だった。
「まっ、あいつは平気だろう。何せ肝が据わってる」
「確かにな。ファウスト様を相手に説教が出来るのは彼とランバートくらいだ」
グリフィスとアシュレーが笑ってそんな事を言う。これに関してはウルバスも同意見だ。
「それにしても、十年か」
呟くようにグリフィスがこぼす。ワインをちびりと飲みながら、目の前のチーズを口に運んでいる。
「長いような、あっという間だったような」
「そうだな」
アシュレーも少し声が重い。色々と考えているのだろう。そこに、顔をほんのりと赤らめたウェインが突進してきた。
「こら、危ないだろ!」
「酒の席で湿っぽいのはや~だ!」
「まったくですよ、アシュレー。ほら、可愛い兎が拗ねています」
「兎じゃないったら! ってか、僕もいい年なのにまだそれなの?」
「ウェインは年を取っても可愛らしいですよ。童顔ですしね」
「むっきー! オリヴァーは目尻に皺できたぞ!」
「いいのですよ、年相応よりは若いですし。それに愛しい旦那様が、皺が増えても愛してくださると約束してくれましたし」
「惚気かよ」
「はぁ……」
やんのやんのと楽しそうなウェインとオリヴァー。それにツッコんだり呆れたりなグリフィスとアシュレー。この空間は何も変わらない。暮らす場所が、立っている世界が違えども、どれだけ物理的な距離ができたとしても。
「ウルバス?」
不意にウェインが顔を覗き込んでくる。とても驚いた顔で。
「どうしたの? 疲れた?」
「え?」
「寂しそう」
「……ははっ、相変わらず妙な所が鋭いよね、ウェインって」
ちょっと不意打ちだった。悔しくて、恥ずかしくて誤魔化すように鼻を摘まむと「ふぎゃん!」と言う。それを大いに笑った。
「もう!」
「ははっ」
「……ウルバス、お前は俺達の同期で仲間だ。引退していようが、それに変わりはないぞ」
ちびりと飲んで、アシュレーが言う。それは欲しい言葉だった。苦笑して、ウルバスもそれに頷いた。
「分かってるんだけどさ、ちょっと心配になるっていうか。俺一人が引退しちゃったから後ろめたいっていうか」
「俺も王都を離れた。ウェインもそうだ」
「おや、私だってもう半分くらいはハリー達に任せていますよ」
「俺は今レイバンとドゥーに突き上げ食らってるよ。俺を楽隠居させようと躍起になってやがる」
「そうなんだ」
ちょっと意外。その上にいるファウスト達がなかなか退かないから、仲間達もそうなのかと思っていた。
だが、案外みな後輩に譲ろうとしている。少し寂しく、でも嬉しそうに。
思い出すのは引退の日。トレヴァーが涙で顔をグチャグチャにしながらも敬礼をした姿だ。
「……俺の気持ちと技術は騎士団に置いてきた。受け継いでくれているかな」
「あぁ、勿論さ」
「絶対だよね!」
「逞しくなりましたよ、トレヴァーは」
「あぁ、何の心配もいらねーよ」
「そっか……」
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そしてここに仲間がいる。何も変わらない、集まれば一瞬であの当時に戻れる友が。
「ごめん、しんみりして! ダメだね、疲れてるかも」
「まったく、しかたないなウルバスは。ほら、僕がお酌してあげるから飲んで飲んで!」
「いや、ウェイン手元が危ないから自分でやるよ。眠くなったらアソコにちょっと硬めの枕があるからさ」
「おい、人の膝を枕というな」
「可愛い嫁に膝枕するんだもん、いいでしょ?」
からかうようにするとアシュレーは何か文句を言いたそうにして、でもウェインがいる手前言えなくて結局は腕を組んでむくれる。こいつのこんな顔を見られるなんて、なんて平和なんだろう。
平和だ、今は。この平和をどうかもう少し長く、少しでも永く。その為に戦ってきたんだ。沢山の仲間と、友と、部下と。戦場を駆け、海を渡ったあの日々はここに繋がっていたのだ。突然呼ばれてバタバタと出動し、誰かの傷や辛い顔を見なくていい、こんな賑やかで憂いのない夜に。
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