厳ついオメガはいかがですか?

凪瀬夜霧

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王城(2)

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 横からハンカチが出され、それで目元を拭う。大好きなアーベルの匂いがして、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。

「陛下にご温情を賜り、祖父共々、心より感謝申し上げます」

 頭を下げて、きっちりと感謝の気持ちを伝えると目の前の人は穏やかに微笑んでくれた。

「さて、湿っぽい話はここまでにしよう。ハインツ、アーベル、ここからは無礼講とする。好きに飲んで食べるとよい」

 そう言った人が真っ先にサンドイッチを手にして大きくかぶりつき、紅茶を飲む。これにハインツとアーベルは顔を見合わせ、微笑んで応じた。

 何よりずっと気になっていたのだ! サンドイッチはふっかりとしたパンでサンドされている。中身は卵、ハムとレタス、トマトなど。まず野菜が煌めいている。

 そろっとハムとレタスのサンドを手にしたハインツが一口……で半分なくなった。口が大きいので。

「んぅぅ!」

(パンが! 柔らかくてふわふわもちもちで美味しい! ハムも塩味があって、シャキシャキレタスがこれまた!)

 口の中が幸せいっぱい。むふふ~んとほわほわな空気を出すハインツに陛下は驚き、次には吹き出すように笑った。

「熊のようで可愛いな」
「んっ!」

 よく言われるが、ちょっと恥ずかしい。残っていた分を口に放り込んだ直後だったのでちょっと喉に詰まり紅茶で押し流すハインツ。その横で、アーベルは何故か睨んでいる。

「俺のです」
「そこは理解しているし、欲しいとは言っておらん。アーベル、お前少しバカになったか?」
「この人に関してだけなのでご安心を」

 でも、言われても仕方のない嫉妬にまみれた様子かもしれない。思わず苦笑するハインツの手にはジャムのスコーンがある。このジャムがまたいい。甘さは控えつつ、果実の瑞々しさと甘さはしっかりとある。やはり王城は凄い。

「……餌付けしてみたい男だな」
「むぐっ!」
「俺のです」

 繁々と眺める王様と、主張を繰り返すアーベル。そんな彼らに囲まれ、それでも目の前の美味しい物を止められないハインツなのだった。

◇◆◇

 程なくして陛下は退室し、ハインツとアーベルだけの時間が少し出来て、その間で落ち着く事ができた。
 それから間もなくして呼ばれ、二人で議会場へと入場する。
 硬く、どこか冷たい空気のある大きな会場には名だたる貴族、王都周辺の領主が並びこちらに視線を向けている。その中にはガブリエラの姿もあり、視線に気付いて優雅な笑みを浮かべた。

「では、これよりケンプフェルト領主、および爵位の叙爵についての議会を開始します」

 進行役の声で、場は一気に騒々しいものとなった。

「オメガが侯爵の地位に就き、更には重要な領の領主を務めるなど、ありえません!」

 開口一番響いた声に、ハインツは身が縮む思いがした。ずっと言われ続けた蔑みを含む言葉に萎縮してしまう。所詮、認められないのだという現実が擦り込まれた後なのだから。

 だが、助けはしっかりとハインツの耳に入った。

「お言葉ですが、彼をただのオメガと思うのは早計でしてよ」

 それは間違いなくガブリエラの声だった。

「ケンプフェルト領は魔の森に隣接し、隣国との国境でもある防御の要。その重責を担えるのは、戦う意志と強さを持つ者だけでしてよ? この中に、己の身一つでゴブリンキングと渡り合い、国レベルに肥大化したゴブリンの巣を一掃できる者がおりまして?」

 華やかな見た目と声は過分に嘲笑を含んでいる。先程オメガを見下す発言をした者も、それに同意を示した者もグッと言葉に詰まっている。

「……先に提出された学園時代の正しい成績によれば、ハインツ殿は常に首席と並ぶ学術の成績を修め、更に魔物討伐でも仲間を助け、前衛として実に優秀だったとあります。先日、学園長の行き過ぎたアルファ至上主義による成績改ざんが発覚し、逮捕された事も考えればこちらの資料が正しいと伺えます」

 そう、冷静に判断したのはまだ若い人物だ。格好からして高位貴族なのだろう。

「だが! オメガは所詮オメガですぞ!」
「バース性と個々人の能力は別物だと考えるのが良いでしょう。実際、近年アルファであると鳴り物入りで登城するも能力がなく、プライドだけが肥大した若者をよく見ます。あれに比べれば努力し、熟練したベータの方がよほど使い物になる」

 他の貴族も辟易という様子で付け加え、壮年の貴族達を睨み付けた。これにも、アルファ主義の者達はグッと言葉に詰まっていた。

「陛下! このような事がまかり通れば国家の基盤が揺らぎます! アルファは優秀な、選ばれた!」
「くだらぬな」

 そう一掃したのは、誰でもない陛下本人だった。

「実績がないのでは話にならぬが、ハインツに関しては十分な実績がある。学園時代、そして冒険者ギルドの戦歴、今回ローゼンハイム領で起こった事件の解決についても、なんら彼の能力を疑うものはない」

 手元の資料を確かめる王に、比較的若い貴族達は賛同を示している。

「加えて人柄も良いと聞いている。ハインツに救われた村や人は多い。どのような立場の者にも分け隔てなく心を配り、気遣う優しさも兼ね備えている。謙虚でもあるようだ」

 脇にいた人物が、ハインツに一つの資料を手渡してくれる。それは過去、魔物に襲われている所を助けた村や商人、冒険者からの資料だった。
 皆、感謝してくれていた。その気持ちが知れただけで、ハインツは嬉しくなる。色々な事が無駄ではなかったと知れたのだから。
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