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番外編:もこもこウサギの手懐け方

3話:銀色オオカミのウサギさん(アシュレー)

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 俺があいつを見つけたのは騎士団に入ってすぐだった。
 体格のいい奴等の間を、小さな体でちょこちょこ動いている奴がいた。本当に小柄で、可愛い顔をしている。そして誰よりも威勢がいい。

 珍しいと思った。今でこそ第四が出来て小柄な隊員も増えたが、当時は帝国戦争の末期。頻度こそ減ったが小さな小競り合いは起こっていた。
 そんな状態で騎士団に入ってくるのは、俺やグリフィスのような体格のいい奴ばかりだ。オリヴァーやエリオット様、シウス様ですら華奢な部類に入った。

 そんなんだ、先輩達が放っておかない。
 ウェインは色んな先輩からからかわれた。「可愛いね」「ついてんのか?」「今夜一発ヤらせろよ」という下卑たものが大半だったが、ウェインはその全てに反応して怒った。
 聞けば、可愛いと言われる事が大嫌いらしい。子供扱いもだ。

 残念だ、可愛いのに。

 ひっそりと思ったが、嫌われたくなくて飲み込んだ。

 この頃だ、俺がこいつから目を離せなくなったのは。最初は心配で、途中からは安心したくて、そして今は執着からだ。

 ウェインに声をかけていた先輩の大半はからかっていただけだ。だが中には本気な人もいた。
 言葉で誘うだけなら紳士的だ。だが中には無理矢理連れ込んで犯そうという手の悪い先輩もいた。
 その度に俺は仲間と一緒にウェインを助けた。オリヴァーが、ウルバスが、グリフィスが、ルイーズが助けてくれた。
 何よりウェイン自身が負けていなかった。小さな体を逆に使い、必殺の急所蹴りで沈めていた。

 けれど、傷ついているのは分かった。急所を押さえてのたうち回る先輩の側で意地っ張りな顔をしながら泣いていた。

 抱きしめてやりたくなった。どうして一人で耐えるのかと苛立ちも覚えた。その手を伸ばせばいつでも取ってやれる。求めてくれるなら、いつでも助けたい。

 俺はようやく諦めた。捕まったんだ、完璧に。この小さくて、愛らしい意地っ張りな生き物に。


 地位が少し上がって、ウェインに対してあからさまに粉を掛ける奴は減った。それに側には常に仲間がいる。普段はさりげなくウルバスがいて牽制し、オリヴァーが危険を察知して潰しにかかった。
 俺とグリフィスは明らかな脅しになった。この頃、腐っていた騎士団は改革がされてファウスト様が団長に就任し、皆が揃って師団長に上がったからだ。

 それでもウェインに対する視線は変わらない。本人はあの通り素直すぎる性格で、懐に入った者を警戒しない。好意の裏を読まず、言葉を素直に受け取る。側にいるとヒヤヒヤする。

 この頃、俺は自分の感情に気付きながらも悟られないように必死だった。受け入れてもらえるなんて微塵も思っていなかった。
 先輩に無理矢理されて涙を流していた顔を思い出すと、男を受け入れるとは思えない。

 いや、案外押せば転がったのかもしれない。押しに弱い部分があるのは知っていた。そして俺は、他人を上手く転がす事がそれなりに出来た。

 でもそれはしたくなかった。
 体が欲しいわけじゃない。俺は丸ごと、ウェインという存在が欲しかった。屈託なく笑い、威勢良く怒って、そのくせ泣き虫で寂しがり屋で、無鉄砲で危なっかしい。
 そういうものを全部、俺だけのものにしたかった。

 「可愛いって言うな!」と怒っても、ほんの少し照れる事がある。あいつは柔らかく手触りのいい物がとにかく好きだ。部屋の大半がそんなものだ。
 動物パジャマを誕生日に贈ったときも照れて真っ赤になりながら怒ったが、今でも愛用している。ウサギ、ネコ、イヌ、クマ。こいつが着ると本当に小動物だ。

 脱がせるまでを楽しみたくて選んだなんて言えば、また真っ赤になって「ばか!」と叫ぶだろうか?


 元気のないあいつをスキーに誘ったのが、一年と少し前。落ち込んで、酷く荒れていた。

 仲間意識の強い奴だ、ランバートが攫われた時はきっと苦しかったのだろう。
 でも騎士団の中でこいつは泣けないし、吐き出せない。師団長という肩書きが、こいつの素直な感情を抑制してしまう。

 だから連れ出した。ここでならどれだけ泣いても見ているのは俺だけだ。俺の中にしまっておける。

 いや、訂正しよう。そんなものまで俺は独占しようとしたんだ。

 あの夜、こいつは俺が「妖精さん」だと気付いた。ふざけたネーミングだが、妙にウェインらしくて気に入っていた。
 あれも俺の楽しみだ。酔い潰れたこいつを介抱するのは俺の幸せだ。
 反発しているこいつが俺に無防備に身を預けてくる。気の緩んだ笑みを浮かべている。何度、このまま犯そうかと思ったかしれない。
 その度に、無理矢理されそうになって睨み付けるこいつの顔を思いだして抑止した。

 だが気付いたなら隠すつもりはなかった。
 試しに少し迫れば真っ赤になっていく。それでもその表情に拒絶を感じなかった。

 いけると思ったのだ、あの時。拒まれるなら焦るつもりもなく上手く引っ張るつもりだったが、この時のウェインの顔には好意があった。
 少し強引にしても拒まれない、恋情にすり替わるだろう感情を見つけた。

 それで、押さないわけがない。

 初めて開いた小さな体は壊れてしまいそうなほどに無垢で柔らかかった。どこも白くて、愛らしく思えた。
 恋情と結びつく性欲なんて経験はなかった。やる事はそれなりにやってはいたが、そこで何が始まるわけでもなく、処理出来ればそれで終わりだった。

 だがこの欲は終わりがない。触れれば触れるほどに肥大して、気付けば溺れていく。
 まっさらな体に俺だけを教えた。気持ち良さそうに幼く喘ぐウェインを壊さないように、いつも我慢しながらだ。
 それでも、愛しくて堪らない。俺の我慢なんて些末な事だ。この腕の中でいつまでもこいつを愛でていられるなら、俺はどんな我慢も無理もできるように思う。


 もこもこのパーカーをひっかけたまますよすよと無防備に眠るウェインは、今も俺を悩ませている。可愛い兎の下半身は丸出し状態だ。ぷりんとした滑らかなお尻も、細くしなやかな足も出ている。しかもパーカーの前も完全に開いていて、愛らしい乳首がそのままだ。

 生殺しだ、寝られない。かといって寝ているこいつを犯すほど鬼畜ではない。

 溜息一つで抱き寄せて、温かい体を堪能するのが精一杯だ。当然下半身は浅ましく反応しているが、後でこっそりと抜くか、さもなくば苦行のように眠ってしまうかだ。


 時々思う。こいつは俺の事を「好き」「大好き」と言う。
 だが俺はそんな可愛い言葉でこの感情を表せない。好きなんて言葉よりもずっとドロドロしている。余計な虫を今では捻り潰したくなる程度には、こいつを他人に見せたくない。
 では愛しているなのか。そんな綺麗な情熱ではない。もっと暗いかもしれない。
 そう思うとき、しっくりとくるのが「妄執」「執着」という言葉だ。ほの暗く、そして執拗な感情。気付かれなければそのままでいいとすら思っていたのに、いざ落ちてきたらこれだ。上司の事を言えない。

 こいつは俺のそんな感情を知ったら、怯えるだろうか。離れるだろうか。当然、離すつもりはないのだが。
 それとも、側にいてくれるだろうか。こんなどうしようもない男の側に寄り添ってくれるのだろうか。
 その答えが時々、欲しくなっている。
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