恋愛騎士物語2~愛しい騎士の隣にいる為~

凪瀬夜霧

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2章:放浪の民救出作戦

3話:エルの悲劇

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 翌日の終業後、ランバートはファウストの部屋にいた。ソファーに寛いだ姿で座っているファウストは、だがランバートの様子に多少怯えてもいる。

「どうした、ランバート」
「ファウスト様、俺に言う事はないのですか?」

 あくまで仕事モード。これに、ファウストは多少怯えながらも知らぬ顔をした。

「何の事だ」
「東の遠征」
「!」

 驚きと同時に焦りも感じる表情に、やはり故意に話さなかったのだと知って余計に腹立たしさが募っていく。

「いや、今回は冬の遠征だから、お前は」
「選出要員の中に、俺は筆頭で入っているとウェイン様に確認をしましたが」
「いや」
「サバイバル訓練の成績は、俺は他の二年目の中で一番です。しかも薬草や食用植物の知識でもオリヴァー様のお墨付きを頂いております。俺で力不足だと言うならば、選出されている他の二年目全員力不足だと思いますが」
「……」

 ファウストは明らかに顔色をなくした。例えるならば悪戯がバレて怒られる子供の顔だ。明らかに動揺しているし、誤魔化そうとあれこれ考えては失敗している。
 膝をついてファウストの前に座り、手を握った。

「俺は、力になれませんか?」
「ランバート?」
「俺では貴方の力にはなれないのでしょうか? 背を守るとはまだ言えないまでも、一隊員として任務に当たる力も俺にはないのでしょうか?」
「違う、そういうことじゃ!」
「貴方のしようとしていることは、俺の自信や意気込みを根こそぎ挫くような事です。お願いですから、俺がここに立つ理由を奪うような事はしないでください」

 切なく黒い目が申し訳なさそうに細くなる。手が頭を撫でて、次には項垂れた。

「すまない、そんなつもりではなかったんだ」
「では、どうしてです」
「……冬の行軍の辛さは想像以上だ。今回は森の中を行く。馬も馬車も使えないんじゃ手持ちの荷物だけになる。雪の降る森を進むにはあまりに心許ない。そこにお前を連れて行くのは、躊躇いがあったんだ」
「俺はそんなにヤワじゃありません。木の根をかじってでも生き延びます」
「分かっている、そんな事は。だが、そうさせたくないと思った俺がいるんだ」

 困った様に笑う顔はいつも以上に弱い。彼だって分かっているだろう、この決断が間違いだということを。

「難儀だな。軍神トールはお前の有能さを認めて頼りに思うのに、ファウスト・シュトライザーとしてはお前をそんな苦しい場所につれて行きたくはないと思ってしまう」
「仕事の事は軍神として判断をして頂かないと困ります。別れますよ」
「選出はまだ終わっていない。入れておく」
「お願いします」

 肩を落としたファウストに畳みかけるように、ランバートは言った。

 空気が少し甘くなる。約束させたことでランバートも態度を軟化させた。それを感じて手が伸びて頬に触れてくる。未だ困った笑みのままだ。

「どこから仕入れたんだ、その話。ウェインには口止めをしたはずだが」
「ヴィンセント様です」
「大本か……」

 流石に落胆らしい。彼がどれだけ隠そうともヴィンセントと繋がっているのでは意味がない。しかもランバートはウェインやオリヴァーとも仲がいい。彼らにお願いして、今回の話を聞き出したのだ。

「俺の恋人は勇ましくて困る。苦しい事を強いたくはないと思うのは、恋人として間違っているか?」
「間違いはないだろうけれど、それは俺の嫌いなファウストだ」
「嫌い?」
「いつでも胸を張って誇れるファウストでいてもらいたい。俺はこの人の恋人でよかったと、常に思える相手でいて貰わないと困る。俺のせいでファウストが腑抜けになったなんて言われたら、俺は自分を恥じる。俺がファウストをダメにしたなんて知ったら、俺は自分が許せない」

 惚れたのは両方なんだ。軍神として頼もしく、強い背に憧れる。同時に甘やかす様に包むこの人にも惚れた。だからこそ、両方を求める。そして自分も、立ち止まるのではなくいつまでも上を目指して行かなければいけないのだ。

「俺をがっかりさせないでくれよ、ファウスト。あんたの側に、俺は胸を張って立つんだから」
「難しい事を要求するな、お前は」

 そう言いながらも微笑み、そっと頬に唇を寄せる人は確かに今、ランバートの愛しい人の顔をしていた。

「冬の森に滞在する。後一週間もすればここを発って他の砦も経由し、森の手前の砦へと向かう。そこから先は大森林地帯だ。東は雪も多い。期間は一ヶ月、十二月になったら成功しようが失敗しようが引き上げる。これはシウスの判断だ。思いのほか雪が多くても撤退だ。無理はさせられない」
「分かった」
「獣の多い森だ、馬を連れてはいけない。道も整備されていないから馬車は勿論だ。荷物は全て手で持っていく。それと、毒のある植物も多いらしい」
「知識はあるよ」
「それなら第四師団も手伝ってやってくれ。実際何か起これば知識のある人間が役に立つ。第四が中心ではあるが、手が足りるとは限らないしな」
「力の限りやるから、そんなに心配な顔をしないでくれ」

 とても不安そうに、それでも伝えなければいけないことを伝えてくるファウストににっこりと微笑む。安心して貰わないと困る。
 実際、ランバートには様々な知識がある。サバイバルについては剣を教えてくれた師から。医学の知識はダメなハムレット兄から。事務作業などの書類仕事のノウハウはアレク兄から学び取った。その全てがランバートの力だ。

「ファウスト、平気だから。俺よりもシウス様の事を心配してやってくれ。俺はその方が心配だ」
「シウスか……今も少し心配している。東はあいつと関わりが深いんだろ?」
「深いんだろって……もしかして、知らないのか?」

 驚いて目を見開いて問いかけてしまう。ランバートの驚きを余所に、ファウストは首を横に振る。何年も一緒に居る仲だというのに、信じられなかった。

「確かに王都では十四年前の事件は扱い小さかったけど、一応聞こえてきていたのに」
「その頃は俺も引きこもりだ。ほぼ外界からは遠ざかっていた」
「あぁ……」

 確かに、丁度シュトライザーの家にいた暗黒時代だ。こればかりはランバートも責められず、生暖かい反応しかできなかった。

「あいつは過去を語らない。あいつに限った事ではないがな。俺も聞かれたくなかったから水を向けなかった。そこに関わるんだろ?」
「あぁ、そうだ。『エルの悲劇』って言えば、王都でも少し聞こえてきてたよ。遠く東で起こった、あってはいけない悲劇だ」

 シウスが気にするなら、やはり彼は当事者だ。ならばどれほどの苦しみと悲しみと絶望だったか。それを思って、ランバートは表情を沈ませる。
 ふと下から髪を梳き上げるように指を差し込まれ、心配そうにされる。ランバートはそれに緩く笑って隣に座り、悲しい過去の話を知っている分だけファウストに話す事にした。

◆◇◆

 旅の装備も揃った。ラウルは道具の点検も終えてシウスの部屋を目指して歩き出した。
 シウスの様子が違う事は直ぐに分かった。何でもない顔をしていても落ち込んだり、とても真剣に考えているのは分かる。無表情になるその顔を側で見ていて、何かできないのだろうかと切ない気持ちになっている。
 ドアを叩けばすぐに穏やかな様子でシウスは出てきた。薄い水色の瞳が嬉しそうに細くなるのはとても好きだ。真一文字に結ばれる事の多い口元が、綻ぶように笑みを作るのは好きだ。

「ラウル、どうしたえ?」
「安息日前日なので伺いました。これからまた忙しくなりそうなので。それに、ランバートもいないし」
「そうかえ」

 とても無邪気な笑みを向けられる。仕事ではない顔を見ると、ラウルはほっとしてしまう。この人もまた、仕事とプライベートの壁が薄い人だから。

「遠征の準備、してないんですか?」

 室内はこれといった変化がない。遠征出発は数日後の事なのに、シウスはその準備をしていないように見えた。顔を伺えば困った笑みを浮かべ、机の上にある小さな荷を指した。

「あれだけですか!」
「途中砦も経由する。綺麗な布と、硬い物も切れるナイフ、動物よけの煙幕と、緊急用の包帯くらいでよいよ」
「そんな! とても心許ないですよ」

 冬の遠征は大変だ。まずは食べる物に窮すると思う。森の動物も冬は身を潜めている事が多いのに。
 だがシウスは何でもない様子で笑った。

「よいのだよ、これで」

 心得ている。そんな様子にラウルはやはり話をしなければと、真剣に向き直った。

「シウス様」
「なんじゃ?」
「何をそんなに、苦しんでいるのですか? 何が貴方を、そんなにも悲しませているのですか?」

 問えば恐れたように目が見開かれる。本当はこんな顔をさせたくない。心が安らかであれば、そうするのが自分であればいいとラウルは思っている。でも今のシウスはそうではない。知りたいと思う、この人を。

「そのように、映るかえ?」
「はい」
「……参ったな。ラウル、問わずにいてくれぬのか?」
「貴方の事を知りたいのです。僕は貴方の今しか知りません。今シウス様を苦しめているのは、過去なのでしょ? 僕は知ってはいけませんか?」

 必死だった。このままでは知らないシウスを見るようだった。側にいるのにいない、そんな感じがしてしまうのだ。
 困ったように目を伏せるその視線を、あまり意識していたくない。悲しませてしまって心苦しい。けれど、遠くにいかせるわけにはいかない。この手を振り払われたら、ラウルは悲しみに打ちのめされる。
 けれどふと、シウスの顔に笑みが浮かんだ。ほんの少し赤みを帯びる頬や、嬉しそうな瞳が柔らかくラウルを見つめ、そっと触れた。

「困った子よ、ラウル。私はあまりこれを語りたくはないのだが」
「僕には知る価値もありませんか?」
「そうではない。いや、むしろ大事な子ゆえ、知ってもらいたくないのじゃ。私は好奇の目に耐えられぬ。それが命よりも大切なそなたからでは、あまりに苦しく息が止まってしまう」
「そんな目で貴方を見たりはしません」
「約束できるかえ?」
「勿論です」

 何を知ってもシウスをそんな目で見ることはないと誓える。どんなに苦しい事がこの人にあったのだとしても、全てを飲み込める。なぜならそれは過去であって、今ではないから。今のこの人を知っているから、自信を持って言える。
 シウスはなおも困った顔で笑っている。少し嬉しそうだ。

「困ったものぞ。ラウル、私は嬉しいと思ってしまっている」
「嬉しい……ですか?」
「左様。私の傷に触れてくれるそなたが愛しくてたまらぬ。面倒を知りたいと思うてくれる事が嬉しくてたまらぬ。私はそなたに全て委ね、楽になる甘美な喜びを感じておるのだよ」

 実にくすぐったそうな笑みだ。ラウルはそれを真っ直ぐに見て、嬉しく目元を綻ばせて頷いた。

「僕で支えられるのでしたら、いくらでもそうします。僕はシウス様が大好きです。これからもずっと、一緒にいたいと思っています。だから、教えてください。そんな悲しい顔をしないでください。僕の知らない所でシウス様が悲しんでいると、僕はとても苦しいです」
「ラウル」

 感極まったように抱きすくめられ、キスを受ける。啄むような軽いものから始まる人の、今日は違っている事に驚く。最初から唇を割られ、舌が差し込まれて絡まってくる。うっとりと受け入れて絡ませていると、嬉しそうに瞳が細くなっていく。ご機嫌な猫のように。

「あまり嬉しい事を言ってくれるな。私もこれで男ぞ」
「あの、受けます、よ?」

 真っ赤になって言えばキョトンとされて、でも次には嬉しそうに声を上げてクツクツと笑う。やっといつもの表情に戻った事に、ラウルは安心した。

「さて、話そうか。そうさの、心の重みも語れば多少降りようか」
「お願いします」
「思いのほか重いだろうが、受けてくれるのかえ?」
「貴方の重みなら、喜んで」
「……あまり惚れさせるでないよ、ラウル。国の宰相を骨抜きにするとは、なんと罪深い子ぞ」

 冗談っぽく言ったけれど、耳は真っ赤になっている。本当に照れているのだと思うと年上のこの人がとても可愛く見えてくる。笑ったら、少しだけ睨まれた。
 ソファーに腰を下ろし、ほんの少しお酒を飲んでいる。沈黙が続いたけれど、しばらくして深く息を一つ吐き出したシウスはゆっくりと言葉を押し出し始めた。

「エルの一族というのは、知っているかえ?」
「いいえ」
「東の森林地帯に住んでいた一族で、森の智者とも呼ばれた者達じゃ。獣の言葉を解し、精霊の声を聞き、時に神の声を下ろす。そういう一族じゃ」

 やんわりとラウルの頭を撫でながら語るシウスは、そうする事で現実と繋がっているように思えた。ふとした瞬間に過去に囚われてしまうように思え、ラウルは急いでシウスの手を握る。僅かに冷たい手を温める様にして触れていると、柔らかな視線が落ちてきた。

「私の母は王都イービルズアイ侯爵家の娘で、跳ねっ返りだった。薬草学に興味を持ち、東の森林に薬草を求めた時にエル族の父と出会い、そのまま駆け落ちしてしまった。そうして私が生まれ、親子三人エルの集落で生活を送っていた。十三年、実に楽しく有意義であった」

 僅か遠く、視線を巡らせるその顔を見上げながら、そこに幸せそうな笑みがある事に安堵する。家族の事を話してはくれなかったから、こうして聞けて嬉しい。とても幸せそうな家庭で育ったのだと分かって、安心してしまった。

「私には同い年の幼馴染みと、三つ年上の兄の様に慕った人と、二つ年下の妹のような者とがいて、とても楽しい時間を送った。森の中、獲物を得て日々の糧とし、果物や草花を食材や薬とした。側には両親もあり、実に幸せな時間であった。今の文明などなくとも、私は満ち足りた時を過ごしていた。だが、十四年前の事件が全てを壊してしまった」

 途端厳しく眉根が寄り、瞳が憎しみを込めて鋭くなったのを見て、ラウルは胸が苦しくなった。手を握り、離さないように力を込める。気づいたように握り返される手にも、知らず力が入っていた。

「起こりは東で流行った病であった。当時は中央から離れれば怪しげな術者がまかり通っておった。小さな村の多い東では特にその傾向が強くての。死病が多くの人の命を奪い、人の心に恐れという悪魔が住まっておった。そこに、祈祷師の一人が叫んだのじゃ。『この病は全て、森の悪魔が連れてくるのだ』と」

 ラウルの目にも恐れが走った。しらず、体が震えた。死病に取り憑かれ、恐れを抱いて縋った祈祷師がそんな事を言ったら、どうなってしまう。それが事実ではなくても、心の恐れや不安を払う為に悲劇が起こるんじゃないか。
 恐る恐る見上げたシウスは表情をなくしている。それでもラウルを見て、一つ肯定の意味で頷いた。

「森狩りじゃ。松明の炎が森を赤く見せるほどに、恐れに取り憑かれた者達が我らを狩りに手に武器を持って押し寄せた。エルは争いを好まぬが、戦えば勇敢。戦士達は戦い、その間に戦えぬ者は逃げた。私も母に連れられ、教会に身を寄せて助かった一人じゃ。他にも、もっと深い森へと逃げた者もおるし、他国へと密かに逃げた者もおると聞く」
「あの」
「父は戦士じゃ。まごうことなき立派な戦士じゃ。私と母と一族を逃がすために戦い、果てた。戦った戦士は誰一人たすからなんだ。東の端の町に晒された人々の姿は、今もまだ私の中に残っておる」

 自然、涙がこぼれて行くのを止められなかった。心持ち冷たいシウスの手が頬を撫で、優しく微笑む。話す事で重みが薄れたのだと知って、ラウルは笑った。

「人々による森狩りが行われた直ぐ後じゃ、死病の原因がネズミであると分かったのは。ネズミを駆除し、猫を飼って追い払えばあっという間に病は終息した。しかし、起こった悲劇は……起こしてしまった罪は人々の間に重苦しく残る。東の者は口を閉ざし、語る事を止めて避けている。事は『エルの悲劇』と小さく痕を残すのみで消えてしまった」

 そこまで吐ききるようにして言ったシウスは、ラウルを強く抱きしめる。僅かに肩が震えていた。その背に腕を回して、ラウルは抱き返す。頑張った人の心を思って、優しく撫で下ろした。

「私は、怖いのじゃ」
「怖い、ですか?」
「此度、放浪の民はエルの者が多い。かつての同胞ばかりじゃ。率いるのは私の幼馴染みじゃ。森を離れ、国の者となった私をかつての同胞はどのように見るのか。憎しみの目で見られ、拒否されれば苦しい。説得に応じてもらえなんだら……思えば心が沈み込む。それを必死に堪えておったがために、そなたに心配をかけてしまった」
「いいえ」

 怖いなんて、当たり前だ。怖くない人なんていない。大事な人から拒まれたらとても辛いのだ。分かっているからこそ、ラウルは静かに受け止めた。それしかできないから、精一杯の力で支えている。

「私は教会に保護をされ、母の生家に引き取られた。扱いは最低で人を嫌いになっていたが、母はそうはさせなんだ。古い戦記物語を私に与え『このような仲間を得なさい』と残してくれた。読みふけり、涙が出た。私を知って、それでも私を認めてくれる友と主を得られれば。そんな夢を見て騎士の門を叩いて十年以上が経つ。私は、得られたよ」

 柔らかな瞳が幸せを溢れさせるように、穏やかに優しく見下ろす。触れる唇が額を優しく撫でていく。全てを受けて幸せで、同時に胸が甘く切なくなる。これほどの悲しみと苦しさを味わったのに、シウスは驚くほどに憎しみを持っていない。優しすぎるこの人が多くの悲しみに負けずにいてくれたことが、ラウルにはとても眩しく思えた。

「私はね、今がとても幸せじゃ。苦労も多く、歯がゆい思いもするが何の事はない。私は得がたい友を得た。そして、私をそのままに認めて任せてくれる度量の大きな主も得た。そして何よりも、私を受け入れてくれる最愛の者を得た。ラウル、私の愛しい子。そなたは私が恐ろしいか?」
「いいえ」
「人には見えぬ者と対話する一族の出ぞ。それを恐れた者達が、我らが一族を殺したのじゃ。恐ろしくはないのかえ?」
「どんなに他の人と違っても、例え恐ろしい力を秘めていたのだとしても、僕はシウス様を知っています。優しくて温かくて、大らかな貴方を知っています。だから何も怖くありません」

 真っ直ぐに見つめ、心の底から言葉を吐き出せば嬉しそうで少し照れた笑みが返ってくる。次にはキスが降りて来て、受けいれて安らかな気持ちになった。

「器の大きな子じゃ。困った、ますます惚れてしまう」
「え? あの」
「うむ、難儀じゃ。せめてそなたが二十歳を超えるまでは背負わせたくはないと思っておるのに、欲しくてたまらぬ。のぉラウル、私とそなたは九つも年が離れておる。本当にこのような爺が相手でもよいのだろうか?」
「あの、何の話ですか?」
「勿論、私とそなたの婚儀の話じゃ」
「婚儀……結婚!」

 思い切り飛躍した話に、ラウルは素っ頓狂に声を上げて顔を熱くさせる。嫌ではないけれど、あまりに突然だ。それに、流石にその覚悟はまだできていない。
 ドギマギとぎこちなくするラウルに、シウスは困った様に笑う。肩に手を添えて頬にキスをしたシウスは、実に楽しそうな声で言った。

「初奴じゃ、ラウル。よいよ、待とうではないか」

 囁くようなその言葉に、ラウルはとても小さく頷いた。
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