172 / 233
24話:迷い猫
5話:保護(チェルル)
しおりを挟む
目の前に、ラウル、シウス、そしてダンが姿を現す。全て謀られていたかのようだ。
そして足元に転がったのはアルブレヒトがくれたお守り。銀が毒を受けて反応し、黒ずんでいく。まるでチェルルの身代わりになったかのように。
「いつから」
「そうさの、もう五日になろうか」
「まさか! そんなに早くどうして嗅ぎつけられるのさ!」
信じられなくて叫んだチェルルに、シウスはゆっくりと頷いた。
「城の下水が流れる所で、赤毛の少年の死体が上がった」
その言葉に、チェルルはハッとした。今回唯一殺した少年、だが石をつけたはずだ。
「腰にロープがついていたが、何かに引っかかり浮き上がったのだろう。調べると、一週間も前にバミルゾの書類を提出しにきた少年と特徴が一致した。が、毒殺であった為解剖した」
「解剖!」
チェルルは驚いた。しないと思っていたのだ。毒の種類にもよるだろうが、死体から腐敗臭とは違う臭いのする物は大抵解剖を嫌う。毒を知る人間は毒の中にはその臭気を取り入れるだけで体に害がある物もあるのを知っている。
シウスは静かに頷いた。
「お前が以前使った手があったからな。毒の専門家立ち会いの下、慎重に行った。そうしたら赤毛の少年は城で働く小間使いの少年だと分かった。精巧に変装をさせたようだがの」
それなら、もう随分前に疑われていた。いや、一週間ならちょうどあの少年からシンディへと入れ替わったくらいか。きっと少年の接触者を洗われ、そこからシンディへと繋がったんだ。
「……何も話さない」
睨み付けるようにチェルルは言った。その目は辛そうに眉根を寄せているダンへと向かっていた。
「その裏切り者がいるなら大方話は聞いているだろ。でも、俺は認めない。俺は国に居づらくなって仲間と傭兵を始めたんだ。そして、ルースが雇った」
「チェルル!」
「全員そうだ! 俺達は傭兵だ!」
認める事はできない。それだけはできない! 国が背後にいる事が分かれば非は祖国に向く。現在他国を侵略している祖国ジェームダルは周辺国との折り合いもいいとは言えない。そこでこんな事がバレれば、ますます周辺国との溝ができる。苦しむのは力のない人々だ。
それに、もしもこれがバレたらアルブレヒトの命はない。そう言われている。捕まるくらいなら死ね。それが国王キルヒアイスの言葉だ。
幸い裏付けるものはない。このお守りはアルブレヒトがくれた物。騎士となり、部隊を任された時にくれた物だ。それも、過去であって現在には直結しないはずだ。
「どこまで、大切な人を悲しませるのさ」
怒りを押し殺した様な声がする。ラウルが睨み付けながらにこちらへとズカズカ近づいてくる。チェルルが失った強い信念の目をして。そして、チェルルが拾えないままのお守りに触れた。
「ラウル!」
「これをくれた人は、お前の事を案じていたんだろ。高価な材料を使い、心を込めて型を彫り、思いを込めて石をはめ込んで。お前の無事や幸せを願ったんじゃないのか?」
そんな事は分かっている。『危険な役回りをいつもさせてすまない。せめて、これが受けてくれるように』そう言った人の苦しそうな笑みを忘れた日なんてない。
だからこそ、その人を救おうとしているんだ!
「分かった様な事を言うな」
「分からない。これを知ったらその人はどんな顔をするの。どんなに悲しむの」
「そんな事分かってるよ!」
誰かを傷つける事を悲しむ人だ。仲間が傷つくのを我が事の様に悲しむ人だ。優しくて、温かくて、大好きで……大好きな主なんだ。
「分かってるよ、そんなの。悲しんで、苦しんで、そうさせたのは自分だなんて言うに違いないんだ。全ての罪は自分がさせたんだって言う人だよ。じゃあ、どうしろってのさ! 見つからないんだよ! 殺されるかもしれないんだよ! 今だって、生きているのかも分からないんだよ!!」
何度も何度も疑った。もう生きてはいないんじゃないか。きっと全員がそれを疑ったはずだ。でも、認められなくて……認めたくなくて必死なんだ。
叫ぶように吐き出したチェルルは目の前のラウルを睨み付ける。そして、手にしたお守りに手を伸ばそうとした。例えこの手についた僅かな分だけでも、弱った今の体なら楽になれるかもしれない。死人に口なしだ。
けれどそのチェルルの手をラウルははたき落とし、強く手首を掴んで壁に押しつけてしまう。強い力に抵抗する事もできない。それほどに弱っていた。
「生きてるよ!」
「わかんないだろ!」
「お前が信じないで誰が信じるんだ! お前が助けないで誰が助けるんだ!」
「知ったように言うな! 影も形も追えなかったんだ!」
探さないはずがない。見つけたくて、助けたくて、こっそり国内に戻っては探し歩いた。見つからないように気をつけて、監視がかからないように気を使って。それでも、見つけられなかったんだ……。
「こほっ」
咳がこみ上げる。興奮からなのか息が切れる。いや、違う。本当は分かっている。環境の整わない場所で毒の生成を行ってきた。そのツケが回ってきている。煙や、僅かに入ったそれらがジワジワと体を冒している。この体はボロボロなんだ。
「お前の主は、生きておるよ」
知ったような静かな声。主を思わせる白髪。シウスはとても静かにチェルルを見ている。
「ダンから話を聞くに、アルブレヒト兄の身柄を預かっているのはおそらく教会だ」
「教会?」
「なんだ、知らなんだか。お前の主を裏切ったのは教会だ。そこではめられ、ダン率いる親衛隊は奴以外を残して毒殺、アルブレヒト兄は捕らえられたそうな」
「……知らない」
驚きに目を見開く。てっきりキルヒアイスが途中で襲い、その身柄を抑えたのだと思った。そう思わせるに十分な事をあの男は言っていた。
ダンを見ると頷いている。最後にアルブレヒトと行動を共にしていた、信じていた元上官だ。彼がアルブレヒトを裏切るとは流石に考えていない。
なんだか力が抜ける。クラクラしてくる。ズルズルと壁に凭れたまま座り込んだチェルルはこみ上げるような咳を何度かした。ほんの僅か口に広がる錆びたような味が、限界を思わせた。
「チェルル!」
「オリヴァーをここへ!」
シウスの命にルイーズとコナンが出て行く。それを眺めながら、混乱する頭で色んな事を思った。楽しかった事、嬉しかった事。後はひたすら『ごめんなさい』だ。
シウスが近づき、矢の突き立った部分の止血をしていく。散々な事をしたはずなのに、躊躇いもなく。疑わないのだろうか、今もまだ殺そうとしていると。
「死ぬな! 諦めてはならぬ! お前の主は生きているのだぞ!」
「わかんないよ、見つけられな……それに俺が捕まったら、今度こそ」
「ありえぬ! 冷静になって考えよ。教会が身柄を預かり利用しておるのだぞ。キルヒアイスと繋がっていたとしても、利用価値のある者をそう簡単に手放すか」
「……あ」
そうか、それはそうかもしれない。中央教会は腐っている。権威を繋ぐ為にアルブレヒトを使っていた。今も神子姫がアルブレヒトの言葉を神のお告げとして人々に伝え、教会の権威を繋いでいる。
それでも疑ったのは、五年も探したにも関わらず見つけられなかったから。神子姫の言葉さえ、疑ったから……。
「キルヒアイスにしてもそうだ。お前の上官ベリアンスという者やお前達を押さえ込み、言う事を聞かせるにはアルブレヒト兄の身柄を盾にするより他にない。その切り札を失った瞬間、矛先は自らに向かう。一国を落とせる力ある部隊がそのまま自国へと向かえば国は瓦解する」
「あ……」
そうだ、どうして冷静にそれを考えなかったんだ。アルブレヒトの存在がなければ従う事もなかった。
「俺、馬鹿……」
「いきなり大切な者を人質に取られ、状況も掴めぬまま高圧的に一方的な態度で脅しつけられれば、人の心は混乱と萎縮によって従わなければならない気がしてくる。人質に取られているという事実に変わりはない故な。しかも定期的に、上手く行かぬ度に上から脅され冷静さを欠いたのだろう。人の心を従わせるには初手が上手く行けば案外簡単な事じゃ」
静かなシウスの声がすんなりと入ってくる。苦しくて何度か咳をすると、口の中に錆びた味が広がった。
「アルブレヒト兄は、私が尊敬し兄と慕った人じゃ。それに帝国としてもこのままにはしておけぬ。助け出してみせる」
「どうやって」
「こっそりと動ける、諜報が得意な人間はいくらかいる。顔を知られてはおらぬでな。戦ったお前が、その強さを知っているのではないか?」
「……知ってる」
ラン・カレイユに通じた手が通じない。人の層が厚い。帝国の騎士団は簡単には崩れなかった。それを一番知っているのは、戦ったチェルル達だ。
「だが、案内役は必要ぞ。正体がばれずにジェームダルに潜伏するなんて芸当、ダンに出来ると思うかえ?」
「ははっ、無理」
「だろう? 故に、お前の力が必要じゃ。これほどの変装が出来るお前ならば、いかようにもなろう」
穏やかに言うシウスの言葉は不思議と入ってくる。まるでアルブレヒトの言葉のようだ。あの人の言葉も不思議と信じさせられた。不安なんて抱かないくらい。
「まずは体を治せ。生きて、お前の主を迎えねばならぬよ」
優しく髪を梳く手を、拒む気持ちは不思議と失われた。涙が伝って落ちていく。苦しいはずなのに、心の中にあった重しは消えていった。
「ごめん……」
そんな言葉で許されないのは十分に理解していても、それしか出てこない。口の動く限り、声の出る限り、チェルルはその言葉を繰り返した。
シウスが、ラウルが、困った様に笑う。そして、ポンと肩を叩いた。
「お疲れ様。よく、頑張ったよ」
ラウルのその言葉に糸が切れた。ドサリと倒れたまま、チェルルは意識を手放した。
そして足元に転がったのはアルブレヒトがくれたお守り。銀が毒を受けて反応し、黒ずんでいく。まるでチェルルの身代わりになったかのように。
「いつから」
「そうさの、もう五日になろうか」
「まさか! そんなに早くどうして嗅ぎつけられるのさ!」
信じられなくて叫んだチェルルに、シウスはゆっくりと頷いた。
「城の下水が流れる所で、赤毛の少年の死体が上がった」
その言葉に、チェルルはハッとした。今回唯一殺した少年、だが石をつけたはずだ。
「腰にロープがついていたが、何かに引っかかり浮き上がったのだろう。調べると、一週間も前にバミルゾの書類を提出しにきた少年と特徴が一致した。が、毒殺であった為解剖した」
「解剖!」
チェルルは驚いた。しないと思っていたのだ。毒の種類にもよるだろうが、死体から腐敗臭とは違う臭いのする物は大抵解剖を嫌う。毒を知る人間は毒の中にはその臭気を取り入れるだけで体に害がある物もあるのを知っている。
シウスは静かに頷いた。
「お前が以前使った手があったからな。毒の専門家立ち会いの下、慎重に行った。そうしたら赤毛の少年は城で働く小間使いの少年だと分かった。精巧に変装をさせたようだがの」
それなら、もう随分前に疑われていた。いや、一週間ならちょうどあの少年からシンディへと入れ替わったくらいか。きっと少年の接触者を洗われ、そこからシンディへと繋がったんだ。
「……何も話さない」
睨み付けるようにチェルルは言った。その目は辛そうに眉根を寄せているダンへと向かっていた。
「その裏切り者がいるなら大方話は聞いているだろ。でも、俺は認めない。俺は国に居づらくなって仲間と傭兵を始めたんだ。そして、ルースが雇った」
「チェルル!」
「全員そうだ! 俺達は傭兵だ!」
認める事はできない。それだけはできない! 国が背後にいる事が分かれば非は祖国に向く。現在他国を侵略している祖国ジェームダルは周辺国との折り合いもいいとは言えない。そこでこんな事がバレれば、ますます周辺国との溝ができる。苦しむのは力のない人々だ。
それに、もしもこれがバレたらアルブレヒトの命はない。そう言われている。捕まるくらいなら死ね。それが国王キルヒアイスの言葉だ。
幸い裏付けるものはない。このお守りはアルブレヒトがくれた物。騎士となり、部隊を任された時にくれた物だ。それも、過去であって現在には直結しないはずだ。
「どこまで、大切な人を悲しませるのさ」
怒りを押し殺した様な声がする。ラウルが睨み付けながらにこちらへとズカズカ近づいてくる。チェルルが失った強い信念の目をして。そして、チェルルが拾えないままのお守りに触れた。
「ラウル!」
「これをくれた人は、お前の事を案じていたんだろ。高価な材料を使い、心を込めて型を彫り、思いを込めて石をはめ込んで。お前の無事や幸せを願ったんじゃないのか?」
そんな事は分かっている。『危険な役回りをいつもさせてすまない。せめて、これが受けてくれるように』そう言った人の苦しそうな笑みを忘れた日なんてない。
だからこそ、その人を救おうとしているんだ!
「分かった様な事を言うな」
「分からない。これを知ったらその人はどんな顔をするの。どんなに悲しむの」
「そんな事分かってるよ!」
誰かを傷つける事を悲しむ人だ。仲間が傷つくのを我が事の様に悲しむ人だ。優しくて、温かくて、大好きで……大好きな主なんだ。
「分かってるよ、そんなの。悲しんで、苦しんで、そうさせたのは自分だなんて言うに違いないんだ。全ての罪は自分がさせたんだって言う人だよ。じゃあ、どうしろってのさ! 見つからないんだよ! 殺されるかもしれないんだよ! 今だって、生きているのかも分からないんだよ!!」
何度も何度も疑った。もう生きてはいないんじゃないか。きっと全員がそれを疑ったはずだ。でも、認められなくて……認めたくなくて必死なんだ。
叫ぶように吐き出したチェルルは目の前のラウルを睨み付ける。そして、手にしたお守りに手を伸ばそうとした。例えこの手についた僅かな分だけでも、弱った今の体なら楽になれるかもしれない。死人に口なしだ。
けれどそのチェルルの手をラウルははたき落とし、強く手首を掴んで壁に押しつけてしまう。強い力に抵抗する事もできない。それほどに弱っていた。
「生きてるよ!」
「わかんないだろ!」
「お前が信じないで誰が信じるんだ! お前が助けないで誰が助けるんだ!」
「知ったように言うな! 影も形も追えなかったんだ!」
探さないはずがない。見つけたくて、助けたくて、こっそり国内に戻っては探し歩いた。見つからないように気をつけて、監視がかからないように気を使って。それでも、見つけられなかったんだ……。
「こほっ」
咳がこみ上げる。興奮からなのか息が切れる。いや、違う。本当は分かっている。環境の整わない場所で毒の生成を行ってきた。そのツケが回ってきている。煙や、僅かに入ったそれらがジワジワと体を冒している。この体はボロボロなんだ。
「お前の主は、生きておるよ」
知ったような静かな声。主を思わせる白髪。シウスはとても静かにチェルルを見ている。
「ダンから話を聞くに、アルブレヒト兄の身柄を預かっているのはおそらく教会だ」
「教会?」
「なんだ、知らなんだか。お前の主を裏切ったのは教会だ。そこではめられ、ダン率いる親衛隊は奴以外を残して毒殺、アルブレヒト兄は捕らえられたそうな」
「……知らない」
驚きに目を見開く。てっきりキルヒアイスが途中で襲い、その身柄を抑えたのだと思った。そう思わせるに十分な事をあの男は言っていた。
ダンを見ると頷いている。最後にアルブレヒトと行動を共にしていた、信じていた元上官だ。彼がアルブレヒトを裏切るとは流石に考えていない。
なんだか力が抜ける。クラクラしてくる。ズルズルと壁に凭れたまま座り込んだチェルルはこみ上げるような咳を何度かした。ほんの僅か口に広がる錆びたような味が、限界を思わせた。
「チェルル!」
「オリヴァーをここへ!」
シウスの命にルイーズとコナンが出て行く。それを眺めながら、混乱する頭で色んな事を思った。楽しかった事、嬉しかった事。後はひたすら『ごめんなさい』だ。
シウスが近づき、矢の突き立った部分の止血をしていく。散々な事をしたはずなのに、躊躇いもなく。疑わないのだろうか、今もまだ殺そうとしていると。
「死ぬな! 諦めてはならぬ! お前の主は生きているのだぞ!」
「わかんないよ、見つけられな……それに俺が捕まったら、今度こそ」
「ありえぬ! 冷静になって考えよ。教会が身柄を預かり利用しておるのだぞ。キルヒアイスと繋がっていたとしても、利用価値のある者をそう簡単に手放すか」
「……あ」
そうか、それはそうかもしれない。中央教会は腐っている。権威を繋ぐ為にアルブレヒトを使っていた。今も神子姫がアルブレヒトの言葉を神のお告げとして人々に伝え、教会の権威を繋いでいる。
それでも疑ったのは、五年も探したにも関わらず見つけられなかったから。神子姫の言葉さえ、疑ったから……。
「キルヒアイスにしてもそうだ。お前の上官ベリアンスという者やお前達を押さえ込み、言う事を聞かせるにはアルブレヒト兄の身柄を盾にするより他にない。その切り札を失った瞬間、矛先は自らに向かう。一国を落とせる力ある部隊がそのまま自国へと向かえば国は瓦解する」
「あ……」
そうだ、どうして冷静にそれを考えなかったんだ。アルブレヒトの存在がなければ従う事もなかった。
「俺、馬鹿……」
「いきなり大切な者を人質に取られ、状況も掴めぬまま高圧的に一方的な態度で脅しつけられれば、人の心は混乱と萎縮によって従わなければならない気がしてくる。人質に取られているという事実に変わりはない故な。しかも定期的に、上手く行かぬ度に上から脅され冷静さを欠いたのだろう。人の心を従わせるには初手が上手く行けば案外簡単な事じゃ」
静かなシウスの声がすんなりと入ってくる。苦しくて何度か咳をすると、口の中に錆びた味が広がった。
「アルブレヒト兄は、私が尊敬し兄と慕った人じゃ。それに帝国としてもこのままにはしておけぬ。助け出してみせる」
「どうやって」
「こっそりと動ける、諜報が得意な人間はいくらかいる。顔を知られてはおらぬでな。戦ったお前が、その強さを知っているのではないか?」
「……知ってる」
ラン・カレイユに通じた手が通じない。人の層が厚い。帝国の騎士団は簡単には崩れなかった。それを一番知っているのは、戦ったチェルル達だ。
「だが、案内役は必要ぞ。正体がばれずにジェームダルに潜伏するなんて芸当、ダンに出来ると思うかえ?」
「ははっ、無理」
「だろう? 故に、お前の力が必要じゃ。これほどの変装が出来るお前ならば、いかようにもなろう」
穏やかに言うシウスの言葉は不思議と入ってくる。まるでアルブレヒトの言葉のようだ。あの人の言葉も不思議と信じさせられた。不安なんて抱かないくらい。
「まずは体を治せ。生きて、お前の主を迎えねばならぬよ」
優しく髪を梳く手を、拒む気持ちは不思議と失われた。涙が伝って落ちていく。苦しいはずなのに、心の中にあった重しは消えていった。
「ごめん……」
そんな言葉で許されないのは十分に理解していても、それしか出てこない。口の動く限り、声の出る限り、チェルルはその言葉を繰り返した。
シウスが、ラウルが、困った様に笑う。そして、ポンと肩を叩いた。
「お疲れ様。よく、頑張ったよ」
ラウルのその言葉に糸が切れた。ドサリと倒れたまま、チェルルは意識を手放した。
12
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる