恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

文字の大きさ
50 / 167
2章:ロッカーナ演習事件

おまけ1:ファウストの処分

しおりを挟む
 エドワードの処分が決まって、全ての判決が出た日の夜。ファウストの部屋は予想に反して賑やかだった。

「お前達……俺は謹慎のはずだが?」

 部屋には当然のようにシウス、オスカル、クラウル、エリオット、そしてランバートがいる。突然押しかけ、あれよあれよと酒と食べ物が運び込まれ、今の状況だ。

「謹慎はまだ決まっておらぬ。お前に今休まれては事後処理がてんてこ舞いじゃ。しばし馬車馬のように働け」

 屁理屈のような事を言って笑うシウスの笑みは空元気だ。こいつは案外優しい奴だから。

「あ、明日からトイレ掃除ね」
「お前はそこを譲らないんだな」

 楽しそうに嫌がらせをするオスカルに溜息が出るが、これもこいつなりの声援だ。これをネタに毎日のように遊びにくるつもりだろう。傍にいる理由だ。

「何にしても決まった事だ。後は明日からとして、今日は良いだろ」
「……そうだな」

 クラウルが生真面目に言う事には苦笑が漏れる。だが、その通りだ。

「第四師団から多く人が抜けることになりますが、大丈夫ですか?」
「抜けた分は埋める。足りなければ俺も現場に出るから平気だ」

 心配そうにエリオットが問う事にも苦笑するしかない。隊員が抜ける穴を埋めるのは大変だが、その分は自分が働いて埋める。そのつもりだ。

 地方の各砦に医療府の者を派遣する事が決まり、そろそろ楽隠居を考えている数人の中年スタッフがそれに名乗りを上げた。だが、そこを埋める人員の確保は難しい。特に医療スタッフだ、適性がある。
 そこで、第四師団から人を募る事にした。既に十数人の希望が出ている。元々騎士として穏やかな者が多く、戦場を苦手と思う者が多い隊だ。衛生兵としての仕事をするうち、医療府への気持ちが強まったのだろう。
 だが同時に、騎兵府から人が抜けることになる。第四師団は特殊部隊だ、適性のある者が少ない。
 それでもなんとかする。人員の確保の為に出向いたり、他の砦から希望者を募ったり。そこで既に二人、こっちに引き入れるつもりだ。

「ピアースとクリフ、来年から王都勤務になるんですか?」

 ランバートの問いに、ファウストは苦笑しながらも頷いた。
 王都勤務を希望していたピアースと、衛生兵としての才覚を見せたクリフ。この両名を王都に転属させる話をした。今回の演習を見ても、二人は意欲的で感触がいい。十分こちらでもやれると思っている。
 勿論、本人たちの意志を尊重するつもりだから、まだ明確には言えないが。

「それにしても、お前が腕章とピンを置いた時にはヒヤリとした。本気だったのか?」

 クラウルの問いかけにもファウストは頷く。その傍で、ランバートは驚いて睨み付けてきた。


 陛下も出席しての処分委員会で、ファウストは団長のピンと腕章を外して陛下の前に出した。
 武人としての武力は負ける気がしない。だが今回問われているのは、組織を預かる者としての管理能力だ。正直、そちらは何とも言えない。管理能力なしと判断されるのなら、より適任な者に団長の地位は譲るべきだ。
 だがここに居る皆が、即座にピンと腕章を奪い取ってファウストの前に戻した。陛下が手を出すよりも、よほど早くて驚いた。
 「お前の武がこの国の抑止だぞ!」という、クラウルの叱責は強い動揺だ。
 「陛下、この男の再教育を致します故、此度の事は見なかった事に願いたい」とは、シウスだ。平謝りをするこいつは珍しい。
 「彼以外を団長としても、騎兵府の誰も納得はしません」と、オスカルが真っ直ぐに言う。こいつに庇われるとは思わなかった。
 「お願いです、陛下。彼は騎兵府の要です」と、今にも泣きそうな声で訴えるエリオットには申し訳ない気持ちになった。
 「これが答えだよ」と、嬉しそうな顔をした陛下の笑みを思い出す。本当に大きくて、温かい人だ。


「ほんと、考えてよね。国の軍事の要がそう簡単に辞めるなんて言わないでよ。あんなに心臓に悪い事、今までないよ」
「簡単だったわけじゃない。だが……」

 自信がなくなった。と言えば今更だが、今回の事は響いた。自分は武人であって、管理者としての能力に優れているとは思っていない。それでも周囲に支えられて今までやってきた。だが、やはりそれではダメだったんだ。

「貴方が辞めれば、この国を脅かす者達はお祭り騒ぎですよ」

 厳しい声が返ってくる。見ればランバートが怖い顔をして睨み付けていた。多分、相当怒っているのだろう。

「辞める事が責任だと言う者もいますが、俺には逃げにしか見えない。貴方は皆の憧れ、皆の規範です。責任をと言うなら、留まって堂々としていてください。ロディに合わせる顔が無いなんて考えているなら、合わせられるように改革をしてください。それが、貴方の仕事です」
「……厳しいな」

 だが、自然と笑みが浮かんだ。そして、飲みこんだ。
 クシャリと頭を撫で、グラスを手にする。飲み干すと、苦しいものを含めて腹に流れた。
 こんな風に言われては気合も入るだろう。そんな気持ちが戻ってきて、ファウストは自らを叱責し、再び堂々と立つ覚悟をした。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?

甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。 だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。 魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。 みたいな話し。 孤独な魔王×孤独な人間 サブCPに人間の王×吸血鬼の従者 11/18.完結しました。 今後、番外編等考えてみようと思います。 こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)

ぼくが風になるまえに――

まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」 学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。 ――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。 精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。 「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」 異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。 切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。 ダレン×フロル どうぞよろしくお願いいたします。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

処理中です...