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【チェスター×リカルド】家族になりたい
1話:訃報(リカルド)
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賑やかな結婚式が二件あったのも随分と前に思える十一月の終わり。リカルドにとっても穏やかな時間が過ぎている。ただ、今年は雪が早く降り始め寒さも厳しい。毎朝、起きると空気の冷たさに少しばかり肺が驚く。
そんな中でも騎士団の面々は元気だ。今年は比較的穏やかだったからか風邪をひく者も少なく、内科医としては実に好ましい状況だ。
「先生、今度どこか遊びに行こうよ」
まるで散歩をせがむように安息日前日になるとチェスターが言う。お気に入りの揺り椅子に座るリカルドの膝に頭を乗せて、上目遣いに言うのだ。
「どこかというと、どこでしょう?」
「公園?」
「却下。毎回行ってますよ」
「遠乗り!」
「この冬に? それに私は馬はあまり上手くありません」
「じゃあ、街をブラブラ」
「この間散財して嘆いたのは誰ですか?」
穏やかな口調と声で小さく笑いながら返すリカルドに、チェスターはムッと膨れる。そんな所が可愛くて、つい意地悪をしたくなってしまう。クスクスと笑い、リカルドは穏やかに見つめて頬に手を添えた。
「温かなスープが飲みたいです」
「! 焼きたての美味しいパンも!」
「いいですね」
「ランチ行こう!」
「その後、のんびりと街を歩きましょうか」
嬉しそうに笑う彼が可愛い。いつも楽しそうに、賑やかに。孤独の中にいた時代からは想像ができない毎日がここにある。世界はこんなにも色鮮やかだったのかと驚かされる。そして、愛しいという温かさとくすぐったさも知った。
「先生」
「ん?」
「そのうち、俺の叔父さんに会ってもらえないかな?」
「え?」
お伺いを立てるように問いかけられて、リカルドは驚いて目を丸くした。急にキュッと胸元が甘く苦しくなるような感覚。戸惑いと、期待と、嬉しさが混じる感じがする。
昔の自分ならこの症状を何かの病気と思ったかもしれない。だが今は分かっている。これは誰もがかかる不治の病だと。
「王都から二時間くらいの保養所にいるんだけどさ」
「それは……」
「嫌かな?」
「嫌じゃありません!」
「良かった!」
ニッカと笑うチェスターはとてもほっとした顔をする。その中には少しだけ、寂しげな感じもあった。
「どのくらい時間が残っているのか、分からないけれどさ」
「あ……」
それならきっと見えてしまうだろう、首につけられる死神の印が。リカルドの目には死期の迫る者の印が見える。最初は黒い首輪のように、死期が近づけばそれは広がりより濃くなって。
正直、この能力は今でも辛い。騎士団では見る事もないけれど、街に出れば時々見えてしまう。精神的に疲れている時は色眼鏡を掛けるくらいには今も慣れない。
それでも外に出ようと思えるのは、チェスターがいてくれるからだ。隣で手を引いてくれるから。
でもやはり、親しい人やその縁者に見えてしまうと辛くなる。
そんなリカルドの気持ちを分かっているのか、チェスターはギュッと手を握って真っ直ぐに此方を見た。
「大丈夫、覚悟は出来ている。先生には辛い思いをさせるけれど、俺も叔父さんも分かってるはずだから気にしないで」
「ですが」
「……死んじゃう前に、安心させてあげたいんだ」
そう、チェスターは少し俯いて言う。彼にしては寂しげで辛そうな、そんな様子だった。
「俺を育ててくれて、成人しても心配してくれた人だからさ。せめてこれから先、一緒に生きて行く人がいるんだって思ってもらえたら安心するかなって」
「チェスター」
「それに、見せたいんだ。俺の恋人はこんなに美人で素敵な人だって。俺は、幸せだよって」
少し必死な様子にリカルドも驚くが、この理由も分かっている。
チェスターは家族と疎遠だ。
父親と母親、そして兄が二人いるのだと聞いた。一番上の兄は家を出て小さなシャトーを経営しているという。そちらに熱心で、あまり家に寄りつかないんだとか。
直ぐ上の兄が今は家にいて家督を継ぐために父親の手伝いをしていると聞く。性格が穏やかでチェスターの事も気に掛けてくれるが、父親に睨まれるかもしれないからと連絡を取っていないという。
そんなチェスターを親代わりに育ててくれたのが、同じく王都で酒屋をしていた叔父だったそうだ。独り身で、長年店をしていたが体を壊して保養所にいると。
おそらくチェスターにとって家族はこの叔父なのだろう。もしかしたら、本当に父親かもしれない……。
「分かりました」
「本当!」
「えぇ」
辛いものを見るかもしれない。けれど逃げていい事でもない。それは、騎士団にいると思う事だ。
彼等は仲間の死を多く見てきた。けれど誰一人逃げていない。泣きながらでも向き合い、何かを誓い前を向く。死んだ者から何かを受け取っているように思える。これは師団長以上の人に特に感じるものだ。
リカルドは今まで諦めてきた。見えてしまい、心の準備が年単位、もしくは半年単位でできてしまう。慌てたり抗ったりするよりも諦めてしまうほうが楽だった。だがそれは逃げだったのだろう。向き合うということから逃げた結果、感情が鈍くなり全てに諦める癖ができ、人との接し方が分からなくなった。
今こうしてやれているのは足掻くようになったからだ。抵抗して、手を取ってもらえた。チェスターが連れ出してくれる世界の鮮やかさを知って、この光景を守る為なら力を尽くす意味があると思えた。
今回もそうかもしれない。死にゆく人を見る事は辛くとも、その最後が幸福な心持ちであれば残される者も穏やかでいられる。誓いを立てる事はきっと生きる側にも意味がある。そう、考えられるようになった。
「いつにしましょうか?」
「えっと……流石に明日は急すぎるから……十二月最初の安息日に」
「分かりました。できれば時間に余裕を持って行きたいのですが。私は馬はあまり上手くありませんし」
「幌馬車出てるから、乗り合いで行こうよ。それならリカルドも安心だし、疲れないでしょ?」
「乗り合い馬車ですか? 初めてです」
王都から定期的に出る乗合馬車は近くの町や保養所へと通じている。賃金が安く、民の長距離移動の足になっている。
「あっ、どうせなら前日から休み貰って保養所で一泊しない? 保養施設もあるけれど、普通の宿もあるよ。温泉はないけれど薬湯が有名で、お湯に色んなハーブや薬草を入れて入るんだ」
「いいですね、気持ち良さそうです」
「じゃあ、決まり! あっちに連絡入れておくよ」
嬉しそうなチェスターにつられてリカルドも笑う。この時は本当にこういう時が訪れるのだと思っていた。
だが、そうはならなかったのである。
◆◇◆
翌日、約束通り早めのランチをした帰りに街を歩き、二人お揃いの手袋を買った。防寒具はコート以外は自前の騎士団で、チェスターの手袋はだいぶくたびれていた。聞けば買えなくはないがまだ使えるしということだ。
分かっている、彼は騎士団の給与の殆どを叔父の治療費などに充てている。そうなるとかなり苦しいが、残りは仲間達と食べたりする事に使っている。最近ではリカルドとのデートなどにも。自然と自分の身の回りの事は疎かになってしまうのだ。
だから自分の分を揃えるついでに、リカルドが彼に贈った。一緒のものを身につけて欲しいからと。
真新しい手袋を二人で付けた手を握って、雪の降り始めた街を歩いて宿舎へと戻った。そこに、荷受係の者が慌てて走ってきた。
「チェスター!」
「え? はい?」
「これ……」
彼は手に一通の黒い封筒を持っている。その手が震えていた。
この国では黒い封筒は訃報を意味する。これはそのまま、見ただけである程度の内容が知れるものだ。
チェスターは震えていた。手も、なかなか出なかった。震える肩を思わず抱きしめたリカルドに促されてようやく封筒を手にしたが、震えてなかなか封を切れない。それでもゆっくりと封蝋を開けた彼は中身を確かめ、下を向いた。
「叔父さんが、亡くなったって……」
「!」
どう声をかけていいか分からない。そのくらい、チェスターは顔色がなかった。一気に顔色が悪くなり、声も体も震え、今にも倒れてしまいそうだった。
「チェスター、とにかく行きましょう」
「え? あっ、うん……そう、だよな。えっと……」
「まずはファウスト様に事情を説明しに行かないと」
「あぁ、うん。そう、だよな」
ずっと同じ事を繰り返している感じがある。引きつった笑みを浮かべてフラフラしながら歩き出すチェスターの隣について、リカルドはファウストを探そうとした。だが事前に何かしらの報告があったのだろう。ファウストの方からチェスターを見つけてくれて騎兵府の執務室へと連れて行ってくれた。
「大丈夫か」
「はい……」
「……誰かつけるか?」
「いえ……俺だけで大丈夫です」
そうは言うがとても大丈夫そうには見えない。ファウストもそう感じたのだろう、戸惑った表情でリカルドを見る。
「ランバートか、他の同期でもいい。誰か付いてもらえ」
「あの、本当に大丈夫です。それに、引き取った後の事もありますから」
どうにか、少し戻ってきたのかもしれない。相変わらず酷い顔色だがそう言ったチェスターはそっと、リカルドにも向き合って頭を下げた。
「先生、ごめん。せっかく会いに行ってくれるって言ったのに」
「いえ。あの、私でよければ一緒に」
「でも先生も仕事あるし、俺の方はどのくらい時間かかるか分からないから」
「でも」
このまま一人にしていいのか。いけない気がする。
でもチェスターは無理して笑った。
「すみません、ファウスト様。数日お休みを頂いても宜しいでしょうか?」
「あぁ、無理をするな。親御さんに宜しく伝えてくれ」
「…………はい」
仄暗く瞳の奥が濁る。あんなにキラキラしている彼がこんなに暗い顔をするなんて。
それでも結局リカルドは留守番をする事になった。数日のうちに連絡を入れると約束をして。
出て行く背中を、リカルドはもう一度抱きしめる。そして何度も彼の首を確認した。
死神の輪は彼の首にはなかった。
そんな中でも騎士団の面々は元気だ。今年は比較的穏やかだったからか風邪をひく者も少なく、内科医としては実に好ましい状況だ。
「先生、今度どこか遊びに行こうよ」
まるで散歩をせがむように安息日前日になるとチェスターが言う。お気に入りの揺り椅子に座るリカルドの膝に頭を乗せて、上目遣いに言うのだ。
「どこかというと、どこでしょう?」
「公園?」
「却下。毎回行ってますよ」
「遠乗り!」
「この冬に? それに私は馬はあまり上手くありません」
「じゃあ、街をブラブラ」
「この間散財して嘆いたのは誰ですか?」
穏やかな口調と声で小さく笑いながら返すリカルドに、チェスターはムッと膨れる。そんな所が可愛くて、つい意地悪をしたくなってしまう。クスクスと笑い、リカルドは穏やかに見つめて頬に手を添えた。
「温かなスープが飲みたいです」
「! 焼きたての美味しいパンも!」
「いいですね」
「ランチ行こう!」
「その後、のんびりと街を歩きましょうか」
嬉しそうに笑う彼が可愛い。いつも楽しそうに、賑やかに。孤独の中にいた時代からは想像ができない毎日がここにある。世界はこんなにも色鮮やかだったのかと驚かされる。そして、愛しいという温かさとくすぐったさも知った。
「先生」
「ん?」
「そのうち、俺の叔父さんに会ってもらえないかな?」
「え?」
お伺いを立てるように問いかけられて、リカルドは驚いて目を丸くした。急にキュッと胸元が甘く苦しくなるような感覚。戸惑いと、期待と、嬉しさが混じる感じがする。
昔の自分ならこの症状を何かの病気と思ったかもしれない。だが今は分かっている。これは誰もがかかる不治の病だと。
「王都から二時間くらいの保養所にいるんだけどさ」
「それは……」
「嫌かな?」
「嫌じゃありません!」
「良かった!」
ニッカと笑うチェスターはとてもほっとした顔をする。その中には少しだけ、寂しげな感じもあった。
「どのくらい時間が残っているのか、分からないけれどさ」
「あ……」
それならきっと見えてしまうだろう、首につけられる死神の印が。リカルドの目には死期の迫る者の印が見える。最初は黒い首輪のように、死期が近づけばそれは広がりより濃くなって。
正直、この能力は今でも辛い。騎士団では見る事もないけれど、街に出れば時々見えてしまう。精神的に疲れている時は色眼鏡を掛けるくらいには今も慣れない。
それでも外に出ようと思えるのは、チェスターがいてくれるからだ。隣で手を引いてくれるから。
でもやはり、親しい人やその縁者に見えてしまうと辛くなる。
そんなリカルドの気持ちを分かっているのか、チェスターはギュッと手を握って真っ直ぐに此方を見た。
「大丈夫、覚悟は出来ている。先生には辛い思いをさせるけれど、俺も叔父さんも分かってるはずだから気にしないで」
「ですが」
「……死んじゃう前に、安心させてあげたいんだ」
そう、チェスターは少し俯いて言う。彼にしては寂しげで辛そうな、そんな様子だった。
「俺を育ててくれて、成人しても心配してくれた人だからさ。せめてこれから先、一緒に生きて行く人がいるんだって思ってもらえたら安心するかなって」
「チェスター」
「それに、見せたいんだ。俺の恋人はこんなに美人で素敵な人だって。俺は、幸せだよって」
少し必死な様子にリカルドも驚くが、この理由も分かっている。
チェスターは家族と疎遠だ。
父親と母親、そして兄が二人いるのだと聞いた。一番上の兄は家を出て小さなシャトーを経営しているという。そちらに熱心で、あまり家に寄りつかないんだとか。
直ぐ上の兄が今は家にいて家督を継ぐために父親の手伝いをしていると聞く。性格が穏やかでチェスターの事も気に掛けてくれるが、父親に睨まれるかもしれないからと連絡を取っていないという。
そんなチェスターを親代わりに育ててくれたのが、同じく王都で酒屋をしていた叔父だったそうだ。独り身で、長年店をしていたが体を壊して保養所にいると。
おそらくチェスターにとって家族はこの叔父なのだろう。もしかしたら、本当に父親かもしれない……。
「分かりました」
「本当!」
「えぇ」
辛いものを見るかもしれない。けれど逃げていい事でもない。それは、騎士団にいると思う事だ。
彼等は仲間の死を多く見てきた。けれど誰一人逃げていない。泣きながらでも向き合い、何かを誓い前を向く。死んだ者から何かを受け取っているように思える。これは師団長以上の人に特に感じるものだ。
リカルドは今まで諦めてきた。見えてしまい、心の準備が年単位、もしくは半年単位でできてしまう。慌てたり抗ったりするよりも諦めてしまうほうが楽だった。だがそれは逃げだったのだろう。向き合うということから逃げた結果、感情が鈍くなり全てに諦める癖ができ、人との接し方が分からなくなった。
今こうしてやれているのは足掻くようになったからだ。抵抗して、手を取ってもらえた。チェスターが連れ出してくれる世界の鮮やかさを知って、この光景を守る為なら力を尽くす意味があると思えた。
今回もそうかもしれない。死にゆく人を見る事は辛くとも、その最後が幸福な心持ちであれば残される者も穏やかでいられる。誓いを立てる事はきっと生きる側にも意味がある。そう、考えられるようになった。
「いつにしましょうか?」
「えっと……流石に明日は急すぎるから……十二月最初の安息日に」
「分かりました。できれば時間に余裕を持って行きたいのですが。私は馬はあまり上手くありませんし」
「幌馬車出てるから、乗り合いで行こうよ。それならリカルドも安心だし、疲れないでしょ?」
「乗り合い馬車ですか? 初めてです」
王都から定期的に出る乗合馬車は近くの町や保養所へと通じている。賃金が安く、民の長距離移動の足になっている。
「あっ、どうせなら前日から休み貰って保養所で一泊しない? 保養施設もあるけれど、普通の宿もあるよ。温泉はないけれど薬湯が有名で、お湯に色んなハーブや薬草を入れて入るんだ」
「いいですね、気持ち良さそうです」
「じゃあ、決まり! あっちに連絡入れておくよ」
嬉しそうなチェスターにつられてリカルドも笑う。この時は本当にこういう時が訪れるのだと思っていた。
だが、そうはならなかったのである。
◆◇◆
翌日、約束通り早めのランチをした帰りに街を歩き、二人お揃いの手袋を買った。防寒具はコート以外は自前の騎士団で、チェスターの手袋はだいぶくたびれていた。聞けば買えなくはないがまだ使えるしということだ。
分かっている、彼は騎士団の給与の殆どを叔父の治療費などに充てている。そうなるとかなり苦しいが、残りは仲間達と食べたりする事に使っている。最近ではリカルドとのデートなどにも。自然と自分の身の回りの事は疎かになってしまうのだ。
だから自分の分を揃えるついでに、リカルドが彼に贈った。一緒のものを身につけて欲しいからと。
真新しい手袋を二人で付けた手を握って、雪の降り始めた街を歩いて宿舎へと戻った。そこに、荷受係の者が慌てて走ってきた。
「チェスター!」
「え? はい?」
「これ……」
彼は手に一通の黒い封筒を持っている。その手が震えていた。
この国では黒い封筒は訃報を意味する。これはそのまま、見ただけである程度の内容が知れるものだ。
チェスターは震えていた。手も、なかなか出なかった。震える肩を思わず抱きしめたリカルドに促されてようやく封筒を手にしたが、震えてなかなか封を切れない。それでもゆっくりと封蝋を開けた彼は中身を確かめ、下を向いた。
「叔父さんが、亡くなったって……」
「!」
どう声をかけていいか分からない。そのくらい、チェスターは顔色がなかった。一気に顔色が悪くなり、声も体も震え、今にも倒れてしまいそうだった。
「チェスター、とにかく行きましょう」
「え? あっ、うん……そう、だよな。えっと……」
「まずはファウスト様に事情を説明しに行かないと」
「あぁ、うん。そう、だよな」
ずっと同じ事を繰り返している感じがある。引きつった笑みを浮かべてフラフラしながら歩き出すチェスターの隣について、リカルドはファウストを探そうとした。だが事前に何かしらの報告があったのだろう。ファウストの方からチェスターを見つけてくれて騎兵府の執務室へと連れて行ってくれた。
「大丈夫か」
「はい……」
「……誰かつけるか?」
「いえ……俺だけで大丈夫です」
そうは言うがとても大丈夫そうには見えない。ファウストもそう感じたのだろう、戸惑った表情でリカルドを見る。
「ランバートか、他の同期でもいい。誰か付いてもらえ」
「あの、本当に大丈夫です。それに、引き取った後の事もありますから」
どうにか、少し戻ってきたのかもしれない。相変わらず酷い顔色だがそう言ったチェスターはそっと、リカルドにも向き合って頭を下げた。
「先生、ごめん。せっかく会いに行ってくれるって言ったのに」
「いえ。あの、私でよければ一緒に」
「でも先生も仕事あるし、俺の方はどのくらい時間かかるか分からないから」
「でも」
このまま一人にしていいのか。いけない気がする。
でもチェスターは無理して笑った。
「すみません、ファウスト様。数日お休みを頂いても宜しいでしょうか?」
「あぁ、無理をするな。親御さんに宜しく伝えてくれ」
「…………はい」
仄暗く瞳の奥が濁る。あんなにキラキラしている彼がこんなに暗い顔をするなんて。
それでも結局リカルドは留守番をする事になった。数日のうちに連絡を入れると約束をして。
出て行く背中を、リカルドはもう一度抱きしめる。そして何度も彼の首を確認した。
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