恋愛騎士物語アフター!

凪瀬夜霧

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【ファウスト×ランバート】アプリーブに愛を込めて

2話:幸運の女神?

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 翌日、やっぱりいつもと変わらない時間に目が覚めてしまった。そして、ようやく見慣れてきた旦那の寝顔を見ている。

 顔がいいな……。

 ファウストは冬場でも寝る時は薄着か、時には上半身裸だ。これだけ筋肉だと暑いらしい。今も薄手のシルクのパジャマだけである。そこにサラリとした黒髪が流れていく。目を閉じると顔立ちの綺麗さが際立って見える。睫毛も長い。
 一緒の部屋で、同じベッドで生活するようになってファウストの寝顔を見る機会が増えた。付き合っていた頃は大抵、ファウストの方が先に起きていたから。でも今は違う。最初慣れなくて困ったものだ。

 そうして眺めている内に、黒い睫毛が僅かに震えて同じ黒い瞳がぼんやりと此方を眺める。最初はまだぼーっとしているのだろう。そのあと、ゆっくりと優しい笑みが浮かんで大きな手が頬に触れる。この優しい目が、微笑みが、ランバートは好きだ。

「おはよう、ランバート」
「おはよう、ファウスト」
「まだ早いだろ?」
「癖だよ」

 伝えると、ファウストはふっと笑う。そしてやんわりと抱き込んできた。

「もう少し眠るといい」
「二度寝?」
「贅沢だろ?」
「ははっ、確かに」

 胸元にすり寄ってもう一度目を閉じれば温かさに心地よくなってくる。規則的な音にもう一度気持ちが落ち着いて、穏やかな時間が包み込んでくる。
 目を閉じればもう少し眠れそうで、ランバートはそれに従った。

◆◇◆

 結局一時間ほど二度寝して起き上がり、ランバートはキッチンに立った。ファウストはその間に馬屋へと回ってフリム達の世話をしている。一番最後に起きてきたナイジェルが大いに焦って平謝りしたのには笑った。
 そうして作った朝食は軽いもの。ポテトサラダと目玉焼き、パンは焼き直したものだが上手くできた。これに野菜とベーコンのスープを添えている。

「美味しい! うそ……うわぁぁぁ。ファウスト様の贅沢者」

 ランバートの食事を食べ始めたナイジェルの目が輝いている。その顔を見るだけでなんだか満足だ。

「本当に美味しい。旅行中こうして食べられるのかと思うとそれだけで嬉しくなる」
「褒めすぎだろ、二人とも」

 なんだかこそばゆくもあってランバートは苦笑する。そして密かにまた作ろうと思うのだ。

 そうしてお腹も満たして昼の少し前、案内役にナイジェルを伴い街に出た。人はそれなりだが静かな街中で、開いている店は多くない。
 まずはリストの物を買おうとなり、それぞれ訪れた三人は全てを終えた時、両手に持ちきれない荷物となっていた。

「信じられません、この辺の美容の店が割引する量ですよ。仕入れですか?」
「俺も信じられないよ」

 店に行ってシルヴィアの名前を出した途端、店の店員が奥へと駆け込み店長が出てきて奥へと案内され、リストを見せると取りそろえてくれたばかりか新作までおまけしてくれた。それだけあの人はこの辺の店を贔屓にしている。そしてリストが店毎に作成されていた理由を知った。他店で何を買っているか知られない為だ。

「美容オイルだけで十本。バスソルト二十グラム入りが二十袋に石鹸、クリーム、パック、化粧品、香水、バスオイル……」
「更には新作を試して欲しいとおまけも付いたからな。流石に重い」

 ファウストですら少し重そうだ。ナイジェルにいたっては既に落としそうなくらい腰がへっぴりになっている。ただ、値段をリアルに見てしまっているだけに落とせないだろう。ある意味地獄だ。

「もっ、早く荷受けに渡しましょう。一旦屋敷に運びますね」
「あぁ、そうしよう」

 ということになり、三人は荷受けをしている店を目指している。
 この街では特に荷物を所定の場所まで運ぶ荷受け屋が多い。買い物をして荷が多くなったが一旦帰るのは嫌だ。そんな客が多いからだろう。

 店に行くと表には数頭のロバが、胴に荷物を入れる為の籠をつけている。荷運びはこのロバがしてくれるのだ。

「すいませーん!」
「はいよ、ただいま!」

 奥から大柄で筋肉質な男が顔を出す。熊にちょっと似ていて、身体は大きいが目は少し小さく髭があり、どこか愛嬌のある顔をしている。
 その男は三人を見て首を傾げた。

「こら驚いた。従者よりも主人が多く荷物を持ってくるなんざ見た事がない」
「俺じゃこの重さ持てないんすよ!」

 前に立つナイジェルが涙目で訴えるのに、ランバートもファウストも苦笑した。
 まずは荷物を中のテーブルへと運び、中身を確認する。手伝ってくれた店主はファウストから荷を預かると驚いた顔をした。

「こら重たい! なるほど、これを運ぶのは大変だ」
「俺じゃ持てないっすよ」
「あはは、だろうな」

 なんて言いながら店主は持って行って中を改め、割れ物は中でずれないように固定してくれる。手際はいいし丁寧だ。

「それにしても凄い量ですね。お土産かなにかで?」
「そんな所です。一度屋敷に持っていって木箱に詰め直して、馬車便にお願いしようと思っています」
「確かにこの量と重さなら詰め直した方が安全だな。馬車便はどこまで?」
「王都です」
「それならこの店が安全だ。下手なのに頼むと荷が壊れたりそのままパクられたりするからな。悪徳業者にゃ気をつけな」

 そう言って店主が渡してくれたのはいくつかの業者が書かれたリストだった。それぞれ請け負う距離が違うらしく、料金もまちまち。中には二重丸をつけられている業者もある。おそらく優良ということなのだろう。

「有り難うございます」
「どうも。さて、荷も固定したんでロバに積みます。どこまでで?」
「シュトライザーの屋敷までだ。ナイジェル、一緒に行ってやれ。お前が行かないと受け取りもできないからな」
「あっ、ですね! それでは俺はこれで屋敷に引き上げます。お二人は散策続けられるので?」
「あぁ、そのつもりだ」
「夕飯の買い物して帰るからよろしく。夜にまた少しでるよ」
「分かりました、ごゆっくり」

 そう言って手を振るナイジェルに後を任せ、ランバート達は街へと戻っていった。

 その後、軽くランチを食べて美術館などを巡った。ここにはオペラや舞台を中心とした博物館もある。かつて使われた舞台のドレスや台本が展示され、同時にこの台本が書かれた当時の歴史を紹介している。実に興味深いものだった。
 面白かったのは個人の所有物を展示している美術館だった。この地の発展に尽力したマクルーガン侯爵が個人的に所有していた絵画や彫刻、宝石、磁器などを展示している。その展示している建物もかつてマクルーガン侯爵が住んでいた邸宅だ。
 神や歴史を扱う絵画を好んだらしく、まだ若かった画聖に描かせた連作が見事だった。
 宝石の展示もあったが一際目を引いたのは磁器だった。この街は今の形になる前は焼き物の街だったそうで、そこの窯元のパトロンだったらしい。そのお陰で今では有名な釜の年代物の磁器がフルセットで展示されていた。
 そしてここのサロンではデザートと紅茶が飲める。古いが手入れの行き届いたサロンで飲む紅茶とマフィンは実に美味しかったし、何気なく置かれているピアノが実は三百年も前の物で驚いたりした。何がって、このピアノで月に一度音楽会が開かれるそうだ。

「俗と歴史が凄い具合に混ざり合った街だな、ここは」
「ファウストは馴染みがないのか?」

 色々と見て回るとそれなりにいい時間になった。今はブラブラと歩きながらアリアやルカ、メロディへのお土産を物色している。

「あの屋敷は何代か前の当主が購入したものだからな。父も数回来たみたいだが」
「でも、砦があるんだろ?」
「仕事に来て観光はしないからな。一日稽古をつけて、何回か食事に出たくらいで店や美術館を巡る事はなかった。ランバートはどうなんだ?」
「俺は初めてかな。こういう街はあまり興味がないし、母上に付き合うと一日美容だ風呂だと時間を取る。何より母上の買い物は荷物持ちだけでも胃が痛くなるよ」

 目の前でバカみたいな金額が一瞬で飛んでいくのを見ると胃の辺りがひぇっとなる。下町の苦境を見てからは更にだ。どうにも感覚が庶民なのだろう。
 ファウストも察してくれたらしく、苦笑が返ってきた。

「アリアちゃん達へのお土産は今日買うのか?」
「いや、後にする。煌びやかな物は好まないだろうからな。菓子などは喜ぶだろうが、それなら帰り際がいい」
「なるほどね。確かに宝石とか贈っても困りそうだ。あっ、でもさっき本屋で俺はルカさんにお土産買ったよ」
「ん?」

 荷物からゴソゴソと包みを取り出す。別に包装してもらった訳ではないのでそれを開けてタイトルを見せた。

「香水の歴史か」
「そう。ここはこういう文化が深いんだな。さっきの古書店で見てさ、面白かったからつい」
「あいつは喜ぶだろう」

 にっこりと笑うファウストに同じように笑みを返し、二人の足は食材店の多いエリアに。勧められた店を巡り、今日はポトフをメインにした。それにパンとチキンのトマトソース煮込みを予定している。
 これらの材料を買って屋敷に戻り、久しぶりにウキウキと料理を始めるランバートの隣にファウストも立ち、皮むきなんかをしてくれる。流石刃物は慣れたもので危なげがない。
 なんだかとても嬉しいものだ。この人とこうして隣り合ってキッチンに立つなんて、宿舎では考えられない。自然と笑みも多くなり、この日の夕飯は最高に美味しいものができあがった。

◆◇◆

 夕食も食べて頃は夜の八時を過ぎた。不夜城はここから輝きを増すと言ってもいい。ガス灯の明かりは夜を照らし、店の明かりと音は賑やか過ぎるくらいだ。客引きの男が声高に今日の演題をそらんじてみせ、セクシーな舞台衣装の女優も出てきて誘惑をする。そんな中をランバート達は国営のカジノへと向かっていった。

 国営カジノは国が主導している、比較的安全なカジノだ。チップは一晩で金貨十枚までしか持てず、ゲームが公平であるかスタッフが監視している。イカサマをしないことが絶対条件である。
 カード、ルーレット、カップの三大ギャンブルの他、客同士の賭けゲームも安全に行われる。ダーツ、ビリヤード、チェスなんかは最初に掛け金をスタッフに払い審判を頼み、勝てば相手の賭け分が貰える。
 ランバートもチップに換金して楽しむつもりでいた。レイバンやチェスター達とはよく飲みの席でカードをやる。勝てば酒を奢ってもらったりするのだが……。

「うわ……」

 開始一時間、何故かランバートの目の前にはチップの山が出来ている。

「イカサマか?」
「いや、スタッフが二人がかりでついてるけど違うらしい」
「持ってるだけにしてはな」

 周囲の客がひそひそしているのを聞くのは居心地が悪い。ランバートは勿論イカサマをしたりしていない。ただ、周囲の客があまりに弱い。

「ランバート?」

 声に振り向くとファウストが驚いた顔でいる。そして彼も順調に掛け金を増やしていた。初期の持ち金が金貨五枚(五万円)だったのに、今手元には金貨八十枚ほどのチップがある。

「えっと……俺、抜けます」

 チップをスタッフが丁寧に袋に入れてランバートに押しつける。別に元金だけでいいんだけれど、それはダメなようだ。結局持たされた。

「勝負強いな」
「俺が強いんじゃなくて、回りが弱いんだよ。どうしてあの持ち札でベットするの? 意味が分からない。ファウストは?」
「あぁ、カップをやっていたんだが……動体視力が良すぎるんだろうな」
「あぁ、全部見えた?」
「途中からわざと外した」

 これにはランバートも笑ってしまった。
 さて、困ったのはこの手元のチップだ。そして周囲の目がちょっと怖い。これで豪遊! というのも、なんだか。

「これ、どうしようか」
「まぁ、最悪あとで寄付してもいいだろう。とりあえず今日は悪目立ちが過ぎた、出よう」
「だね」

 ふと、シルヴィアが言っていた事を思い出した。彼女もまた一人勝ちが過ぎてここを出禁になったとか。勿論イカサマはしていないが、引きが強すぎるらしい。
 もしや、遺伝か? そんな恐ろしい考えがふと過ぎり、ランバートは苦笑するのだった。

 行きは気楽だったのに帰りは随分と懐が重くなった。無事に店を出たが宵の口でもある。どうしようかと話していると不意に、女性の悲鳴のようなものが聞こえた気がした。

「ファウスト」
「あぁ」

 視線は建物と建物の間の細い路地へと向けている。確かにこの方向からだった。そして二人が聞いているのだから、聞き間違いとは思えなかった。
 ランバートが先頭に立って路地を進む。細いとはいえ大人の男がすれ違うくらいの余裕はある。
 どうやら表の劇場の裏口のようだ。薄暗い道を進むうちに足音が聞こえてくる。複数だ。

「近いな」
「あぁ」

 トラブルだろうか。そう思い、更に道を行こうとしたランバートは突然脇道から人が飛び出してくるのに目を丸くした。
 簡素なドレス姿だが、綺麗な女性だった。綺麗な金髪を後ろで結い、瞳は大きな緑色。頭が小さく、口も小さく、ただ気は強そうに見えた。
 ほぼ出会い頭にぶつかったランバートが女性を支えて踏みとどまる。ぺたんとした靴ではあるが随分と汚れて見えた。それに手や足に細かな傷も見える。何より彼女が飛び出してきた方向から、複数の足音が聞こえてきていた。

「助けて……助けてください、お願いします! 暴漢に襲われています!」

 ランバートを見上げた女性が訴えるのに、ランバートは先を睨む。そしてそんなランバートの前にファウストが立ち塞がった。

「こっちか!」
「なんだ、お前等」

 ざっと三人の男が此方を睨み付けている。酷く不快な感じがした。

「その女を渡してさっさとどっかに行けよ。連れてかねーと俺達がヤバい」
「借金のカタだからな」
「違うわよ! 私は生まれてこのかた金なんて借りた事もないわ!」
「お前の雇い主が金借りてんだよ!」
「知らないわよ!」

 ランバートに縋りながらも言葉は気丈さを保っている。そして彼女の言い分が正しければこれは立派に犯罪だ。

「ファウスト」
「下がってろ、すぐだ」
「なんだとこの野郎!」

 荒っぽく振りかぶった一人がファウストへと拳を向ける。だが、ファウストは避ける事すらしない。片手で軽々と拳を受けるとそのまま強く握り、更には手を払い足を払って地面へと簡単に転がした。

「何しやがる!」
「それはこっちのセリフだ。罪のない女性を追い回し、一般人に手を上げるというのはいただけない」

 ……一般人ではない。

 思わず冷静にツッコんだが、まぁ、休みだしな。
 その後、同じように他の男も向かっていったが子供の稽古以下だ。なんなら再度立ち上がって向かってきたが実に簡単に地面に転がる。いっそ面白い見世物状態だ。

「強いわ」
「まぁね」

 唖然と見ている女性に微笑みかけ、ランバートはしゃがむ。どうにも彼女の足元が気になっていたのだ。
 暗がりだが見えないわけじゃない。見るとやはり、片足から血が流れていた。ガラスにでも引っかけた感じだ。懐からハンカチを取り出し、とりあえずギュッと結ぶ。そして彼女に背中を向けた。

「負ぶさって。それじゃ歩くの辛いでしょ」
「でも、流石に重くないかしら」
「鍛えてるから大丈夫。ファウスト、終わった?」
「あぁ、とりあえず」

 見れば完全にノックアウトだ。酷い怪我はしていないまでも、完全に伸びている。

「切っているな」
「とりあえず屋敷に連れて行ってもいいかな? 事情もありそうだし」
「あぁ、そうだな」

 女性を背負い、ファウストが肩から上着をかける。そのまま表に出て馬車を拾い、三人でシュトライザーの別宅へと戻った。
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