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【ファウスト×ランバート】アプリーブに愛を込めて
3話:とある女優の奮闘
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道すがら、ランバートは彼女の所在を知った。名はアリアナ。あの界隈にあるオペラ劇場所属のソプラノ歌手なのだそうだ。
屋敷に連れていくと目をまん丸くし、二人がこの屋敷の主人だと知ると更に驚いた顔をした。
リビングの椅子に座らせ、ナイジェルに薬箱を持ってくるように言っている間にファウストが桶とぬるま湯とガーゼを持ってきてくれる。それで丁寧に傷を洗って診たが、縫うほどの傷ではなさそうだった。
「派手に血は出たみたいだけれど、傷自体は深くないね。消毒して薬を塗って少し様子を見よう。腫れたりしなければ大丈夫だと思う」
「丁寧に有り難う。手際がいいのね」
「慣れかな」
アルコールで消毒をすると流石に痛そうな顔をしたが、それでも声は上げない。アリアナはふっと息を吐いた。
「ところで、さっきの奴らはなんだ? 借金のカタがどうのと言っていたが」
厳しい様子で問うファウストに、アリアナは視線を床へと向ける。ぎゅっと一瞬強く握られた手が震えていた。
「劇場が立ちゆかないって、オーナーは言うわ。でもだからって、所属の女の子達を無理矢理金持ちの家に嫁に出すなんてやっていいことじゃないもの!」
「当然だよ」
傷に薬を丁寧に塗り、ガーゼを当てて包帯をしながらランバートは肯定する。それにファウストも頷いた。
「人身売買は国の大罪だ。お前の言うことはそこに抵触する」
「結婚は当人達の意志がないといけない。見合いだなんだはあっても、合意が必要だ」
「……あの子達は納得なんてしてない。でも、色んな事があって合意させられてるみたい。紹介したってことでオーナーは金持ちから大金をもらってるのに、それでも劇場が立ちゆかないなんてそんなの嘘。それに私、お付き合いしている方がいるのに」
どうやら少し面倒な事が起こっているようだ。ファウストに視線を向けると黙って頷いた。
「詳しく聞かせてくれるかな?」
「でも」
「大丈夫、力になるから」
戸惑うアリアナだったが、それでも頷いてくれた。
「事の起こりは半年くらい前にオーナーが変わった所から。資金繰りに失敗したとか、なんとか。それで今のオーナーに変わったら、どんどんおかしくなっていったわ。小さな劇場だけどそれなりに人も入っていたし、まともなオペラをしていたのに突然、ストリップみたいな事をさせたり嫌らしいシナリオを持ってきたり。そのせいで客が遠のいたの」
たまにそういう奴もいるらしい。女の子が多い劇場で、性を売り物にするやり方だ。元々そういう店として営業しているならいい。女の子も分かって働いている。だがまっとうな劇場を装ってそのようなサービスをさせるのは明らかに違法。何故なら劇場と風俗とでは届が違い、営業形態が違い、税金が違うのだ。
「元のまっとうな方向に戻そうと訴えた従業員は次々解雇されて、それでも女の子達は頑張ったけれど客足は更に減るし。そうしたら今度、働いてる女の子達をよくない噂のある貴族に紹介し始めたの。女の子達は嫌がったけれど数日して嫁ぐとか、愛人とか、色々……でも納得なんてしてなかったわ!」
「弱みを握ったか、無理矢理何かをして脅したか。そんな所かもしれないね」
「私もそう思う。でも自分たちで署名してるから」
自分の手で書類に記入するとそこに当人の合意があると認識される。その背景まで役所は考慮しないものだ。ただそこに、本当に合意する意志があったのか。それは大いに疑問だ。
「連絡取れるの?」
「いいえ」
「嫁いだ先は分かるのか?」
「それは分かるわ。全員よくない噂のある金持ちばかり。六十代の後妻や愛人なんてやりたいわけないじゃない」
見るに彼女も二十代、流石に年齢差がありすぎる。それでも当人達が愛し合っての事ならいいのだが、どうもそうではないのだ。
「騎士団には訴えたか?」
「いいえ。でも私は伝えたわ! 調べてくれるって言っていたけれど、証拠が出にくいみたいで」
「だろうね。内部に潜り込んで調査しないと実態は掴めない。そんなの、一般の隊員じゃ無理だし」
「暗府が得意だが、この砦にそうした奴はいない。表側からまっとうにやろうとしても行き詰まる」
おそらくラウルがいればあっという間に証拠が揃うだろう。だがそれでは間に合わないかもしれない。
「だが一度、レスターを呼んで状況を聞く必要がありそうだ」
「レスター様を知っていますの?」
ファウストの呟きにアリアナがパッと顔を上げる。それにファウストは疑問そうにしながらも頷く。ランバートだけが首を傾げた。
「誰?」
「アプリーブ砦の首座だ。レスター・クレネルという」
「クレネルって……」
随分と聞き覚えがある。
ファウストも苦笑しながら頷いた。
「アシュレーの兄だ」
「やっぱり」
そうなると、アシュレーを相手にするのと同じ感覚でいたほうがいいだろうか。
何にしても結局はのんびり新婚旅行だけで終わらなそうだ。ファウストと顔を見合わせ、同時に溜息をつくシウスも思い浮かべ、ランバートは笑うしかなかった。
◆◇◆
翌日、ファウストはナイジェルに手紙を持たせてアプリーブ砦へと走らせた。表向きは「夕食に招待したい」というものだった。
アリアナは怪我の経過を見る為と、あのまま劇場に戻すとどうなるか分からないので屋敷に居てもらった。なんでも劇場所属の者達は劇場のアパートに住んでいるらしい。今回の敵は劇場のオーナー。テリトリーに戻してやる必要はない。
だが翌日、妙な状態になっていた。
「……どうしてメイド?」
「あっ、おはようございますご主人様」
「ご主人様?」
ファウストもランバートもちょっと困惑したが、アリアナは見事にメイド服を着こなしていた。
「形から入る方が楽しいと言うので」
「ナイジェル……」
もう、どうでもいいかという気がしてきた二人だった。
だがどうして、アリアナは甲斐甲斐しい女性だった。まさか朝食が用意されているとは思わなかったので、ちょっと嬉しかったりした。
「貴族の方々のお口に合うかは分かりませんが、作ってみました」
「いや、普通に美味しい」
「あぁ」
「嬉しい!」
美味しく焼けたパンにホウレンソウのオムレツ。キャベツとベーコンのスープもなかなか素朴でいい味がする。
「いやぁ、俺も驚きでしたよ。なんせ見た目が派手なんで、こういう事が出来るとは思わなくて」
「失礼ね。けっこう持ち回りで食事当番とかあるし、好きな人には手料理食べてもらいたいもの」
「そういえば、昨日も好きな人がいると言っていたな。今回の事、知っているのか?」
ファウストが目線を上げて問いかけると、彼女はちょっとバツの悪い顔をした。
「ここまでまずい事になっているとは知らない……かな? 多分凄く怒るというか、機嫌悪くなりそうというか、心配かけるな……って」
「当然だろう。付き添って会いに行く方がいいんじゃないか?」
「そもそも男所帯のここに置いておくのも相手からしたら嫌かもしれないし」
まぁ、既に恋人である事を前提としているが。だが彼女の様子から、既にそのような関係なのだろうと思ったが。
それでもアリアナは困り、溜息をついた。
「それには及ばないわ。今夜会えるし」
「今夜?」
顔を見合わせていると、アリアナは苦笑して「そのうち分かります」と言った。
何にしても動き出しは早いほうがいい。ランバートはファウストと一緒に街に出て、いくつかの屋敷の前をチェックした。全てアリアナから聞いた、女性達の嫁ぎ先の屋敷だった。
大きな門構えではあるもののひっそりとしている。じろじろと覗き込むのも不審だから通り過ぎるくらいだから仕方がないのだが。
そしてその足で、二人は一つの家を訪ねた。小さなものだが温かみのあるその家には、まだ若い青年が一人で暮らしていた。
「驚きました、アリアナさんのお知り合いが訪ねてくるなんて。彼女、元気ですか?」
ゆったりと招いてくれた人は明るい茶の髪を緩く撫でつけ、小慣れたシャツにサスペンダーズボン、上着を着た三十代くらいの人だった。髪と同じ明るい茶の瞳に丸い眼鏡をかけている。
テーブルへと案内してくれた人が紅茶を出してくれて、ゆっくりと対面に座った。
「足が、お悪いのですか?」
杖をついているわけではないが、気にはなっていた。僅かに右の足を引きずっている感じがある。問うと、彼は申し訳なさそうな様子で笑った。
「何ヶ月か前に怪我をしまして、その後遺症なんです。お見苦しくてすみません」
「いえ、そんな! ちなみに、どうして」
「外を歩いている時に階段で転んでしまったんです。僕は凄くドジでして」
恥ずかしそうに笑うが、ランバートもファウストもそんな楽観的には考えられなかった。ただのドジでは済まない事件だったかもしれないのだ。
「オスニエルさん、話を聞かせてください。貴方はどうして劇場を手放したのですか?」
率直に問うと、目の前の青年は申し訳なく項垂れてしまった。
「……僕も、何が起こったのか分からないのです。未だに、分からないのです」
「ゆっくりで構いません。分かる事を教えてください」
「はい。最初は……一年前くらいでしょうか。一人の実業家が劇場への融資を願い出てくれたのです」
それは突然の事だったという。
ある日、開演前の劇場にフィランダーと名乗る実業家が訪ねてきた。地方からここに移り住んだらしく、未来ある劇場などに融資をしたいと言ってきたらしい。
「あまりに突然ですし、提示された金額も多かったので驚いてお断りしたんです。あの劇場はオペラ好きの父が建てたもので、庶民に根ざした娯楽の場であればいいと思っていましたし、大きくするつもりはなかったんです。そりゃ、頑張ってくれている女優さん達にはもっと沢山お給金をあげたいとは思ったのですが、皆さん気のいい人達で危険を冒す必要はないと言ってくれて」
「賢明ですね」
見るからに騙されやすそうな感じがするのだ、心配になる。おそらくアリアナを始め劇場のスタッフ達は皆同じように思ったのだろう。
にもかかわらず取られた。何かあるはずだ。
「それから少しして、家業の方でトラブルがあって資金繰りが立ちゆかなくなってしまったのです」
「そのトラブルというのは?」
「僕の家はここから少し離れた場所で果実園を営んでいるのですが、そこの主力商品だったアボガドが突然大量に落とされ、製品にならなくなってしまったのです」
言いながら、オスニエルはグッと手を握る。未だに辛そうだった。
「この果実園ではアボガドを栽培し、そこから油を抽出して化粧品にしていました。肌や髪にも使える天然素材のオイルで、ハーブや果実、花の香油を調合して美容効果を高めたりもしていました。それをこの街に下ろしていたのです」
「では、大損害だったのでは」
「えぇ。落ちてしまっただけならなんとかなったのですが、踏み荒らされていたので」
「犯人は?」
オスニエルはただ首を横に振った。
「家業の立て直しすら困難な状況では、劇場の方まで手が回らず困っていたときに再びフィランダーさんがいらして、融資の話を申し入れてくれたんです。僕もこれに縋るしか劇場を守る方法はありませんでしたし」
「その時は融資の書類だったのですね?」
「はい。心配した劇場の皆さんもちゃんと中身を確かめてくれましたから。ちゃんと融資の書類だったのに……怪我をした数日後、突然劇場はフィランダーさんの物だからと立ち退きを迫られました」
項垂れるオスニエルが気の毒でならない。が、ランバートに手口の見当がついた。
「サインの偽造か?」
「おそらく。劇場の権利譲渡の書類を別で用意して、そのサイン欄に融資の時に書いた紙を重ねてペンで強くなぞって下の紙に写し取る。後はペンでその跡をなぞればサインは真似できる」
「印は?」
「怪我をしている間、入院していましたか?」
「はい、数日」
「その後、家の様子に変化は?」
「実は、元々住んでいた家が燃えてしまって。ここはその後で住み始めた賃貸なんです。人的な被害は出なかったのですが」
「憶測では、決定だな」
ファウストが溜息をつく。だがランバートもおそらく同じ結論だ。
資産家を名乗るフィランダーは最初から劇場……というよりも、そこで働く女性達を狙った可能性がある。アリアナの話では良くない噂のある金持ちとパイプがあるようだし、その男達に女性を斡旋するための場所が欲しかったのかもしれない。
オスニエルの果実園を襲ったのも、彼に怪我をさせたのも、家に火をつけたのもおそらく。だが、証拠がない。
「融資の書類は?」
「家と一緒に燃えました」
「花押の判は?」
「それも燃えたと思います」
「本当に何一つ残ってないんだな」
これで何かしら残っていれば糸口くらいにはなるのだが。
正直、正攻法では今回は上手くいかないように思えた。
「ちなみに、いくらで劇場を売却したことになったのですか?」
「五十フェリスです」
「少なすぎますよ!」
「融資の金額がその金額だったんです。この位あればなんとか頑張れますし、借りすぎると返すのが大変だったので」
「賢明な判断だったのに」
まさかそのまま売却金額となるとは。なんとも気の毒な話だ。
「書類は正式な物だと、ダーニア侯爵も仰って。役所でも間違いはないと」
「ダーニア侯爵?」
「この街で大きな力のある方です。カジノも経営されているし、ギャラリーなんかも。僕みたいな小貴族があれこれ言える相手ではありません」
これはまた、きな臭いのが出てきた。
ランバートは溜息をつき、ファウストもまた考え込んでしまった。
◆◇◆
夕食の買い物をして屋敷に戻ってくると、予想外の光景が広がっていた。
「アリアナさん、洗濯なんていいので足を気遣ってください!」
確かにカラッとした冬晴れの日だったけれど、彼女は足に怪我をしている。にもかかわらず洗濯物を取り込んでいるのを見て慌てて声をかけたのだ。
だが彼女はカラカラと笑っていた。
「大丈夫よ、痛まないし腫れもないわ。それに私、洗濯とか掃除とか得意なのよ。なんなら繕い物も上手いけれど」
「色々出来るんだな」
感心しながらもファウストは彼女の取り込んだシーツをそっと取り上げた。ナイス。
そうしたさりげない仕草にアリアナはちょっと驚いて、その後少し恥ずかしそうな顔をした。
「貧乏劇場じゃ衣装も自分たちで作るし洗うのよ。ナイジェルさんに聞いたらクリーニングに出すっていうから私が洗ったの。確かにいい服着てるけど、案外丈夫で洗いやすい生地だったし」
「旅装だからね」
「そういえば、馬屋の馬にもご飯とお水あげたわよ」
「大丈夫だったか! 黒い方は気性が荒かったと思うが」
「ちょっと髪の毛食べられたけれど平気だったわよ?」
「フリム、実は女性には穏やかなんじゃないか?」
「今更相棒の意外な一面なんて知りたくなかったな……」
ファウストが案外ダメージを負っていた。その様子に、ランバートはけっこう笑ってしまったのだが。
何にしても彼女を促して中に入るとナイジェルがいて、今夜レスターが来ることを知らせてくれた。
アリアナはどこか落ち着かない様子でいる。ほんの少し頬が染まっているようにも見えるが、それは一瞬の事。おそらく……とは思うのだが、本人が言わないつもりでいるなら今はいい。そう思い、ランバートは夕食の準備を始めた。
夕食時になり、食卓に料理が五人分並ぶ。今日はペスカトーレに豆苗の生ハム巻き。ドレッシングにオリーブオイルとレモン汁、これにバジルを散らした。スープはあっさりとかき玉にしておいた。ほうれん草と芋のキッシュもいい感じだ。
「貴族様ってこんなに料理上手なの!」
味見をするアリアナが目をキラキラさせながらそんな事を言うのにランバートは嬉しくなるし、ファウストは笑う。
「そいつが特別だ。普通はやらないさ」
「そうよね! それにしても本当に美味しい……レシピ、教えてほしいわ」
「いいよ、後で書いておく」
「本当! 親切ですわ、ランバートさん」
こんな事で喜んで貰えるならいくらでも。約束をして、テーブルのセッティングが整った位にノッカーが鳴った。
ナイジェルが出て、程なくダイニングに一人の青年が現れる。初めてのはずだが見慣れた印象が強い。そのくらい、その人物はアシュレーに似ていた。
髪はスッキリと耳が見えるくらい短い銀髪で、目元は兄弟らしく切れ長で鋭く厳しい印象がある。これに銀フレームの眼鏡を掛けているから余計にだ。長身で、細身だがしっかりと締まった感じがある。
彼はファウストを見てきっちりと折り目正しく一礼をし、ランバートとアリアナを見て目を丸くした。
「アリアナ! どうして君がここにいるんだ」
「レスター様、これには色々とありまして」
驚きと共に焦りを見せるレスターに対し、アリアナは少し慌てて弁明している。この様子で自分の考えがある程度当っていると確信し、ランバートは笑って一礼した。
「初めまして、レスター様。ランバート・ヒッテルスバッハと申します。アシュレー様には日頃からお世話になっております」
「あっ、あぁ。話は聞いている、ランバート殿。ファウスト様が大変お世話になっている。王都騎士団は何かと大変だっただろう。力になれず申し訳ない」
「いえ、そのような事は。地方が治まっているからこそ安心して事に当たれるというものです。まずは食事にいたしませんか? ファウストも、それでいいだろ?」
「あぁ、そうしよう。せっかくの食事が冷めてしまっては勿体ないからな」
ファウストが立ち上がり、レスターは手土産のワインをナイジェルに手渡している。そうして全員が席につくのにもレスターは驚いたようだが、ファウストもランバートもまったく気にしていない。普段大人数で食べているのだから当然だ。
「本当に美味しいわ……ランバートさんって、何者?」
「王都で騎士をしているんだよ。ファウストも」
「そうなのね!」
驚いているアリアナが楽しそうに笑う。その隣でレスターは戸惑っていた。
「どうしたレスター? 随分と大人しいが」
「あぁ、いえ。ファウスト様がプライベートでいらっしゃるというだけで驚きですが、まさか新婚旅行だとは。更にアリアナまでいるという状況について行けていないというのが正直な所です」
「え! ランバートさんとファウストさんって新婚旅行なの! あっ、騎士団は男の人同士でもいいんでしたっけ?」
「こらアリアナ! この方は……」
「まぁ、いいじゃないかレスター。確かに俺達は新婚旅行中で仕事で来たわけじゃない。がっ、どうにも見過ごせないようだからな」
ファウストが穏やかに言う。これにはランバートも真剣に頷いた。
「ところでレスター、随分と彼女と親しいようだが?」
ニッと人の悪い笑みを浮かべるファウストに見られて、レスターはグッと言葉に詰まっている。そしてチラリとアリアナを見て、大きな溜息をついた。
「……お付き合いはしておりませんが……親しくはしております」
「まだ、かな?」
「……」
くくっと笑うファウストを、レスターはジトリと睨んだ。
「アリアナさんは慕ってるよね?」
ランバートの問いかけに今度は彼女がギクリと手を止め顔を赤くする。その様子を見てレスターまで顔が赤くなるのだ。そんな二人が少し可愛く思えたということは、黙っている事にした。
「まぁ、追求はしないが。祝い事には呼んでくれ」
「分かりました」
苦々しい様子で言ったレスターだが、耳まで赤くなっては迫力も凄みもない。ランバートもファウストも顔を見合わせ、そんな二人を眺めて微笑ましく笑っていた。
屋敷に連れていくと目をまん丸くし、二人がこの屋敷の主人だと知ると更に驚いた顔をした。
リビングの椅子に座らせ、ナイジェルに薬箱を持ってくるように言っている間にファウストが桶とぬるま湯とガーゼを持ってきてくれる。それで丁寧に傷を洗って診たが、縫うほどの傷ではなさそうだった。
「派手に血は出たみたいだけれど、傷自体は深くないね。消毒して薬を塗って少し様子を見よう。腫れたりしなければ大丈夫だと思う」
「丁寧に有り難う。手際がいいのね」
「慣れかな」
アルコールで消毒をすると流石に痛そうな顔をしたが、それでも声は上げない。アリアナはふっと息を吐いた。
「ところで、さっきの奴らはなんだ? 借金のカタがどうのと言っていたが」
厳しい様子で問うファウストに、アリアナは視線を床へと向ける。ぎゅっと一瞬強く握られた手が震えていた。
「劇場が立ちゆかないって、オーナーは言うわ。でもだからって、所属の女の子達を無理矢理金持ちの家に嫁に出すなんてやっていいことじゃないもの!」
「当然だよ」
傷に薬を丁寧に塗り、ガーゼを当てて包帯をしながらランバートは肯定する。それにファウストも頷いた。
「人身売買は国の大罪だ。お前の言うことはそこに抵触する」
「結婚は当人達の意志がないといけない。見合いだなんだはあっても、合意が必要だ」
「……あの子達は納得なんてしてない。でも、色んな事があって合意させられてるみたい。紹介したってことでオーナーは金持ちから大金をもらってるのに、それでも劇場が立ちゆかないなんてそんなの嘘。それに私、お付き合いしている方がいるのに」
どうやら少し面倒な事が起こっているようだ。ファウストに視線を向けると黙って頷いた。
「詳しく聞かせてくれるかな?」
「でも」
「大丈夫、力になるから」
戸惑うアリアナだったが、それでも頷いてくれた。
「事の起こりは半年くらい前にオーナーが変わった所から。資金繰りに失敗したとか、なんとか。それで今のオーナーに変わったら、どんどんおかしくなっていったわ。小さな劇場だけどそれなりに人も入っていたし、まともなオペラをしていたのに突然、ストリップみたいな事をさせたり嫌らしいシナリオを持ってきたり。そのせいで客が遠のいたの」
たまにそういう奴もいるらしい。女の子が多い劇場で、性を売り物にするやり方だ。元々そういう店として営業しているならいい。女の子も分かって働いている。だがまっとうな劇場を装ってそのようなサービスをさせるのは明らかに違法。何故なら劇場と風俗とでは届が違い、営業形態が違い、税金が違うのだ。
「元のまっとうな方向に戻そうと訴えた従業員は次々解雇されて、それでも女の子達は頑張ったけれど客足は更に減るし。そうしたら今度、働いてる女の子達をよくない噂のある貴族に紹介し始めたの。女の子達は嫌がったけれど数日して嫁ぐとか、愛人とか、色々……でも納得なんてしてなかったわ!」
「弱みを握ったか、無理矢理何かをして脅したか。そんな所かもしれないね」
「私もそう思う。でも自分たちで署名してるから」
自分の手で書類に記入するとそこに当人の合意があると認識される。その背景まで役所は考慮しないものだ。ただそこに、本当に合意する意志があったのか。それは大いに疑問だ。
「連絡取れるの?」
「いいえ」
「嫁いだ先は分かるのか?」
「それは分かるわ。全員よくない噂のある金持ちばかり。六十代の後妻や愛人なんてやりたいわけないじゃない」
見るに彼女も二十代、流石に年齢差がありすぎる。それでも当人達が愛し合っての事ならいいのだが、どうもそうではないのだ。
「騎士団には訴えたか?」
「いいえ。でも私は伝えたわ! 調べてくれるって言っていたけれど、証拠が出にくいみたいで」
「だろうね。内部に潜り込んで調査しないと実態は掴めない。そんなの、一般の隊員じゃ無理だし」
「暗府が得意だが、この砦にそうした奴はいない。表側からまっとうにやろうとしても行き詰まる」
おそらくラウルがいればあっという間に証拠が揃うだろう。だがそれでは間に合わないかもしれない。
「だが一度、レスターを呼んで状況を聞く必要がありそうだ」
「レスター様を知っていますの?」
ファウストの呟きにアリアナがパッと顔を上げる。それにファウストは疑問そうにしながらも頷く。ランバートだけが首を傾げた。
「誰?」
「アプリーブ砦の首座だ。レスター・クレネルという」
「クレネルって……」
随分と聞き覚えがある。
ファウストも苦笑しながら頷いた。
「アシュレーの兄だ」
「やっぱり」
そうなると、アシュレーを相手にするのと同じ感覚でいたほうがいいだろうか。
何にしても結局はのんびり新婚旅行だけで終わらなそうだ。ファウストと顔を見合わせ、同時に溜息をつくシウスも思い浮かべ、ランバートは笑うしかなかった。
◆◇◆
翌日、ファウストはナイジェルに手紙を持たせてアプリーブ砦へと走らせた。表向きは「夕食に招待したい」というものだった。
アリアナは怪我の経過を見る為と、あのまま劇場に戻すとどうなるか分からないので屋敷に居てもらった。なんでも劇場所属の者達は劇場のアパートに住んでいるらしい。今回の敵は劇場のオーナー。テリトリーに戻してやる必要はない。
だが翌日、妙な状態になっていた。
「……どうしてメイド?」
「あっ、おはようございますご主人様」
「ご主人様?」
ファウストもランバートもちょっと困惑したが、アリアナは見事にメイド服を着こなしていた。
「形から入る方が楽しいと言うので」
「ナイジェル……」
もう、どうでもいいかという気がしてきた二人だった。
だがどうして、アリアナは甲斐甲斐しい女性だった。まさか朝食が用意されているとは思わなかったので、ちょっと嬉しかったりした。
「貴族の方々のお口に合うかは分かりませんが、作ってみました」
「いや、普通に美味しい」
「あぁ」
「嬉しい!」
美味しく焼けたパンにホウレンソウのオムレツ。キャベツとベーコンのスープもなかなか素朴でいい味がする。
「いやぁ、俺も驚きでしたよ。なんせ見た目が派手なんで、こういう事が出来るとは思わなくて」
「失礼ね。けっこう持ち回りで食事当番とかあるし、好きな人には手料理食べてもらいたいもの」
「そういえば、昨日も好きな人がいると言っていたな。今回の事、知っているのか?」
ファウストが目線を上げて問いかけると、彼女はちょっとバツの悪い顔をした。
「ここまでまずい事になっているとは知らない……かな? 多分凄く怒るというか、機嫌悪くなりそうというか、心配かけるな……って」
「当然だろう。付き添って会いに行く方がいいんじゃないか?」
「そもそも男所帯のここに置いておくのも相手からしたら嫌かもしれないし」
まぁ、既に恋人である事を前提としているが。だが彼女の様子から、既にそのような関係なのだろうと思ったが。
それでもアリアナは困り、溜息をついた。
「それには及ばないわ。今夜会えるし」
「今夜?」
顔を見合わせていると、アリアナは苦笑して「そのうち分かります」と言った。
何にしても動き出しは早いほうがいい。ランバートはファウストと一緒に街に出て、いくつかの屋敷の前をチェックした。全てアリアナから聞いた、女性達の嫁ぎ先の屋敷だった。
大きな門構えではあるもののひっそりとしている。じろじろと覗き込むのも不審だから通り過ぎるくらいだから仕方がないのだが。
そしてその足で、二人は一つの家を訪ねた。小さなものだが温かみのあるその家には、まだ若い青年が一人で暮らしていた。
「驚きました、アリアナさんのお知り合いが訪ねてくるなんて。彼女、元気ですか?」
ゆったりと招いてくれた人は明るい茶の髪を緩く撫でつけ、小慣れたシャツにサスペンダーズボン、上着を着た三十代くらいの人だった。髪と同じ明るい茶の瞳に丸い眼鏡をかけている。
テーブルへと案内してくれた人が紅茶を出してくれて、ゆっくりと対面に座った。
「足が、お悪いのですか?」
杖をついているわけではないが、気にはなっていた。僅かに右の足を引きずっている感じがある。問うと、彼は申し訳なさそうな様子で笑った。
「何ヶ月か前に怪我をしまして、その後遺症なんです。お見苦しくてすみません」
「いえ、そんな! ちなみに、どうして」
「外を歩いている時に階段で転んでしまったんです。僕は凄くドジでして」
恥ずかしそうに笑うが、ランバートもファウストもそんな楽観的には考えられなかった。ただのドジでは済まない事件だったかもしれないのだ。
「オスニエルさん、話を聞かせてください。貴方はどうして劇場を手放したのですか?」
率直に問うと、目の前の青年は申し訳なく項垂れてしまった。
「……僕も、何が起こったのか分からないのです。未だに、分からないのです」
「ゆっくりで構いません。分かる事を教えてください」
「はい。最初は……一年前くらいでしょうか。一人の実業家が劇場への融資を願い出てくれたのです」
それは突然の事だったという。
ある日、開演前の劇場にフィランダーと名乗る実業家が訪ねてきた。地方からここに移り住んだらしく、未来ある劇場などに融資をしたいと言ってきたらしい。
「あまりに突然ですし、提示された金額も多かったので驚いてお断りしたんです。あの劇場はオペラ好きの父が建てたもので、庶民に根ざした娯楽の場であればいいと思っていましたし、大きくするつもりはなかったんです。そりゃ、頑張ってくれている女優さん達にはもっと沢山お給金をあげたいとは思ったのですが、皆さん気のいい人達で危険を冒す必要はないと言ってくれて」
「賢明ですね」
見るからに騙されやすそうな感じがするのだ、心配になる。おそらくアリアナを始め劇場のスタッフ達は皆同じように思ったのだろう。
にもかかわらず取られた。何かあるはずだ。
「それから少しして、家業の方でトラブルがあって資金繰りが立ちゆかなくなってしまったのです」
「そのトラブルというのは?」
「僕の家はここから少し離れた場所で果実園を営んでいるのですが、そこの主力商品だったアボガドが突然大量に落とされ、製品にならなくなってしまったのです」
言いながら、オスニエルはグッと手を握る。未だに辛そうだった。
「この果実園ではアボガドを栽培し、そこから油を抽出して化粧品にしていました。肌や髪にも使える天然素材のオイルで、ハーブや果実、花の香油を調合して美容効果を高めたりもしていました。それをこの街に下ろしていたのです」
「では、大損害だったのでは」
「えぇ。落ちてしまっただけならなんとかなったのですが、踏み荒らされていたので」
「犯人は?」
オスニエルはただ首を横に振った。
「家業の立て直しすら困難な状況では、劇場の方まで手が回らず困っていたときに再びフィランダーさんがいらして、融資の話を申し入れてくれたんです。僕もこれに縋るしか劇場を守る方法はありませんでしたし」
「その時は融資の書類だったのですね?」
「はい。心配した劇場の皆さんもちゃんと中身を確かめてくれましたから。ちゃんと融資の書類だったのに……怪我をした数日後、突然劇場はフィランダーさんの物だからと立ち退きを迫られました」
項垂れるオスニエルが気の毒でならない。が、ランバートに手口の見当がついた。
「サインの偽造か?」
「おそらく。劇場の権利譲渡の書類を別で用意して、そのサイン欄に融資の時に書いた紙を重ねてペンで強くなぞって下の紙に写し取る。後はペンでその跡をなぞればサインは真似できる」
「印は?」
「怪我をしている間、入院していましたか?」
「はい、数日」
「その後、家の様子に変化は?」
「実は、元々住んでいた家が燃えてしまって。ここはその後で住み始めた賃貸なんです。人的な被害は出なかったのですが」
「憶測では、決定だな」
ファウストが溜息をつく。だがランバートもおそらく同じ結論だ。
資産家を名乗るフィランダーは最初から劇場……というよりも、そこで働く女性達を狙った可能性がある。アリアナの話では良くない噂のある金持ちとパイプがあるようだし、その男達に女性を斡旋するための場所が欲しかったのかもしれない。
オスニエルの果実園を襲ったのも、彼に怪我をさせたのも、家に火をつけたのもおそらく。だが、証拠がない。
「融資の書類は?」
「家と一緒に燃えました」
「花押の判は?」
「それも燃えたと思います」
「本当に何一つ残ってないんだな」
これで何かしら残っていれば糸口くらいにはなるのだが。
正直、正攻法では今回は上手くいかないように思えた。
「ちなみに、いくらで劇場を売却したことになったのですか?」
「五十フェリスです」
「少なすぎますよ!」
「融資の金額がその金額だったんです。この位あればなんとか頑張れますし、借りすぎると返すのが大変だったので」
「賢明な判断だったのに」
まさかそのまま売却金額となるとは。なんとも気の毒な話だ。
「書類は正式な物だと、ダーニア侯爵も仰って。役所でも間違いはないと」
「ダーニア侯爵?」
「この街で大きな力のある方です。カジノも経営されているし、ギャラリーなんかも。僕みたいな小貴族があれこれ言える相手ではありません」
これはまた、きな臭いのが出てきた。
ランバートは溜息をつき、ファウストもまた考え込んでしまった。
◆◇◆
夕食の買い物をして屋敷に戻ってくると、予想外の光景が広がっていた。
「アリアナさん、洗濯なんていいので足を気遣ってください!」
確かにカラッとした冬晴れの日だったけれど、彼女は足に怪我をしている。にもかかわらず洗濯物を取り込んでいるのを見て慌てて声をかけたのだ。
だが彼女はカラカラと笑っていた。
「大丈夫よ、痛まないし腫れもないわ。それに私、洗濯とか掃除とか得意なのよ。なんなら繕い物も上手いけれど」
「色々出来るんだな」
感心しながらもファウストは彼女の取り込んだシーツをそっと取り上げた。ナイス。
そうしたさりげない仕草にアリアナはちょっと驚いて、その後少し恥ずかしそうな顔をした。
「貧乏劇場じゃ衣装も自分たちで作るし洗うのよ。ナイジェルさんに聞いたらクリーニングに出すっていうから私が洗ったの。確かにいい服着てるけど、案外丈夫で洗いやすい生地だったし」
「旅装だからね」
「そういえば、馬屋の馬にもご飯とお水あげたわよ」
「大丈夫だったか! 黒い方は気性が荒かったと思うが」
「ちょっと髪の毛食べられたけれど平気だったわよ?」
「フリム、実は女性には穏やかなんじゃないか?」
「今更相棒の意外な一面なんて知りたくなかったな……」
ファウストが案外ダメージを負っていた。その様子に、ランバートはけっこう笑ってしまったのだが。
何にしても彼女を促して中に入るとナイジェルがいて、今夜レスターが来ることを知らせてくれた。
アリアナはどこか落ち着かない様子でいる。ほんの少し頬が染まっているようにも見えるが、それは一瞬の事。おそらく……とは思うのだが、本人が言わないつもりでいるなら今はいい。そう思い、ランバートは夕食の準備を始めた。
夕食時になり、食卓に料理が五人分並ぶ。今日はペスカトーレに豆苗の生ハム巻き。ドレッシングにオリーブオイルとレモン汁、これにバジルを散らした。スープはあっさりとかき玉にしておいた。ほうれん草と芋のキッシュもいい感じだ。
「貴族様ってこんなに料理上手なの!」
味見をするアリアナが目をキラキラさせながらそんな事を言うのにランバートは嬉しくなるし、ファウストは笑う。
「そいつが特別だ。普通はやらないさ」
「そうよね! それにしても本当に美味しい……レシピ、教えてほしいわ」
「いいよ、後で書いておく」
「本当! 親切ですわ、ランバートさん」
こんな事で喜んで貰えるならいくらでも。約束をして、テーブルのセッティングが整った位にノッカーが鳴った。
ナイジェルが出て、程なくダイニングに一人の青年が現れる。初めてのはずだが見慣れた印象が強い。そのくらい、その人物はアシュレーに似ていた。
髪はスッキリと耳が見えるくらい短い銀髪で、目元は兄弟らしく切れ長で鋭く厳しい印象がある。これに銀フレームの眼鏡を掛けているから余計にだ。長身で、細身だがしっかりと締まった感じがある。
彼はファウストを見てきっちりと折り目正しく一礼をし、ランバートとアリアナを見て目を丸くした。
「アリアナ! どうして君がここにいるんだ」
「レスター様、これには色々とありまして」
驚きと共に焦りを見せるレスターに対し、アリアナは少し慌てて弁明している。この様子で自分の考えがある程度当っていると確信し、ランバートは笑って一礼した。
「初めまして、レスター様。ランバート・ヒッテルスバッハと申します。アシュレー様には日頃からお世話になっております」
「あっ、あぁ。話は聞いている、ランバート殿。ファウスト様が大変お世話になっている。王都騎士団は何かと大変だっただろう。力になれず申し訳ない」
「いえ、そのような事は。地方が治まっているからこそ安心して事に当たれるというものです。まずは食事にいたしませんか? ファウストも、それでいいだろ?」
「あぁ、そうしよう。せっかくの食事が冷めてしまっては勿体ないからな」
ファウストが立ち上がり、レスターは手土産のワインをナイジェルに手渡している。そうして全員が席につくのにもレスターは驚いたようだが、ファウストもランバートもまったく気にしていない。普段大人数で食べているのだから当然だ。
「本当に美味しいわ……ランバートさんって、何者?」
「王都で騎士をしているんだよ。ファウストも」
「そうなのね!」
驚いているアリアナが楽しそうに笑う。その隣でレスターは戸惑っていた。
「どうしたレスター? 随分と大人しいが」
「あぁ、いえ。ファウスト様がプライベートでいらっしゃるというだけで驚きですが、まさか新婚旅行だとは。更にアリアナまでいるという状況について行けていないというのが正直な所です」
「え! ランバートさんとファウストさんって新婚旅行なの! あっ、騎士団は男の人同士でもいいんでしたっけ?」
「こらアリアナ! この方は……」
「まぁ、いいじゃないかレスター。確かに俺達は新婚旅行中で仕事で来たわけじゃない。がっ、どうにも見過ごせないようだからな」
ファウストが穏やかに言う。これにはランバートも真剣に頷いた。
「ところでレスター、随分と彼女と親しいようだが?」
ニッと人の悪い笑みを浮かべるファウストに見られて、レスターはグッと言葉に詰まっている。そしてチラリとアリアナを見て、大きな溜息をついた。
「……お付き合いはしておりませんが……親しくはしております」
「まだ、かな?」
「……」
くくっと笑うファウストを、レスターはジトリと睨んだ。
「アリアナさんは慕ってるよね?」
ランバートの問いかけに今度は彼女がギクリと手を止め顔を赤くする。その様子を見てレスターまで顔が赤くなるのだ。そんな二人が少し可愛く思えたということは、黙っている事にした。
「まぁ、追求はしないが。祝い事には呼んでくれ」
「分かりました」
苦々しい様子で言ったレスターだが、耳まで赤くなっては迫力も凄みもない。ランバートもファウストも顔を見合わせ、そんな二人を眺めて微笑ましく笑っていた。
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