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帝国海軍海上訓練事件
おまけ1 お父様はご立腹?
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カールへの報告と提案が終わり概ね了承された日の夕方、父ジョシュアから直々に伝令が飛んできて帰宅することになったランバートは現在、もの凄くいい笑顔の父と長兄を前にしている。
「聞いたよ、ランバート。ルアテ島で大変な宝を見つけたそうじゃないか」
やっぱりその件か。まぁ、このタイミングではそれ以外はないな。
「だが、どうして家に話を持ってきてくれなかったのかな? 家にも宝石の販路はあるし、加工のツテもある。資金も潤沢だよ? 勿論市場に迷惑をかけるような事もない」
「親友というだけでリッツに話を持って行った訳ではないんだろ? ランバート、お前の考えが知りたい。教えてくれ」
父ジョシュアと兄アレクシスからの圧はなかなか凄いが、これに負けてはこの家で生き残れない。溜息をついたランバートもまた、腹に気合いを入れた。
「ではお聞きしますが、もしも我が家にこの話を持ってきたとして、二人はどのような対応をするつもりでしたか?」
「どうって……まずは発掘済の石を高値で買い取ってこちらに運び、鑑定と研磨、カッティングをしてまずは外交に。評判となれば海外を中心に流して外貨を得るなり、有利な外交の手土産に」
「そこに、島の住人は関われますか?」
「ん? …………あぁ、なるほどね」
ジョシュアはこちらが言いたい事が分かったらしい。苦笑して頷き、アレクシスの肩を叩いた。
「お前の優しさは分かっていたつもりだが、身内や友人以外もだった。そうだね、それなら納得したよ」
「父上?」
「家では手間をかけて人を育てない。才能があると分かれば違うが、有象無象に懇切丁寧に教えてやることはない。時間がかかりすぎるし不確かだ。それが、気に入らないんだね?」
「あの島は今までずっと耐えてきました。飢えも、理不尽も。無い事が当たり前になるくらいです。そこにようやく差した光を自分達のものにできなければ、長い目で見てまた戻ってしまう。彼ら自身の手に学と職と技術を。そうでなければ、本当の意味で幸せなど手に入れられません」
そうはっきりと伝えればアレクシスも考えて頷く。まぁ、不満そうではあるが。
「まったく、お綺麗な慈善事業だ。だがまぁ、あの島の住人からすれば幸運だったね。お前もリッツもお人好しだ」
「褒め言葉と取っておきます」
「だが、あそこは他国みたいなものだよ? そんな情をかけても見返りなどないと思うけれどね?」
「父上、慈善事業は見返りを期待しないと思うが」
すっかり雰囲気が落ち着いた事に息をつき、苦笑したランバート。
だが実はこの先も考えているのだ。
「それに、我が国に属していないのは今の段階の話。この後は分かりません」
「ん?」
「経済的に明るい材料が出てはきても、あの島は人が生きるには厳しい環境です。そこに帝国は支援という形で手を差し伸べました。これが何十年と続けば徐々に我が国との隔たりは薄れてくるでしょう」
あの島では食糧問題を自力で解決するには難しい。今回帝国からは砦を置く見返りにそこへの援助が約束された。同時に医療、教育もだ。
さらにあの島に帝国の砦が置かれれば安全地帯となり寄港地となる。人が行き交えば物流ができ、商売が始まる。店ができ、宿ができる。温泉も出るから。
そうして年月が過ぎていくと帝国式の勉強をしている人が多くなり、帝国人との隔たりもなくなっていくだろう。良い感情で繋がっていければいずれ自然と溶け合うのではないか。
そんな風にランバートは考えている。
ジョシュアはニッと笑い、ランバートの頭を撫でる。とても満足そうだ。
「お前は騎士じゃなく政治家になればよかったのに」
「嫌ですよ、父上の跡など。それに俺は兄上と競りあうつもりなんてありません」
「おや? 私としては弟が強敵となっても構わなかったよ? 張り合いが出る」
「こちらは胃が痛いばかりで人間が荒みます! 陛下からも『政治家じゃなくて良かった』と言われています。あの方に嫌われるのはごめんですよ」
「おや、カール様も見る目のない。うちの息子の何が不満なんだろうね?」
「貴方に似て抜け目ない所じゃないですかね?」
引きつった笑みで伝えると、ジョシュアは楽しそうに笑った。
「それよりも、この件に少しくらい食い込みたいならリッツに交渉してください。国内市場への流通は慎重ですが、外交手段として利用したいと言えば融通がつくでしょう。他国へ売り込むなら早いほうが」
「お前がしてくれないのかい?」
「俺は騎士なのでこれ以上は最低限しかやりません。外交などはお二人の領分。俺は関わりません」
そうはっきりと明言したのに、ジョシュアからは「勿体ない」と言われてしまった。
「まぁ、でもまずは大きめのものを買い取ってうちで加工しよう」
「ん?」
「我が愛しの奥様に、素敵なプレゼントをしたくてね」
「まぁ、そういう私的な理由ならいいんじゃないですか?」
凄く満足そうに笑うジョシュアは早速執事へと何事か伝えている。案外ご満悦な様子にようやく息を吐ききって、ランバートは心安らげる宿舎へと帰るのだった。
END
「聞いたよ、ランバート。ルアテ島で大変な宝を見つけたそうじゃないか」
やっぱりその件か。まぁ、このタイミングではそれ以外はないな。
「だが、どうして家に話を持ってきてくれなかったのかな? 家にも宝石の販路はあるし、加工のツテもある。資金も潤沢だよ? 勿論市場に迷惑をかけるような事もない」
「親友というだけでリッツに話を持って行った訳ではないんだろ? ランバート、お前の考えが知りたい。教えてくれ」
父ジョシュアと兄アレクシスからの圧はなかなか凄いが、これに負けてはこの家で生き残れない。溜息をついたランバートもまた、腹に気合いを入れた。
「ではお聞きしますが、もしも我が家にこの話を持ってきたとして、二人はどのような対応をするつもりでしたか?」
「どうって……まずは発掘済の石を高値で買い取ってこちらに運び、鑑定と研磨、カッティングをしてまずは外交に。評判となれば海外を中心に流して外貨を得るなり、有利な外交の手土産に」
「そこに、島の住人は関われますか?」
「ん? …………あぁ、なるほどね」
ジョシュアはこちらが言いたい事が分かったらしい。苦笑して頷き、アレクシスの肩を叩いた。
「お前の優しさは分かっていたつもりだが、身内や友人以外もだった。そうだね、それなら納得したよ」
「父上?」
「家では手間をかけて人を育てない。才能があると分かれば違うが、有象無象に懇切丁寧に教えてやることはない。時間がかかりすぎるし不確かだ。それが、気に入らないんだね?」
「あの島は今までずっと耐えてきました。飢えも、理不尽も。無い事が当たり前になるくらいです。そこにようやく差した光を自分達のものにできなければ、長い目で見てまた戻ってしまう。彼ら自身の手に学と職と技術を。そうでなければ、本当の意味で幸せなど手に入れられません」
そうはっきりと伝えればアレクシスも考えて頷く。まぁ、不満そうではあるが。
「まったく、お綺麗な慈善事業だ。だがまぁ、あの島の住人からすれば幸運だったね。お前もリッツもお人好しだ」
「褒め言葉と取っておきます」
「だが、あそこは他国みたいなものだよ? そんな情をかけても見返りなどないと思うけれどね?」
「父上、慈善事業は見返りを期待しないと思うが」
すっかり雰囲気が落ち着いた事に息をつき、苦笑したランバート。
だが実はこの先も考えているのだ。
「それに、我が国に属していないのは今の段階の話。この後は分かりません」
「ん?」
「経済的に明るい材料が出てはきても、あの島は人が生きるには厳しい環境です。そこに帝国は支援という形で手を差し伸べました。これが何十年と続けば徐々に我が国との隔たりは薄れてくるでしょう」
あの島では食糧問題を自力で解決するには難しい。今回帝国からは砦を置く見返りにそこへの援助が約束された。同時に医療、教育もだ。
さらにあの島に帝国の砦が置かれれば安全地帯となり寄港地となる。人が行き交えば物流ができ、商売が始まる。店ができ、宿ができる。温泉も出るから。
そうして年月が過ぎていくと帝国式の勉強をしている人が多くなり、帝国人との隔たりもなくなっていくだろう。良い感情で繋がっていければいずれ自然と溶け合うのではないか。
そんな風にランバートは考えている。
ジョシュアはニッと笑い、ランバートの頭を撫でる。とても満足そうだ。
「お前は騎士じゃなく政治家になればよかったのに」
「嫌ですよ、父上の跡など。それに俺は兄上と競りあうつもりなんてありません」
「おや? 私としては弟が強敵となっても構わなかったよ? 張り合いが出る」
「こちらは胃が痛いばかりで人間が荒みます! 陛下からも『政治家じゃなくて良かった』と言われています。あの方に嫌われるのはごめんですよ」
「おや、カール様も見る目のない。うちの息子の何が不満なんだろうね?」
「貴方に似て抜け目ない所じゃないですかね?」
引きつった笑みで伝えると、ジョシュアは楽しそうに笑った。
「それよりも、この件に少しくらい食い込みたいならリッツに交渉してください。国内市場への流通は慎重ですが、外交手段として利用したいと言えば融通がつくでしょう。他国へ売り込むなら早いほうが」
「お前がしてくれないのかい?」
「俺は騎士なのでこれ以上は最低限しかやりません。外交などはお二人の領分。俺は関わりません」
そうはっきりと明言したのに、ジョシュアからは「勿体ない」と言われてしまった。
「まぁ、でもまずは大きめのものを買い取ってうちで加工しよう」
「ん?」
「我が愛しの奥様に、素敵なプレゼントをしたくてね」
「まぁ、そういう私的な理由ならいいんじゃないですか?」
凄く満足そうに笑うジョシュアは早速執事へと何事か伝えている。案外ご満悦な様子にようやく息を吐ききって、ランバートは心安らげる宿舎へと帰るのだった。
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