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浦島太郎外伝3 竜王の祝言
三話
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今日の日を、亀はできれば理由をつけて欠席したかった。それというのも南海王に、この竜宮で会うことになるからだ。
正直視線が痛い。元々鯛は那亀を見て疑っていた……というよりも、ほぼ確信していたようだった。他の面々も苦笑していたが、あえて何も言わないでいてくれた。
が、流石に今日はいたたまれない。浦島まで「苦労してそうだな」という目で亀を見るのだ。
だからといって我が子は可愛い。どんな理由でもお腹を痛めて産んだ子だ。分身のような存在だが、慕って付いてくる我が子に精一杯の愛情を注いでいるし、宝物にかわりはない。
ただ見た目だ。どうして自分に似てくれなかったんだ!
宴席をしばし離れて庭に出た亀は、ちょっと泣きたい気分だった。
「もう、いやだ……何か恥ずかしい……」
「堂々としていれば良いではありませんか」
「!」
突如後ろからした声にビクリと大げさに肩を震わせ、亀は振り返る。見れば那亀を抱っこした南海王が立っていて、亀を見て近づいてきていた。
「な……南海王様……」
「どうして逃げるのです、亀。私たち、もう立派な親子ですよ?」
「誤解のある言い方をするのは止めてください!」
全身鳥肌。思わず自分を抱きしめた亀に、眠そうに目を擦る那亀が顔を向けて手を広げた。
「母様、だっこぉ」
「え? あっ」
我が子の小さな手が亀を欲して伸ばされるのを無下になどできない。咄嗟に近づいて那亀を受け取った亀は、あえなく南海王にも捕まった。
「んぎゃぁぁ!」
「これ亀、騒いではなりません。那亀が眠れないでしょ」
「夫面止めてください!」
「おや寂しい。誰がどう見ても、この子の片親は私ですよ」
「そう見えるように貴方が力を加えたのでしょ!」
大事に那亀を抱っこしたまま、亀は小さく悲鳴を上げる。それを見る南海王の実に楽しそうな顔。だが同時に、那亀を見る目は本当に父親のような優しい目だった。
「確かに、貴方の卵に余っている分の力を注いで形を与えたのは私ですね」
「うぅ、やっぱりあの段階で持って帰れば良かった」
「時既に遅し。この子は間違いなく、お前の神気と私の神気が混ざり合った子。私たちは親子のようなものですよ」
「考えたくありません!」
ジタジタと抵抗する亀を、腕の中の那亀がジッと見る。そして同じように南海王を。
「父様、母様虐めちゃめ! なんだよ」
小さくゆるゆるっとした声がそんな事を言い、南海王は驚いた顔をする。そうして再び眠いのか、すよすよと亀の胸に顔を埋める那亀を見て、南海王は顔を染めた。
「……可愛い」
「はぁ……」
何だかんだと亀に悪戯をするし、嫌がらせをするし、時に足蹴にもするのだが、那亀が出来てからは少し違ってきた。本当に心から可愛いと思ってくれているようで、会いたがる。公務のついでに合わせると、亀そっちのけで二人で楽しそうにしているのも見ている。
何だかんだでこの人を憎みきれないのは、根は優しい人だと知っているからだ。
「亀や」
「はい?」
「そのうち、本当に私の子を産んでみたくありませんか?」
「はぁ!」
とんでもない方向に話が向かい、素っ頓狂な声を上げる亀。だが、そうして見上げた南海王は意外と真剣な顔をしていて、逃げる機会を逃してしまう。抱き込まれる腕の中、緊張しているような心臓の音を聞いて、亀の方までドキドキした。
「那亀の弟、産んでみたくありませんか?」
「ありませんよ!」
「……私はお前に産んで欲しいのですがね」
しんみりと、真面目な声に調子が狂う。これなら冗談や嫌がらせのほうがよほど切り返せる。何故か顔が熱くなる亀は、腕の中で那亀が動いたのを切っ掛けに腕の中をすり抜けた。
「僕はまだ、東海王様の元を離れる気はありません!」
「……そうですか」
「……那亀を寝かせてきます。お戻りください」
伝え、亀はゆっくりと自室へと戻っていった。
◆◇◆
部屋に戻って布団を敷き、着替えさせている間に那亀は少しだけ目が覚めてしまったようだ。まだ眠そうに大きな目を擦っている子は亀を見て、小さな声を上げた。
「母様」
「なに?」
「父様の事、嫌いなの?」
問われると、少し困る。別に嫌いなわけではない、苦手だけれど。悪い人だとは思っていない、意地悪だけど。好かれているとも知っている、歪んでいるけれど。
なので、困るのだ。
「嫌いではないよ」
「じゃあ、好き?」
「……難しい」
「そうなの?」
「那亀は好き?」
「うん、好き。とてもね、優しいんだよ。今日もね、母様いなくて寂しくなったら抱っこしてくれてね、探してくれたんだよ」
「……そうか」
無条件に懐く我が子の目は、ある意味で正しいのかもしれない。この子の言う面もまた、あの人は持っている。
だからってこれまでの事が無くなるわけでもなくて、色んな事がまだ引っかかっていたり、こだわっていたりもする。結局、亀と南海王の間は難しい事だらけなのだ。
那亀を寝かせ、明かりを落とす。元々眠かった那亀はすぐに静かな寝息を立て始め、亀も優しい目で見つめ、そっと部屋を出た。
正直視線が痛い。元々鯛は那亀を見て疑っていた……というよりも、ほぼ確信していたようだった。他の面々も苦笑していたが、あえて何も言わないでいてくれた。
が、流石に今日はいたたまれない。浦島まで「苦労してそうだな」という目で亀を見るのだ。
だからといって我が子は可愛い。どんな理由でもお腹を痛めて産んだ子だ。分身のような存在だが、慕って付いてくる我が子に精一杯の愛情を注いでいるし、宝物にかわりはない。
ただ見た目だ。どうして自分に似てくれなかったんだ!
宴席をしばし離れて庭に出た亀は、ちょっと泣きたい気分だった。
「もう、いやだ……何か恥ずかしい……」
「堂々としていれば良いではありませんか」
「!」
突如後ろからした声にビクリと大げさに肩を震わせ、亀は振り返る。見れば那亀を抱っこした南海王が立っていて、亀を見て近づいてきていた。
「な……南海王様……」
「どうして逃げるのです、亀。私たち、もう立派な親子ですよ?」
「誤解のある言い方をするのは止めてください!」
全身鳥肌。思わず自分を抱きしめた亀に、眠そうに目を擦る那亀が顔を向けて手を広げた。
「母様、だっこぉ」
「え? あっ」
我が子の小さな手が亀を欲して伸ばされるのを無下になどできない。咄嗟に近づいて那亀を受け取った亀は、あえなく南海王にも捕まった。
「んぎゃぁぁ!」
「これ亀、騒いではなりません。那亀が眠れないでしょ」
「夫面止めてください!」
「おや寂しい。誰がどう見ても、この子の片親は私ですよ」
「そう見えるように貴方が力を加えたのでしょ!」
大事に那亀を抱っこしたまま、亀は小さく悲鳴を上げる。それを見る南海王の実に楽しそうな顔。だが同時に、那亀を見る目は本当に父親のような優しい目だった。
「確かに、貴方の卵に余っている分の力を注いで形を与えたのは私ですね」
「うぅ、やっぱりあの段階で持って帰れば良かった」
「時既に遅し。この子は間違いなく、お前の神気と私の神気が混ざり合った子。私たちは親子のようなものですよ」
「考えたくありません!」
ジタジタと抵抗する亀を、腕の中の那亀がジッと見る。そして同じように南海王を。
「父様、母様虐めちゃめ! なんだよ」
小さくゆるゆるっとした声がそんな事を言い、南海王は驚いた顔をする。そうして再び眠いのか、すよすよと亀の胸に顔を埋める那亀を見て、南海王は顔を染めた。
「……可愛い」
「はぁ……」
何だかんだと亀に悪戯をするし、嫌がらせをするし、時に足蹴にもするのだが、那亀が出来てからは少し違ってきた。本当に心から可愛いと思ってくれているようで、会いたがる。公務のついでに合わせると、亀そっちのけで二人で楽しそうにしているのも見ている。
何だかんだでこの人を憎みきれないのは、根は優しい人だと知っているからだ。
「亀や」
「はい?」
「そのうち、本当に私の子を産んでみたくありませんか?」
「はぁ!」
とんでもない方向に話が向かい、素っ頓狂な声を上げる亀。だが、そうして見上げた南海王は意外と真剣な顔をしていて、逃げる機会を逃してしまう。抱き込まれる腕の中、緊張しているような心臓の音を聞いて、亀の方までドキドキした。
「那亀の弟、産んでみたくありませんか?」
「ありませんよ!」
「……私はお前に産んで欲しいのですがね」
しんみりと、真面目な声に調子が狂う。これなら冗談や嫌がらせのほうがよほど切り返せる。何故か顔が熱くなる亀は、腕の中で那亀が動いたのを切っ掛けに腕の中をすり抜けた。
「僕はまだ、東海王様の元を離れる気はありません!」
「……そうですか」
「……那亀を寝かせてきます。お戻りください」
伝え、亀はゆっくりと自室へと戻っていった。
◆◇◆
部屋に戻って布団を敷き、着替えさせている間に那亀は少しだけ目が覚めてしまったようだ。まだ眠そうに大きな目を擦っている子は亀を見て、小さな声を上げた。
「母様」
「なに?」
「父様の事、嫌いなの?」
問われると、少し困る。別に嫌いなわけではない、苦手だけれど。悪い人だとは思っていない、意地悪だけど。好かれているとも知っている、歪んでいるけれど。
なので、困るのだ。
「嫌いではないよ」
「じゃあ、好き?」
「……難しい」
「そうなの?」
「那亀は好き?」
「うん、好き。とてもね、優しいんだよ。今日もね、母様いなくて寂しくなったら抱っこしてくれてね、探してくれたんだよ」
「……そうか」
無条件に懐く我が子の目は、ある意味で正しいのかもしれない。この子の言う面もまた、あの人は持っている。
だからってこれまでの事が無くなるわけでもなくて、色んな事がまだ引っかかっていたり、こだわっていたりもする。結局、亀と南海王の間は難しい事だらけなのだ。
那亀を寝かせ、明かりを落とす。元々眠かった那亀はすぐに静かな寝息を立て始め、亀も優しい目で見つめ、そっと部屋を出た。
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