『あなたに愛されなくても良いのでもう来てくださらなくて結構です』他ハピエン恋愛短編集

白山さくら

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嫁ぎ先が不満なので醜女のフリをして夫と距離を置こうとしましたが美人なのがバレたようです

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困ったことに、私――ダイアナ・キッドマンの実家は株の暴落で突然貧乏になった。
元々結婚などする気もなかった私は、急遽大金持ちのいけすかない御曹司に嫁がねばならなくなった。

クライヴ・ノールズ侯爵令息。
美男子なのは認めるけれど、女を遊び道具か何かと勘違いしている嫌な男。
私のことは、風の噂で美人だと聞いて嫁にもらうことにしたんだとか。

ああ、嫌だ。
それでなくても男なんて苦手なのに、こんな女遊びの激しい男と結婚なんてまっぴらよ。

だけど、親の手前そうも言ってられない。
私は悩んだ末、こうすることにした。
メイドのアビゲイルは化粧がとっても上手。そこで、私の顔の左半分を、火傷の痕みたいにお化粧してもらうことにしたの。

輿入れした後で私の顔を見たクライヴは大激怒。結婚式でも一言も口をきいてくれなかったくらいよ。
でも私的には万々歳。あなたの夜のお相手は、そこらへんのお嬢さんがしてくれるでしょう。

そうして夫を騙して三ヶ月が過ぎたある日のこと。
私は相変わらず夫と口をほとんどきかないまま、平穏に暮らしていた。クライヴは変な男だけれど、彼のお父様は真面目で優しい方だった。私の顔に傷跡があると信じた彼は私に同情した。そして、息子の不貞を詫びてくれた。

騙しているのはこちらなので、この点については申し訳なかった。

とはいえ、私はクライヴと仲良くする気にはなれなかった。

それなのに……。

ある日、彼が屋敷の庭で猫に餌をやっているのを見てしまった。
――私は猫が好きなのよ。彼、なんで猫に餌なんてあげるのよ?

猫に餌をやったからって彼の女性に対する酷い仕打ちが帳消しになるわけじゃない。だけど、私の中で彼の見方が少し変わった。

そしてまたある日、私はやってはいけないことをしてしまった。
夜中、なんとなく寝付けなくて庭に空気を吸いに出た。しかも誰も見ていないだろうと思ってノーメイクで。
つまり、火傷の痕が無い状態で。

そして、彼に見られてしまった。

「ダイアナ? 君なのか?」
「あっ――!」

ああ、なんてタイミングの悪い。

「その顔……」
「これはその、あの……」

咄嗟に顔を隠したがもう遅かった。月明かりに照らされて、左側の肌が見えてしまったのだ。

「火傷の痕は、嘘だったのか?」
「……ごめんなさい……」

その後私たちは腹を割って話し合った。
すると、彼の女遊びは母親が亡くなった寂しさを紛らわせるためだったとわかった。
私と結婚したからには一人の女性を愛そうと思っていたそうだ。それなのに、美しいと評判の婚約者が顔に傷を負っていた。それが気の毒過ぎてなんと声をかけてよいかわからなかったのだという。

「騙してごめんなさい。私の方が酷い人間ね」
「いや、僕の方こそ結婚相手に声もかけないなんてどうかしていた。申し訳ない。もし良ければ……これから二人で仲良く夫婦として過ごしてくれないか」
「いいの? こんなことして、怒っていないの?」
「君の気持ちもわかるから。いきなり会った事もない男と結婚させられるなんて嫌に決まってる」

彼は思っていたよりずっと優しい人だった。

「じゃあ、こちらこそよろしくおねがいします」

そして彼の父親には、騙していたことを二人で謝った。
人の良い義父は怪我していなくて良かったと喜んだ。

私たちは義父のためにも、それから良い夫婦になるよう努めた。


end
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