『あなたに愛されなくても良いのでもう来てくださらなくて結構です』他ハピエン恋愛短編集

白山さくら

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婚約破棄される寸前で誘拐された令嬢ですが、犯人と幸せに暮らしますので探さず婚約は破棄して下さい

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「ヴァネッサ・モンテ! 今日この場をもってそなたとの婚約破棄を宣言する!」

第二王子のアベル・シャブリエが高らかに宣言すると、パーティー会場は騒然となった。
人々は一斉にアベル王子に視線を向ける。彼の隣には金髪の美しい令嬢がぴったり寄り添うように立っていた。

「ヴァネッサはここにいるカトリーヌ・シャロン嬢のことを日頃から侮辱し、嫌がらせをして悲しませていたと報告を受けた。調査した結果、証拠も見つけた! そんな女と俺は結婚などするつもりはない!」

大広間にいる紳士淑女たちは口々に囁く。 

「そんなことが……」 
「まさか、彼女が……」
「そういえば私も見たのよ……」
「いえ、でも彼女はそんな人では……」

そして、皆が王子とその隣に佇む美貌のカトリーヌ嬢から話題のヴァネッサ・モンテへと視線を向け――……ようとした。
しかし、当の本人が見当たらない。

「ヴァネッサ? おい、ヴァネッサはどこだ? 隠れても無駄だぞ。出てこい!  婚約破棄は決定して――」
「ご発言中失礼します。アベル殿下、よろしいでしょうか」

 従僕の一人が王子に声をかけた。

「なんだ? 後にしてくれ!」
「いえ、それが……ヴァネッサ様の件でして」
「なに? 話してみよ」
「はい。実は先程門番がこのような手紙を預かったと申しておりまして」

アベル王子は手紙を受け取り、宛名を見る。

『アベル殿下へ』

「これは……ヴァネッサの筆跡……?」

衆目の中、王子は封筒から便箋を取り出して読む。

『親愛なるアベル殿下――私、ヴァネッサ・モンテはこの度不本意ながら誘拐されてしまいました。つきましては、殿下との婚約は速やかに破棄していただきますようよろしくお願い申し上げます。――追伸、犯人の言うことさえ聞けば命の危険もなく暮らせております。ですから、私のことも犯人のことも探さないでください』

「なっ……なんだと!?」

アベル王子は目を見張った。
実はこの王子――というよりシャブリエ家は王族でありながら代々散財癖のある血筋で経済的に困窮していた。

そこで始めはモンテ侯爵家の持参金をあてにしてヴァネッサと婚約をした。しかし「家具を揃えるから」と言って早々に受け取った持参金も使い果たしてしまう。そして今度はカトリーヌと結託してヴァネッサの悪行をでっち上げ、慰謝料を請求しようと考えたのだ。

しかしそれをすぐに見抜いたヴァネッサ。彼女は幼馴染の伯爵に協力してもらい狂言誘拐を企てた。

事情を説明して納得してくれた父のモンテ侯爵もノリノリで「娘を助けるための身代金を払ったら我が家にはお金がなくなりました…」と涙ながらに慰謝料は払えないと熱演した。

この茶番が金にならないと悟ったカトリーヌ嬢は王子に愛想を尽かして姿をくらました。

モンテ侯爵によると、娘のヴァネッサは「犯人」に愛され、仲良く暮らしているらしい。
そしてアベル王子には賭博による膨大な借金だけが残った。


end
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