【完結】兄狂いなところ以外は完璧な僕の弟

ふくやまぴーす

文字の大きさ
10 / 13

普通の幸せ

しおりを挟む

「うわ~めっちゃ似合うよ弟くん!!サイコー!絵になる~!!」
「ありがとうございます。兄さん、どうかな?」
「格好いいよね?ね!ゆうくん!」

 
現在時刻18時。大学での授業を終えた俺は、なぜか遥とともに演劇同好会の部室に無理やり連行されていた。もちろん犯人は望月だ。

「そりゃ遥だし…似合うしかっこいいでしょ…」
「なんそれ!反応薄っ!」
「それより、この試着、俺必要?」
「そりゃもちろんよ~弟くんの晴れ舞台をお兄ちゃんが見なくてどーする!」
「別に舞台じゃないし…」


現在、遥は次の公演で主人公役が着る中世ヨーロッパの貴族のようなきらびやかな格好をさせられている。なんでも遥と背格好が似ているからとのことだったが…望月のことだから遥用に張り切って作った可能性すらある。でもそれにしても、似合いすぎている。漫画やアニメの世界なんかに出てきそうなほどいい意味で目立っていた。他の部員や、教室の窓から覗く野次馬なんかもひっそりと黄色い声を上げる。


「兄さんにかっこいいって言ってもらうと嬉しいな…」


そんなギャラリーを尻目に、本気で照れている遥。相変わらず俺にしか興味はないようなご様子で。

そんなやりとりをしていると、少し離れた場所で見守っていた他の部員(ほぼ女子)が一斉に遥の周りに駆け寄ってきた。俺はそんな人波の勢いで輪の外へと押し出されてしまう。


「遥くんかっこいい!王子様って感じ!」
「きゃー!もっと近くでよく見せて!」
「もう遥くん主演でいいんじゃない、この舞台!」


やいのやいのと押し揉まれ、遥は愛想笑いをしながらその場をやり過ごす。俺はそんな光景を見ながら、少しだけ自分の心がもやっとするのを感じた。

(かっこいいって言ってる人たちに、家での様子見せてやりたいくらいだ…)

自制の効かない子供のように、自分の欲に正直に俺にすがりつく遥は決して、王子様になんて見えない。欲にまみれた獣そのものだ。


「弟君、大人気だね~って、そんな不機嫌そうな顔してどうしたの?」
「え?不機嫌?俺が?」
「弟君たちの方見て、しかめっ面してたよ?」
「うそ…そう?」


俺が?不機嫌?遥が女子達に囲まれているこの状況を見て、何を不機嫌になる必要があると言うんだ。

だってこの状況はまさに俺が待ち望んでいたもので。遥に健全に女子との恋愛をしてもらうためには好都合なはずなのに。でも確かに、さっきから心臓のあたりがスッキリしない。苦しい、ような感覚だ。


「…よし、そろそろ弟君も疲れるだろうし、おひらきにしよっかあ!は~い!みなさーん!今日は遅いのでもうかいさーーん!!衣装壊れるからベタベタ触んないの!ほら離れた離れた~!」


望月は、遥の取り巻きたちをしっしっ、と追い払って行った。女子たちはブーブー言いながらも、望月に一人残らず部室の外へと追いやられていく。


「いや~ごめんね弟君!モテるって大変だねぇ」
「望月さん、ありがとうございます。助かりました。」


遥は額に少し汗をかきながら、ふう、とため息をついていた。そんな遥に、望月はこそこそと話しかける。


「ねね、そういやさ、入学式の時たまたま聞いちゃったんだけど…弟君彼女いるってほんと?」
「ぐっは!!」


その問いかけを耳にした途端、俺は勢いよく咳き込んだ。

(遥が元カノをばっさり切り捨てた時、よりによってこいつに見られてた!?)

この手の話は、一番望月には知られたくなかった、なぜならこの男は楽しければなんでもいいという精神の元生きている。もし万が一にでも俺達の関係を知られた日には、面白おかしく吹聴されるに決まってる!


「はい、ほんとです」


その問いに対し、ニッコリと満面の笑みで答える弟。

(遥ぁ…!頼むからそいつにだけは余計なこと言わないでよ…!)

俺は冷や汗をダラダラ流しながら、必死に遥にアイコンタクトを送ったが、案の定全く気にもしない様子で答える遥。


「やっぱそうだったんだ~!お兄ちゃんもやっぱ知ってたの?」
「えっ!?あ、う、うん、そうだね!」
「え~!どんな子?かわいい?」
「うっ、あ、いやぁ~お、俺は会ったことはまだないからさぁ~っ」

(ばかやろう俺に振るなー!!)

突然の飛び火に、思わず声が裏返る。頼むからもうこの話を終わりにしてほしい。ドギマギしすぎて心臓に悪い。
そんな俺とは裏腹に、遥は自然に笑いながら会話を続けていた。


「すごくすごく可愛いですよ」
「え~こんなイケメンの弟君をそんなに惚れさせる子がいるんだね~」

(残念ながら!それは可愛い女の子ではなく隣にいる俺!なんだけどな!)

「あ、でもさ~もし良かったらなんだけどぉ…あとちょっとだけでいいから、相手いるの内緒にしててもらえないかな?」
「なんでですか?」
「情けない話なんだけど~うちのサークルこんなに部員入ったの初めてでさぁ。そのほとんどが弟君目当てだからさ…せめてもう少し、演劇の楽しさとかに触れてもらってからの暴露じゃないと、下手したら全員辞めちゃうし…ホント、無理はしなくてもいいんだけど!」


いつもおちゃらけてばかりの望月が真面目な話をしているのは珍しい光景だ。望月なりに、サークルには本気で取り組んでいたみたいで、少しだけ意外だった。そんな中、俺は自分のことばかり心配して…少しばかり後ろめたい気持ちになる。

 
「わかりました、いいですよ」
「えっホント~!ありがとう!助かるぅ」


まあそもそも口止めをしているからこちらからバラすことは一切ないんだけれど。とりあえずは遥が奇行に走らなくてほっと胸を撫で下ろした。


「それに、相手もかなり恥ずかしがり屋なので…まだ当分みんなに紹介するつもりもなかったですし…」


そう言いながら、遥は嬉しそうに横目でチラッと俺に視線を送った。俺は慌てて目を逸らす。
 
(当分はというか、一生ないだろ…)


「そっかそっか~安心したー!じゃ、俺体育館にいくつか備品運ぶからさ~二人は隣の更衣室行って、着替えておいで~」
「え?なんで俺も?」
「その衣装一人で脱ぐのちょっと大変だから、手伝ってあげてよ。あ、なんだったら、可愛いいドレスもあるから、ゆうくん着てみてもいいよ?」
「着るわけないだろ!!」
「はは、んじゃあね~」
「あ、ちょっ」

 
それだけ言い残すと、望月は足早に部室を去っていってしまった。


「兄さん、こっち」

遥は相変わらずキラキラ貴族衣装のまま、更衣室の前で俺を手招きしている。仕方なく言う通りに部屋を移動した。
誰も居ない更衣室の中に入ると、すぐ後ろから、カチャン。と言う音がはっきりと聞こえてきた。


「っえ、なんで、鍵…しめたの?」
「着替えるからだよ、兄さん」
「ちょ…っその手はなに!」


着替える、と言いつつも、俺のそばへとにじり寄ってきた弟は、自然と俺の腰に手を回した。


「こら…誰か来たら…」
「兄さん、嫉妬、してたでしょ?」
「…は?」


突然の、身に覚えのない問いかけに、一瞬時が止まる。


「嫉妬…?何に?」
「俺がいろんな人に囲まれてて、嫉妬したんでしょ。兄さんの視線、すごく感じた。」


嬉しさと楽しさが入り混じったような表情で、遥は俺の髪を撫でる。嫉妬なんて、したか?嫉妬って、遥を好きじゃないとしないよな、普通。

「ちが、俺は…」
「嬉しかった…でも心配しないで?俺は兄さん以外なんて興味ないから」

 
口元を綻ばせながら、遥は俺の頬へちゅ、ちゅ、と何度もキスを落とす。柔らかく熱い唇の感覚のせいでヘンな気分になりそうだ。

 
「い、いいから早く着替えて…っ」
「兄さんにかっこいいって言ってもらったから…なんか脱ぐのもったいなくて…」
「はぁ…いつもの遥の方がかっこいいよ」
「えっ、ホント…?」
「本当だから…誰か帰って来る前に早く脱いで」

そう言うと、遥は嬉々とした表情で衣装を脱ぎ始めた。少しだけ弟の扱いに慣れてきた気がする。
早く、この部屋を出たい。学校内で二人きりと言うのは少々危険が多い。それに、遥が変なことを言ったせいで少しだけ心臓の鼓動が早くなっていた。そのことを悟られないように、俺は遥に背を向ける。

(確かに、遥に相手ができたら、最初は少しだけさみしくなるんだろうな…)

それは嫉妬なんかじゃない。友達に恋人ができて、自分に割いてもらえる時間が少し減って、遠いところに行ってしまったような感覚に陥るあの現象と一緒なはずだ。

遥が結婚して、子供が生まれて…俺は叔父さんになって、甥っ子姪っ子を可愛がって…俺にとっても遥にとっても、それが幸せなんだ。きっと。


「兄さん」


突然、呼ばれて振り返る。遥は私服に着替え終えていた。次の瞬間、頭にふわっとした白い何かを被せられた。


「えっ…なに、これ」
「奥のロッカーにあったんだ。」


何かの薄い、布のようだ。レース状になっていて、かすかにこの布の外の世界も見える。すると遥は、大きな姿見の前に俺の背中を押して誘導した。


「ほら、兄さん、似合ってる。素敵だよ」


鏡に映る自分は、花嫁のベールを身に付けて佇んでいた。


「っな、遥まで…!俺に女装なんてさせるつもりっ?」
「違うよ、兄さんのメイド服はもちろん可愛かったけど…いつもの兄さんが一番至高だもん」


ジーパンにTシャツの男に、この姿は全くの不釣り合いだった。遥の行動の真意が分からず立ち尽くしていると、突然、視界を覆うベールをめくり上げられた。目の前に広がるのは、愛おしそうにこちらを見つめる綺麗な顔立ちの弟の姿。

 
「兄さんと、結婚できたらいいのに…」
「……!!」


一瞬、息をするのさえ忘れた。『結婚』そのたった二文字が、俺の脳内に深く刻まれ、離れない。


「悠人…」


兄としてではなく、自分自身の名を呼ばれると、心臓がドクンと跳ね上がる。そんな俺を他所に、遥は静かに唇を寄せた。その時、言いようのない不安と、罪の意識に全身が囚われる。

気がつけば俺は咄嗟に、遥の肩を強く押しのけていた。


「やめろ…っ!」


被っていたベールを外し、床へ投げ捨てる。遥は呆然と、言葉なく俺を見ていた。

この日、兄としてどんな遥でも受け止めると誓ったあの日から、俺は遥に対して初めての拒絶をした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

「イケメン滅びろ」って呪ったら

竜也りく
BL
うわー……。 廊下の向こうから我が校きってのイケメン佐々木が、女どもを引き連れてこっちに向かって歩いてくるのを発見し、オレは心の中で盛大にため息をついた。大名行列かよ。 「チッ、イケメン滅びろ」 つい口からそんな言葉が転がり出た瞬間。 「うわっ!?」 腕をグイッと後ろに引っ張られたかと思ったら、暗がりに引きずり込まれ、目の前で扉が閉まった。 -------- 腹黒系イケメン攻×ちょっとだけお人好しなフツメン受 ※毎回2000文字程度 ※『小説家になろう』でも掲載しています

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

処理中です...