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ラグナロク編

236話 起死回生の一撃

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戸惑っている私の目の前に暗黒神ハーデスハーちゃんの姿が具現化される。

一体何が起きているのか理解が追い付かない。

破壊神ヨグトスに取り込まれる前は大半の物事の物質的事象や心理までもが全て理解出来たのに・・・

なんだか自分がとても馬鹿になった気分だ。

「待たせたな!!事象の地平線イベントホライズンより、この世界に終焉を与えに来た!!」

「ハーデス!?」

「お前ログアウトしたのでは!?」

事象の地平線イベントホライズンって何だろう?
暗黒神ハーデスハーちゃんは漆黒のローブを翻し無駄に恰好付ける。

強制ログアウトしたはずの暗黒神ハーデスハーちゃんが戻って来た事で、皆も一様に驚き戸惑っている様子だ。

「話は後だ!ミカエル!サクラ!DOSドス!1度離れるぞ!」

ミカさんとサクラが私の体の破壊神ヨグトスに突き刺していた剣を抜き、私を抱えて中距離位置まで後退する。

破壊神ヨグトスは反撃をして来る様子は無い。
その場を微動だにする事無く立ち尽くしている。

皆の顔が少し赤い。
サクラと咲耶が何度もチラチラと此方を見ては顔を背ける。

何か様子が変だな・・・。

「ククク・・・流石に動けない様だな。」

暗黒神ハーデスハーちゃんは手短に話すと言って状況を説明し始めた。

彼の話では現在この場所と現実の時間は同期しているらしい。

そして破壊神ヨグトスに強制ログアウトを喰らった後、現実世界からサーバー内に存在するこの場所を特定し同僚の力を借りて破壊神ヨグトスの弱体化と私達の強化を行ったらしい。

しかし破壊神ヨグトスが情報処理を阻害するウィルスを生成し、情報干渉を一時的に遮断されたそうだ。

暗黒神ハーデスハーちゃんの務めている会社、SMO運営をしている部署の部長の人脈を駆使して今の状況を作り出したとの事だ。

何でも本社も含めて120名以上のシステムエンジニアを動員して解析干渉を行い、情報として破壊神ヨグトスに浸食された部分との分離に成功したらしい。
専門用語が飛び交っていて、この辺りの説明はイマイチ理解出来なかった。

何でも破壊神ヨグトスが同時処理可能な能力を制限した上で、サーバーダウンするギリギリの情報量を与える事で能力と動きを抑制しているらしい。

「ヤツは我らの妨害処理の防御とサーバーダウンさせない為に大半の能力を割かれている!笑えるだろう?この世界を崩壊させようとしているヤツが、この世界の維持にリソースを割かれているのだ!」

私は破壊神ヨグトスと同化した時に知ってしまった。
次元上昇アセンションには破壊神ヨグトスと私の意思で協力すると言う「想い」、そしてこの世界のエネルギーの全てが揃わないと実現出来無い。

次元上昇アセンション前に私の体と繋いでる端末や回線を切断される事を破壊神ヨグトスも望んでは無い訳だ。

「皆の現実の本体も無事が確認されている!」

制作会社も自社制作したゲームとゲーム内AIの件で大規模なサイバー災害が引き起こされるたら困る。
その可能性を支社長が示唆した事で本社を含めた会社全体の協力を得たらしい。

サーバーハックと言う名目で秘密裏にサイバー犯罪対策課の協力も得ているらしい。
そして交換した皆の電話番号から登録住所等の情報も調べ、現在安全確保の為に警察職員数名が自宅へと赴いているとの事だ。

リアルでも何だかとんでもない事態になってきている。
家族が心配しているんじゃないかな・・・

少しだけリアルの事が気になった。

「拙者の部屋は・・・まずいでござるな。」

「わ、私もです・・・」

サクラとミカさんが何故か動揺している。
一体2人の部屋に見られたらマズイ物でも有るのか?

・・・まさか、別の犯罪が露見するとかね。

「外部の応援者は知らんが、120名以上で対処している。奴の処理速度がいくら早くても、休みなく波状的に情報を送り込まれたら我らとの戦闘にさくリソースが減るはずだ!」

「ゲーム情報的な弱体化ではなく、技術的に外部から弱体化させていると言う事か。」

リアル世界から圧力を掛けてそれに対処させる事で動きを封じているのか。
当然バイパスを私の本体と繋いだ状態を解除出来ないから、破壊神ヨグトス側からネットワークを遮断したりする事も出来ない訳だ。

「動けない今がチャンスだ!総攻撃をかけるぞ!」

暗黒神ハーデスハーちゃんの号令と共に咲耶を除いた全員が破壊神ヨグトスに向けて一斉に攻撃を仕掛ける。

私も立ち上がり武器を構えようとして気が付く。
私の透けている体を良く見ると一切服を纏っていなかった事に気が付く。

先程サクラ達がチラチラと見て来た事を思い出だす。
薄く透けている様な状態とは言え素っ裸だ。

そうか私の本体は破壊神ヨグトスの元に有る。
私は分離した残りの数パーセントと言う事か・・・

・・・装備が一切無い。

胸を隠し座り込む私に、残っていた咲耶が【氷結耐性マント】と【ビキニ(黒)】を取り出し渡してくれる。

ピトゥリア国に入国する際に用意した装備と、亜人国家アニマで購入した物だ。
全職業装備出来る防具はこの2個しか持っていなかったのだろう。

急場凌ぎとは言え、ありがたい。

「ありがとう咲耶。」

「こちらこそ、ありがとうございました。」

良く分からないが咲耶にお礼の言葉を返される。
しかし、装備やアイテムストレージが無いと攻撃に参加出来ない。

咲耶が私にそっと一振りの刀を刺し出す。
それは戦闘の最中に落とした【破壊刀イレース】だった。

「拾っておきました、この戦いを終わらせましょう。」

「うん!」

咲耶は【雷槌ミョルニル】を構える。
私も透けている体に黒ビキニにマントと言う姿になり、改めて自分の姿を見る。

何だろう・・・

下半身の水着の裏地が透けて見えるのは着ている意味が有るのだろうかと疑問を感じたが、全く着ないよりは多少安心感が有る。

いやいや、悩んでいる暇はない。

私は【縮地】を使い皆を後を追う。

・・・・遅い!

そしてすぐに息切れがする。
身体能力が物凄く低くになっている様だ。

【破壊刀イレース】を鞘から抜き放つとレイがすぐに話しかけて来た。

『シノブ!どうしちゃったの!?透け透けじゃん!』

「色々あって、軽量化しました。」

『どゆこと!?』

レイが驚きの声を上げた瞬間に正面で大爆発が起きる。

暗黒神ハーデスハーちゃん極大攻撃魔法アルティメルスペルが破壊神ヨグトスに直撃した様だ。

「ハッハッハッ!!処理速度が落ちて、弱点属性変化バリアチェンジ失敗した様だな!」

暗黒神ハーデスハーちゃんは攻撃後すぐに中距離に後退し、DOSどっちゃんの銃撃が破壊神ヨグトスの肩を強襲し貫く。
爆風を縫って頭部を狙った銃弾をギリギリ回避した様だ。

「・・・・先程は散々痛ぶってくれたな。」

メタルボディで表情に変化は無いが、DOSどっちゃんが静かに怒っている様子が伺える。

上手く回避し致命傷を避けた様だが、その状況も読み通りと言わんばかりにミカさんとサクラの剣撃が胸部と腹部を捕らえて斬り裂く。

私の本体から赤い鮮血が噴き出す。
元自分の体なので少しだけ複雑な気分だ。

「確かに回避速度も下がっているな。」

「十分戦えるレベルでござる!」

2人の付けた深い傷口は徐々に塞がれて行く。
【聖剣エクスカリバー】の常時発動型特殊技能パッシブスキル「HP自動回復(中)」が発動している。

レイドボス級が持つと凶悪過ぎる能力だ。
私は狙いを【聖剣エクスカリバー】に定める。

「咲耶!刀を抑えて!」

「任せて下さい!」

咲耶は【雷槌ミョルニル】を振り被り左側面から打撃攻撃を行う。
雷撃の轟音を響かせながら破壊神ヨグトスの持つ神刀【天之尾羽張あめのおはばり】を捕らえる。

腕力極振りの咲耶の打撃は中級戦士職以上の攻撃力を有している。
上部から加えられた圧力により破壊神ヨグトスの足元が陥没する。

凄い!
最近は補助に徹していたけど、元々攻撃特化の戦士職だった咲耶の真価を見た。

今しかない!
私は【破壊刀イレース】を素早く横薙ぎで斬り掛かる。

破壊神ヨグトスは反射的に右手に装備した【聖剣エクスカリバー】で攻撃を防ぎに掛かる。

狙い通りだ。
私は今有る全てのSPを【破壊刀イレース】に込めて斬り掛かる。

巨大な金属音と火花、そして周囲の空気を揺るがす衝撃波が接触した刃から広がる。

普通の反応じゃない!
普段はプリンを斬る様な感覚だが相手の剣と刀が触れった感覚が有る。

「ま、負けない!!」

その瞬間に破壊神ヨグトスの右手に握られた【聖剣エクスカリバー】の刀身が真っ二つに砕ける。

そして剣全体がボックス状のエフェクトを発生しテクスチャが崩れ消滅した。

今の私の力ではこの一撃が精一杯だ。
後は皆に任せるしかない。

SPを完全消費した事で意識が薄れる。
咄嗟に誰かが私の体を支えてくれたのが分かった。

そして私はそのまま意識を失った。
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