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第四十五話
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百合の父親の言葉を無視して晴明は史郎を連れてその場を去ろうと術式を素早く発動させる。
今にも二人の姿が地下室から消えるその時だった。
八尾一族が一斉に晴明が発動させた術式を妨害した。
移動の術式はそこまで高度なものではない。
つまりいくら晴明の術式だろうが妨害さえしてしまえば移動ができなくなる。
そのことを八尾一族はよく理解していた。
「安倍晴明と鯰尾史郎を報復として殺す」
引き続き一族を代表して百合の父親が殺気を込めてそう告げる。
大人の本気の殺気に史郎は思わず腰を抜かしてしまい座りこむ。
いくら史郎が物分かりがよく頭がいい子供であったとしても彼はまだ幼い子供に過ぎない。
無理もない反応だった。
一方、晴明の反応はと言うと。
「あのさ、子供に殺気なんて向けないでよ。いい歳した大人が情けない」
しっかり地面に立って史郎に寄り添って反論していた。
恐怖心など全く感じていないように見える。
「お前達は私たちにとって邪魔者でしかない。殺す」
「知らねーよ」
「伝説の陰陽師なんてただの名ばかりだろう?くだらん。正体が女など弱いに決まってる!」
「はぁ。勝手に言っててよ。術式邪魔するなら歩いて帰るから」
自分のことを侮辱されようが晴明は一切気にしなかった。
それよりも史郎の腰が抜けていることをなんとかしなければという考えの方が強かった。
「よく見ると史郎さん結構でかいわね。……筋肉を強化すれば私の身長でもおんぶいけるか?」
晴明と史郎の身長差はこの時点でかなりあった。
百合が史郎へ言っていたように十一歳にしてはとても身長が高かったのだ。
「安倍晴明さん……お、俺のことはいいよ……置いて行って……」
「ダメですよ。私は貴方を連れて帰る義務があるんです。身長差はどうにもならないので式神を出します」
そう言って晴明は人差し指と中指を天井へ向ける。
「させるか!!皆、殺す気でかかれぇ!!!」
八尾一族のあやかし達が一斉に二人の向けて術を放つ。
それはとても強力なものばかりで、このままでは跡形もなく二人とも殺されてしまうだろう強い力だった。
――今思い出してもきっとその瞬間だった。晴明に恋したのは。
圧倒的な力が史郎のすぐ傍から八尾一族に向けて放たれた。
この場を支配する絶対的な力。
その力の持ち主は手をかざして立っているだけ。
八尾一族全員が床に臥していた。誰一人として動ける者はいない。
万象破と呼ばれる万物に向けて放たれる破壊・制圧の力である。
この時代においてもなお安倍晴明のみが使える力。
――安倍晴明が最強と言われる所以の力だった。
その最強の陰陽師の横顔を、史郎は場所も時間も忘れて見続けていた。
凛とした表情に圧倒的な力。
かっこいいという感情だけで史郎の中では終わらなかった。
終わらない何かが史郎の中に生まれていたのだ。
そんな彼の感情を知るはずもない晴明は再び同じ指を天井へ向ける。
「やっと静かになりましたね。じゃあ行きましょうか」
当たり前のように龍神の式神・秋斗を出した晴明は史郎を横抱きにする。
幼い少女が持っている筋力とは思えないほどに横抱きは安定していた。
…という現実逃避を試みたが、史郎は男として情けなくて恥ずかしくて叫んだ。
「た、立てるからいいよ!!!」
「いや腰抜けてるでしょ。いいから行きますよ。秋斗に乗るまでの辛抱ですから。良い子だから我慢してください」
「勘弁して……」
でも、と史郎は思ってしまう。
晴明から触れてもらってとても嬉しかったのだ。
彼女を見るととても心臓が速くなって胸の辺りが苦しくなる。
苦しいけどとても幸せな気分で自分の気持ちが矛盾していた。
それがどうしてなのか今の史郎にはわからない。
だって史郎は、恋を全く知らなかったのだから――。
こうして二人は全壊した屋敷から秋斗に乗って脱出に成功。
これが史郎と晴明が出会った時の話。彼が晴明に救われた時の話だった。
その出来事から1週間経ったある日。
「こんにちは、史郎さん」
「こんにちは~。貴方が史郎くんね。元気そうで何よりだわ」
晴明が史郎の家に女性を連れてやってきた。
女性の声からしてこの人物は葛の葉姫ではないかと史郎は推測を立てる。
推測は当たっており、緑郎が玄関に出向いて「葛の葉姫、わざわざすみません」と言っていた。
三人に混じって史郎も傍を歩く。誘拐された時のことを思い出していた。
あれから史郎が聞いた話を簡単に述べると、八尾一族は虎視眈々と総大将の座を狙っていたらしいということと、あの少年が百合の元婚約者だということが判明。
史郎を狙う二つの条件が揃った八尾一族は会合の日に誘拐し、八尾一族のあやかしを総大将にするという要求を緑郎にのませて史郎を殺害しようと画策したのだ。
八尾一族の一部のあやかしが緑郎を罵倒しながら要求する。
けれどことの魂胆が自らの力で見えた葛の葉姫は今のあやかし達では解決できないと即断。
かと言って古い知己に頼むには流石の彼女でも時間がかかってしまう。
史郎の命を最優先に考えた葛の葉姫は自分の娘の力に頼ることにした。
「緑郎。私の娘に頭を下げる気はあるかしら?」
伝説の陰陽師の母親は息子を誘拐されて絶望していた緑郎へそう尋ねたのである。
今にも二人の姿が地下室から消えるその時だった。
八尾一族が一斉に晴明が発動させた術式を妨害した。
移動の術式はそこまで高度なものではない。
つまりいくら晴明の術式だろうが妨害さえしてしまえば移動ができなくなる。
そのことを八尾一族はよく理解していた。
「安倍晴明と鯰尾史郎を報復として殺す」
引き続き一族を代表して百合の父親が殺気を込めてそう告げる。
大人の本気の殺気に史郎は思わず腰を抜かしてしまい座りこむ。
いくら史郎が物分かりがよく頭がいい子供であったとしても彼はまだ幼い子供に過ぎない。
無理もない反応だった。
一方、晴明の反応はと言うと。
「あのさ、子供に殺気なんて向けないでよ。いい歳した大人が情けない」
しっかり地面に立って史郎に寄り添って反論していた。
恐怖心など全く感じていないように見える。
「お前達は私たちにとって邪魔者でしかない。殺す」
「知らねーよ」
「伝説の陰陽師なんてただの名ばかりだろう?くだらん。正体が女など弱いに決まってる!」
「はぁ。勝手に言っててよ。術式邪魔するなら歩いて帰るから」
自分のことを侮辱されようが晴明は一切気にしなかった。
それよりも史郎の腰が抜けていることをなんとかしなければという考えの方が強かった。
「よく見ると史郎さん結構でかいわね。……筋肉を強化すれば私の身長でもおんぶいけるか?」
晴明と史郎の身長差はこの時点でかなりあった。
百合が史郎へ言っていたように十一歳にしてはとても身長が高かったのだ。
「安倍晴明さん……お、俺のことはいいよ……置いて行って……」
「ダメですよ。私は貴方を連れて帰る義務があるんです。身長差はどうにもならないので式神を出します」
そう言って晴明は人差し指と中指を天井へ向ける。
「させるか!!皆、殺す気でかかれぇ!!!」
八尾一族のあやかし達が一斉に二人の向けて術を放つ。
それはとても強力なものばかりで、このままでは跡形もなく二人とも殺されてしまうだろう強い力だった。
――今思い出してもきっとその瞬間だった。晴明に恋したのは。
圧倒的な力が史郎のすぐ傍から八尾一族に向けて放たれた。
この場を支配する絶対的な力。
その力の持ち主は手をかざして立っているだけ。
八尾一族全員が床に臥していた。誰一人として動ける者はいない。
万象破と呼ばれる万物に向けて放たれる破壊・制圧の力である。
この時代においてもなお安倍晴明のみが使える力。
――安倍晴明が最強と言われる所以の力だった。
その最強の陰陽師の横顔を、史郎は場所も時間も忘れて見続けていた。
凛とした表情に圧倒的な力。
かっこいいという感情だけで史郎の中では終わらなかった。
終わらない何かが史郎の中に生まれていたのだ。
そんな彼の感情を知るはずもない晴明は再び同じ指を天井へ向ける。
「やっと静かになりましたね。じゃあ行きましょうか」
当たり前のように龍神の式神・秋斗を出した晴明は史郎を横抱きにする。
幼い少女が持っている筋力とは思えないほどに横抱きは安定していた。
…という現実逃避を試みたが、史郎は男として情けなくて恥ずかしくて叫んだ。
「た、立てるからいいよ!!!」
「いや腰抜けてるでしょ。いいから行きますよ。秋斗に乗るまでの辛抱ですから。良い子だから我慢してください」
「勘弁して……」
でも、と史郎は思ってしまう。
晴明から触れてもらってとても嬉しかったのだ。
彼女を見るととても心臓が速くなって胸の辺りが苦しくなる。
苦しいけどとても幸せな気分で自分の気持ちが矛盾していた。
それがどうしてなのか今の史郎にはわからない。
だって史郎は、恋を全く知らなかったのだから――。
こうして二人は全壊した屋敷から秋斗に乗って脱出に成功。
これが史郎と晴明が出会った時の話。彼が晴明に救われた時の話だった。
その出来事から1週間経ったある日。
「こんにちは、史郎さん」
「こんにちは~。貴方が史郎くんね。元気そうで何よりだわ」
晴明が史郎の家に女性を連れてやってきた。
女性の声からしてこの人物は葛の葉姫ではないかと史郎は推測を立てる。
推測は当たっており、緑郎が玄関に出向いて「葛の葉姫、わざわざすみません」と言っていた。
三人に混じって史郎も傍を歩く。誘拐された時のことを思い出していた。
あれから史郎が聞いた話を簡単に述べると、八尾一族は虎視眈々と総大将の座を狙っていたらしいということと、あの少年が百合の元婚約者だということが判明。
史郎を狙う二つの条件が揃った八尾一族は会合の日に誘拐し、八尾一族のあやかしを総大将にするという要求を緑郎にのませて史郎を殺害しようと画策したのだ。
八尾一族の一部のあやかしが緑郎を罵倒しながら要求する。
けれどことの魂胆が自らの力で見えた葛の葉姫は今のあやかし達では解決できないと即断。
かと言って古い知己に頼むには流石の彼女でも時間がかかってしまう。
史郎の命を最優先に考えた葛の葉姫は自分の娘の力に頼ることにした。
「緑郎。私の娘に頭を下げる気はあるかしら?」
伝説の陰陽師の母親は息子を誘拐されて絶望していた緑郎へそう尋ねたのである。
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