特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第16章 -勇者 VS 魔王-

†第16章† -38話-[大魔王城前:前編]

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 宗八そうはちが神格位を得た日から二ヶ月後———。
 破滅ヴィネア対策が水面下で動く裏側で、勇者プルメリオ一行はついに“大魔王城”の目前へ辿り着いた。

 大魔王領を囲む山々は鋭く屹立し、その隙間にぽっかりと空いた巨大な大穴が麓に口を開けている。
 地形そのものが抉られているのだ。
 戦か、災害か——何が起きれば、あれほどの穴が生まれるのか。
 誰も答えを持たないまま、ただこの大穴が出来上がった背景を想像し唖然とするしかなかった。

 その険しく、人の足では登れない岩壁を軽々とカモシカの如く登っていく五つの影がある。
 魔族のセントールだ。
 その背には勇者パーティが必死にしがみ付き、地面との距離を目視して肝を震わせる。
 セントールは半人半獣のいち種族名だ。有名な所がエリート枠のケンタウロス。
 走れば音を置き去りにし、弓を射ればすべてが強弓となり、近接となれば戦神が如くと謳われた。
 多くの物語では同種とされるこの二種だが、この世界では平原のケンタウロス、山岳のセントールという形で住み分けされている。

「あれが……大魔王城か」
 プルメリオは風に髪を揺らしながら呟いた。
 一年足らずの今回の旅路が、一気に胸に去来する。
 苦しさも喜びも、ここへ続く一本の道だったのだと。

「本当に……ありがとうございました」
「ありがとうございました」
 山の頂まで運んでもらった感謝を込め、ミリエステとプーカが深々と頭を下げる。
「礼など不要だ。お前たちが暴走サイクロプスを討ってくれた恩を返しただけだ」
 隣の戦士の肩に手を置き、セントールの青年は微笑む。
「魔族と人族の戦に加わる気はない。だが、恩を踏みにじるのは我らの矜持に反する」
 感謝に対する彼らのその声音は、静かだが半人半獣としての確かな誇りを含んでいた。

「それにしても想像していたよりも酷ぇところだなぁ」
 拳闘士クライヴが低く唸る。
 無理もない。眼下の大魔王城は、フォレストトーレ旧王都を思わせる惨状だった。
 無数の黒いオベリスクが大地に林立し、その内側で瘴気が濃く、ねっとりと凝り固まっている。
 まるで大地そのものが腐敗し、呼吸しているようだった。
「魔王オーティスと相対には、先に城周りを掃除する必要がありますね」
 重騎士マクラインも険しい顔で城を見下ろす。

「なぁ、メリオ」
「こりゃ……手ぇ借りた方がいいんじゃねぇか」
 クライヴとマクラインが視線を送ってくる。

 分かっている。
 勇者として、この場に立った直後に助けを求めるのは情けない——。
 そんな見栄が胸を締めつけていた。
 だが現実として、でやれば膨大な時間がかかる。
 その間、大魔王が更なる攻勢に動かない保証などどこにもない。

「尊師が忙しくしているのも知っているけれど、流石は大魔王城と言った所かしらね」
 ミリエステが呟き、プーカも続ける。
「この前、苛刻かこくのシュティーナから宣戦布告が来たって聞いたよ。進軍が始まったら——もう時間は残ってない」
 その言葉は、決定的だった。
 影ながら彼らの旅を支えていた諜報侍女からの情報だ。嘘偽りは万が一にも無い。
 自分が紡いでいる物語は確かに”勇者プルメリオ”の物語だが、この世界”アルストロメリア”の物語の一つに過ぎない。
 プーカがあえて口にした台詞がプルメリオの心を———彼も無駄と分かっている葛藤を捨てる覚悟が出来た。

「……分かった。助力を頼もう。この旅を、終わらせるために」
 少しずつ削ぎ落したはずの勇者としての矜持プライドが疼いたが、それでも蓋をする。
 四年半もこの世界で過ごしたのだ。守りたいものが増えた。失いたくない景色も、仲間も。

 勇者は確かに一つの物語の主人公である。

 しかし、この世界に関しては勇者とは別の主人公の物語がメインとして存在する事をプルメリオは理解していた。
 魔王討伐———。それはこの世界の中での些事だ。
 破滅ヴィネア侵攻———。それがこの世界の大事だ。
 瘴気が風に流れ、彼のマントを揺らす。
 それはまるで、大魔王城が勇者を待ち構えているかのようだった。


 * * * * *
 勇者プルメリオからの要請を受けた宗八そうはちは、数日の準備期間の後に大魔王城近辺で合流した。
 話を受けた直後に現地に赴き直接現状を確認した宗八そうはちが今回同行させたのは、光精使いサーニャとアネスと、護衛役に直弟子の七精使いトワインとディテウスの計四人だ。

「思ったよりも少ない人数で来たんですね……」
 呆気に取られるほどの少人数で合流して来た事に、プルメリオが思わず言葉を漏らす。
 大魔王城は言ってしまえばラストダンジョンなのだ。
 当然、敵の本拠地であるからしてフォレストトーレ城よりも巨大で内部構造も複雑だろう事は見て分かる。
 突入の手助けに外周掃除とはいえ、宗八そうはちを含めた五人で参加してくるとは思っていなかったのだ。

「別に手抜きをしているわけじゃないぞ。この程度の仕事はこの人数で出来てもらわないと本番で不安だからな……。腕試しも兼ねて敢えての五人でもある……」
 それだけではなく、破滅ヴィネア侵攻がこのタイミングで発生することへの懸念の意味合いもある。
 苛刻かこくのシュティーナが宣戦布告したからといって「じゃあ、今から準備期間を設けますね」と言った訳じゃない。本来する必要のない宣戦布告をしたうえで翌日にも侵攻してきてもおかしくはなかったのだ。
 協力者だからと全面的に信用は出来ない為、戦力の多くは破滅ヴィネアに向けておく必要があった。

「絶対に今日攻略する必要は無い。そもそもダンジョン化していなければ天井をぶち抜いて謁見すれば良いだけだしな」
 宗八そうはちの発言に勇者PTはドン引きした。
 四年半の旅路の果てが大魔王城の天井を抜いて相対すればいい、とは……。改めて水無月宗八みなづきそうはちという人物が効率重視の為にめちゃくちゃをやって来たのだと思い出す。
「魔神族がどの程度関わっているか次第ですね……。フォレストトーレ城がダンジョン化していたのは、ダンジョンコアを魔神族が持ち込んだからでしたから……」
 魔法使いミリエステだけが唯一ドン引きせず冷静に現状を憂う。
「そ、そうだな。同じ様に超大型禍津核まがつかくモンスターとまた戦う羽目になるかもしれない……」
 彼女の声に引っ張られる形で重騎士マクラインも不安要素を口にするが。
「何言ってやがる。結局、俺達はアレを倒すときは手伝いくらいして出来てなかっただろうが」
 それを拳闘士クライヴが鼻で笑い飛ばした。
 ただ一人、当時PT参入していなかった義賊プーカは、共有できない寂しさからミリエステの側に少しだけ寄った。

 フォレストトーレ城が全壊した理由は、木精ファウナを用いて顕現したキュクレウス=ヌイの影響だった。
 大きい建造物である城を幹の中に閉じ込め、持ち上げ。周囲には多くの触手や眷族モンスターを放ち厄介で苦労した。
 ただ、今回は大魔王城が相手だ。同じ状況になったとしても城が全壊しようとこちらが気にする必要も無い。

「とりあえず、突っ込んでみてからのお楽しみ……ですねっ!」
 勇者プルメリオのいつにない強気な発言に宗八そうはちも口角を上げて気分を上げる。
 その様子を連れて来られた四人が微妙な表情を浮かべつつ、自分達の仕事量に嘆息した。
「その調子だ。とりあえず前面が片付いたらタイミングをみて攻略を開始してくれ」
「はいっ!」
 宗八そうはちの宣言と勇者の返事を皮切りにそれぞれが準備に入る。


 * * * * *
「まず何をする?」
 宗八そうはちの簡潔過ぎる質問に、視線を向けられた棍使いディテウスが素早く答える。
「オベリスクを破壊します」
 瘴気を浄化するには光魔法が必要だ。
 しかし、オベリスクは魔法に関わる全てを弱体化させる力がある。
 今の宗八そうはち達ならば魔力量の力押しでどうとでもなるのだが、そんなことをしていては徐々に魔力は解かれ効率が落ちてしまうのは目に見えている。オベリスクを後回しにする選択は、長期戦を見越せば下策だ。

「まず何をする?」
 同じ質問が今度はサーニャに向けられた。
 ただし、役割が違うことを理解している彼女の答えはディテウスとは違うものだった。
「ディテウスへの瘴気耐性付与と範囲外からの広範囲浄化魔法の展開です」
 瘴気は魔力が悪性に変わったものであり、常人や精霊にとって毒となる。
 長く吸えば死に至るほどの瘴気が、今や気体でありながら粘度が出る程に凝縮された状態なのだ。
 遠距離から破壊するトワインはともかく、あの瘴気の海に突っ込むディテウスが十全に働くには耐性を付与する必要がある。

 また、オベリスク一本の効果範囲は決まっている。
 数百本同じところに設置されているからといって相乗的に範囲が広がることは無い。
 その範囲外から効果の届く浄化を行えば、最大浄化率で継続して仕事を進める事が可能だ。

「まず何をする?」
 三度目の質問は弓使いトワインへ向けられた。
 今回呼び出された四人の仕事はオベリスクの破壊と瘴気の浄化だ。
 先の二人がすでに答えたとなると、別の回答を希望していると考えたトワインは、少しの間を置いて答えを出した。
「正面の掃除……です」
 最近は宗八そうはちに似て自信家な面が増えて来たトワインが、珍しく不安げだったのが面白く宗八そうはちは微笑む。
「そうだ。あくまでメリオ達勇者パーティのサポートが俺達の仕事だからな」
 正解だったことにホッと息をつくトワインとは裏腹に、次に視線を向けられた魔法使いアネスの胸は不安でいっぱいだった。
 これ以上「何をする?」と聞かれても答えようがない。

「何がしたい?」
 その不安に反して質問内容は少し変わっていた。
 相変わらず簡素な言葉選びだったが、真剣な表情の宗八そうはちを見て一度アネスは考えを整理する時間を設ける。
 何がしたい。つまり自分が浄化するのは当たり前として、そのうえでの行動を聞かれている……。
「……神力エーテルの運用を試します」
 アネスの答えを聞いた三人も思い至ったように表情を変える。
 実戦の中で神霊核マグナスへと成長した精霊との連携をここで高める為に挑戦しよう、と宗八そうはちは問い掛けていたことにアネスは気付き応えた。

「よし、じゃあ仕事に取り掛かろう!」
 勇者の道を切り開く。
 こういう役割も宗八そうはちは嫌いでは無かった。
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