特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第16章 -勇者 VS 魔王-

†第16章† -43話-[不明施設の探索]

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 時は遡り———。
 勇者PTが大魔王城に突入して一時間もしない内に七精の門エレメンツゲートによる周辺の掃除は完了した。
 新種の禍津屍マガツカバネが出現したものの、盟主自ら情報を集めてからは仲間達に対処を任せ、再び宗八そうはちは周辺警戒と戦闘風景を眺める仕事に就いていたのだが……。

「明らかに面倒の臭いがプンプンしやがる……」
 高濃度瘴気の瘴気堀と、それを閉じ込めるオベリスクの林群の掃除をしたことで、鼻に届く空気の臭いが改善した。
 しかし、その堀の下から土台と床石材だけを残して、ほぼ全壊した建物の残骸が現れ宗八そうはちは顔をしかめる。

「旦那様、どうしますか?」
 七精の門エレメンツゲートとしては新参者であるものの、立場上は盟主の側室であるサーニャが代表して聞く。
 いま全員で囲んでいる場所以外にも、大魔王城の周りで複数個所が見つかっていた。
「調べない訳にもいかないだろ……。トワイン、この場に残って周辺警戒を頼む」
「はい!」
 宗八そうはちの指示に弓使いトワインが二つ返事で快諾する。
 残るサーニャ、棒使いディテウス、魔法使いアネスに視線で追従するように指示を出すと、宗八そうはちはおもむろに床材を踏み抜くと、土台の下に隠された空間への入り口を無理やりに作り飛び込んだ。

 降り立つ空間は埃っぽく、光も届かない。
 宗八そうはちのみならば【竜眼】で暗視も可能だが、仲間が降りて来る前に光をばら撒く。
「≪光灯ライト≫≪≫」
 生活魔法として組み上げた攻撃性のない光球が周囲に拡散して、空間内の闇を晴らす。
 どうやら、この部屋は空箱を保管しておく場所だったらしい。

 次々と降り立った三人は、室内を見回しながらも警戒を怠らない。
「ここまでは完全な浄化が出来ていなかったのですね……。祓います」
「待て。この程度なら俺の魔法検証に使わせてくれ」
 アネスが魔法を発動する前に宗八そうはちが制止する。
 地上は粘度も感じる高濃度の瘴気だったにも関わらず、地下はうっすら視界を妨げる程度しか瘴気は紛れていない。
 外の掃除に使用した魔法は、オベリスクの影響を受けない様に”光が届く範囲の浄化”と定義して組み上げていた。

 また新しい魔法を創ったのか……、と三人は若干呆れ顔だ。
 暇さえあれば子供達と魔法式を考え、実験を繰り返す”魔法狂い”。
 宗八そうはちの魔法に対する向上心は弟子や側室を持ってしても、そう称されて遜色ない事実だった。

「≪神の心臓ディバインハート≫」
 宗八そうはちの心臓が魔力をべられ神力エーテルの精製を始める。
 神力エーテルで使用する魔法は総じて常軌を逸した効果を持つ。
 その事を知る仲間たちの表情は、あきれ顔から変化し疑問を浮かべながらも発動を見守る。

「———≪魔力之円環マギウスオーロポロス≫」
 早くも宿った神力エーテルが身体の縁を揺らし始め、宗八そうはちの本命の魔法は発動する。

 ゆっくり……。いや、加速している。
 肌に触れる空気が巡り、宗八そうはちへ吸い込まれているように仲間達は感じた。
 しかし、実際には吸い込む魔法が発動されている。
 ———奇しくも。
 宿敵でもある”神格ヲ簒ウロ奪セシ禍津大蛇ボロス”と同じ意味を持つ魔法名は、皮肉を込めた宗八そうはちの悪戯心が反映された結果だった。

「瘴気が魔力に還元されていく……?」
 ディテウスの溢した効果こそが、この魔法の神髄だ。
 普段使用している浄化だけではなく、別の方法でのアプローチを検討した結果。
 ———宗八そうはち魔法を考え付いた。
「瘴気の危険性を一番訴えていた旦那様がこのような魔法を組むとは思いもしませんでした……。危なくは無いのですか?」
 宗八そうはちの矛盾を指摘しながらも、心配を浮かべるサーニャが問い掛ける。

神力エーテルを使っている間、瘴気の影響はないに等しい。流石に魔神や神格ヲ簒ウロ奪セシ禍津大蛇ボロスを相手にするには心許ないが、高濃度瘴気でも無効化は出来るはずだ」
 さきほどの地上の掃除では、仲間の神力エーテル運用状況を確認する為にあえて手出しを控えていたのだ。
 決して———実験を忘れていたわけでは無い。

 地下空間の換気を宗八そうはちが担う事で、気兼ねなく探索することが可能になった。
「クー」
 いつものように名を呼ぶだけで次女の闇精クーデルカは纏いから抜けだし、しなやかに埃だらけの床へ降り立つ。
『お任せください、お父さま。≪影踏索敵シャドーサーチ≫』
 クーデルカは施設内の影を掌握し、生物や魔物の存在を探した。
 だが、それらしい行動・挙動・呼気を感じることは無い。
『敵と生存者は確認出来ません。ただ、かなり広い施設のようで、おそらく大魔王城を囲む形で他にも出入口があるかと思われます』
 クーデルカの索敵に引っ掛かったのは、複数に分かれた部屋群と食堂と思しきテーブルや椅子の残骸。
 ここまで広ければ出入口はここだけでは無いという予想を元に、父へ報告した。

「よし。じゃあこの施設が何なのか散策を始めよう」
「「了解!」」
 宗八そうはちの指示に、自然とサーニャが宗八そうはちに寄り、ディテウスとアネスが組む事が決まった。
『通路は一周する形で合流しますので、左右に分かれましょう』
 クーデルカの追加情報に従い、宗八そうはち組は通路を右へ。ディテウス組が左へ足を運ぶ。

 子供達は度外視で二人きりになった時。
 アルカンシェならそっと腕を取って来るのに対し、サーニャは楚々と半歩後ろを歩く。
 流し目で腕が寂しいと訴えたみたが、サーニャには通じず小首を傾げられてしまった。

「何でもない。近い部屋から調べるぞ」
「はい」
 まず入った部屋は、蔵書が多数収められていたであろう図書室、もしくは資料室だった。
「さっそくビンゴか?」
 宗八そうはちは足元に転がっていた分厚い本を手に取る。
 同行しているサーニャも同様に手近な本を手に取っている中、闇精クーデルカは室内をキョロキョロと見回している。

 本の装丁にも埃が凝り固まってしまっており、タイトルを読む事が出来なかった。
「古い型の装丁ですね……。湿気でかなり痛んでいますから、下手に触ると内容が失われてしまいます……」
 サーニャは聖女クレシーダと共に失われた古い資料を捜索した経験がある。
 当時を思い出し、触った感触から時代を仮決定すると、宗八そうはちに向けて警告する。
『お父様。私の影に飲み込んで持ち出しましょう。調査はのちのち人を使って行えば効率も良いかと』
 確かに部屋が大きく無い事から蔵書量は多くない。
 闇精クーデルカの提案通り、この施設の調査を優先して資料の確認を急ぐ必要は無い、と判断した。

「わかった。俺達は先にいくから、クーは丁寧に回収してから合流してくれ」
『かしこまりました』
 了承する闇精クーデルカの返事を聞き届け、宗八そうはちとサーニャは踵を返す。
 しかし、ここで纏いから一人の精霊が飛び出した。
『お父さまー!ニルはクー姉様の話し相手としてこの場に残りますわー!』
 着地するなり闇精クーデルカに抱き着いたのは、三女で風精のニルチッイだ。
 今の会話は、全て纏いの中にいる子供達にも聞こえている。
 闇精クーデルカ大好きっ娘の風精ニルチッイは収納に時間が掛かるだろう、と考えて勝手に出てきてしまったようだ。
 残る彼女が普段からしっかりしていても寂しがりである事を知る宗八そうはちは、風精ニルチッイの行動を許した。

「わかった。一応言っとくけど、クーの邪魔をするんじゃないぞ」
 優しさから立候補したニルチッイだが、風精らしくボケッと待つ事が苦手なのだ。
 念の為と釘を刺す。
『かしこまりーですわー!』
 テンション高く軽い返事で笑顔を振りまくニルチッイ。
 幼いころから知る宗八そうはちの中で不安が顔を覗かせるが、彼女も他の姉弟と共に成長しているのだ。
 不安の顔を押し込めて宗八そうはちは、サーシャを連れてこの部屋をあとにした。

「ふふ。子供の成長は寂しいですか?嬉しいですか?」
 横から覗いた宗八そうはちの表情が何とも言えないものだったのか……。
 サーニャはその真意を笑いながら確認して来る。
「まぁ……。肉体の加階に伴って精神的にも全員成長している事は知っているからな……。嬉しい、とは思う」
 精霊の父親となってまだ四年だ。
 人間と違って成長過程が短い精霊の子供達の姿は、すでに小学高学年に達している。
 宗八そうはちとしても短い幼少期に色々と複雑なのであった。

 一方、部屋に残った子供二人は……。
『ニル。私が慎重に本を陰に回収する間、貴女はこの施設の空気の入れ替えと埃などを外に出してください』
『かしこまりーですわー!』
 会話をしながらでもこの広い施設内の風を支配するくらい、風精ニルチッイにとっては片手間で片付く。
 瘴気は宗八そうはちが吸い上げ還元するのに対し、長らく動かず熟成された淀んだ空気はそのままだった。
 風精ニルチッイは少し集中して黙り込む。
 この間に疾風が踏み込んだ全員の足元を駆け抜け、床に蓄積した埃をほんの少し浮かし、部屋では軽く木枯らしを起こし高い所に積もった埃も巻き上げられる。
 そのまま足元に設置した風の通り道に乗せ、やがて外へと吐き出された。

 ———うわっ!びっくりし……へっくしょんっ!へっくしょんっ!ごっほごほ!

『あ、外にトワインが残っていた事を忘れていましたわー!』
 外で盛大に舞った埃群が弓使いトワインに直撃し苦しめる。
 通路に反響して聞こえるクシャミと咳に、いっけな~い♪とばかりの台詞と自身の頭をぽこんと軽く叩いた風精ニルチッイに最愛の姉からジト目が向けられた。

『外に出した風をすぐに調整しなさい』
『かしこまりーですわー!』
 姉として闇精クーデルカは想う。
 この子はこのまま成長して成人したところで、もう少し慎重な行動が取れるようになるのだろうか?
 お父さまに厳しくするように進言すべきだろうか……、と心を鬼にするか真剣に考え始めるのであった。
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