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第16章 -勇者 VS 魔王-
†第16章† -46話-[極東島国家リクオウ上陸]
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「所属と名を名乗れ!」
船が港に近づいていくと、誰何する声が聞こえた。
鎖国しているだけあって、閉じた水門が何者も通さないという意志を示す。
重厚で頑丈な印象を与える水門の上から数人が顔を出して、こちらを観察している。
「マサオミ=ニカイドウ様の私船団が戻ったぞ!この度は我らが主のご家族も同乗している!丁重な対応を期待する!」
船長として挨拶してくれた髭の生えた男性の大音声が港に木霊す。
結果。港はしばらく門を開かない事を選んだ。
「どういう状況なのかご説明願えますか?」
船室に引きこもっているマサオミは頼れない為、アルカンシェは船長に声を掛けた。
ニカイドウ家を知る船長は髭を撫でながら思案の表情を浮かべた。
言ってしまえば、彼は臣下の立場なのだ。
主の家に関する事も客人とはいえ伝える内容を精査する必要があった。
「え~と……そうですね……。アルカンシェ王女殿下はニカイドウ家についてどれほど知っておられますか?」
アルカンシェが知る情報は少ない。故にすぐに言葉を返す。
「末息子のマサオミ=ニカイドウが体調不良だったご長男の当主に代わり担ぎ上げられそうになった……、程度ですね」
この返答に船長は頷く。
実際問題、リクオウに置いてお家騒動は常に市井を賑わす問題として取り扱われて来た。
マサオミが出奔してから十年余り。依然としてマサオミを当主に、と推す声があるリクオウを表わすには抜群の答えだった。
「……現在のリクオウはニカイドウ家の息が掛かるものが複雑に絡み合っています。我々はマサオミ様が当主への興味を持たない事は理解していますし強行する意思もありません。しかし、この港を預かる水軍の中には、いまだにマサオミ様を当主に担ぎ上げようとする勢力が居て、更に他のご身内の勢が入港の邪魔をしている。そんな状況が門の向こうで繰り広げられているのだと思われます」
お家騒動は確かに各国が抱える問題ではある。
ただ、今代においてはアスペラルダは弟に。フォレストトーレは生き残ったラフィートが。
ユレイアルドは体制を変更予定で、ヴリドエンデは長男アルカイドが王太子に任命されている。
アーグエングリンも幼い男児が先日生まれたと報告を聞いている。
争いもなく世継ぎが決まっている大陸の五ヶ国とは正反対に、いまだに騒ぎ続けているらしい話を聞けばアルカンシェも眉を顰める他ない。
「どのくらい掛かりそうですか?」
アルカンシェの瞳に掛かる光りに強烈なチカラが宿る。
その名は”王族”。他国の王族としての質問は、声だけであろうとも船長を心胆寒からしめるには十分だった。
威圧は船長だけでなく船員や船内で休むニカイドウ家にも伝わり、船上は雑談すら忍ばれる静寂に包まれる。
「……少なくとも一日は、港に入れず停泊することになるかと思われますっ!」
意を決した船長の返答にアルカンシェは瞳を瞑る。
船室からは、様子見に出て来た青い顔をしたマサオミをリッカが支えながら顔を出した。
今回の目的は、来たる決戦に備えた魔道具の譲渡だ。
危険性を知る娘リッカの説得もあり、マサオミも重い腰をあげて本国への帰還を果たしたのだ。
アルカンシェとしては、あまり時間を掛けるつもりはなかった。
「ニカイドウさん、船長。船を港に入れられれば制圧は可能でしょうか?」
アルカンシェの質問に二十年あまり国元へ戻っていないマサオミは答えられない。
自然に彼とその隣で支えているリッカの視線は、船長に向けられる。
「御当主様は歓迎する意向ですので、これはただの時間稼ぎにすぎません。抵抗勢力も五十人いれば良い方かと思いますので、接岸次第制圧は可能です」
船長の回答を聞き、アルカンシェは満足そうにうなずいた。
「———マリエル」
「———はい、お任せください姫様」
まさに以心伝心。
アルカンシェの意向を名を呼ばれるだけで理解したマリエルが宙を舞って行く。
船員はおろか、門の向こうで争う全員の視線が空に佇む一人の女性に引き寄せられた。
「———この船に乗船しているのは、大陸にある国の王女!アスペラルダの至高!アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダ様である!疾く水門を開けよっ!要望に応じなければ水門を破壊して入国するものと宣言するっ!十数える間に開門せよっ!」
これに慌てたのはマサオミだった。
政治と切り離された鍛冶場まで聞こえる武勇伝を持つ宗八の婚約者というだけでもスペシャルなのに、娘の直属の上司ともなればプレミアムなアルカンシェ王女の戦闘力も推して然るべきだろう。
「ちょ、ちょっとアルカンシェ様。お、落ち着いてくださいっ!」
振り返れば、跪いたマサオミが土下座で頭を下げている。
リクオウ式の謝罪のようだ。その隣で船長も土下座していた。
「何卒っ!何卒っ!一日だけお待ちいただけないでしょうかっ!」
マサオミの瞳には焦りが混じっていた。
それはそうだ。彼は宗八の知人でもある。自分が無茶をするのではないかと心配する気持ちは分かる。
———自分の今の行動を棚にあげ、アルカンシェは宗八に知り合いは大事にしろ、と伝えようと決意する。
「じゅうっ!」
しかし、無情にもカウントダウンは始まった。
風精ニルチッイと別れたとはいえ、風と雷の力を宿すライテウスの名を受け継いだマリエルが、風に乗せて港全域に声を轟かせる程度わけなかった。
「きゅうっ!」
比較的ゆっくりと時間を掛けて木霊すマリエルのカウントを聞きながら、アルカンシェは次の手に移る。
床に頭を擦る二人を無視してアルカンシェは船の下に潜る存在に声を掛けた。
「海恵丑」
海の中に聞こえるはずもないほどの声量で呼ばれた魔物は、一見漂流しているかのように見えた。
プカァと浮かんで触覚は船上のアルカンシェに向いている。無駄口は叩かず、ただの駒として指示を待っていた。
軍門に下ったのは、宗八に対してではある。
だが、その宗八の指示でアルカンシェも命令権を得る事になったのだ。
「これから複数の船が海原に放たれます。お仲間を呼んで人間が回収に来るまで魔物から守りなさい」
その言葉は海恵丑に向けられつつも、マサオミと船長にもはっきりと聞こえていた。
まさか、ニカイドウ家の他に海恵丑と交流があったとは……。
それも命令している。ニカイドウ家ですら対価を払って関係を保っているというのに……。
アルカンシェが動く気配を察して海恵丑も動き出す。
一族を護る為のボッタルガの一手は触覚を通じて種族全体に周知されていた。
再び海に姿を消した海恵丑の触覚から特殊な信号が送られ、複数の海恵丑が港へと全速力で向かい始めた。
マサオミが息を飲んだ、その時———。
大きな影が船を覆った。
その影を作った正体は、青竜。
あちこちに動き回る宗八と違い、アスペラルダ城で各国との調整役として城から動かない彼女に、最近は付いて回っている大きな空飛ぶトカゲだ。
実は、目撃者がいない大海原を悠々と好き勝手に飛びながら船の後を追っていたのだが、立ち往生した僅かな時間で追い付き、マリエルの側で羽ばたいて滞空していた。
『マリエル、何してるの?』
「フリューネ様、いまは静かに……シィー。はちぃっ!」
全身に響く不思議な声を発する少女の隣で、親し気に振舞っているように見える巨体に港内は騒然となっている。
容赦ないマリエルの檄が飛ぶ。
「竜!?西大陸の竜まで王女は従えているのかっ!」
異様な空気を察した青竜も、わざとその場で滞空して腕まで組んで遊び始めた。
空から視線を外したマサオミの瞳が、見下ろすアルカンシェの瞳と交差する
「———被害が少ないのはどちら?」
あぁ……。これは決定なのだ。
長男である当主も十分に覇気のある人物であったが、娘よりも年下である目の前の少女はそれ以上に強烈な覇気を纏っていた。
乗り越えた修羅場の方向性が当主と違うにしても、なぜ自分はこの少女にここまで気圧されるのか……。
マサオミの耳に、無意識に飲み込んだ唾を嚥下する音が良く聞こえた。
「ななぁっ!」
「うふふ、なんてね。冗談ですよ。被害が出ない方法を取るので港内の情報を教えてください」
冗談めかしているが、マサオミには一切冗談に聞こえていなかった。
やろうと思えばやれるが……、という前置きを言われた気がする。
「船長……。門の向こうが今どの様な配置か教えてくれ……」
「はっ!すぐに簡易的な詳細配置を紙に起こします!」
隣で観ていた船長もマサオミと同様の感想だった。
せめて被害を少なくする為に詳しい情報を伝える必要があると判断し、すぐさま動き始めた。
「———はちぃっ!」
眼下の船上や門の向こうの騒ぎなどお構いなしに、マリエルは鼻息荒く姫様の命令を遂行する。
そして、港と船上が互いに騒がしくなって来た頃合いに、アルカンシェは未だ青い顔をしながら傍に寄って来た侍女メリーと闇精クロエに視線を向ける。
「休んでいたところ叩き起こしてごめんね。このあと置換をお願いしたいのよ」
体調不良を理由に主の命を実行できないなどという恥知らずな事は出来ない、とメリーは身体に鞭を打ち頭を切り替えた。
吐き気を気力で押さえ込み、アルカンシェにカーテシーで返す。
「お任せくださいませ、アルシェ様」
『まぁ別にいいですけど……。先に影踏索敵で状況の確認だけ進めておきます』
アルカンシェを中心に事が動きました。
マリエルが上空から港内の現在の配置を目視で確認し、マサオミと船長が手書きした港内の配置と形を提供し、闇精クロエが魔法で正確な情報を把握する。
間もなく。
「———いちぃ!」
ゆっくりと進んだカウントダウンはついに刻限に迫った。
マリエルが声を発した後に上空から船に降りて来るので、手書きの港内配置図とすり合わせを行わせる。
「どう?」
「少なくとも水面に浮かんでいる船以外の情報は相違ないと判断出来ます」
報告に頷き、続けて視線が闇精クロエに向かう。
『船の配置も把握出来ました。いつでも行けますよ』
隣に立つ侍女メリーも頷いているのを確認したアルカンシェは号令を発した。
「———入国します!双方衝撃に備えなさい!」
マリエルの魔法で間違いなく港内にも注意喚起を行い魔法が発動した。
『「———≪置換≫」』
この程度の事なら【ユニゾン】すらいらない。
シンクロした闇精と侍女の重なる声が聞こえた瞬間、空間が入れ替わった。
港内に停泊していた船は水門の外で波に流されるまま遠洋に進んでいく。
逆にアルカンシェ達が乗っていた船は港内に出現したのだ。
「船長、錨を降ろして。停泊を進めてちょうだい」
「はっ!」
兵士ばりに良い発声で返事をした船長はすぐさま船員に指示を飛ばし始める。
船上は景色の切り替わりに混乱が見受けられたが、船長のおかげですぐに動き出した。
代わりに港内の人間は大混乱が発生していた。
「俺の船はどこ行ったんだよぉ!」
「お前らが早く水門を開けないからこうなったんじゃないのかっ!」
足の引っ張り合いで色んな派閥があるとの話だったが……。
入港の邪魔を率先して行った派閥が、他派閥の面々に追及される声があちこちで聞こえてくる。
「ニカイドウさん。ご家族で船を降りる準備と当主様への謁見準備を進めてもらえますか?」
船の主はマサオミだ。
つい先ほど船長に普通に命令していたアルカンシェだが、マサオミにはお願いをする。
ほぼ命令に変わりないが……。
「船長は話を聞いていましたね? 手の者を向かわせて上手く使ってくださいね」
「お任せください。それと、船からあまり離れないようお待ちください。直に迎えが参りますので……」
すでにタラップが掛かって貨物が降ろされ始めていた。
準備が整うまでの間の暇つぶしをして来いというお達しなのだろう、と判断したアルカンシェが空から小さくなりながら降りて来た青竜と船上から町を見つめるタルテューフォに声を掛ける。
「町に降りて何か摘まみながら待ちましょう」
アルカンシェの言葉に笑顔を浮かべた二匹は率先してアルカンシェを引っ張り町へ足を踏み入れる。
その後をメリー、マリエル、リッカ、精霊達が続く。
アスペラルダで良く嗅ぐ海鮮の香りに、アルカンシェもワクワクしながら町中へと歩を進め始めた。
船が港に近づいていくと、誰何する声が聞こえた。
鎖国しているだけあって、閉じた水門が何者も通さないという意志を示す。
重厚で頑丈な印象を与える水門の上から数人が顔を出して、こちらを観察している。
「マサオミ=ニカイドウ様の私船団が戻ったぞ!この度は我らが主のご家族も同乗している!丁重な対応を期待する!」
船長として挨拶してくれた髭の生えた男性の大音声が港に木霊す。
結果。港はしばらく門を開かない事を選んだ。
「どういう状況なのかご説明願えますか?」
船室に引きこもっているマサオミは頼れない為、アルカンシェは船長に声を掛けた。
ニカイドウ家を知る船長は髭を撫でながら思案の表情を浮かべた。
言ってしまえば、彼は臣下の立場なのだ。
主の家に関する事も客人とはいえ伝える内容を精査する必要があった。
「え~と……そうですね……。アルカンシェ王女殿下はニカイドウ家についてどれほど知っておられますか?」
アルカンシェが知る情報は少ない。故にすぐに言葉を返す。
「末息子のマサオミ=ニカイドウが体調不良だったご長男の当主に代わり担ぎ上げられそうになった……、程度ですね」
この返答に船長は頷く。
実際問題、リクオウに置いてお家騒動は常に市井を賑わす問題として取り扱われて来た。
マサオミが出奔してから十年余り。依然としてマサオミを当主に、と推す声があるリクオウを表わすには抜群の答えだった。
「……現在のリクオウはニカイドウ家の息が掛かるものが複雑に絡み合っています。我々はマサオミ様が当主への興味を持たない事は理解していますし強行する意思もありません。しかし、この港を預かる水軍の中には、いまだにマサオミ様を当主に担ぎ上げようとする勢力が居て、更に他のご身内の勢が入港の邪魔をしている。そんな状況が門の向こうで繰り広げられているのだと思われます」
お家騒動は確かに各国が抱える問題ではある。
ただ、今代においてはアスペラルダは弟に。フォレストトーレは生き残ったラフィートが。
ユレイアルドは体制を変更予定で、ヴリドエンデは長男アルカイドが王太子に任命されている。
アーグエングリンも幼い男児が先日生まれたと報告を聞いている。
争いもなく世継ぎが決まっている大陸の五ヶ国とは正反対に、いまだに騒ぎ続けているらしい話を聞けばアルカンシェも眉を顰める他ない。
「どのくらい掛かりそうですか?」
アルカンシェの瞳に掛かる光りに強烈なチカラが宿る。
その名は”王族”。他国の王族としての質問は、声だけであろうとも船長を心胆寒からしめるには十分だった。
威圧は船長だけでなく船員や船内で休むニカイドウ家にも伝わり、船上は雑談すら忍ばれる静寂に包まれる。
「……少なくとも一日は、港に入れず停泊することになるかと思われますっ!」
意を決した船長の返答にアルカンシェは瞳を瞑る。
船室からは、様子見に出て来た青い顔をしたマサオミをリッカが支えながら顔を出した。
今回の目的は、来たる決戦に備えた魔道具の譲渡だ。
危険性を知る娘リッカの説得もあり、マサオミも重い腰をあげて本国への帰還を果たしたのだ。
アルカンシェとしては、あまり時間を掛けるつもりはなかった。
「ニカイドウさん、船長。船を港に入れられれば制圧は可能でしょうか?」
アルカンシェの質問に二十年あまり国元へ戻っていないマサオミは答えられない。
自然に彼とその隣で支えているリッカの視線は、船長に向けられる。
「御当主様は歓迎する意向ですので、これはただの時間稼ぎにすぎません。抵抗勢力も五十人いれば良い方かと思いますので、接岸次第制圧は可能です」
船長の回答を聞き、アルカンシェは満足そうにうなずいた。
「———マリエル」
「———はい、お任せください姫様」
まさに以心伝心。
アルカンシェの意向を名を呼ばれるだけで理解したマリエルが宙を舞って行く。
船員はおろか、門の向こうで争う全員の視線が空に佇む一人の女性に引き寄せられた。
「———この船に乗船しているのは、大陸にある国の王女!アスペラルダの至高!アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダ様である!疾く水門を開けよっ!要望に応じなければ水門を破壊して入国するものと宣言するっ!十数える間に開門せよっ!」
これに慌てたのはマサオミだった。
政治と切り離された鍛冶場まで聞こえる武勇伝を持つ宗八の婚約者というだけでもスペシャルなのに、娘の直属の上司ともなればプレミアムなアルカンシェ王女の戦闘力も推して然るべきだろう。
「ちょ、ちょっとアルカンシェ様。お、落ち着いてくださいっ!」
振り返れば、跪いたマサオミが土下座で頭を下げている。
リクオウ式の謝罪のようだ。その隣で船長も土下座していた。
「何卒っ!何卒っ!一日だけお待ちいただけないでしょうかっ!」
マサオミの瞳には焦りが混じっていた。
それはそうだ。彼は宗八の知人でもある。自分が無茶をするのではないかと心配する気持ちは分かる。
———自分の今の行動を棚にあげ、アルカンシェは宗八に知り合いは大事にしろ、と伝えようと決意する。
「じゅうっ!」
しかし、無情にもカウントダウンは始まった。
風精ニルチッイと別れたとはいえ、風と雷の力を宿すライテウスの名を受け継いだマリエルが、風に乗せて港全域に声を轟かせる程度わけなかった。
「きゅうっ!」
比較的ゆっくりと時間を掛けて木霊すマリエルのカウントを聞きながら、アルカンシェは次の手に移る。
床に頭を擦る二人を無視してアルカンシェは船の下に潜る存在に声を掛けた。
「海恵丑」
海の中に聞こえるはずもないほどの声量で呼ばれた魔物は、一見漂流しているかのように見えた。
プカァと浮かんで触覚は船上のアルカンシェに向いている。無駄口は叩かず、ただの駒として指示を待っていた。
軍門に下ったのは、宗八に対してではある。
だが、その宗八の指示でアルカンシェも命令権を得る事になったのだ。
「これから複数の船が海原に放たれます。お仲間を呼んで人間が回収に来るまで魔物から守りなさい」
その言葉は海恵丑に向けられつつも、マサオミと船長にもはっきりと聞こえていた。
まさか、ニカイドウ家の他に海恵丑と交流があったとは……。
それも命令している。ニカイドウ家ですら対価を払って関係を保っているというのに……。
アルカンシェが動く気配を察して海恵丑も動き出す。
一族を護る為のボッタルガの一手は触覚を通じて種族全体に周知されていた。
再び海に姿を消した海恵丑の触覚から特殊な信号が送られ、複数の海恵丑が港へと全速力で向かい始めた。
マサオミが息を飲んだ、その時———。
大きな影が船を覆った。
その影を作った正体は、青竜。
あちこちに動き回る宗八と違い、アスペラルダ城で各国との調整役として城から動かない彼女に、最近は付いて回っている大きな空飛ぶトカゲだ。
実は、目撃者がいない大海原を悠々と好き勝手に飛びながら船の後を追っていたのだが、立ち往生した僅かな時間で追い付き、マリエルの側で羽ばたいて滞空していた。
『マリエル、何してるの?』
「フリューネ様、いまは静かに……シィー。はちぃっ!」
全身に響く不思議な声を発する少女の隣で、親し気に振舞っているように見える巨体に港内は騒然となっている。
容赦ないマリエルの檄が飛ぶ。
「竜!?西大陸の竜まで王女は従えているのかっ!」
異様な空気を察した青竜も、わざとその場で滞空して腕まで組んで遊び始めた。
空から視線を外したマサオミの瞳が、見下ろすアルカンシェの瞳と交差する
「———被害が少ないのはどちら?」
あぁ……。これは決定なのだ。
長男である当主も十分に覇気のある人物であったが、娘よりも年下である目の前の少女はそれ以上に強烈な覇気を纏っていた。
乗り越えた修羅場の方向性が当主と違うにしても、なぜ自分はこの少女にここまで気圧されるのか……。
マサオミの耳に、無意識に飲み込んだ唾を嚥下する音が良く聞こえた。
「ななぁっ!」
「うふふ、なんてね。冗談ですよ。被害が出ない方法を取るので港内の情報を教えてください」
冗談めかしているが、マサオミには一切冗談に聞こえていなかった。
やろうと思えばやれるが……、という前置きを言われた気がする。
「船長……。門の向こうが今どの様な配置か教えてくれ……」
「はっ!すぐに簡易的な詳細配置を紙に起こします!」
隣で観ていた船長もマサオミと同様の感想だった。
せめて被害を少なくする為に詳しい情報を伝える必要があると判断し、すぐさま動き始めた。
「———はちぃっ!」
眼下の船上や門の向こうの騒ぎなどお構いなしに、マリエルは鼻息荒く姫様の命令を遂行する。
そして、港と船上が互いに騒がしくなって来た頃合いに、アルカンシェは未だ青い顔をしながら傍に寄って来た侍女メリーと闇精クロエに視線を向ける。
「休んでいたところ叩き起こしてごめんね。このあと置換をお願いしたいのよ」
体調不良を理由に主の命を実行できないなどという恥知らずな事は出来ない、とメリーは身体に鞭を打ち頭を切り替えた。
吐き気を気力で押さえ込み、アルカンシェにカーテシーで返す。
「お任せくださいませ、アルシェ様」
『まぁ別にいいですけど……。先に影踏索敵で状況の確認だけ進めておきます』
アルカンシェを中心に事が動きました。
マリエルが上空から港内の現在の配置を目視で確認し、マサオミと船長が手書きした港内の配置と形を提供し、闇精クロエが魔法で正確な情報を把握する。
間もなく。
「———いちぃ!」
ゆっくりと進んだカウントダウンはついに刻限に迫った。
マリエルが声を発した後に上空から船に降りて来るので、手書きの港内配置図とすり合わせを行わせる。
「どう?」
「少なくとも水面に浮かんでいる船以外の情報は相違ないと判断出来ます」
報告に頷き、続けて視線が闇精クロエに向かう。
『船の配置も把握出来ました。いつでも行けますよ』
隣に立つ侍女メリーも頷いているのを確認したアルカンシェは号令を発した。
「———入国します!双方衝撃に備えなさい!」
マリエルの魔法で間違いなく港内にも注意喚起を行い魔法が発動した。
『「———≪置換≫」』
この程度の事なら【ユニゾン】すらいらない。
シンクロした闇精と侍女の重なる声が聞こえた瞬間、空間が入れ替わった。
港内に停泊していた船は水門の外で波に流されるまま遠洋に進んでいく。
逆にアルカンシェ達が乗っていた船は港内に出現したのだ。
「船長、錨を降ろして。停泊を進めてちょうだい」
「はっ!」
兵士ばりに良い発声で返事をした船長はすぐさま船員に指示を飛ばし始める。
船上は景色の切り替わりに混乱が見受けられたが、船長のおかげですぐに動き出した。
代わりに港内の人間は大混乱が発生していた。
「俺の船はどこ行ったんだよぉ!」
「お前らが早く水門を開けないからこうなったんじゃないのかっ!」
足の引っ張り合いで色んな派閥があるとの話だったが……。
入港の邪魔を率先して行った派閥が、他派閥の面々に追及される声があちこちで聞こえてくる。
「ニカイドウさん。ご家族で船を降りる準備と当主様への謁見準備を進めてもらえますか?」
船の主はマサオミだ。
つい先ほど船長に普通に命令していたアルカンシェだが、マサオミにはお願いをする。
ほぼ命令に変わりないが……。
「船長は話を聞いていましたね? 手の者を向かわせて上手く使ってくださいね」
「お任せください。それと、船からあまり離れないようお待ちください。直に迎えが参りますので……」
すでにタラップが掛かって貨物が降ろされ始めていた。
準備が整うまでの間の暇つぶしをして来いというお達しなのだろう、と判断したアルカンシェが空から小さくなりながら降りて来た青竜と船上から町を見つめるタルテューフォに声を掛ける。
「町に降りて何か摘まみながら待ちましょう」
アルカンシェの言葉に笑顔を浮かべた二匹は率先してアルカンシェを引っ張り町へ足を踏み入れる。
その後をメリー、マリエル、リッカ、精霊達が続く。
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異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
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◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~
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目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。
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だけどある日、彼らは言った。
『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』
それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。
俺も分かっていた。
だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。
「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」
そう思っていた。そのはずだった。
――だけど。
ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、
“様々な縁”が重なり、騒がしくなった。
「最強を目指すべくして生まれた存在」
「君と一緒に行かせてくれ。」
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穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、
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◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇
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