特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第16章 -勇者 VS 魔王-

†第16章† -47話-[首都オウシュウ]

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 アルカンシェが覗く馬車の窓から見える景色は絶景だった。
 雄大な山々とそれに掛かりそうな流れる白い雲。
 大陸とは違う文明で作られた村が見えた時は未知に出会えたような高揚感に胸が震えたほどだ。

 そんな楽し気なアルカンシェと側近たちの隣では、別の意味で震えるニカイドウ家の皆々が肩を寄せ合い慣れない浮遊感に恐怖を覚え身を固くしていた。
 御者台に繋がる窓から進行方向を指示するのは、当主の命令でニカイドウ=マサオミを馬車で迎えに来た御者だ。
 彼も青い顔をしながらも、仕事を全うしている。

 ———ここは空の上。
 馬車と言いつつ馬は繋がれておらず、代わりに巨大化した青竜フリューネが腕でがっしりと掴み運んでいる。
 窓の外では、マリエルも並走して飛びながら風避けの魔法を展開し、青竜フリューネも揺れが少ないように配慮してくれている為、船に比べると酔う人は少なくなった。

「お父さま、お母さま。私が付いておりますから体から力を抜いてください」
 二頭立ての大型馬車だったことが幸いし、大勢が馬車に乗る事が出来ていた。
 流石に精霊も含めると大所帯が過ぎるので一旦契約者と【ユニゾン】してもらっている。

 初めての高所でガチガチに強張らせている両親へ必死に声を掛け続けるリッカから視線を外し車内を見回す。
 味方の派閥の中でもマサオミの立場と意思を尊重する人材が選ばれているのか、余計な揉め事もなく馬車は出発する事が出来たのだが……。

 * * * * *
「馬車でどの程度時間が掛かるのですか?」
 少し港で観光している間に到着していた迎えの御者と身分の高そうな人物にアルカンシェは声を掛けた。
 こちらが大陸の王女と聞き及んでいるのか、すんなり回答をくれる。
みやこまではおおよそ半日を予定しております」
「現当主が魚介が好物とのことで近い場所に遷都されたのですよ」
 確かに馬車で半日となれば隣町と言っても遜色はない。
 笑顔で答えた彼らもその恩恵を受けているのか思ったよりも友好的な対応をしてくれる。

「ニカイドウさん」
「はい!?な、なんでしょうか?」
 声を掛けただけなのに肩を跳ね上げたマサオミにアルカンシェはジト目を向ける。
 まるで黒い噂のある貴族が若い貴族家に声を掛けたかのようなビクつき様だ。
「ここから半日馬車旅になると伺いました」
 アルカンシェが続ける言葉に身構えていたマサオミだったが、今後の進路についての相談かと理解し力を抜いた。
「そう聞いています。私がここを出た頃は遷都されてなかったので一ヵ月以上の旅になっていましたね、ははは」
 過去を懐かしみ笑い声をあげるマサオミを家臣団が嬉しそうに眼を細めている。

 だが、アルカンシェにその心境に付き合うつもりはなかった。
「半日を一時間以内に短縮出来る腹案があるのです。相談させていただいても宜しいですか?」
 家臣団は目撃した。
 以前よりも歳はとったが、子供の頃から変わらない笑顔だったマサオミの表情がしぼんでいく様子を。
「マサオミ様!?」
「だ、大丈夫……大丈夫だ。アルカンシェ様。そ、それで……どのような相談でしょうか?」
 船から降りて回復していたマサオミの顔色が、再び悪い方向へ転がり落ちていく。
 彼の後ろでは妻ルビディナも笑顔を浮かべつつ、同様に気絶しそうな勢いで顔色が悪くなっていた。

 * * * * *
「皆さま、首都が見えてまいりました。到着致しますのでご準備をお願いいたします」
 進行方向を確認し続けた御者が振り返り、全員に向けて報告する。
 港を出てからそろそろ四十分が経つであろうというタイミングでの報告に、半日の旅路を用意していた家臣団は青い顔で驚きを隠せない。
「も、もう首都に着くのですか?」
「流石に早すぎて何が何だか……」
「竜とはこれほどの生き物なのですね……」
 ざわつく馬車内の中でこういう事に慣れているアルカンシェ一行だけが、落ち着いて下車の準備を始めていた。

「アルシェ様。首都にこのまま突入するのは余計な混乱を招くかと思われますが如何致しますか?」
 侍女メリーがティーセットと菓子を影に収納しながら質問する。
 港から飛び立つ時も騒ぎにはなっていたのだ。
 この速度ならすぐに首都の物見櫓ものみやぐらから発見され、首都中で騒ぎとなる事が簡単に予想された。
「遠見の魔法はないでしょうから、ギリギリまでこのまま進みましょう。途中からタルちゃんに輓いてもらおうかしら?」
 魔法の開発には精霊との協力が必須なので、一般的に広まっている魔導書以上の魔法が無い事は推理出来た。
 しかし、本来この馬車を輓く馬は港に置いて来ている為、アルカンシェは折衷案としてタルテューフォに視線を向けながら思案する。
 その声が聞こえたのか、窓の外を覗いていたタルテューフォがトコトコと寄って来た。

「アル姉ぇ。タルを呼んだのだ?」
 本来魔物とはいえ普段は仲間として”人”扱いをしている。
 彼女の思考はまだまだ幼いので、アルカンシェも気を付けつつ提案した。
「このあと馬車を地上に降ろすのだけれど、馬の代わりにタルちゃんに輓いてもらえないかと思ったの。お願い出来る?」
 アルカンシェのお願いにタルテューフォは二つ返事で答えた。
「わかったのだ。タルにお任せなんだよ!」
「ありがとう。じゃあお願いね」
 鼻息荒くやる気を見せるタルテューフォに感謝を伝えながら頭を撫でた。
 それを気持ちよさそうに享受するタルテューフォが、地上にて猪獅子ヤマノサチの姿に戻った時に騒がれるかと思いきや、意外な事に家臣団とニカイドウ家は粛々とその様子を眺めるだけだった。

「よもやあの少女が猪獅子ヤマノサチだったとは……」
海恵丑ウミノサチと並ぶ立つ魔物を生きているうちに見られるとは……」
「大陸の王女、恐るべし……」
 この状況に慣れて来た一部の家臣の中で、アルカンシェの評価が高まったのはまた別のお話。

 アルカンシェ達が懸念した通り、物見櫓ものみやぐらから巨大な猪が輓く馬車は確認されていた。
 しかし、馬車の上部ではためく旗が当主一族の物であり、本日の予定の中に組み込まれていたことで首都へ入る際に混乱は少なく済んだ。
「ずいぶんと早いお戻りですね。それに馬ではなく何故巨大猪なのですか?」
 手続きをする為に馬車を降りた家臣団の一人が門番から話しかけられる。
 船の到着予定時刻に合わせて夜のうちに首都を出発した家臣団は、夕暮れ時に首都へ戻って来る予定であった。
 だが、昼と呼ぶより朝と言った方が適切な時間帯に戻り、尚且つ人数も馬車もかなり減っているうえに馬は猪に変わって戻って来た。
 これが聞かずにいられるだろうか。

「まぁ……色々とあったのだ……」
 筆舌にし難い数々のテコ入れがアルカンシェからあった為……、と説明したいところだが現実的ではないと判断した家臣は言葉を濁すほかない。
 門番も強行過ぎる強行軍の真相に興味は湧いた。
 しかし、馬車にはニカイドウ=マサオミが乗っている事を忘れておらず、これ以上の質問はせずに馬車を通す手続きを素早く済ませ、馬車は無事に都へと足を踏み入れた。

 港は朝市の賑わいを見せていたのだが、首都の町民はまだ起き始めた時間帯だった。
 馬車を轢く巨大猪を目撃する人は少なく騒がれる間もなくそのまま城へと辿り着く。城下町を抜ける間もアルカンシェは人一倍リクオウの街並みを興味深く眺めていた。
 その姿を家臣団は意外に思いながらも邪魔せず仕事に従事し、一行は立派な塀の中に入り、聳えるムツ城が出迎えた。
 馬車は普段当主が生活しているその隣に建つ”宮城”と呼ばれる家屋に案内された。

 門から先触れが出ていたので、馬車が到着した頃には待ち構えるかのように家臣が揃っていた。
「ようこそお戻りになられました、マサオミ様。それに奥方さまにご息女さまも歓迎いたします」
 馬車を降りたマサオミを家臣たちが歓迎する。
 声を掛けられたルビディナとリッカは会釈で歓迎に応えている。
「アルカンシェ殿下。リクオウの首都オウシュウへようこそいらっしゃいました。ニカイドウ家家臣一同歓迎いたします」
 別の家臣がアルカンシェにも声を掛けた。
 文化が違う事を理解していたつもりだったが、ここまでの市井の住宅が平屋であることに驚いていた。
 しかし、遠目からも見えていた城を見上げて感動していた。

「(これがお兄さんの世界にもある日本の城、なんでしょうか……)」
 大陸の文化はヨーロピアン調だ。
 事前に宗八そうはちから日本の話を聞き、リクオウが近い文化をしている情報を聞いていたアルカンシェは、異世界に来たような心地を抱いていた。
「アルシェ様、声を掛けられております」
「……失礼。立派な城に目を奪われてしまいました。こちらこそ急な訪問に対応いただき感謝致します」
 リクオウに無い文化であるカーテシーで応えたアルカンシェの美しい姿勢と姿に、今度は家臣が目を奪われ一瞬言葉が遅れる。
「……そ、それでは、皆さまに休んでいただく部屋へ案内いたします。御当主さまは日中忙しくされておられますので、夕暮れ時にまたお声をかけさせていただこうと思います」
 マサオミたちとは一旦ここでお別れのようだ。
 リッカはニカイドウ家としてマサオミたちに付いて行く様にと事前に伝えていたので、アルカンシェ一行は家臣の案内に続いて宮城内に足を踏み入れる。

「靴を脱ぐのですか?」
 入ってすぐの小上がりを前に、さっそくの異文化にアルカンシェの質問の声が空気にリクオウに吹く風に攫われて行った。
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